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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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85羽目:祈りは記憶となりて

ルーイ視点に戻ります。






 扉を閉めると、ほんのりと明るさが残る部屋だけになった。部屋の中央は明るめだが入口付近は寝る前の常夜灯くらいの明るさ……これなら、まだ平気。深呼吸して、ひよこちゃんを数えて気を紛らわせよう。


 ひよこが一羽~。

 ひよこが二羽~。


 エッグケッコーの羽に触れながら、もふもふのひよこを数えていると、視界がぶつりと切れた。真っ暗になった瞬間、胸がきゅっと縮む。


「おわ! いでっ!」


 真っ暗になるなんて聞いてない……! しかも水まで?! パニックになりそうになるのを押し殺してインベントリを開くが、使用不可の表示。魔力石ランタンも出せない。みるみる水が首元まで迫ってくるのを感じた。


「ルーイ?! 何かあったの?! 平気?!」


 扉越しに響くみぃの声。


 暗い。

 ……助けて。


 声にならない声が喉で震える。でも、せり上がった言葉を、唾と一緒に押し戻した。ゲームかどうかなんて関係ない。心配をかけるのは、もう嫌だ……。だから、無理やり喉を動かして明るく返す。


「はは、いきなり真っ暗になったと思ったら、水に押されておでこぶつけただけ! VIT(防御)で痛くないから大丈夫! ただ、水がどんどん増えてるっぽいんだけど、そっちは平気?」


 大丈夫。そう自分に言い聞かせて心を奮い立たせる。みぃの声が届くたび、冷える心の端が少しだけ温度を取り戻せた。そんな中、彼女の二度目の祈りが届く。


「なんで……? 何が違うの……!」


 扉の向こうから彼女の焦った声が聞こえる。

 何か言葉をかけたいが、もう足がつかないほど部屋は水で満たされていた。


 暗い。

 ……怖い。


 昔の記憶がせり上がってくる。

 だけど――扉の向こうに、みぃがいる。今は一人じゃない。

 その事実ひとつで、ぎりぎり踏ん張れた。


 ……あれ?

 一人?


 ひらめきが、水をかく手と一緒に弾ける。


「みぃ! ぷっは。祈りってさ……! 一人だと届かないんじゃない?!」


 タイムアタックの時は分担だったけど、ここからは協力する仕組みになっているのではないか。数秒の静寂。みぃの声に力が戻ってきた。


「……ルーイ、大丈夫よ。せーの、でそっちにタイミング合わせるから」


 『大丈夫』その言葉を聞いたとき、少しだけ不安が緩んだ。幼いころ、怖い夜に背中を撫でてくれた両親の声が、ふっと胸の奥で重なった。


「ふっ……! うん! せー、の!」


 二人の声が、暗い水の中で響く。水が口に入る、怖い気持ちに押しつぶされそうだった。それでも祈る。

 そして、最後の一言。


「「ミレアノヴァ——!」」


 線香花火の様に光がパッと弾ける。

 つづくように、祈りの言葉のような光の文字が目の前を走り、思わず息を呑んだ。



 悲しみの雫よ、いま希望の星へ還れ。

 静寂に沈んだ魂よ、その名を取り戻し、光の岸へと昇らん。

 涙が紡いだ祈りは道となり、願いは再び息づく。

 導きの符よ、現れよ——。


 《ᚨ》


 文字が消えるのと同時に、光が戻り水は引いていった。

 《洞窟の調査へ向かう》に完了マークが付き、《聖堂に戻る》とガイドラインが更新される。


 足がつく水位になり、深呼吸して気持ちを落ち着けていると、扉が静かに開いた。震える手をギュッと握りしめ、息を整えてから扉を引いて開ける。天井から差し込む太陽光とみぃの顔を見て、張り詰めていた心がほどけた。


「ふへっ。ほんとうに、どざえもんになるところだった~……」


 みぃを心配させないための軽口。彼女の眉が少し残念そうにきゅっと下がったが、すぐに優しい目に戻る。それを見て、胸の奥にあった冷たい怖さは溶けていった。


「鳥葬以外の方法でポリらないでよね」


「そこに文句言われるの?! ってか、箱あるって鳥葬可能なの?! されたい!」


 鳥にもふもふされながら、突かれ、天に召す。ご褒美以外の何物でもない。今すぐ突いてくださいお願いします!


「相変わらず鳥バカなんだから……【ヒールピッチャー】。とりあえず、無事でよかったわ」


 やれやれと呆れながらみぃが近づき、体にポンっとポーションをかけると半分になっていたバーが全快した。立ち泳ぎに夢中で見ている余裕がなかったが、足が着かないくらいの水位だとHPが減っていくんだね。二人で祈るギミックに気が付かなかったらポリってお星様になってたなぁ。


 あ、星と言えば。


 突然流れた祈りのような文字について話すと、みぃも同じ物が鏡から浮かび上がってルーンが結晶に吸い込まれたことを教えてくれた。青い結晶を台座から取り外して、光に透かして見るとFの記号が刻まれている。


 みぃはアンスズって言ってたっけ。念のため他の扉にはめ込めるか試そうとしたが、元の結晶は外せなくなっていた。視界の隅にあるタイマーを見ると【満潮タイマー:0h45m】とカウントダウンが止まった状態で表示されている。ガイドラインも聖堂に戻れってなっているし、導きの鍵をセレナさんに渡して終わりってことなのかな?


