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第一膳 腹ペコな天使

ラブコメ投稿は初です。よろしくお願いします。

「おはようー、高梨さん」

「はい、おはようございます」


 俺の所属する1年2組には、『天使』と称される少女がいた。


 その名を高梨鈴音。


 金糸と見紛うほど滑らかな茶髪に琥珀色の瞳は見る者を魅了する。


 乳白色の肌は未だ穢れを知らず、人形のような整った容姿で無垢な笑みを見せ、今日も男女問わず生徒に囲まれている。


 その渦中にいる澄ました顔の少女には、俺だけが知っている裏面を隠している。


 あの顔は恐らく……


 (お腹空きました……)


 の顔だ。



 俺、篠宮梓人が彼女と出会ったのは完全に偶然だ。


 我が家はマンションであり、一人暮らしする人たちが多く入居している。が、まさかその中に『天使様』がいるとは思いもしなかった。



 今朝は雨の予報で、降り出す前に、といつもより早く家を出たときのこと。


「……死んでる」


 なんと家の前に人が倒れていた。


 しかも手足を真っ直ぐ伸ばして、背筋をピンと張って倒れていた。何とも行儀のいい倒れ方である。


 死んでる、というのは流石に比喩表現だが、倒れているからには何かあったに違いない。というか金糸にも似たこの茶髪、どこかで見覚えが……


 俺はためらいがちに声をかけた。


「えっと、大丈夫か……?」


 すると、返事の代わりにぐぅ〜、と可愛らしい音が返ってきた。


 少女は言う。


「お腹空きました……」


 なるほど、腹減ってるのか。幸いここは我が家の目の前。


 俺は一度家に引き返して、適当に近くにあったパンを引っ掴む。


「ほら、パンやるから食え。ドアの前で倒れられると俺が出られない」

「はっ、コレはメロンパンの匂いです! 貰っても良いんですか?」

「あぁ。はよ食ってそこを退いてくれ」

「えっ、あっ、すみません」


 少女はむくりと起き上がり、小動物のように小さな口でメロンパンを食べていた。でもめっちゃ早い。パクパクやんけ。


(なーんか見覚えあるんだよなぁ……?)


 俺は既視感の正体を掴めぬまま、彼女が食べ終わるのを待っていた。


「ふぅ、ごちそうさまでした」

「すげぇ、粉ひとつ落とさず食ってやがる……」


 メロンパンは食べているうちに砂糖やら剥がれた皮やらが落ちる。チョイスしたのは自分なので後で掃除しよう……と思っていたら、まさか綺麗さっぱり砂糖の欠片一つも落とさず食うとは。


「お恥ずかしい所をお見せしました。これ、メロンパンのお代です」

「別に良いよ、安っすいパンだし」

「そういう訳には行きません、貰ったら返す。当然でしょう?」


 その絶対譲りません、という目を見て思い出した。うちのクラスに一人心当たりがある。


「もしかして、天使様?」

「うっ、その呼び方はやめてください……」


 他称天使様の少女、高梨鈴音だ。思い出した。クラスメイトになって短いが、義理堅い少女だと記憶している。


「とにかくこれ! 受け取ってください。私も学校に行かなければならないので」

「あ、あぁ。ありがとう」


 俺は渡された硬貨を握りしめ、呆気に取られたまま高梨さんの背を見送った。


「あ、俺も学校」


 気付いた頃には、雫が道路を濡らし始めていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1話目今更ながら読ませて頂きました! こういう青春ってやっぱりいいですよねぇ^^ 自分もこういう青春に憧れてた時期ありました! これから最新話まで全部読ませていただくつもりです! 毎日投稿…
2023/03/11 23:29 イウキャサュンキン
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