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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第2章 バハラと追憶と彼方

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第84話 膝枕


唸り声が聞こえる


低く低く 唸り声が続く


まるで猫が威嚇して居る様だ



軍医殿と顔を見合せた。


耳垢栓塞(じこうせんそく)ですか?」


「耳垢が溜まり、耳の中で垢が詰まりカチカチに固まって、蓋と言うか、耳の中を塞いでる状態と言うべきですね、多分耳の穴にびっしり詰まってるんじゃ無いかな?」


「耳垢ですか? 頭痛は耳垢が原因で、心臓の痛みは耳と頭痛の連動による痛みで、心臓への負担による痛みと言った所かな? 成る程、そう考えるとこの御老人の症状の理由として説明出来ますね」


「何と言うか、30年は流石に溜め過ぎだが、何年も耳掃除せず放置して居ると、たまにこうなる奴が居るんだ、何人か知ってますよ」


前世で欧米人は耳かきをしないと聞いた時は、ビックリしたが、それが普通と聞いた時は更に驚いたもんだ。


帝国では耳掃除、耳かきは普通にする。


まぁ帝国ではしない奴の方が少ないんだがな。


てか30年は溜めすぎだろ‥‥


完全に耳が塞がってるじゃないか。


気持ち悪いな、嫌な物見てしまったわ。


とは言えソレを今から処理‥‥

処置しなければならない、嫌だなぁ‥‥


「おいじいさん、今から清浄魔法を掛ける、それで綺麗になるはずだ」


「守長、頼む‥‥」


うん、俺が頼むよ、何でこんな汚い耳に触らなければならないんだろうか?


ハァ‥‥


仕方無い、さっさと終わらそう。


魔力を強めに込めて‥‥


「はっ? いやいやいや、はぁ?」


おいおいちょっと待て、何で汚れが取れない?


てか汚れが落ちたからか色は薄くなった。


だが塞栓が取れて無いぞ、何でだ?


もう一回、魔力を思いっきり込めて、それ!


「おいふざけんな! かなり魔力を込めたのに何で取れない?」


「サリバン卿、宜しいでしょうか?」


「先生どうしました?」


「その御老人ですが、30年程、耳掃除をして居なかったとの事ですが、皮膚と癒着してしまってるのでは?」


「・・・」


有り得るのか?


まぁ耳糞なんてのは皮膚の分泌物と埃とかだが、俺の魔法では皮膚と汚れの判断が付かなかったのか?


待てや、そんな事あるか?


うん、あるから取れないんだろうな。


実際 黒かったのが白っぽくなってる、てかコレ耳掻き使って耳掃除しないといけない系か?


クソが!


うん、アリーばあ様にやって貰おう。


「おいブライアン、マシューじいさんをあの長椅子に運ぶぞ、おーい、若い衆はこっちに来い、じいさんを運ぶぞ! それとテッサばあさんは耳掻きとピンセットを家から持って来るんだ、後はオリーブオイルをコップに少し入れて持って来てくれ」


「守長、家にピンセットは無いんだけど‥‥」


「はっ? 何でだよ? おいばあさん、まさか耳掻きも無いとかじゃ無いだろうな?」


「耳掻きはあるよ、アタシが使ってるやつを持って来るよ」


マジかよ、ピンセット無いのか?


まぁピンセットも高いからなぁ‥‥


どうしょう?

俺の私物を使うのは非常~に、嫌なんだが‥‥


クリーンを使えば綺麗になるが、アレを取るのに使うのは嫌だ!


うーん、どうするかな‥‥


「サリバン卿、ピンセットなら有ります、お使い下さい」


「先生良いのかな? 俺としては大変有難いが、アレを取るのに使うんだが?」


「まぁ‥‥ 消毒すれば大丈夫でしょう」


先生が苦笑いして居る、うん、普通に嫌だよな あんな汚ねーもん取るのに使うのは。


そーいや ばあさん、オリーブオイルは有るよな?


