48羽目:地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》③
何度も聞いたファンファーレが、頭上で高らかに鳴り響く。
《Lv28に到達しました》
「……うちも、ちょっとは成長できたのかな」
思わず口から洩れた言葉は、自分への喜びよりも、少しの不安が混じった気持ちだった。
みんなのように、堂々とタンクとして前に立てる日は来るんだろうか?スキルの範囲もよくわかっていないし……みんなが頼ってくれるのが、ちょっと怖いくらいだ。むしろ、うちなんて必要ないくらい頼もしい人たちの集まり――そう思っていたら。
「ルーイちゃん、レベルアップおめでとう。みぃちゃんも属性ありがとう。タンクがしっかりタゲを取ってくれるから、アタッカーや後衛火力が全力で挑める。ルーイちゃんはうちの頼もしい一員として、しっかり成長しているよ」
三影さんの言葉が、心の奥にすっと染み込んだ。ここにいていいんだと、そう思わせてくれる、優しい肯定だった。
「おめでとう~!そうよ。優秀なタンクがいると、パーティプレイの質がぐっと上がるって言うし。ルーイちゃんは、うちの誇れるタンクね」
まりんさんも微笑みながら言葉を続けるのを見て、ジョンさんときの子さんも、うんうんと頷いてくれている。
「まぁまぁ、やるじゃないの。でもね、そのレベルで調子に乗るとすぐポリるから、そこは気をつけることね!みぃと2人して、早く私たちのレベルに追いつくこと!嫌になるほど、あちこち連れまわすから覚悟なさい!」
ツバキ先輩のツンデレスタイルの祝福に、思わず笑みがこぼれる。
「へへっ。みんな、ありがとう」
初心者だから、まだ役に立ててない気がしていた。でも、こんなふうに言ってもらえると、少しだけ自分を信じてみたくなった。
その様子を見ていたみぃが、ぽつりと、こちらにしか聞こえないように呟いた。
「笑い方がキモくない……だと……?」
おいこら。どの笑い方もキモくないわい!
心の中でみぃにツッコミを入れつつ、みんなの笑顔に包まれて、ちょっとだけ胸が熱くなる。
その熱い気持ちをエネルギーにして進んでいくと、アリの巣のように入り組んだ岩穴地帯を抜け、地下へと続く土の階段が現れた。
階段を降りて地下2階へと足を踏み入れると、先ほどよりも熱い空気が肌を刺すように鋭くなり、足元の岩盤からはマグマのじわじわとした熱が伝わってくる。
赤黒く染まった巨大空間には、天井から溶岩が滝のように流れ落ち、地面には火山岩が無造作に転がっていた。
「……ここが地下2階。さっきよりも熱いけど、熱くない……?」
自分でも意味不明なことを言ってる気がする。
BBQの炭火に手をかざしてるときみたいな、熱いけど、耐えられる不思議な感覚。
「うぇ~、見てるだけで焼ききの子になっちゃうきのぉ~……」
天井から勢いよく流れる溶岩を見て、きの子さんが顔をしかめながら、手をパタパタと仰いだ。
「足元、気ぃつけてなぁ!割れ目から溢れるマグマ踏むと、火傷してスリップダメ受けるで」
「この駄犬は意気揚々と踏みに行ってたけどね……」
「いや!あれはやなぁ!ツバキの【鈴火の舞】の異常状態軽減の検証をしとっただけや!決して悦んで踏みにいったわけではないんや!」
前回ダンジョンに潜ったメンバーのジト目加減を見る限り、ジョンさんは誰がどう見ても、悦びながらマグマを踏んで火傷しにいったのだろうなぁ。
さっきみたいに継続ダメージが入っている状態で、敵にトドメを刺されるのは避けたいから、割れ目はちゃんと避けて歩こう。
この階層は、道を選べばほとんどのモンスターがノンアクティブらしいので、そこまで神経質になる必要はないのかもしれないけれども。
それでも、念には念を入れて慎重に歩を進めると、目の前にマグマの川が現れた。その熱気立ち込める川の中に、どこか涼しげな顔で、ぽよんぽよんと跳ねるモンスターの姿があった。
【マグトード】
トード……ってことは、ヒキガエル?でも、見た目はまん丸に膨れ上がったフグのようだ。足はどこにあるのかと思えば、跳ねるたびにマグマの中から、小さな足ヒレがちらりと見える。体と違ってあんよ、小さいねぇ!
「マァグ、マァァグ」
泣き声は、ウシガエルのような低い声で、マグマグ言っている。マグマだから?
