57羽目:気分はトロピカル
本日の2羽目更新
グラウスさんとマルクスさんに別れを告げて、ブルンヴァルトを出発したうちらは、南へ向かって歩き始めた。目的地は、海に面した貿易都市――セレヴィア。
クリスタルでの転移は、うちが行った事ないため徒歩で向かうしかなく、みぃにはちょっと申し訳ない気持ちになった。
「みぃはクリスタルで行けるのに、いつも歩かせちゃってごめんね」
「こういうのも、ゲームでの楽しみ方の1つでしょ?海沿いのルートは私もあまり通ったことないし、ルーイの好きな鳥がいるかもよ?」
「海!鳥!いいね!なんか鳥センサーが反応してる気がする!」
「それセンサーじゃなくて願望でしょ……逆天元突破してるんだし、鳥運」
みぃがジト目で突っ込んでくる。
大丈夫だもん!逆側の宇宙を突破してても、きっと軌道に乗ってサテライトみたいに地球一周して戻ってくるもん!
鳥を探しながら進んでいく道中、ゴブリンやオークを倒しながら森の中を歩き続けて、どれくらい経っただろう。木々の様子が、少しずつ変わってきた。
最初は、いつもの深緑の葉を茂らせた木々だったのに、気づけば葉の色が鮮やかになり、枝の形もどこか広がりを持ってきた。ヤシのような葉を持つ木が混じり始め、空気が少し湿ってきた。
「みぃ、なんか森の雰囲気変わってきた?木がトロピカルになってきてる気がする」
「うん、あと少しで海岸に出られるよ」
耳を澄ますと、遠くから波の音が聞こえてきた。
ざざん……ざざん……と、規則的に打ち寄せる音。その音のする方へと歩いていき、木々の間を抜けると、視界がぱっと開けた。目の前に広がるのは、青く輝く海、そして白い砂浜。
「うわ……海だー!キレイー!」
「私も久々に見たけど、本当にキレイだね」
2人で波打ち際まで歩いていき、足を止める。やっぱ海と言えば、あれだよね!息を盛大に吸い込み、腹から声を出す。
「やっほぉぉぉぉぉ!!」
「それ、山でしょ?!」
「えー?じゃあ……海のばかやろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
潮風に叫びが溶けていく。みぃのジト目はまだそこにある。青春風の遊びを楽しんだところで、白い砂浜を歩きながら街に向かっていくと、花びらを頭につけたヒトデのようなモンスターが砂浜にいた。
というか、よく見るとヒトデというよりスターフルーツっぽい。正面から見ると星型だけど、横から見るとちょっと長い。しかも、砂に埋まってるどころか、ダックスフントみたいにてちてち歩いてる、そのモンスター名を確認する。
【トロピカロス】
うん。トロピカル感だけは伝わった。
「みぃ、あれって……ヒトデ?」
「あれねー……トロピカロスって、ああ見えて植物なのよね……」
やっぱりスターフルーツだった!
ちなみに、この海岸は昼間のモンスターは全部ノンアクティブなんだとか。
「トロピカロスは攻撃すると、あの頭の花から甘い香りの花粉を撒き散らすから吸っちゃダメよ。眠らされて、星の真ん中にある口で噛まれたら毒にやられて、そのままポリっちゃうから」
え、こわ。何そのエイリアンと毒性生物の捕食みたいな攻撃。見た目はデフォルメされた、かわいいヒトデ?なのに……。
「それにしてもビーチもすごいリアルだよね。砂の質感とか、このヤシの木とか、タイに行った時に見たやつくらい立派だもん。これ、実とか揺すったら落ちるかな?」
タイの国鳥でもある、シマハッカンを見に行ったけど、野生のには会えなかったよね!でもちゃんと飼育下のは見たよ!オスは頭頂部の羽毛が長く、顔は赤いのが特徴なんだけど、金網に引っ付いて暑い視線を送ってたら、シマさん(シマハッカンだから)が隅っこで震えてたなぁ……人慣れしてないから仕方ないよねぇ。
その事を思い出しながら、幹を揺すってみると、ヤシの実がぽろぽろと落ち始める。
その内の1つが、茂みの奥に落下した。
――ゴン。
「ん?なんか、石にぶつかったみたいな音しなかった?」
次の瞬間、茂みがガサガサと揺れ、そこから現れたのは、背中の甲羅にヤシの実をつけた、巨大なヤシガニ型モンスターだった。
「パームクラブ!ルーイ、あの実投げてくるから気を付けて!」
赤い闘牛マークも表示されていて、カニの目がぎょろりと光り、敵意を籠めてこちらを睨んでいる。
「えぇ、まさか実がぶつかって怒ってるの?もう1つ増えたってことでいいじゃん!」
盾を構えると、パームクラブはハサミを鳴らしながら、甲羅の実を1つ掴み、豪快に投げつけてきた。
「【シールドガード】!」
ガンッ!とデカい岩をぶつけられたような音がして、衝撃で踏ん張っていた足がわずかに砂に取られてぐらついた。
「剛速球だね?!ヤシの実って武器になりそうとか、タイで思ったことあったけどさぁ!」
パームクラブは、のしのしと前進しながら、再び実をぶん投げてきた。
「【シールドガード】!【急所突き】!……硬っ?!」
盾で攻撃を受け止め、一歩踏み込んでナイフを突き立てる。だが、甲羅にはじかれてしまった。
「カニだから!【ウィンドブレード】!硬くて倒すのに時間かかるんだよね!」
みぃがスクロールを広げて風魔法を放つと、鋭い風がパームクラブを切り裂き、しっかりとダメージが入った。
カニだから……じゃあの急所を狙えば効くかも?
