79羽目:沈んだ神殿
結晶を取り出し、天井から差す光に透かした瞬間、細い線が水面のように浮かび上がった。
「ん? これなんだろ……?」
天井に掲げて透かすように見ていたら、「どれ?」とみぃものぞき込んできたので、見やすい様に彼女の方へと傾ける。
「アルファベットにも見えるけど……情報が少なすぎるわね」
今はこの模様に対するヒントもないし、扉の先に行かないとわからないのかも。ただ、どうやってこの結晶を使って空ければいいんだろ? 呪文唱えるとか?
「扉が開けばわかるのかもね。とりあえず、開けゴマ!」
思い付きで結晶を扉の前にかざして唱えてみたが、扉はピクリとも反応しなかった。アラビアン風な街だったからワンチャンあると思ったけど、この呪文じゃないかぁ。
「ゴマじゃなくて……実は、開けゴマフスズメとか?」
「鳥の名前じゃ開かないと思うわ……前のマグマの街ダンジョンみたいに、扉のどこかにはめ込める場所があると思うから手分けして探しましょ」
北米によくいる鳥ちゃんだから違うか。アフリカにいるゴマバラワシなら可能性はあったかも。そんなことを考えながら、扉周りの壁を手探りで確認していると、一歩下がって見ていたみぃが何かを発見して声をあげる。
「ねぇ、あの祈ってる人の上じゃない?」
「あー、それっぽいね。ちょっと高いな……よっと! ありゃ、無理か」
祈る人の頭上に花火のような模様があり、その中央に涙形のくぼみがあったので、試しに壁を蹴って二段ジャンプをしてみたが届かなかった。でも、この高さならみぃを肩車したら届くんじゃないかな?
「みぃ、肩踏んで乗ってみてよ」
「……ついにドMに目覚めたの……?」
違うわい! 肩車って意味合いです! あ、でも鳥にならいくらでも踏まれてもいい、むしろ踏んでください。昔飼っていたインコが顔面の上に着地したときは痛かったけど、至福だった……ふふふっ。おっと、みぃがチアリーダーみたいに肩に立ってるから、今は肩車に集中しないと。しかし、アバターって軽いんだね。
「んっ。ルーイもう少し右……いけた」
みぃが結晶をはめると、壁の溝に淡く白い光が走り、扉が静かに開いて中から密閉されていた冷えた空気が流れ出る。中からモンスターが出てくる気配はないけど、念のため盾を構えながら扉を開くと、向こう側に広がっていたのは、さらに奥へと続く小さな部屋。中央の床には鏡が埋め込まれていて、壁には三つの扉が並んでいた。
人の背丈ほどの扉には、それぞれ名前が表示されている。どれも違う絵が彫られていて、左端には炎の中で剣を振るう兵士たちの『戦の涙』、真ん中のは祈る人の頭上で鳥が舞っている『祈りの涙』、そして最後の扉は海の中で涙を流している『静寂の涙』。
扉の絵が何かの物語になっているのかな。それにこの鏡、何に使うんだろう?
「あれ? これ……結晶? そして、また記号か」
鏡の台座に一筋の光が当たっている赤い結晶を手に取って見ると、先ほどとは違う記号が刻まれていた。鏡はあとで考えるとして、今は扉だ。さっきと同じようにどれかが開くはずなんだろうけど、一体どれなんだろ。
「とりあえず、鳥の絵があるし、真ん中の扉から試す?」
「言うと思った……」
みぃは呆れたように、溜息をつく。白いハトのような絵だし、平和の象徴っていうからね! 幸先もきっといいはず! うちの勘がそう言っている!
