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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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78羽目:強くて、優しい人

ルーイ視点に戻りますぴよ

 まさか、何気なく触れたレバーの先に、目的の石碑が眠っていたなんて……。あれは偶然だった。けれど、セレナさんには言わないでおこう。「神聖な場所で何してンだ!」って、絶対怒られる。


 案内された目の前の石碑は、ただの黒い石の塊にしか見えなかった。祈りの場にあるはずの文字も、模様もない。石碑って、大体は何か刻まれてるよね……?


 そんな疑問が浮かんだ瞬間――セレナさんの指先が触れると、石の表面に青い光が走り、見えない溝を埋めるかのように文字が掘られていく。まるで水面に月が映るように、淡く、揺らめいている文字が大きな黒い石碑に刻まれていった。



 我らの水の魂よ、深き悲しみを抱きし者よ。


 黒き炎が世界を埋め、悲しみの涙は海を満たした。

 あなたはそのすべてを受け止め、静寂の底に沈めた。

 その涙はやがて波となり、光を映す導きへと変わる。

 我らはその悲しみを忘れず、恵みに感謝し、明日を照らす希望と共に歩まんことを――ミレア・ノヴァ。



 セレナさんは、その祈りの言葉を見つめながら、何かを思い出しているようだった。横顔から見える瞳には、懐かしさと切なさが混ざったような色が浮かんでいる。


「ミレア・ノヴァは希望の星って意味なンだ。昔の祈りの言葉でよォ、悲しみの海に沈んだ魂を、光で導くって言われてた。あたいは、あの日誰かと一緒にいた……とても大切な……あたいの、ミレア・ノヴァだった人だ」


 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。事故の後、やっと面会できる日になって、久々に見た澪の目が赤くなっていたのを思い出す。


 もし、大切な人の記憶を失ったら――想像しただけで、隣のみぃが急に遠く感じた。彼女に手を伸ばしそうになったが、拳をぎゅっと握りしめて気持ちを押しとどめる。


 そんな心の揺れを見抜いたかのように、セレナさんは優しい口調で話を続けた。


「あたいは、どんなヤツや記憶だろうが、出会った人たちを忘れたくねェ。だから、このポッカリ空いちまった所をちゃんと思い出して埋めてやりてェんだ。正直、嫌なヤツもいた。だが、良いヤツもいた。その出会いが、どっちかが欠けてたら、もう今のあたいじゃねェ」


 彼女は、慈しむように微笑みながらそう語る。目の前の人は、強くて、優しい。失われた記憶を思い出すことで、悲しみまで蘇るかもしれない。それでも、大切な人のために向き合おうとするその姿に、胸が締めつけられる。


何かを失う悲しみよりも――失ってしまった。という後悔のほうが、ずっと深く、痛いことをこの人は知っている。


「思い出してから……夢を見るんだ。いつも同じ。水の底で、誰かが眠っている。その人に触れようとすると、泡に遮られちまった所で目が覚めンだ……」


 セレナさんは、石碑を見つめながら静かに口から言葉をもらした。その声には、どこか遠い記憶を探すような切なさが滲んでいた。


「正直、すぐにでも調査に行きてェ。でもな……今の役目を捨てるわけにいかねェ。金のねェ子らに読み書きを教えたり、病気の家庭に治療に行ったり。それが、あたいの役目だ」


 その言葉には、聖女様としてだけでなく、彼女自身の揺るぎない信念と、優しさが込められていた。


「……調査が進めば、さらに思い出せるかもしれねェ。でもよ、ここを離れたら、あの子らはどうなる? それを考えると、足が前に出ねェ。だから、あたいの代わりに調査してきてもらいてェんだ。頼めるか……?」


 うちは静かに頷いた。ゲームのシステムだろうと、セレナさんの想いは確かにそこにある。大切な人との記憶を取り戻してほしい。朧気な記憶になっても、それは自分を支える大事な軸になるから。うちにとっての鳥が大切な人達との記憶の繋がりのように。