また背中の実をもいで投げてきたが、目が慣れてきたので、今度は軽やかに回避する。
「【シールドバウンド】!【シールドチャージ】!」
砂浜に盾を叩きつけると、パームクラブが宙に浮き、その隙に下から盾ですくうように突き上げる。すると、カニらしくそのままひっくり返り、砂浜でジタバタと足をばたつかせた。ハサミを動かして起き上がろうとしているが、うまくいかないようだ。では、急所のフンドシをサクッと刺してみよー!
「【急所突き】!」
腹部のめくれる部分にナイフを突き立てると、パームクラブはポリゴンと化した。
《Lv29に到達しました》
《ヤシナッツの実を獲得しました》
やった、レベルアップ!……でも、ドロップ品がカニの身じゃなくて、ヤシの実ってどういうこと?というか、ヤシナッツって言うんだこれ。
「えぇ……?おめでとう?え、何それ……」
「カニの急所ってお腹の部分なんだよね。そしてさっきの子、オスだった」
「えぇ……??」
カニのオスは腹部が三角で、メスは丸いんだよね。
「とりあえず、一旦休憩にしよっか?」
ポカンとしているみぃの手を引き、うちらは少し離れた岩陰に腰を下ろした。波の音が静かに響き、穏やかな空気が流れている。
「パームクラブって、身ドロップするのかな?」
先ほどの疑問を口にしながら、うちはインベントリから、ルーナベリーマフィンを2つ取り出し、1つをみぃに手渡す。
「ありがとう。確か、掲示板で見た情報だけどカニカマが落ちたはず。硬くて倒すのに時間がかかるから、魔法職以外あまり狩らないのよね」
「カニから落ちるのがカニ風味かまぼこって、どういうことなの……?アイビーラビッツみたいに、カニよりも植物カテゴリーなの?いや、植物がカニカマ落とすのもどうかと思う」
みぃは苦笑しながらマフィンをかじる。うちはふと、さっき手に入ったヤシナッツの実を取り出して振ってみた。中から、ちゃぷちゃぷと水の音がする。
割ってみよっかな?ちょうどこの岩の隙間、使えそうだし。
ナイフを逆にし岩の隙間に挟み、上から力を加えて外皮を剥ぎ、3つのへこみに切っ先を突き立ててからひっくり返して抜くと……ジャジャーン穴が開きましたー!
「ヤシナッツの実ってそうやって開けるんだ……?」
「ココナッツと同じかなと思って。このやり方、タイで教わったんだ!どれどれ……ん!あっちで飲んだやつみたいにおいしい!でも後味にヘーゼルナッツみたいな味がする!はい、みぃも」
口に含むと、ほんのり甘い香りが鼻に抜け、舌の上でさらりと広がる。ちょっと青臭いが、最後に香ばしいヘーゼルナッツの風味がして、疲れた体には染みる味だった。念のため変な味がしないのを確認したので、みぃに渡して半分こする。
「……ぅん、おいしい……」
「ねー!……ん?なんかみぃ、茹でたカニみたいに顔赤いけど日焼けした?トロピカル感が増すね!」
みぃはマフィンをかじりながら、視線をそらして「……誰のせいよ」と小さく呟いた。そのエルフ耳も、ほんのり赤く染まっていた。
えぇ、うち何かした?ビーチ、日焼け、ヤシナッツで、南国気分になると思うんだけどなぁ?
スタンプ、ブクマ、★をポチっとしていただくと、今ならフレッシュヤシナッツジュースついてきます!




