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第十三膳 唐揚げ

「どうして、どうしてでしょうか……」


 私、高梨鈴音は悩んでいました。


「どうしてあんなこと言っちゃったんでしょうか!?」


 あんなこと、とは先ほどあ、梓人くんにお願いした名前呼びのことです。どうしてあんなお願いしちゃったんですか、私は。


「お昼、北宮さんが梓人くんのことを名前呼びしてるのを見てモヤモヤして、良いなーって思って……」


 それじゃあまるで嫉妬じゃ無いですか!? 


 どうしましょう、別に付き合ってる訳でもないのに、私、変に思われて無いでしょうか……


 でも実際、梓人くんと会ってからの私は変です。


 お腹が空いて倒れてたところを助けてもらって、あの時はなんとも無かったのに、いつからか、私はすっかり梓人くんの家に入り浸るようになって、元々夕飯を頂くだけのつもりが、ご飯の後も、一緒に勉強したり、一緒にテレビを見たりして過ごしてしまいます。


「……私は、一体どうしちゃったんでしょうか?」


 私は手元にあるクジラの頭をポムポムしながらソファーに横になりました。


 ふと、鼻腔をくすぐるいい匂いがしました。この匂いは……


「から揚げですか?」

「バレたか。そうだ。この間から揚げが好きだって聞いたからな。学年一位のご褒美ついでに作ろうと思って」

「わぁ……」


 衣を付けた鶏肉が、梓人くんの握るフライパンの上でジューと音を立てて踊っています。


 すると、梓人くんは、まだ焼き色が足りないうちに鶏肉を取り出しました。不思議に思って、質問します。


「梓人くん、もう油から出しちゃうんですか? まだ揚げ足りないと思うんですが……」

「二度揚げするんだよ。外はカリカリ中はジューシーに仕上げるためにな」

「へぇー」


 その言葉通り、より高温にした油に鶏肉を再び入れていました。鶏肉が揚がる匂いとジュー、という音。


 五感が私の食欲を刺激してたまりません。う〜、早く食べたい!


「梓人くん、私にも手伝えることはありませんか!?」

「うぉ、なんかいつもより意欲的だな。じゃあ炊飯器からご飯よそってくれるか?」

「はい! ……ちょっと多めに盛っても良いですか?」

「ははは、いいよ」


 私は鼻と耳でから揚げの存在を感じながら、はやる手で二人分のお椀にご飯をつぐのでした。


 このご飯、もう一回分くらい盛れませんかね?



 途中でバレてしまったが、今夜はから揚げである。好きだと聞いているからな。


 俺はから揚げを大皿へ移し、刻みキャベツと半切りのレモンを添えて、食卓に送り出す。


 から揚げ定食の出来上がりだ。


 こんがり綺麗なきつね色に揚げられた。我ながら上手くできたと思う。


「わぁ、美味しそうです……!」

「てかご飯のボリューム感すごいな」

「あはは、恥ずかしいです……」


 もし鈴音に尻尾があれば、ぶんぶん振っていそうだ。それくらい目が輝いていた。


 前から思っていたが、鈴音ってちょっと犬っぽいよな。なんというか、餌付けしている気分になる。


「早速食べましょう!」

「だな」


「「いただきます」」


 俺も鈴音も、最初に取るのはもちろんから揚げ。質素な和食の中で異様な存在感を見せている。


 箸で一つ取ってかじる。


「う〜ん! 美味しいです!」

「だな。まさに外カリカリ中ジューシーって感じ」


 さらにご飯と一緒にかきこめば……


「ん〜! 最高ですぅ〜」


 幸せそうな顔をさらにとろけさせてえへへ、とはにかむ鈴音。


 ドキッとすると同時に、何というか、無防備すぎる、と思う。家に泊まることになった時もそうだが、このあどけない表情を、まさか自分が見ることになるとは思わなかった。


「梓人くん梓人くん」

「ん?」

「このから揚げ、やっぱり“幸せの味”がします〜!」

「そうか。幸せそうで何よりだ。あ、てかから揚げばっか食べてないで、キャベツも食えよ?」

「む、私前から思ってたことがあるんですけど」

「うん」

「梓人くんってお母さんみたいですよね」

「うっ」


 心当たりはある。鈴音には幾度か小言を言ってしまっているのだ。めんどくさい男とか思われてたらどうしよう……


「あ、ごめんなさい。お母さんみたいで優しい、って言いたかったんです」

「優しい?」

「はい。私はお母さんと一緒にいた時間は短いですが、梓人くんと一緒でよくお節介焼いてくれる人だったのを覚えてます。料理上手なのも似てます」


 もしかすると、鈴音があまり体験してこなかった、家族の温もり、的なものをここで感じているのかも知れない。


 俺も、少し妹みたいに思っているところは無いわけではない。いや、妹にドキッとするのはどうなんだ。


「俺からひとつだけ言いたい」

「どうしました?」


「これからも、うちに料理を食べに来てくれ」

「はい! もちろんです。むしろこっちからお邪魔したいくらいですよ」


 そのあと、俺たちはから揚げを食べながら語り合った。


 テストのことはもちろん、俺の姉の話や、鈴音のお母さんの話。


 全て楽しそうに聞いて話してくれている鈴音に、俺もつい頬が緩んでします。


 ”幸せの味“の意味が、少し分かった気がした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 緩んでします。 誤字ってるよ弱者。
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