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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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74羽目:信頼の証

 ぴよぴよ。ぴよぴよ。


「うぅーん……みぃ、鳥質(とりじち)だけは……! 全部、話すからぁ……ハッ! 夢か……」


 昨夜もらった、ヒヨコのアラームアプリをタップして止める。窓を見るとカーテンの隙間から朝日が覗いており、外の光を見ながらぼんやりとした頭で昨日の事を思い出した。

 怒りモードのみぃ様の壁ドンから逃れられず、首輪をつけられたうちは正座してもう一度すべてを話した。


「私がちょっと心配になりすぎてるだけなんだろうけど、ルーイが悲しい気持ちに引っ張られないなら、それでいいの」


 怒られはしなかったが、ほんの一瞬だけ見せた悲しそうな表情が胸にチリッと刺さった。

 フルダイブは現実に近い分、感情も影響を受けやすい。だから最近は、ゲームらしいエフェクトをあえて強めに出すようにして、心と体の境界を分かりやすくしている。

 実際、昔はゲーム内のストレスがリアルにまで響いたってニュースもあったし、うち自身、イグナさんの映像を見たときも悲しみに引っ張られたことがあった。

 映画でさえ、感情移入して苦しくなったこともあるから気を付けないと。


 澪もその部分を心配しているからこそ、怒ってくれたのを知っている。

 うちはゲームでも、現実でも、澪と一緒に楽しいを分かち合いたいだけ。大切なことを忘れずに、二人で楽しめることを選ばないとね!

 さて、今日は金曜日! 張り切って仕事終わらせるぞー!


 * * *


 ぴっぴイン。


 目を閉じて開けると、見慣れた木目の天井ではなく部屋が広がっていた。視線を下げると、うちの膝枕で目を覚ましたみぃと目が合ったが、何か少し残念そうな表情をしている気がする。


「おはよ、待たせちゃった?」


「ううん。私もログインしたところ、慌てなくてもよかったのに」


「だって、早く一緒に遊びたいじゃん」と、笑いながら彼女の柔らかい前髪を撫でると、ゴロンと背中を向けられた。サラッとした銀髪から覗くエルフ耳がほんのり赤い。

 何でこんな状況なのかというと、素直に言わなかった罰として膝枕を要求されたからだ。


 それくらいでいいならと承諾すると、早くしろと言わんばかりにベッドをぽふぽふと叩くみぃ。壁に背を預けて足を伸ばすと、彼女はコロンと寝転がりながら太ももに頭を乗せて、お腹にぐりぐりと後頭部を押し付けてきた。

 うちにだけはこんな風に甘えてくれると思うと、ちょっと嬉しくて思わず笑みがこぼれる。今ならオマケでナデナデもつけちゃうぞー。


「あーしゃしゃしゃ」


「どこぞの動物王国の人じゃないんだから……」


 みぃが呆れた声を出すが、お互いに冗談を言いながら、うちはみぃの頭を撫で続けた。髪質がリアルと同じネコっ毛なんだよなぁ、ゲーム内でもこれはつい撫でたくなるね。

 そのままログアウトして、寝る前に送られてきたのが、朝のアプリだ。『罰は十分受けたし、鳥もふくらいは許す』とメッセージも添えられていた。相変わらずの天邪鬼にゃんこである。ちなみに、膝枕する前に首輪とリードは外してくれた。


 しばらくつけっぱなしにする罰だったら、ギルドのみんなに変態だと思われてしまう……。あぶない、あぶない。うちは至って普通で、ただの鳥好きだと言うのに。

 しかし、みぃにお腹をぐりぐりされた時は嬉しさもあったけど、ちょっと焦ったよね! キャラは調整してあるけど、現実の方は……プニってきてるからさ。リハビリでカロリー消費が高いメニューとかないかなぁ。


 とりあえず、ゲーム内では何を食べても脂肪はつかないし、甘いもので空腹と給水を満たしますかね!

 今日はフルーツコッペとホットルミナティーのアプリル入りにしようかな、乾燥させたアプリル(リンゴ)ルミナ(ミント)ハーブにお湯を注いで完成っと。


 今日は教会の石碑を確認しに行くけど、その前にお礼を言いに行きたい人がいるんだよなぁ。


「ねぇねぇ。教会の前に、ローさんに挨拶しにいこうよ」


「そうね、彼のおかげで勝てたものね」


 そうと決まれば、転移クリスタルでセレヴィアへGO!

 街の中央から商人ギルドへ向かい、受付でローさんを呼んでもらおうとしたとき、背後から誰かに名前を呼ばれたので振り向くとお目当ての人物がいた。


「おや、ルーイさんとみぃさん。ご無沙汰しております。本日は何か当ギルドにご用件でも?」


「ローさん、お久しぶり! お礼を言いたくて来たんだ。この間は本当にありがとう!」


「お久しぶりです、ローさんのお陰で助かりました。ありがとうございます」


「私はただ、ルールに従ったまでです。何も特別な事はしておりません」


 ローさんは相変わらずの無表情で淡々とした口調だ。NO営業スマイル。だけど、何かを気にしているのか、周囲に目を走らせていた。仕事に戻らないといけない感じかな? とりあえず、お礼は言えたし教会に向かうかね。


「……お二人はこの後なにかご予定でも?」


「教会にいくつもりだよ! あっ。ローさん、この街で神殿のことが調べられる場所って教会以外にあったりする?」


 何となくの思い付きで口をついた言葉。

 神殿という単語を聞いて、無表情だった彼の眉がピクリと動いた。


「神殿、ですか……。教会以外ですと、弊ギルドの()()資料室にいくつかありますので、ご案内しましょう」


 おぉ、ラッキー! まさかこのギルドにも情報があったなんて!

