76羽目:見た目に騙されるべからず
残りの本棚も全部確認したけど……光ってる本は一冊しか見つからなかったなぁ。
みぃにも光って見えたようなので聞いてみると、称号【真実の眼】のスキルによってそう見えるのだと教えてくれた。彼女にも『妖神神話:水祈録』を読ませると、うちと同じ考えに至ったようだ。
「確かに、これ両方のクエストに関係してる気がするわ。さっき調べたけど、特殊クエストの情報がなかったのよね……」
みぃも特殊クエストは初めてのようで、調べても出てこなかったからギルド掲示板でジョンさんに聞いて確認したようだ。へぇ、ジョンさんって結構物知りなんだねぇ。
「特殊クエ同士が繋がるともっと大きなクエに繋がるんじゃないかって。でも、まだ誰もその先を知らないみたいよ。ギルマスも特殊クエをクリアしたけどハテナは解放されなかったって」
とりあえず、今は依頼を片付けるしかないってことか。終わってから三影さん達と時間があるときに検証しようという話になった。みぃがすべての本の記録を終えると、クエストログが更新されて新たな指示が表示された。
《完了:資料を記録・調査する》
《次の目的:聖堂で聖女様に会う》
記録した本を返却棚に戻し、閲覧室のクリスタルに手をかざして扉を開けると、小型の魔法整理機が静かに動き回っていた。
柔らかい絨毯から木の床を踏みしめ、聖堂へ向かう。
地面にうっすらと浮かぶ道標を辿ってついたのは、街はずれの丘の上に建つ聖堂で、街と海を見渡せる静かな場所にあった。時計が付いている屋根には、カラフルで風船みたいに丸っこいスズメのモンスター【カラースパロウ】が羽を休めている。
……あの屋根になって、カラースパロウちゃんに踏まれたい。ちょっと屋根裏からあそこに登って来てもいいですか? しゅっと行ってサッともふって戻ってくるから。
「みぃ……」
「鳥は後で」
名前しか呼んでないのに、どうしてわかったの?! しかも、しっかりと行かないように手を掴まれてしまった。名残惜しく屋根を見上げながら、開かれた扉をくぐった。中は祈りのための長いベンチが何列も並び、風に揺れるろうそくの炎が柔らかく空間を照らしていた。開け放たれている扉からわずかに潮風が運び込まれ、溶けた蝋の香りと混ざる。
最前列の祭壇には女神のような白い石像があり、その左前に説教台が置かれている。聖女様が話すための場所なのだろう。まずは依頼の資料を聖女様に見せないと……と思ったが、聖堂内には誰の姿もなかった。教徒らしき人も、祈る人も見当たらない。
「誰もいないね。裏庭の方を見てくるわ」
「ほーい、じゃうちは中探す! (今の内にささっと少しだけ屋根に……)」
「……屋根に行かないでよ」
またもやバレた! うちそんなに顔に出てるのかなぁ? ハシビロコウのようなポーカーフェイスを取得せねば。屋根は一旦諦めて、ハシビロコウのようなキリッとフェイスを練習しながら、閉じている扉をひとつずつ叩くが誰も出てこなかった。
うーん、どこにいるんだろ? というか、立派な石像だなぁ。
感心しながら石像に近づいて、見上げる。マリア像のような感じもするが、なぜか妖精さん達に似ている気がした。と言っても、本人(本妖精?)は光っていて顔はよくわからないんだけどね。しかし、このろうそく台って本物の黄金なのかな? 泥棒とか大丈夫? まあ、聖堂だから、誰も悪さをしないか。
ろうそく台に近づいて触れてみると、ズズッと奥に滑るようにズレて、女神像の後ろの壁から「ガコン」と音がして少し開いた。さらに押すと、壁は完全に開いて下に続く階段が見えた。ふむ……引くと閉まった。押すと開く。なんか、レバー操作みたいで面白いね? ちょっと覗きにいってもいいかな。
「何してんの……」
開け閉めして遊んでいたら、いつの間にか戻ってきていたみぃに止められた。
「いや、なんか……からくり屋敷みたいな扉見つけて、つい……」
てへっ、と笑ってみたけど、みぃの視線は冷たいままだった。
「教会で遊ばない。また隠し部屋見つけて……これだから、いつまで経っても鳥運がプラスにならないんじゃない?」
教会で遊んでごめんなさい……。反省したので鳥運はプラスにしてください、お願いします、女神様! (土下座)
「そろそろ聖女様来るから、今は他の物に触らないように。はい、お手」
反射で手が出た。完全に犬扱いに慣れてきてしまったな?