 洞窟を出るとやわらかい空気が体を包み込んだ。少しだけ深く息をすると、凝り固まった何かが緩んでいくのを感じる。


 ♦


 二人で教会についたとき、裏庭から子ども達の笑い声が聞こえたので、声のする方に向かうとセレナさんが授業をしていた。そこに見覚えのある背中を見つける、ナギサちゃんとカイくんだ。二人はここで勉強していたのか。そういえば、絵本を作ったのはセレナ先生だって言ってたね。


「おし、今日は終わりダ。宿題やってこねェやついたら尻ペンペンだかンな」


 鉄拳制裁くらい言うかと思ったら、まさかのお尻ペンペンだった。お仕置きがかわいい。


「あ、おねーちゃんたちだ!」


「カ~イ~! 走らない!」


 カイくんが駆け寄り、ナギサちゃんが慌てて追いかける。その日常の風景に、心がぽかぽかする。

 子ども達を教会の入口まで見送ると、セレナさんが静かに近くで待ってくれていた。


「ヨォ、お疲れさん。まずは茶でも飲ンで休め」


 セレナさんは優しいな。本当は誰よりも早く知りたいだろうに。

 部屋に通され、湯気の立つお茶をひと口飲むと体の芯から優しさが染み渡った。


「導きの鍵アンスズか……」


 机に置かれた青い結晶を見つめるセレナさん。その瞳には思い出したい気持ちと不安で揺れているように見えた。それでも意を決して手を伸ばす彼女。


 その指先が結晶に触れた瞬間――


「ッ……!」


「セレナさん?!」


 胸を苦しそうに押さえ、崩れ落ちるようにうずくまるセレナさん。慌てて歩み寄り背中に触れると、体がわずかに震えている。うちはただ、その背をゆっくりと摩ることしかできなかった。


「そうだ……あの日……最後に……あの方が……あたいに」


 かすれた声。

 ひとつも記憶の欠片を逃さないように言葉を紡ごうとする。

 その必死さが痛いほど伝わってきて、胸が締め付けられた。


「封じられる直前に……ミレア……ノ……ヴァ……くそ……この後が……思い出せねェ……ッ。すまねェ……こんなの、らしくねェよな」


 セレナさんは強がって笑おうとするが、うまく形にならない。彼女は溜息のような短い呼吸をしてからシャンと背筋を伸ばした。


「調査あんがとな。……心配すンな、あたいは大丈夫ダ。お前らも疲れてるダロ、今日はゆっくり休め。街に戻るときローに『資料助かった』ってだけ伝えといてくれねェか?」


 彼女がそう言うと《ローに報告する》とガイドが進んでしまった。


「う、うん……わかった」


 『大丈夫』まるで先ほどの自分を見ているようで胸が痛んだ。けれど、かける言葉が見つからない。仕方なく部屋を出ようとしたら、みぃがいきなりうちの腕を掴んでグイっと引き寄せた。


 ん?! いきなりどうしたの?!


「ルーイ、多分だけど……」


 みぃがうちの耳に顔を近づけて小声で話始める。なるほど、やってみる価値はあるね。何でかわからないけど、みぃもいるから大丈夫なんだって自信がみなぎった。


「セレナさん最後にもう一度、石碑を見せてほしいんだ。ミレアノヴァの意味が分かったかもしれない」


「ん? 希望の星……そのままの意味じゃねェのか? だがお前たちに何か考えがある感じだな。わかった」


 机に視線を落としていたセレナさんは驚いてこちらを見てから、少し考え込み小さくうなずく。


 ♦


 三人で石碑の前に立つ。

 受け継ぐ想いのバトンのように、希望の扉を開く鍵は、ずっとこの石碑に託されていた。


 いずれ誰かが、この場所へ戻ってくることを信じて。


「セレナさん、結晶をここにはめ込んでみてほしいんだ」


「……おう」


 疑問の表情を浮かべながら、彼女は石碑の中央に浮かぶ『ミレア ノヴァ』の文字の間に導きの鍵をはめ込んだ。


 


 ぴちょん――水の音がした。


 


 一滴の青い光が石碑に広がった。風で静かに揺れる水面のように()()()()()が蘇る。



 我らの水の魂よ、深き悲しみを抱きし者よ。


 黒き炎が世界を埋め、悲しみの涙は海を満たした。

 あなたはそのすべてを受け止め、静寂の底に沈めた。


 その涙はやがて波となり、光を映す導きへと変わる。

 悲しみの雫よ、いま希望の星へ還れ。


 静寂に沈んだ魂よ、その名を取り戻し、光の岸へと昇らん。

 涙が紡いだ祈りは道となり、願いは再び息づく。


 我らはその悲しみを忘れず、恵みに感謝し、明日を照らす希望と共に歩まんことを。


 ——Mirea Novᚨ(ミレア・ノヴァ)



 光が石碑を満たし、そこから希望を咲かせるように、小さな木が芽吹いた。


 ほのかに光る低木が一本。

 その枝には六角形の果実がひとつだけ実っていた。

[読者の皆様]

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