「もちろん、うちらに任せて! ね、みぃ?」


「えぇ、任せてください」


 二人の言葉にセレナさんの表情がより柔らかくなった気がした。でも、洞窟って今は立ち入り禁止なんだよね? どうやって入ればいいんだろ。


「立ち入り禁止だって聞いたけど、それは問題ないの?」


「おう、門番にこいつを見せりゃいつでも出入りできる。潮が満ちてくる時に合図があるからよォ、無理せずにまたやりゃァいいゾ」


 セレナさんから渡されたのは、教会の紋章が入った羊皮紙だった。これで、中に入る問題はクリアだけど、モンスターとか出たりするのかな?内部の事について聞いてみると、洞窟の奥へ進むと扉がひとつある広間にたどり着くらしいが、そこにモンスターは出てこないとのこと。


「扉の向こうは?」


「わからねェ。石碑にこの結晶があったから、おそらくこれで開けられると思うンだが……」


 セレナさんが取り出したのは、涙の形をしたダイヤのように透明な結晶。

 黒い石碑の中腹あたりを見てみると、確かに『ミレア ノヴァ』の文字の間に、涙型の窪みが刻まれていた。


「前回は時間切れになッちまったからよ。モンスターが出るかもしれねェし、部隊の編制も中々できなくてナ。あの扉の向こうは何があるかわからねェから、二人以上で調査を頼んだゾ。くれぐれも気を付けてくれ」


 差し出された結晶を受け取った瞬間、《聖堂で聖女様に会う》のガイドラインに完了マークが付き、次の指示《洞窟の調査へ向かう》が表示された。


 うちは静かに頷き、託された結晶を握りしめる。


「……わかった」


 セレナさんは満足げに微笑んで、うちとみぃの肩に手を置く。服越しに伝わる手の温もりがまるで彼女の心の優しさのように感じた。教会を後にし、地面のガイドラインをたどって海岸の岩場へと向かう。岩の隙間に開いた洞窟の入り口が見えてきた。近づくと、両側に厳つい門番が立っている。


「えっと、聖女様の依頼で調査にきたルーイとみぃです」


 門番の一人が眉をひそめて、めんどくさそうに追い払おうとしたが、羊皮紙に刻まれた紋章を見た瞬間、表情が一変し門番は背筋を正して敬礼してきた。


「ここは立ち入り禁止……そ、その紋章は! どうぞ、このままお進みください!」


 おぉ、まるでどっかの黄門様のような気分だね! そして、門番に砂時計を手渡されたが、受け取った瞬間光の粒子になって消え、視界の隅にタイマーのアイコンが現れる。


【満潮タイマー:5h59m】


 制限時間になっても調査が終わってなければ、勝手に入口までワープするらしい。ようは時間切れってことね。まぁ、何度でもやり直しできるみたいだけど、なるべく早くクリアできるといいな。


 洞窟に足を踏み入れると、磯の香りが混じった空気がひんやりと肌を撫でた。中にまで光が届いておらず、魔力石ランタンで道を照らしながら奥へ進んでいく。遠くで水音が反響していて、何かが突然奥から飛び出してくるような不安が少しだけある。みぃもいるからまだ耐えられるけど、一人だったらこの暗さは嫌だなぁ。


 水が滴る通路を抜けると、ぽっかりと開けた円形の広間に出た。ランタンがなくても、天井の隙間から差し込む光が、岩肌に反射して広間全体を照らしている。光があるだけで、こんなにも気持ちって落ち着くものなんだ。少しばかり強く握りしめていたランタンをインベントリにしまいこむ。


 広間を見渡すと、中央には石碑が置かれていたであろう台座があり、奥の壁には祈っている人の絵が彫られている扉があった。その上には、『希望の涙』と刻まれている。


「セレナさんの言ってたやつだね。しかし、でっかい扉だねぇ」


 目の前にそびえ立つのはどこぞのハリウッドセレブのお宅のような、巨大な扉だった。とりあえず、入るために託された結晶をインベントリから取り出す。


「ん? これなんだろ……?」


 天井から差し込む光が結晶に当たって、模様が浮かびあがった。

次はいつもの木曜日です。


[読者の皆様]

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