みぃが裏庭で掃除しているシスターを見つけたみたいで、聖女様を呼んでもらっているらしい。しかし、手に触れるたびに思うけど、澪の体温はうちより低くいつもは少し冷たいのに、みぃの手は温かいから不思議な感じだ。
静かに礼拝堂のベンチで座って待っていると、背後から柔らかな足音が近づいてきた。振り返ると、白い修道服に黒の布を肩から下げた女性のエルフが現れた。肩にかかる翠玉色の髪が、ステンドグラスから差し込む光を受けて、ほのかに輝きながら揺れている。見た目は五十代くらい。でも、エルフだし実際はもっと上なんだろうな。落ち着いた歩みと気品ある佇まいに、思わず背筋が伸びる。この方が、聖女様なのかな。
「「初めまして」」
「ローさんのご依頼で、頼まれていた資料を届けに来ました。剣士のルーイです」
立ち上がり一礼する。近くで見ると彼女の瞳は髪と同じエメラルド色で、宝石みたいで透き通るように綺麗だった。背は高くて肌は白く滑らか。体にぴったりとフィットしている修道服からもわかるように、モデルのような体型をしている。
まりんさんの時も思ったけど、箱あるの服装ってボディライン強調しすぎでは? みぃの錬金術師の服装なんて胸元が際どいし……。そんな事を考えながら、チラッと彼女の服を見る。でも、ゲーム内ではセクハラできないから少しは安心だけど。みぃはリアルじゃ嫌な目に合ってるし。
視線を上げて顔を見ると、何故か鋭い目線でみぃはこちらを見ていた。
「どうせ、小さ……バカ。錬金術師のみぃです」
声が小さくてあまり聞こえなかったが、何故バカ?! えぇ、うち何もしてないよ?! ロウソク台で遊んだくらいはしてたけど……。それともハシビロコウフェイスの練習見られてた? すると、微妙な空気を破るように聖女様が口を開いた。
「ローから話は聞いてるゼ。待たせちまってすまねぇなァ。ここの聖女やってるセレナ・ヴェルミリオンだ。堅苦しい挨拶は苦手でよォ、気楽に接してくれ」
清楚な聖女の見た目とは真逆のヤンキー口調。まるで、品のいい貴族が『夜露死苦』って言ったみたいな衝撃。でも、どこか懐かしい。しばらく会えていない家人のことを思い出させる。デコピンしてから優しい目つきで『人に頼ることも覚えろ』って言葉を残して、家から出ていった姿がふっと脳裏をよぎった。
「ここでの立ち話もなんだしよォ、あたいの部屋についてきてくれ」
セレナさんの後について階段を上っていくと、木の廊下を窓から差し込む光が照らしていた。ギシギシと鳴る木の床を踏みしめながら、突き当たりの木製の扉を開けて中へ通された。部屋の中は至ってシンプルで、部屋の天蓋窓から太陽が差し込み、中央には木製の椅子とテーブル。壁を囲むように本棚が並んでいて、古びた革の本がぎっしりと詰まっている。
「そこの椅子に座って少し待ってナ」
そう言って、奥の部屋へと消えていくセレナさん。
二人で横並びに座って待っていると、ふんわりとお茶の香りが部屋に満ちてきた。トレーにお茶とクッキーを乗せて、セレナさんが戻ってくる。目の前に置かれたティーカップからひと口啜ると、カモミールのような優しい味と香りが広がった。
一息ついたところで、みぃがセレナさんに記録を見せた。
「しかし……ローのやつ、まさかこんな方法で文献を見せるとはなァ。あいつ商人の時は堅物で屁理屈も通じねェけど、こういう事になると急に柔軟になるんだよなァ」
「あと、この本。ローさんが選んだ物ではないのですが、何かご存じですか?」
みぃがパネルを操作して見せると、読み進めていくセレナさんは目が徐々に見開いていった。
「これは! 『失われし光の戦い』の事か……!? 一体誰がこの話を!?」
まさか、その名を知っている人が他にもいるなんて思いもしなかった。
今週は28日にも更新あります!




