72羽目:爆発祭り
あけましておめでとうぴよ~
両手でケーキを掲げて、おでこを床に擦り付けるような形で土下座していたため、見えるのは板の床だけ。
少し首を動かして目線を上げると、みぃが腕を組んだまま、じっとこちらを見つめていた。視線が痛い。ゲーム内でも涙目になる仕様ってあるのかな?
視界が霞んでいる。……うん、これ涙目になってるよね、絶対。
「……まずは、説明してもらおうかしら。全部、事細かにお願いね?」
静かな声。優しく言っているけれど、縛られていたロープよりも逃げられない圧がある。うちは上体を起こして、正座する。
ムルクさんと協力したこと、仕方なく(ココすごく強調した)捕虜として潜入し縄抜けしてから書類を見つけたこと、火の手が上がっていたので仕方なく(二度目の強調)窓から飛び降り商人ギルドに向かった流れを、一つひとつ丁寧に話した。
なお、この間チーズケーキは信者が神に供物を捧げるかのように、頭上に掲げたままである。腕が疲れないゲームでよかった!
みぃは途中で何度かため息をついていたけれど、最後まで黙って聞いてくれた。そして、話が終わると供物のチーズケーキを手に取り、一口食べる。
「……まあ、美味しいから許す。けど、ゲームだろうと無茶はしないでよね?ほら、ルーイも一緒に食べよ。給水と空腹ゲージがやばいでしょ」
奉納の効き目は抜群だった!
みぃの言葉にステータスを確認すると、確かにゲージは三分の一以下まで減っていて、赤くなってデバフが掛かっていた。
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【ステータス】
空腹ゲージ:22%
水分ゲージ:19%
【状態異常】
HP回復率低下
命中率低下
衰弱状態
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衰弱? 霞んでるのって涙目じゃなくて、衰弱状態って事? 歩くたびに足元がふらついて、まるで現実で徹夜明けにレポートを提出しに行った時みたいだった。ログイン時に、両方ゼロになると倒れてポリってしまうらしい。
二人で向かい合ってケーキとお茶を飲みながら、今日の予定を確認する。ロウガさんに伝書バトで連絡してから、船の修理を手伝うため、港へと向かう。
ちなみに、食べた後は視界がスッキリしてクリアになった! 涙の事をみぃに聞いたら、ゲーム内でも脳波で感情を感知してアバターが涙を流すことはできるらしい。ウソ泣きはシステムが反応しないから、できないんだって。
他愛のない話をしていたら、あっという間に船着き場に着いた。
伝書バトでは倉庫前で待ち合わせとなっていたので、ロウガさんの倉庫へ向かうと、そこには三人の人影があった。
「あれ、ムルクさんじゃん。どうしたの?」
「ロウガに聞いたが、船の修理をするんだろ? 二人には迷惑をかけちまったしな。各倉庫までの案内は任せてほしい。それに……アンタのお陰で家族が助かったから、どうしても直接礼も言いたくてな。本当にありがとう」
そう言って、ムルクさんは頭を下げた。
「イヤイヤ。ムルクさんがいなかったら、あの作戦は成功しなかったから、こちらこそありがとうだよ!」
「俺は何もしてねぇよ……まぁ、あんなに楽しそうに捕虜作戦を提案された時は、どうなるかと思ったが……」
楽しそうという言葉にみぃが反応して、すごい鬼の形相でこちらを見てきたので、急いで話題を変える。
「イヤー! そんな事あったかナァ!? あー! あんな所にエッグケッコーがいる?! ちょっともふってくる!」
「ステイ。せめてウミュールにしなさいよ」
明後日の方向を指さし、走って逃げようとしたが、みぃに襟首を掴まれた。ぐぇ……! 本当に、この喉が詰まる感じがリアルなんだよなぁ……!
「おぉ……喉が潰れるような音がしたけど大丈夫か? あと……手紙にも書いていたが……船、全部直してくれるって……本当に平気なのか?」
ロウガさんの申し訳なさそうな問いに、みぃは自信満々に頷く。
「任せて。スキルで全部、今日中に直せるわ」
その言葉に、ロウガさんとエルザさんは喜びで顔がほころぶ。
「二人に何から何まで解決してもらって感謝しても、しきれないくらいだ。こんな奇跡を起こしてくれたのは、諦めずに祈り続けたからかもな」
「こんな奇跡は水の魂に決まっているわ、これからはより感謝の意を込めて祈らないとバチが当たっちゃうわね」
「オレの家族も水の魂の奇跡だって喜んでて、前よりも熱心に祈りをあげるようになったぜ」
みんなが無事で本当によかったなぁ、でも何で海の魂じゃなくて水なんだろう?
