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残骸都市と夢の在処  作者: 空き缶文学
第1部 APR殲滅チーム結成
3/29

第2話 志願

 海に近い場所に3階建てのビル。

 大きな看板には『ガードテクノロジー』と会社名、それから屈強な人達が笑顔な写真。

 突然のことに頭がまだ追いつけないでいる。

 買い物に来ただけなのに、あんなことが起きるなんて今まで一度も考えたことがなかった――。


「少し動揺しているのと擦り傷がまぁまぁ。聴力、視力、意思疎通に問題なし。これなら一旦家に、と言いたいところだけど、永嶋さんよ」

「はい」

「東セキュリティ会社から発表もなければ、警察や消防も事態が呑み込めずにいる。医療施設もボロボロ、諸悪のAPRがまだ彷徨ってるのに彼女を帰すのはかなり危険だな」


 専属のお医者さん、かな。白衣を着た先生。

 スキンヘッドで顎先から伸びている髭が白い。

 先生の言う通りかも、家に帰ったところで誰もいないし……安全じゃない。

 暴走するなんて、まだ信じられない。

 ちょっとだけ愛着湧いてたのに、ショック。


「君はどうしたい?」

「え……私、ですか」

「あぁ、君の意見を尊重したい。部下の情報だと、APRは警備エリアから外には出られないという話だ。暴走に対処する猶予はある。外に避難できる時間も」


 どうしたい、と訊かれても困る。


「あの、これから街はどうなるんですか?」

「まずはAPRを調査して、すぐに対処できるチームを立ち上げる。我々ガードテクノロジーはただの民間企業だが、同じ民間人を守る義務がある。質問は以上か?」


 怖いくらい真っ直ぐ永嶋さんの目つきから顔を逸らしてしまう。


「永嶋さんよ、相手は同僚じゃないんだから優しくしないと、まだ学生さんだ」

「あ、す、すまない、少しピリピリしていて、そうだな、家に戻るのは危険だと思う。君が良ければここで待機して、安全が確保できたら、君を避難できる場所まで送る。どう、だろう」


 帽子の鍔をつまんだゴツゴツした指先、永嶋さんの眼差しは少し弱まる。


「あ、いえ……あの……はい」


 怖がってしまったせいで永嶋さんを困らせてしまった。

 助けてくれた人に随分だ、私。


「屋上から外を見てもいいですか?」


 永嶋さんに許可をもらって、3階ビルの屋上から都内を見た。


 一面真っ黒。


 高層ビルが抉れ欠けて、脇腹に穴が開いた様。

 いつ傾いてもおかしくない。

 黒煙があちこちに立ち上がって、パトカーがひっくり返り、消防車が水を漏らしている。

 人なのかロボットなのか分からない残骸。

 悲惨な状況なのに水色の空だけがハッキリと、爽やかに映える。


「たかがセキュリティ会社のAPRと思っていたら、この有様だ。何故、暴走してしまったのか」


 永嶋さんの声が近づく。


「凶暴な警備ロボットを開発した東セキュリティ本社は今やあの状態だ」


 指した方向、都内中央に激しく黒煙が舞い上がっている高層ビルがあった。

 今も燃え続け、破裂音と一緒にビルの中から残骸物が噴き出す。


「君の家は、どこに?」

「えと、多分、あっちです」


 ガードテクノロジー社から真っ直ぐを指す。

 美術博物館から5分ほどの距離、辺りも半壊していて、どれがマンションだったかも分からない。

 スマホはマンションに眠ったまま、壊れているかも。


「すまない」

「えぇと、大丈夫です」


 どうせ空っぽだったんだから、無くても問題ない。


「だが安心してくれ、落ち着き次第君を避難先まで安全に送ろう」

「避難する場所って?」

「九州か北海、どちらもここから遠く離れた場所だ」


 避難先に逃げたって何も変わらない。

 私、不謹慎だな。

 だって、こんなにも荒れ果てた都内を見ても、心が痛くならないんだ。

 むしろ、何か新しいものが見つかるんじゃないかって期待している。

 柵を握り締めた私は、悲しそうな横顔の永嶋さんに切り出す。


「あの、永嶋さん。チームを立ち上げるんですよね? ロボットの」

「あぁ、ガードテクノロジー社APR殲滅チーム、アタックとサポートを集める。民間人のためにな」

「私も戦いたいです」


 永嶋さんは驚いているけど、すぐに冷静さを保った目つきで私を見下ろす。


「理由は?」

「私、ずっと探しているものがあって、チームに入って行動を起こせばきっと見つかるんじゃないかと」

「命を奪われる危険が常にある、状況によっては奪う可能性もある。それでも加わりたいのか」

「……怖いけど、何も見つからないまま生きるのはもっと嫌です。どうかお願いします!」 

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