「あれもノンアクティブだから、放っておけばいいわ。下手に刺激すると、口からマグマの粘液が飛び出るわよ」
ツバキ先輩がそう告げた、そのときだった。
――ズゥン……!
地鳴りのような音が響き、地面がわずかに揺れた。
続いて、奥の溶岩の中から、何かがゆっくりと立ち上がると、マグトード達は一斉にぽよんぽよんと跳ねながら川から逃げていった。
溶岩の中から現れたのは、全身が黒い火山岩でできた2メートルもある巨人だった。肩や腕からは溶岩が滴り落ち、胸の中心に赤い光が脈打っている。
【★ラヴァゴーレム】
「えぇ、中ボス!?」
オークリーダーみたいな中ボスはここにも出てくるの……!?いや、ダンジョンだからいない方が変?
「ゴーレムは胸にある石を壊せば大丈夫。それ以外の部分が壊れると徐々に暴走し始めるから、石の破壊が一番いいよ」
みぃが冷静にアドバイスを投げかけてくれる。
「ゴーレムは腕を振り回す攻撃しかないから、タンクだからって全部受け止める必要はないぞ。避けられそうなら避けた方がいい」
三影さんの助言に頷き、うちは盾を構える。
「いくよ!【即席転写・水】!」
みぃがスキルを唱えると、ジョンさんの武器に吸い込まれて、水滴の紋章が、淡い青い光となってマラカスを包む。
「【鈴火の舞】!」
ツバキ先輩がシャンと鈴を鳴らしながら舞うと、全員の足元から火の粉が舞い上がり、粒子となって体に溶け込んだ。これで火傷は軽減されるね!
「べろべろばー!【挑発】」
うちがあっかんべーをすると、それに応えるようにラヴァゴーレムがゆっくりと腕を振り上げたので、全員が一斉に散開した。ゴーレムの腕が振り下ろされると、地面が砕け、岩が飛び散った。
「【シャドウステップ】」
三影さんが地面を滑るように走り、ゴーレムの背後に回り込む。彼の剣が青く輝き、ゴーレムの背中に一閃を加えるが、火山岩の装甲は硬く、傷は浅い。しかし、その攻撃はダメージを狙ったのではなく、ゴーレムの注意を後ろに逸らすためのものだった。
その隙を逃さず、ジョンさんがマラカスを構えて、正面から突撃する。
「うおおおおお!【音律連撃】!」
水属性のエンチャントが施された打楽器が、ゴーレムの胸に向かって振り下ろされると、青い光が赤い脈動にぶつかり、焼石に水をかけたかのように蒸気がジュッと弾けた。
「【ウォーターボール】きのぉ!」
さらに、きの子さんが放った水の玉がゴーレムの胸元に命中すると、さらに激しい水蒸気が立ち上がる。水蒸気で視界がぼやける中、衝撃によって後方に図体が傾いているのを、うちは見逃さなかった。
「すっ転べ!【シールドバウンド】!」
地面に勢いよく盾を叩きつけると、振動が広がり、その巨体の足元が地から浮き、一瞬の空中停止。
「ナイスや!もう一撃!」
ジョンさんが叫び、全身の力を込めて、空中で成すすべもないゴーレムの胸に向かってマラカスを振り下ろす。
――ガァン!
ゴーレムの胸のコアにヒビが走り、前方からの衝撃によりバランスを崩した巨体が、ぐらりと揺れ後方へと体勢が傾く。
「トドメだ【ダブルアタック】!」
三影さんの双剣が2度、胸のコアを突いてダメージを加えると、ヒビは徐々に大きく広がり、パリン――と音を立てて砕け散った。
赤く脈打っていたコアが砕け散ったことにより、ラヴァゴーレムの巨体はポリゴンとなった。
「ナイスきのー!ゴーレム系はコア壊さないで倒すと最後に爆発するから、爆風で焼ききの子にならずに済んでよかったきのぉ~」
きの子さんが安堵のため息をつく。
焼きキノコもいいけど、焼肉もいいなぁ。でも、マグマだと高温すぎちゃうかな?
そんな他愛もないことを考えながら、いつの間にか「マァグ……マァァグ」と鳴きながら戻ってきていたマグトードを横目に、次の階層へと歩みを進めていった。
【きの子のマッシュルーム豆知識】
きの子:「中華料理によく使われるキクラゲの旬はいつか知ってるきの?秋だと思ったキミ!残念きのぉー!なんとキクラゲの旬は夏きの!へぇ~と思ったらスタンプ、ブクマ、★をポチっと押してきの~!もう知ってるよ!って人はコメントを残してくれたら、きの子が喜ぶきの~!」




