番外編:年越しの鐘より近く
あと少しで年が明けますね!
今日のお話は百合>>>鳥>VRな感じになりますので、苦手な方は飛ばしても本編にそこまで影響を与える事はないです。
明日はいつも通りのお話の更新となります。
今日は十二月三十一日、年末だ。クリスマスもあったから日にちが過ぎるのが早かったなぁ。
毎年海外を飛び回っていたから、今年は一家団欒しているのが不思議な感じだ。といっても、我が家ではなく、澪の実家なんだけどね。何度も来たことはあるし、うちが幼い頃に両親を亡くして親族と暮らしていたことを知っていて、そんなうちを金守家は実の娘のように優しく受け入れてくれた。
鳥好きなのも知ってるから、うち専用の食器は鳥シリーズで揃えてくれている。今日のデザートの和菓子も鳥ちゃんだった。可愛くて食べられないけど、美味しく食べた……!
「にゃ~」
「んー? きなこさん抱っこは後でね」
足元に全身ですりついて甘えてくるのは、澪の実家で飼っているおばあちゃんネコ、茶ブチのきなこもち。なぜかいつも抱っこをせがまれて、おしゃぶりみたいに首に吸い付くんだよねぇ。澪によると、そんな事はうちにしかしないらしい。うちの首って美味しいの?
BGM代わりにつけているテレビでは、お昼から年末特番が垂れ流しになっている。
「あら、あの芸能人の方同性婚したのねぇ~。そういえば瑠衣ちゃんは澪と一緒に住まないのかしら? そうなったら連絡してね。お母さんいっぱいお祝い持っていくから」
「うむうむ。お父さん奮発してお寿司取っちゃうゾ」
「二人ともいきなり何言い出すの?! ほら、お茶いる人は挙手!」
その発言を聞いて双子の兄たちが手を上げてニヤニヤと澪を見ている。澪は顔を真っ赤にしてみんなのお茶のお替りを作りにキッチンへ行ってしまった。相変わらず仲良しな家族だなぁ、この暖かい感じがとても好き。
「あははは、一緒に住めたら楽しそうだよねぇ。でも澪に素敵な人が出来た時にうちがいたら邪魔になっちゃうのが心配で」
自分で言って想像したら、少しだけ胸がチクリとして、誤魔化すように冷めたお茶を飲んだ。しかし、みんな何かびっくりした顔しちゃったぞ。うち何かまずいこと言った……?
「で、でも、女の子一人よりか二人の方がお互い安心じゃないか?! 龍にぃもそう思うだろ?!」
「お、おう! 達也の言う通りだ! むしろ澪の貰い手なんて瑠……あだだだ!」
「龍にぃさん、何言おうとしたのかしら……?」
うわぁ……脇腹つねるのはやめてあげよ? 熱いお茶を持ったままだと危ないからこっちで預かっておこうかな。何だかんだ言って、お兄さんたちは澪のこと可愛がってるもんなぁ。大切な妹に安心して暮らしてほしいって気持ちはわかる。
一緒に暮らしてみたいと考えたことがないわけじゃない。でも、澪が将来誰かと幸せになるのは当然のこと。
澪の幸せを邪魔してはいけない。そう言い聞かせるように、胸元の三つ葉のクローバーのネックレスをそっと指で撫でた。
親友として傍にいるだけでいい。それ以上を望んじゃダメ。
双子と澪の賑やかな声を聞きながら、親戚の家では楽しい記憶がほとんどなかったことを思い出す。両親がいた時は、こういう風に暖かかったのかなと朧げな記憶を辿ると、心が緩んだ。
本当の家族ではないけど、家族のように楽しくて暖かい時間が過ぎていった。
「そういえば、龍也さんと達也さんは夕方から友達と会うって言ってなかった?」
うちはお昼の会話を思い出して二人に告げる。
「あ、やべ! 達也いくぞ! 瑠衣ちゃん、澪をよろしくな!」
「なんで、私がよろしくされるのよ!」
「おう。あ、澪」
部屋を出ようとしていた達也さんに何か耳元で言われて、澪は真っ赤になって「達にぃさんのバカ!」って叫んで背中を平手で殴っていた。スパーンってすごい音したけど、手形残りそうだね?
