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♯2 森の影

草むらが再び揺れた――次の瞬間、何かが飛び出してきた。その姿は、森の中に潜む何かを思わせるものだった。鋭い牙を持ち、昆虫の脚のような異質な足を備えた生物が目の前を掠めるようにして動き回る。その動きは獣のような力強さと、昆虫特有の不気味な速さを併せ持っていた。


その生物が地面を抉るようにして迫ってくる。反射的に後ずさりした僕の額を冷たい汗が伝う。


「大丈夫ですよ。これはこの辺りでよく見る生物です」

アヤの声はどこまでも落ち着いている。


アヤは剣を軽々と構えると、その刃を鋭く振るった。一瞬、その生物が動きを止め、地面に倒れ込む。その一連の動作には、慣れた動きがあった。それは、余計な力も迷いも感じさせない、流れるような動作だった。生命が倒れる音が土に吸い込まれるように響き、森は再び静寂に包まれた。


僕はその場に立ち尽くし、アヤの冷静さと剣技に息を呑んだ。


「これくらいなら問題ないですよ」

アヤは軽く微笑みながら剣を収めた。その仕草には自然な落ち着きがあり、彼女がこの世界でこうしたことへの対処に慣れていることを感じさせた。


倒れた生物の足元には、また模様が刻まれているのが目に留まった。螺旋状の模様に、古代文字のような歪んだ線――。

模様に視線を落としながら、頭の奥に浮かぶ小さな疑念を振り払おうとする。この模様と生物。――何か関係があるのだろうか。それとも、ただの偶然か。


「行きましょう。この森では立ち止まるのはあまり良くないです」

アヤは少し離れた場所から振り返り、静かに促した。その表情には穏やかさとわずかな警戒が交錯しているようだった。


森を進むうちに、視界が少しずつ広がり始めた。濃い緑の幕が徐々に開け、太陽の光が木々の間から差し込む。


「ここを抜ければ、迷いの森の外に出られます。」

アヤがそう言ったその時――突如として風が吹き抜けた。その風は冷たく、異常に鋭い音を伴っていた。木々がざわめき、不気味な音が遠くから響き渡る。それは高く鳴るかと思えば、低く唸るような音に変わり、不自然な不協和音を形作っていた。


僕は思わず足を止める。その音は、一瞬だけ何かが囁くように聞こえたが、次の瞬間には消え去った。


森を抜けた先に何があるのだろうか――その答えを知るには、もう少し歩を進める必要があるのだろう。

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