まぁあんな物、何処の家にも有るから無いと言う事は無いだろう。


「守長持って来たよ」


「さて、おいブライアン運び終わったな?」


長椅子のある所を見るとマシューじいさんが寝かされて居た、あの長椅子は木を縦に切って椅子に加工したやつだからな、かなり幅広で縦にも横にも広い、寝かすには丁度良い場所だ。


「終わった、後は何をすれば良い?」


「おう ご苦労、後は何かあればその度に頼むから今は良い」


長椅子の所に行きたく無いな‥‥


仕方無いか、関わった以上処置中は付いておかねばならんか‥‥


「アリーばあ様、マシューじいさんの耳掃除を頼む」


「守長、アタシゃそんなん出来無いよ、薬師だからって何でも出来ると思われても困るよ」


は? ちょっと待て、マジか?


「無理だよ守長、人の耳の穴に耳掻き突っ込む何てようせんわ」


「・・・」


ならば‥‥


「サリバン卿、流石にそれは‥‥ 医者でも出来る事と出来無い事はあります」


「・・・」


ちょっと待てよ?


何故皆、俺を見る?


えっ? コレって俺がやるのか?


マジか? 俺がやる流れなの?


いやいやいや、待て 待て 待て。


そうだ嫁のテッサばあさんが居るじゃないか!


やり方を横で指示すればいけるだろう。


「テッサばあさん、俺がやり方を指示するから、ばあさんがじいさんの耳掃除をするんだ」


「守長、アタシじいさんの耳の穴に棒を入れるの怖いから、守長やっとくれよ‥‥」


「ふざけんなよ! ばあさんの旦那だろうが! 何が悲しくてじじいの耳掃除を俺がやらないといけない?」


「守長守長守長~ やっとくれよ~ 良いじゃないかい、頼むよー 老い先短い年寄りの最後の頼みだよ~」


「アホか! 何で俺が‥‥ てか離せババア、おいババア、本当にやめろ、抱き付くな!」


「守長守長守長守長守長!」


こ このババア又かよ!


何で俺がやらないといけないんだ?


ちょっ‥‥


「だから抱き付くなやババア!」


「じいさんが、じいさんが、じいさんが~ してくれるまで離さないよ!」


「ババアいい加減にしないと又ツボを突くぞ! あっコラ! 足を絡めてしがみ付くな」


「うんと言うまで死んでも離さないよアタシは! 守長、守長、守長~~!」


あーもう!


何なんこのババア? てか武道経験者かよ?


クソ! 抱き付きながら器用にスルスル逃げよってからに、駄目だ‥‥


手荒な事をしなければ、このババアを離す事が出来無い、だが流石に年寄りにそんな事出来無い。


えっ? マジで俺がやらないといけないのか?


「守長、守長、守長、守長、守長・・・」


ババアめが、コイツは俺がやると言うまでしがみ付いて居るだろう、てかマジ? 嘘だろ?


「アタシゃ守長がやると言う迄 離さないよ!」


あ~ 今日は厄日だ‥‥


何でだよ、俺は日頃の行いは良いだろ!


それなのに何故‥‥


「何で俺がやらないといけないんだ? ばあさんの旦那だろ、ばあさんがやれや」


「だって守長は上手そうだからだよ、だからやっとくれよ守長~」


「・・・」


このババア‥‥


確かに俺は耳掃除は上手いと言われていた。


前世でもそうだし、今世でも姉妹達に言われて居たし、姉妹の耳掃除もしてた。


だからと言って、何故じじいの耳掃除をしなければいけないんだよ‥‥


『ちょっ■■■耳掃除上手すぎだろ、あっ! やん、ちょっと ダ ダメだって、いゃん、あっ‥‥ そ そこダメだって‥‥ はぁん、いゃ‥‥ ちょっ、おかし おかしくなるから、や‥‥ な 何で耳掃除で‥‥』