涙の窪みに結晶をはめ込むと扉が赤く光り、違うと拒絶するように結晶が勢いよく弾かれて、どこからともなく大量の敵が沸いた。
「おわ! 何かいっぱい出てきた?!」
「とりあえず倒さないと! 【ウィンドブレード】!」
コウモリのようなモンスター【アクアバット】が飛び回り、水鉄砲のような攻撃を放っている。天井の近くを飛んでいるから、うちの攻撃が届かない。すぐに盾を構えてみぃの前に立ち、攻撃が当たらないようにする。
「単発攻撃だと効率が悪すぎるわね。ルーイ、挑発で近くに引き寄せられるはずよ!」
「なるほど! 逆さだと頭に血が上っちゃうよ! べろべろばー!【挑発】!」
スキル発動で大量のコウモリが一斉にうちに飛びついた。
クリティカル攻撃のようで、トゲトゲエフェクトがずっと出続けている。耐性があるから、痛くはないけど、全身マジックテープでジョリジョリされてるみたいでくすぐったい!
敵のHPは低いけど、如何せん数が多い。一気に倒せる範囲攻撃が欲しい――。そう思っていると、みぃがこちらにポーションを投げつけてきた。
「ルーイ、キャッチ! 【ポーションボム】!」
「キャッチって、それ爆発物ー!!」
瓶が盾に当たった瞬間、白い光が弾けた。衝撃に備えて踏ん張るが、何も感じない。
……って、それもそうか。PT組んでるのもあるけど、対人フィールド以外ではダメージって通らないんだったね。一気に倒してくれたのはありがたいけど、いつも敵に投げてたからビックリしちゃったよ。
「タゲありがと。はい、【ヒールピッチャー】」
「顔面に投げるのは辞めましょうね? でも、一気に倒せてよかった! 今の鳥だったらよかったのになぁ……試しに鳥系が出るかもう一度やってもいい?」
「ランダムだとしても、ルーイがやったら鳥の出現率はマイナスだから辞めておいた方がいいわよ。それにキリがないから却下」
ちぇー、鳥にもふもふされる夢は消えてしまった。まぁ、諦めないけどね! とりあえず、煩悩は置いておいて、どこの扉にはまるか真面目に考えるか。弾かれた結晶を拾うついでに、しまっておいたマッスルダックの毛で一服しよう。スハー……んふふ。
とりあえず、真ん中の扉ではない事はわかった。なら、残りの『戦』か『静寂』。箱あるはメモや会話の中にヒントが散りばめられているから、きっと今までの中に繋がる内容があるはず。
結晶を天井に掲げて透かすようにする。これは数字の1なのか、アルファベットのIなのか。アルファベット順だとしたら九番目?
ん……? 順番?
――そうか、詩文だ。
「黒き炎が世界を埋め、悲しみの涙は海を満たした……」
「戦」「静寂」「祈り」――石碑の詩文と扉の絵がリンクしてる。
うちの呟きを聞いていた、みぃも何かに気が付いたようだ。
「ねぇ。これ、ローマ数字じゃない……? ミレア・ノヴァにはめられていたのが四だとしたら、希望の行。この結晶は一行目、戦の話」
『ミレア・ノヴァは希望の星って意味なンだ』セレナさんの言葉を思い出す。そして、先ほどの扉は『希望の涙』だった。この説が正しければ、『戦の涙』が開くはず。
近づいて扉を見ると、燃え盛る炎と、剣を振るう兵士たちの姿が描かれている。その中央には、戦場で膝をつき、顔を伏せて涙を流す人物がひとり。その目元には、涙型の窪みがあった。
さっきみたいに敵が沸くかもしれないので、念のため盾を構えておくと、みぃも同じ様にスクロールがいつでも開けるように手に持っていた。お互い目だけで合図を送りあい、うちは結晶を窪みに押し込む。バネのような抵抗を感じるが、指でグッと押し込むと『カチッ』と音がした後、結晶と壁の溝が白く光って扉が手前に開いた。
今度は大量の敵が沸くこともなく、肩の力を抜いて一安心する。ただ、向こう側に待ち受けているかもしれないので、盾を構えたまま扉をゆっくり引きながら開けて部屋の中に足を踏みいれた。
先ほどの広間よりも小さな部屋で、奥の台座では何かが光っている。あれが次の結晶かもしれない。
だが、行く先を阻むように――まだら模様の触手を蠢かせるモンスターが、ぬるりと動いていた。
次回は日曜あたりに更新します。
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