73羽目:みぃ様の怒りを鎮める方法
みぃとエルザさんが合流した瞬間、うちはインベントリからヤシナッツアイスを取り出しながら、スライディング五体投地をかました。ゴツゴツした岩場でも痛くない、さすが極VIT! でも皮膚が引っ張られる感覚はとてもリアル!
「これで! お怒りを! お納めください! みぃ様!」
みぃはアイスだけはしっかり受け取りつつ、冷たい笑顔で言った。
「一生却下。でもアイスはずっと貰う。あと、鳥もふはしばらく禁止ね」
「理不尽の塊かな?!」
そんなやりとりを見ていたエルザさんが、優しい声で二人の間を取り持ってくれた。
「あら~デザートもおいしそうだけど、せっかくだから新鮮なポンバサーを先に食べましょう?」
女神の救済キタコレ! このまま、みぃのお怒りが静まりますように……。あと、鳥もふの撤回を……。
ロウガさんが火を起こしている間に、エルザさんからポンバサーの下ごしらえを教わる。皮が柔らかいため、刃物を使うと食感が損なわれてしまうらしく、手でお腹からゆっくり割くコツを伝授してもらった。食材を取り出した時にエルザさんの表情が今までにないほど輝いていて、思わず頬ずりしかけていたのを見て慌てて制止した。そのトゲトゲ多分痛いと思うんだ。
見よう見まねで内臓を取り出し、お好みの具材を詰めて串に刺せばポンバサー串の完成だ。ポンバサーは食べられる身がほとんどないため、以前は誰も食べなかったみたい。
ただ、大量発生するし、駆除しようにも周りの魚も巻き込んで爆発してしまうので、みんな困っていたらしい。
一匹ずつ捕まえる方法が確立し、ついでに食べられるよう試行錯誤した結果、破棄される部位を使用したスリミで補うレシピが生まれたんだとか。
そして、そのレシピの発案者はエルザさんとのこと。
この夫婦、ポンバサーの第一人者だった!
今日はさらに、スパイスをグルテミル粉に混ぜ、水で溶いた物を衣にして揚げた、ポンバサーフリットである。
「さぁ、出来上がったわ。あなた、お祈りをお願いね」
皆が胸の前で手を組み、目を閉じる。
「我らの水の魂よ。あなたはそのすべてを受け止め、静寂の底に沈めて祈った。涙はやがて波となり、光を映す導きへと変わる。恵みに感謝し、明日を照らす希望と共に歩まんことを――ミレア・ノヴァ」
「「「ミレア・ノヴァ」」」
ロウガさんが食べたのを見てから、あつあつのフリットを口に含む。トゲはよりカリカリになり、サクッとした皮の内側は炭酸のようにシュワッと弾け、ポンバサーのうま味が爆発するように口の中に溢れ出した。
「ンー! 美味しいー! 揚げるとさらにカリっ、サクっとして、焼いたときよりも汁がドバッと溢れ出すね!」
「んっ。ちょっと、辛いけど、すごい美味しい……!」
辛いものが苦手なみぃがスパイシーな料理を美味しいと言うのは珍しい。つい食べ過ぎてポンバサーの様にお腹がぽんぽこりんになった気がするが、デザートにヤシナッツアイスをみんなで食べる。辛い食べ物の後に、アイスを食べると、幸せな気分が増すよねぇ! アバターだから何食べても太ることがないのも最高!