「瑠衣ちゃん……こいつをよろしぐふぅ……」
ものすごく悶絶しながらダイイングメッセージの様なセリフを残して出かけて行った。片付けを手伝い、あっという間にまた時間が過ぎていった。
「それじゃ、お母さん達は町内会の忘年会に行ってくるわね、きなこのことよろしく。澪も、瑠衣ちゃんもありがとう。あ、戸締り忘れちゃだめよ?」
「ありがとうな。きなこの薬は冷蔵庫にあるから。火の元も気を付けるんだぞ?」
「もう子供じゃないんだから……きなこのことは任せて楽しんできて」
きなこさんは、人間でいうと九十歳のおばあちゃんだからね、常備薬を飲む時間が決まっている。それで中々出かけられない両親に変わって今日はきなこさんの面倒を見ることになっている。
「家ときなこさんのことは任せて! 二人も寒いから温かくして、気を付けて楽しんできてね!」
両親を玄関で見送ると、うちの足元できなこさんが「にゃ~」と言いながらまた抱っこをせがんできた。
仕方ないので抱っこして首を吸われながら、双子の部屋にお菓子やお酒を持って行って、銀の羽メンバーとのVR忘年会の準備をする。
お兄さんたちが使っていたVRゲーミングチェアを使わせてもらえることになっているからだ。マッサージチェアみたいにリクライニングしたり、温度調整もできるらしい。
ぴよイン。
まずはギルドハウスに集合して、期間限定で出現しているお寺にみんなで早めの初詣に行く。
澪は人混みが苦手だし、人が少ないチャンネルに切り替えればいいなんて便利だねぇ。うちは器具を付けてからあまり人混みの中を歩けなくなったから、事故の前みたいにみんなで行けるのは嬉しい。
「みぃ、おみくじ引こうよ! 大吉こい!」
「鳥運がマイナスだから、噂の大大吉とかでそうね……」
「むしろ、鳥運が大大吉であってほしいんだが?!」
「せーの」でお互いの結果を見せると、二人とも中吉だった。内容も同じで『想いを寄せている相手に気持ちを伝えよう』と書かれていた。
……つまりシーちゃんですね! これからも全力で己の気持ちをぶつけていこうと思います!
ゲーム内で甘酒やお餅を食べた後は、三影さんが用意したバーチャルルームに入り直し、全員キャラアバターの姿で乾杯する。手に持っているお酒やお菓子もゴーグルを通しているのでアニメ調の見た目になっていた。いつものゲームの感覚とは違って、リアルの部屋の温かさや氷の入ったグラスを触ると指がかじかんで不思議だ。
ちなみに、きなこさんはアニメ調になってずっと抱きついた状態である。生体認識されているものはアバター設定をしていないと見えないので、みんなには表示されていない。
「きなこ、ずるい……うちのネコがずっとルーイに引っ付いてる」
「へぇ、みぃちゃんはネコ飼ってるんだな」
「あらあら、ルーイちゃんのことが大好きなのねぇ。最大のライバル現る、かしら。みぃちゃんも大変ね、うふふ」
「まりんさん?! き、きなこが温かいから羨ましいだけよ!」
三影さんはしっぽを揺らし、嬉しそうな表情をしている。ネコの獣人族だし、リアルでもネコ好きなんだろうなぁ。まりんさんは母性溢れる優しい目でみぃを見つめていた。そんなみぃはジト目でうちを見ている。
動物にもアバターがつけられると教えてもらったので、きなこさんにシーちゃんのアバターをつけてみたら思考がぶっ飛んだ。
ギャンカワ!! マイエンジェルシーちゃん! 頬ずりしようとしたら――足蹴にされた。見た目はシーちゃんの鳥足なのに、感触はきなこさんの肉球でぷにぷにだ。最高か。
「きなこ……!」
みぃ、そんなに睨まないで?! きなこさん抱っこする? いでで、引きはがそうとしたら首噛まれた! みぃに渡せそうにもないので、仕方なく抱っこし続けてきなこさんに首を吸われる。シーちゃんアバターなので、とりあえず最高ではある。だけど、みぃの視線が痛い。
しばらくみんなで談笑をし、澪は三缶目の酎ハイと水を飲んでいて、グラスの中がなくなりそうだ。うちの焼酎の割り用の水もないし、取ってくるついでにトイレもいこうかな。みんなに離席することを伝えてヘッドギアを取り外す。
飲み終わった缶とお菓子の袋をコンビニ袋に入れてまとめて持っていく。あれだけ離れなかったきなこさんは、寒い廊下が嫌だったようで飛び降りて澪の膝の上に行き丸まった。
ドアを閉めるとヒンヤリとした廊下の空気がうちの体を包み込む。自分の家ではない暗い廊下は、電気をつけてもどこか心細く感じる。
早く済ませて、澪のところにもどろう。
「うー寒い、寒い……ただい、澪?!」
ブルブルと震えながら部屋に入ると、澪がVRゴーグルを外して机に突っ伏していた。慌てて駆けつけて体を起こす。