 ローさんの先導でギルド奥の階段を上がった先に資料室があった。静かな空気が広がり、木の本棚はきっちり整理されている。小型の魔法整理機が静かに動き回り、本を片付けていた。一般にも開放されているようで、チラホラと商人風の住民やプレイヤー達が居た。


「回収ボックスに落ちないようにね」


 みぃがぼそりと呟く。もう落ちませんから! そこまで鳥頭じゃありません。

 資料室に着いたので、ローさんとはここでお別れかと思いきや、彼は立ち止まることもなくさらに奥へと進んでいく。


「こちらに」


 疑問に思いながらついて行くと、案内された先は人気のない部屋の奥。扉には『関係者のみ』の文字が書かれており、ローさんが壁のクリスタルに手をかざすと、カチッと鍵が開く音がした。

 彼が扉を開くと、目の前には木製の本棚が天井近くまでそびえ立っていて、静寂に包まれた空間が広がっていた。どの棚にも古びた革装丁の書物が整然と収められている。


「えっと、ローさん。ここは……?」


「ここはごく限られた者だけが入れる古書資料室です。持ち出し禁止ですので、この部屋でのみ閲覧となります」


 ローさんに次いで、部屋に足を踏み入れると、人のいないひんやりとした空気に本独特の香りが混じっていた。外は木の床だったのに、ここは厚手の絨毯。足音が吸い込まれて、静けさがさらに深まる。


「先ほどは大勢の方がいたので、申し上げられませんでしたが、お二人のお陰で商人ギルドの腐敗を止めることができました。報告は上がっていたのですが、証拠がなく動くことができず……。さらに、あの一件で長年滞っていたルール改定も行うことができました。改めて尽力頂いた事に感謝致します」


 前にいたローさんが振り返り、無表情のまま体を畳むように深々と頭を下げる。


「いやいや、そんな大げさな……」


「そして、二人を見込んで、お願い……いえ、()()()()があります。先ほどの神殿についてです。実は、聖女様も同じ資料を閲覧を希望されているのですが、多忙で聖堂を離れられません。しかも、この部屋の魔術紋で本は持ち出すこともできず、レコードコアも使えません。ですが――」


 まさかの提案が、ローさんの口から飛び出した。


新世界人(ニュービー)は神の力で同じ能力が使えますよね? その能力は魔術紋の制限を受けません。なので、本の内容を記録して聖女様に見せていただきたいのです。依頼が達成した暁に、あなた方にこの部屋の利用権を与えます」


 えっ……今なんて? そんな特別な部屋を?

 うちは思わずみぃと顔を見合わせた。ファンタジー世界だと古書って、ヤバい伝説とか封印された魔法とか書いてある本がいっぱいあるやつだよね?


「ハッ! もしかして、幻とか伝説の鳥に関する物もある?! うぐふっ」


 ものすごい興奮していたら、隣のみぃに脇腹を思いっきり掴まれた。脇腹は辞めて! お肉気になっちゃうから!


「と、鳥ですか? ちょっとすべての書物は把握していないので……こちらの検索クリスタルで資料室の本は探せますが……」


 そして、無表情のローさんが、ほんの少し困惑した顔を見せた。そんな表情できるんだね、ちょっとアンドロイドみたいに無表情すぎたから安心したよ。

 そのローさんの言った特別依頼という言葉で、ふっと新しい称号のことを思い出した。


【真実を暴く者】

 カテゴリー:称号

 効果:ギルドからの信頼が上昇し一部のNPCが「特別な依頼」や「裏情報」を提供してくれる。「真実の眼」スキルが使用可能。スキルにより偽装された場所や重要アイテムを発見しやすくなる。



 称号の力もあるけど、あの一件でローさんの信頼を得たってこと? そういえば裁判の後、特別エリアが解放されてたけど、この部屋の事だったのかな。今後のことを考えると、古書の情報はまさにうってつけ。断る理由はないけど……。


「鳥は後で探すとして……依頼はOKかな? みぃはどう思う?」


「私も問題ないけど……そんな重要な部屋、私たちでいいのですか?」


「大丈夫です。貴女方はギルドの汚職を暴き、ルール改定にも協力してくれました。その功績は高く評価されています。そんな方達なら問題ありません。私が推薦すれば、すぐ許可が下ります。二人でこの特別依頼、受けていただけますか?」


 ピコン――視界に淡い光が広がり、クエストパネルが浮かび上がった。

 みぃと顔を見合わせ、無言のまま頷き合う。画面に表示された「YES」の選択肢を、同時にタップした。


 ――《特殊クエスト:『祈りは記憶となりて』を受領しました》

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