とりあえず、うちは手伝える事がないため、みぃが船を直している間ロウガさんと約束していたポンバサー捕りに行く。
「じゃあ、俺たちは潮だまりに行ってくる。ムルク、みぃ嬢とかーちゃんをよろしくな!」
「おう、任せておけ」
ムルクさんは手を上げて応え、エルザさんはみぃの隣に立ち、少し困ったような顔でうちを見送ってくれた。
「本当は私も行きたいけれど……ここで他の船の持ち主に連絡を送るわ。行っても、魚が全部逃げるし。ポンバサーなんて、潮だまりから跳ねて逃げるのよ。でも、あの丸々ぽんぽこりんちゃん達の跳ねまわる姿もキュートなんだけど……やっぱしっかり目の前で普通に泳ぎ回るのを愛でたいわ」
みぃは少し苦笑して、エルザさんの肩を軽く叩いた。
「それはそれで才能よね。ルーイなんて鳥運が逆天元突破してるから大丈夫よ、エルザさんはあの子よりも魚運あるわ」
みぃはエルザさんと話ながら、インベントリから魔力ペンを取り出し、船の修理を始めようとした。
何か、サラリとディスられた気がするな?
まぁ、とりあえずポンバサー捕りに行こっと! そっとその場を離れようとした、その瞬間――。
「あ、ルーイ」
満面の笑みでこちらを振り返るみぃ。
「終わったら――」
にっこり笑って、でも目はまるで刃物みたいに細い。
「まだ聞いてない部分、ちゃんと全部聞かせてもらうから。ね?」
今回ばかりは、供物じゃ抑えきれないかも……。
今度こそ鳥葬かな……? でも、鳥に突かれて逝けるなら、それはそれで本望だよね!
* * *
さて、気を取り直して海岸にやってまいりました。ポンバサーを捕るための潮だまりは、大潮じゃなくても意外とあるんだなぁ。 案内された潮だまりの前で、うちはポンバサー捕り用の導具を受け取った。
「これって、どうやって使うの?」
「ただの網のように見えるが、こいつは特製の魔導具だ。網の所に蓋がついてるだろ? 一匹ずつ捕まえて蓋を閉めると、裏に刻まれた急速冷凍の紋章が発動して、ポンバサーを一瞬で凍らせるんだ」
ほぇー、すごい専用道具だね! 作った人の話を聞いてみると、口が悪く強面だが、凄腕の錬金導具師に作ってもらったらしい。何かグラウスさんみたいだね? そういえば、グラウスさんは船乗りに沈んだ神殿の話を聞いたと言っていたな?
「もしかして、グラウスって人だったりする?」
「ルーイ嬢知ってるのか! そうだ。認められた者にしか導具を作らないことで有名なグラウス殿に、無理を言って頼み込んだんだ。オレの理想を見事な形にしてくれた」
彼は導具を誇らしげに掲げる。蓋の裏に刻まれた、淡い青い光を放つ繊細な紋章は、以前マリーさんの眼鏡を直した時に見た、あの優しい紋章に似ていた。
「スキルを使った方が稼げるんだが、オレは学校に行かなかったから習得できなくてな。でも、この魔導具のおかげで、一家の大黒柱として漁師をやってこれたんだ」
その言葉に、うちは胸が熱くなる。スキルを持たない人たちのために、導具を作り続けるグラウスさんのすごさと優しさが心に染みた。彼の作った導具で、誰かの生活が支えられてる。なんか、胸がじんわりするなぁ。
よし、ポンバサーいっぱい捕って……お礼に届けに行こうっと!
「じゃあ、やってみるね」
導具を構えて上から覗き込むと、たくさんのポンバサーが重なるように水の中を泳いでいた。一匹だけで泳いでいるタイミングを見極めて網を入れると、捕獲が成功したようで、蓋を閉めるのと同時に文字エフェクトが跳ね上がって表示される。
《fish!》
《ポンバサー捕獲に成功しました》
「やった! 捕れた!」
「おぉ、見事だ! でもな、重なってるやつを狙うと……」
ロウガさんが、重なったポンバサーめがけて網を入れたその瞬間――。
《Boom!》
水しぶきを上げながら、ボンボンッという音と爆発エフェクトと共に、ポンバサーたちが次々とポップコーンのように弾けた。
「わわっ、全部爆発した!」
「そう、重なってるやつはこうなるんだ。でも、しばらく待つとまたどこからか戻ってくるから安心していい。水の魂が、恵みを分け与えてくれてるんだろうなぁ」
そう語るロウガさんから、弾け終わった潮だまりの中を見ると、【再出現タイマー:4m59s】の表示が浮かんでいた。システム的な出現は神からのお助けって認識なんだねぇ。
「なるほど……これは、慎重にやらないとね」
途中で何度か爆発させちゃったけど、コツを掴んだらホイホイ捕れるようになった。
数十匹のポンバサーを凍らせてインベントリにしまったところで、みぃから『終わったよ』って伝書バトが届いた。
こちらの爆発のカウントダウンが始まってしまった。手紙から地面に視線を落とすと、潮だまりの水面にはどこまでも清々しい青空が映っていた。
【みぃの爆発タイマー(体感):4m20s】
2026年も鳥もふを楽しんで頂けたら嬉しいです!今のところ、変わらずに毎週木曜日の夜更新となります!
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