「どうしたの?!」
「あれー、るいがふたりいるのなぁぜ?」
「酔っぱらってる……? とりあえず、水飲んで」
机を見ると部屋を出る前に満たしたうちのグラスが空っぽになっていた。水入れてないから、焼酎ストレートなんだけど……。自分の前にある水と間違えて飲んじゃったやつかな。
グラスを持つ手が少し弱弱しい。この調子じゃもう寝かせた方がよさそう、いきなりログアウトしたことにビックリしてるかもだし、水を飲ませてる間にサッと入って説明しにいくかな。
「あら、ルーイちゃんお帰りなさい。みぃちゃん大丈夫かしら? 何かいきなり突っ伏したと思ったら、ログアウトしちゃったから」
「ジョンが変な質問したのが悪いきの! 急にみぃちゃんが動揺しちゃったから、責任取ってこの新種のきのこを味見するきの!」
「俺ぇ?! いや、きのこの流れからみぃちゃんは一緒に山行ったりして鳥見たりせぇへんの? って聞いただけやん! けど、もっと罵って!」
「黙りなさいこの駄犬、毒きのこと一緒に餅も口にぶち込むわよ」
「やっぱ毒なん?!」
ゲーミングカラーの様に発光してるきのこを前に、ジョンさんの笑顔が引きつっているが、悦んでいるようにも見えた。でも、この会話の流れであの事故の日、一緒に行けなかったのを思い出しちゃったのかな。
うちの事故のことは言わずに、みぃが水と間違ってうちのお酒を飲み干してしまったこと。今夜はもう寝かせることを伝えてログアウトしてゴーグルを外すと、澪がうちの近くで少しふらつきながら立っていた。
「酔いはどう? 水もう少し飲んでから寝ようか?」
立ち上がろうとしたら、澪がうちの両肩を掴み顔を近づけてきた。いつもの白い肌がわずかに赤くなっている。吐息が感じられるほど近くて、心拍数が一気に跳ね上がる。
「澪さん? ど、どどおうしたの? 綺麗な顔が……近いよ?」
焦って噛んだ……。あと綺麗な顔が近いって何、もっと言い方があったでしょうに! 落ち着け、別に何かやましいことがあるわけじゃない。平常心、平常心……。気持ちを落ち着けていると、澪が不安げな顔でつぶやいた。
「るいは、わらしがもふもふのとりだったらよかった……?」
酔って呂律が上手く回ってないなぁ。でも、澪が鳥だったら……想像してみたが、ちょっとイケナイ方向にぶっ飛んでしまいそうだからダメ。うちが歯止め効かなくなるわ。鳥じゃなくても、澪相手だとちょっと理性を抑えるのが大変な時もあるっていうのに。
「うーん。澪が鳥だったら一緒に遊んだり、出かけたりできないから困るかな……」
「もふもふのとりにならなくても、いっしょりいてくれる? とおくにいかにゃい?」
不安げに首を傾げた拍子に、澪の首元からスルリと四つ葉のクローバーのシルバーネックレスが零れ落ちた。
まだ、心の奥で引っかかっているのかな。もふもふの鳥じゃなくても、一緒にいるし、遠くにもいかないよ。
「澪のままでいてほしい、心配しなくても近くにいるよ」
「ん……。よかった……」
そう言うと、彼女の表情がふにゃっと緩んで、うちの胸に頭を預けるように抱きついてきた。
こんなに酔ったのは初めてみたけど、甘えたになるのねぇ。何か、思わず頬が緩んでしまった。左腕を背中に回して、右手で髪をすくように撫でる。彼女のサラサラの髪が指の間を流れ落ちていく。
「っき……」
胸元から、かすれた声がする。
「ん? なんか言った?」
澪が熱で潤んだ目で見上げてきた。うっ……この表情はちょっと反則……。それに、さっきよりも顔が近い。遠くでゴーンと鐘が響いているが、心臓の方がうるさく聞こえる。
「す……」
「す?」
少し甘いジュースのような香りが吐息に交じっている。澪の瞳にうちが映っているのが見えて、思考が停止した。
「すぅ……k」
何かを言い残して、うちの首に顔をうずめる澪。数秒後、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。
寝たんかーい!
「はぁ……チューされるかと思った。酔うと甘えてキス魔になるタイプなのかな。まったく……うち以外の人に、こんな無防備な顔は見せないでほしいな」
言っちゃいけないって分かってるけど、こんな時しか言えないうちはずるいと思う。年越しの鐘よりも早く鳴る、自分の鼓動を感じて、スヤスヤと眠る澪をもう一度だけ少し強く抱きしめた。
少しだけクリスマス編と絡ませてあります。本編とは時系列が違うんですが、そこは温かい目で見守っていただけたら!
[読者の皆様]
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