うん、上手いわ、自画自賛だが実績もある。


「守長~~~ 年寄りの最後の願いを聞いとくれよ、頼むよ守長ーー! 何でもするからー」


おい! さっきから好き勝手に言いやがって、てか周りの俺を見る目がおかしくなって来ただろ。


コイツらどうせ、やってやれば良いのにとか思ってんだろうな。


お前らがやれや糞が‥‥


つーかババアは、俺がやると言うまで離さないし、このまま好き勝手言って居ると、俺の評判が落ちてしまうじゃないか。


絵面的には、俺が年寄りを足蹴(あしげ)にしてる様に見えるだろう。


えーい、クソが‥‥


「ババアやるから離せ」


「えっ、本当かい守長?」


ババア‥‥ 俺がやると言ったら即、離しやがったぞ


結局ババアの粘り勝ちかよ!


仕方無い、やるからにはきっちりやらねばならん。


嫌だけどな、そして不本意であるがな。




じいさんの耳を見たが、びっしりと詰まって居た。


じいさんに少し我慢しろと言い、耳掻きを耳の穴の縁にゆっくり差し込もうとしたが出来なかった。


入んねーじゃないか!


ピンセットに持ち替え差し込もうとしたが、かなり固かった。


しかも少し入ったが、バキバキ ベギっとかなり耳障りな音がしてきた、じいさんはかなり痛がって居たのでやはりオリーブオイルを流し込み、ふやかさなければならない。


でもなぁ、穴の縁も少し開けてオイルを流し込みたいんだが、これは無理だ。


てか耳の穴にオリーブオイルとは言え、大量にオイルを流し込むのは余り宜しく無いんだが‥‥


まぁ良い、とりあえずはふやかさなければ、耳の穴にオイルを入れ、少し時間を置かなければならない。


何と言うか待ってるこの時間は凄く無駄な気がする。


てか俺は一体何をやってるんだ?


俺は一応は特級官吏なんだが‥‥


ハァ‥‥ そろそろふやけたかな?


て、おい! 体勢的に耳掃除がしにくい!


えっ? これってもしかして俺がマシューじいさんを膝枕するのが体勢的に一番やりやすいのか?


うん、現実逃避だな、膝枕してやるのが一番やりやすいし、手際良く出来る‥‥



その後の事は記憶から消し去りたい‥‥


マシューじいさんを膝枕し、じいさんの30年溜まった悪魔を、時間を掛けて取り除いた。


取っても取っても出てくる悪玉を苦戦しながら取り除いた。


途中でオリーブオイルを耳の穴に入れてふやかしつつ、まるで永遠かと思える時間を掛けて取り除いた‥‥


取れる度に周りで見てた野次馬共が、悲鳴や奇声を上げて居やがったのが何か腹が立ったので、途中でじいさんの悪玉を野次馬共に投げつけてやった。


奴等は悲鳴をあげ、正に蜘蛛の子を散らすが如く逃げ惑って居るのを見て、溜飲が下がった。


だが奴等は暫くすると、性懲りも無く又近寄って来やがったので、再び悪玉を投げつけてあげた。


皆悲鳴を上げて大喜びで逃げ惑って大混乱、阿鼻叫喚だったので、割と胸がスッとした。


そんなこんなで、終わった時にはクタクタになった。


本当、もう二度と御免だ、次は絶対ならないと皆に宣言し、この事を忘れ様と心に誓った。



とりあえずマシューじいさんには、月に一回は耳掃除する様に念押しをしたが、やらないとどうなるか少し教えてあげたら 凄い勢いで頷いて居たのでまぁ良しとした。


本日の教訓は、

耳が遠くなったのは、年齢から来る物でなく、耳の穴が詰まって居る可能性も考えろと言う事だ。


とりあえず灯台に帰って、耳掃除を念入りにしよう。



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