心とお腹も満たされたし、ロウガさんに思っていた疑問をぶつけてみるかな。
「気になってたんだけど。お祈りの言葉、何で海じゃなくて、水の魂なの?」
「大昔、水の魂がこの街を導き、かの戦からも救ってくれたからだ。本来はもっと長い祈りなんだが、聖女様以外はみんな短い祈りしか捧げなくなった」
遥か昔、教会まで出向けない人や、文字の読めない人がいたので、どうにかして家で祈れないかと考えた聖女様が、今の形に簡略化してくれたんだって。
「みぃさんと待ち合わせしたアクレア聖堂に、神殿から持ち出した石碑の経典があるから、そこに正式なお祈りが書かれているわよ」
「……神殿って、沈んだ神殿かしら? 以前、グラウス師匠からそういう場所があるって聞いたことがあって」
「なんと、みぃ嬢の師匠だったのか! 道理ですごい錬金術師だと思った! そうだ、導具を依頼した時に、話したことがあってな。『面白い話のひとつもできねぇなら邪魔だからどっか行け!』って言われてなぁ、いやーおっかなかった」
『つまらなかったら錬金窯で煮込む』とまで言われたそうだ。グラウスさんらしいツンデレ対応だなぁ。ロウガさんは当時のことを懐かしみながら、神殿の話をしてくれた。
「神殿は、かつて街の人々が祈りを捧げていた場所だったんだ。けれど、かの戦の後、突然地盤が崩れて沈んでしまったらしい。潮の満ち引きで姿を現すが、ずっと調査をしていて誰も立ち入れないんだ」
うーん。立ち入り禁止ならどうやって調査にいこうかな? 一度、教会で調べてみるか。
話もひと段落着いたところで、潮風に吹かれながら船の確認へ向かった。みぃが施した新しい紋章によって、今度こそスキルのない人でも動かせる船が完成した。ちなみに、倉庫から海に船を運んだのはエルザさんだった。その華奢な腕のSTRは一体どうなっているの……?
「本当にスキルがなくても操船できる日がくるなんて……あの詐欺話が本当になっちまった……。本当にありがとう! こんな奇跡を運んできてくれた二人は希望の魂だな! 俺たちにできることがあれば、いつでも言ってくれ!」
「えぇ、本当にありがとう! あなた、これからは二人の事もお祈りにいれましょう? きっとすごいお恵みがおまけで頂けるかもしれないわよ、ふふっ」
エルザさんの水仕事でカサついた手、ゴツゴツとしたロウガさんの手が、うちとみぃの手を包み込んだ。その手の温かさが心までじんわりと温めていく。
優しさで満たされた後、夫婦とは港で別れて、二人で街へと向かった。
「さてと……まずは聖堂にいってみようか?」
「そうね、さらに手がかりが見つかるかもしれないし。それと、さっきの……」
みぃが、じっとこちらを見つめながら、わずかに睨むような目で言いかけた時――正面から誰かが元気よくこちらを呼んで走ってきた。後ろからもう一人それを咎めるように追いかけている。
カイ君とナギサちゃんだ。うちは二人に手を振って、カイ君には気を付けるよう声を張り上げる。
「おねーちゃん達だ!」
「こら! カイ! 走らないの!」
「走ると転ぶ……あ! 遅かった……」
石に躓いたカイ君は顔面から思いっきりスライディングをかまし、カバンからは勢いよく本が当たりにぶちまけられた。みぃと慌てて駆けより、うちはカイ君に手を差し出す。
「思いっきりいったねぇ……カイ君立てる?」
「うん……ぐすっ」
目にいっぱいの涙を貯めながら、泣くのを堪えて立ち上がると、赤いポリゴンエフェクトが鼻と膝から浮かび上がっていた。モンスターだけじゃなくて、住民もこのエフェクトなんだね。絆創膏って箱あるにもあるのかな?
