第5話 結成
無事に面接とテストが終わったあと、屋上に出た。
結果はすぐに分かるから社内で待機するように、と永嶋司令からの命令。
疲れた……。
バイオ適合テストは問題なかったみたい。
コンタクトレンズみたいな薄い膜、赤いカラコンを右目につけると、突然文字が出てきてびっくりした。
訳の分からない数字ばかりで、私も他の2人も棒立ち。
コードネーム「ブリッツ」って、もしかして私の名前ってことかな、先生が前に言っていた。
「いたいた」
遅れて屋上にやってきたのは、スポーツが得意な子。
「いないから探したんだ。あのカラコンなに? あんな薄いのにグラフとか数字とかたくさん出るじゃん」
「うん、びっくりした……あの、体力テストのとき、助けてくれてありがとう」
「気にしない気にしない! てか君1時間の持久走ですっごく頑張ってた。なんかさ、自分が恥ずかしくなっちゃった」
「恥ずかしい?」
たくさん私を追い抜いていたのに、意味、分かんないな。
隣に並んで、柵に手を置く。
「あー嫌味で言ったわけじゃないよ。私3歳からスポーツに触れてたから、1時間走り回るぐらい平気でさ」
「うん」
「なんていうのかな、ごめん言葉にしづらいや。とにかく、全力出そうとしない私、恥ずかしいぞって思ったの!」
擽られたみたいに微笑む彼女の横顔を見ても、共感できない。
体力テストが余裕だったのは、きっと彼女がここに至るまでしてきた努力の結果だと思う。
あんまり深く考えない方がいいかも、お互い素性を話せないんだからやめよう。
もう一度都内を見渡せば、今も黒い煙が舞う都内。
人かロボットかも分からない残骸が散らばるなかで、パトカーも救急車も役に立たない。偉い人は何をしているんだろう。
「あの暴走があった日、全国予選の都大会があったんだよ。ほらあそこが競技場」
突然身を乗り出す勢いで、遠くを指す。
「競技場?」
どこを見ても黒焦げと灰色の景色ばかりで、競技場がどこか分からない。
「決勝戦の最中、暴走で……みんな殺されたんだと思う、多分」
「そう、なんだ。競技場にいたの?」
「いやそれがさ、迷ってたら暴走が起きて、なんとも」
柵から離れると、今度は私を引っ張る。
「え、えっ」
「風は気持ちいいけど、焦げ臭いし、気持ち悪いし、なんかぐちゃぐちゃになりそうだから中行こうよ」
にやりと悪戯っぽい笑顔で引っ張られ、強制的に戻ることになった。
扉を閉めると、どこからか弾く音が聴こえてきた。
アコースティックギターっていうのかな、弾き語りみたいな、優しい音がする。
「誰が弾いてんだろ。もしかしてあの面接官?」
なんか想像できないかも。
永嶋司令、少し不器用そうだし……。
階を降りていくにつれて、音が近くなる。
廊下のベンチで、黒いギターケースと学生カバン。
「え、マジ」
隣から漏れる感想。
長くて艶やかな黒髪に凛とした横顔でギターを爪弾く姿。
指先が軟体動物みたいで、心臓を締め付けるぐらい綺麗な音色を鳴らし続ける。
階段の途中で立ち止まった私と隣。
一通り弾き終えて、無音になった瞬間、隣は空っぽになった。
瞬間移動? 気づいたらもうベンチにまで移動している。
「すっご!!」
「なっ!?」
前のめりになってギターと顔を交互に見続けている。
「ごめんなさい、その、綺麗な音が聴こえたから……」
「褒めていただけるのは有難いですけど、これぐらい普通です」
「いや普通じゃないし、できて当然とかありえないから。体力テストでも見直したけど、もっともっと見直した! マジで親に自慢したい!」
「なんで貴女が自慢する側なんですか、はぁ」
嫌そうでは、ないかな。
「あ、あの、さっきは転びそうになったところ助けてくれてありがとう」
「別に、先に手を差し伸べたのはそっちです。私は遅れて、何もしていません」
「人の感謝は素直に受け止めなよー」
「貴女は謙遜というのを覚えなさい」
険悪な雰囲気にならなくて良かった。
あとはテストの結果、どうだろう、私が一番危ないのかな、真っ先に志願しといて落ちたら最悪だよ。
「おーい志願兵たち、結果を知らせるからミーティング室に集まりなさい」
医務担当の先生が呼びかけをする。
自然と駆け足になった。
ミーティング室の扉を開けると、永嶋司令がいつもの真っ直ぐに見つめる瞳で私たちを捉える。
「よし集まったな。面接、体力テスト、バイオ適合テストの結果だが、まずバイオ適合テストに関しては3人とも問題なし。面接も同じく問題なし。体力テストは少し危うい部分もあったが……これからの訓練でなんとでもなる、と判断した。よって3人とも合格とする」
呆気ないほどすらすらと流れていく合格発表。
安心感が体中を走り、力が抜ける。
「任務までに猶予はあるが、いつになるか分からない、明日か、もしくは1週間後、1か月後、それまでにできることをするぞ。君達は戦いの素人だ、過酷な訓練と新しい知識を埋め込んでいく。ガードテクノロジー社APR殲滅チームの部隊として、これからお互いのことをコードネームで呼び合うように」
永嶋司令から与えられたコードネームは、あの赤いレンズ『Aeye』にも出てきた名前『ブリッツ』だ。
スポーツが得意なあの子は『ナハト』ギターが上手なあの子は『シャッテン』
なんだか日本人とは違う名前だから擽ったいし、映画に出てくるスパイみたい。
不謹慎だけど……これから先、探しているものを見つけられる気がして、胸が高鳴った――。