どうしたものかと考えていると、瓶が割れる音とともに、緑のオーラがふわっと立ち上がり、瞬く間にカイ君の怪我が治った。
「もう、これで大丈夫。今度から気を付けるのよ?」
「あれ、痛くない! すごい!」
嬉しそうにピョンピョンとその場で飛び跳ねるカイ君。
ほぇー、プレイヤーと同じように回復薬って使えるんだねぇ。詐欺’sに毒瓶使おうとしてたし、毒瓶で倒せるなら、回復薬で治せるのも当然か。リアルでも回復薬があれば鳥に思いっきり噛まれて怪我しても、すぐ治せるのになぁ。カジカジされたい。
「カイ、まずはお礼! みぃお姉さま、ありがとうございます!」
「えへへ。みぃおねーちゃん、ありがとー!」
あわてんぼうのカイ君としっかり者のナギサちゃんのやり取りに、また心が温かくなる。しかし、結構な範囲でカバンの中身が散らばったので、通行人の邪魔にならないように拾っていきますかね。文字だらけの教科書らしい物とは別に手作りされた本を手に取る。
「ん? これは絵本?」
「この街の歴史のお話だよ! セレナ先生が作ってくれたんだ! あのね、砂漠と海しかなかった所が、水の魂のおかげでこんなに大きな街になったんだよ!」
「カイはまだ文字がちゃんと読めないから、先生がわかりやすいようにって、絵本にしてくれたんです」
「少しは読めるようになったもん! おねーちゃん達聞いててね!」
ナギサちゃんの説明に、カイ君がポンバサーの様にほっぺをぷくっと膨らませる。彼は本を開いて、一生懸命に所々閊えながら、物語を読み上げ始めた。
絵本は、かつて水を求めて彷徨っていた砂漠の民がこの地にたどり着き、海を見て喜んだものの、一口飲んでみると塩辛さに絶望するところから始まる。
「うぇー」としょっぱそうな顔をしながらページをめくるカイ君を見て、うちはついふふっと笑ってしまった。
そこへ水の魂が精霊と共に現れ、人々に塩と水を分ける技術を授けたこと。その塩を使った交易が都市の始まりとなったことが描かれていた。
最後には、かの戦から民を守るために水の魂が身を挺して街を救った。そして人々が祈りを捧げる姿と祈りの言葉で締めくくられていた。
「ミレア・ノヴァ!」
そう、得意げな顔で言い終えて絵本を閉じるカイ君。
そういえば歴史の授業で、塩と金が同じ価値だった塩金交易って習ったなぁ。ロウガさんが言ってた街を導いたってこういうことだったのね。この街の歴史が精霊クエストにも繋がっていそうな気がする。
二人を見送ってからみぃと話し合った結果、週末の方が時間に余裕もでるし、今日は早めに休んで明日教会に行くことにした。
転送クリスタルでギルドに戻り、ログアウトするのに自室に戻ると、みぃも続けて入ってきた。
ん? なんで? 入室許可なしでも入れるように設定変更してって言われたから、確認したかったのかな。
俯いて後ろ手でドアを閉めるみぃが顔を上げた。
目が笑ってないが満面の笑顔である。
……え? あれ? みぃ様、お怒り納まってませんね? そういえば、街でも何か言いかけてましたね?
ゆっくりと後ずさる。
でも、すぐ角に追い詰められて――壁ドンされた。ヒェッ……まつ毛、長いですね(裏声)
「やっと二人っきりになれたね。まさか、ニワトリみたいに忘れてないよね?」
みぃがゆっくりと顔を寄せてくる。
「『楽しそうに』……の部分とか、ね?」
甘い声なのに、ポンバサーの爆発より刺さる。
「怒らないから。――私、ちゃんと聞きたいなぁ?」
そのセリフ、先生の『怒らないから』ってやつと同じくらい信用できない!
「はい、ここにお座り」
そして、彼女の手にはいつの間にか首輪とリードが握られていた。
それ、どこで手に入れたの? っていうか、つけようとしないでください。犬じゃないんだから……。
……くぅん。
もちろん、そんな事が言えるはずもなく、命令に従う忠犬の如く正座してすべてを洗いざらい話したのである。
こんだけ話書いてて、実は現実世界ではまだ5日しか経ってないんだぜ……? 作者もびっくりだよ。でも、ゲーム時間って便利だよね!!
そして、ルーイはまだ箱ある5日目の初心者で3倍経験値キャンペーン使ってLv29なんですよ。どんだけ効率いいのよ! タンクで火力なみの経験値率羨ましい! 私がやってるゲームにも同じくらいの経験値がホシイ。
[読者の皆様]
この小説が面白い、続きが読みたいと思ったら、スタンプ、☆、コメント等をいただけたら嬉しいです!かなり創作のモチベーションにつながります!




