第72話 封印の綻び
昨日の雨は幻であったかの様に晴れ渡っている
昼と夕方の間の 最も太陽が照りつける時間だ
昨日はやはり、何も見付からなかった。
対応5の終了を皆に告げると歓声があがった、 その為、村民達の顔には余裕がある、今日で終わり、明日の朝には又、日常に戻れるのだ。
まるで祭りの前夜かの様な雰囲気がある。
昨日書いた手紙を連絡官、と言っても官吏の連絡官に託した。
俺ら官吏は官吏同士であれば、郵便がタダで使える。
とは言え、全ての官吏が無制限に使える訳では無い、使える回数の決まりはある。
勿論、公的な物では無く、私的な物だ。
下級官吏が年 四回
上級官吏が年 十回
特級官吏は無制限
うん、やはり特級官吏だけ突出して優遇されているな、しかも特級官吏はいちいち許可を必要としない。
下級、そして上級ですら許可が要る、だが特級官吏は許可をとる事無く、しかも無制限に使える。
更に特級官吏の場合、私的、公的に関わらず無制限に使える。
権限もそうだが、特権は更に大きい。
手紙の無制限利用もその一つだ。
そう、俺達、特級官吏は手紙を気兼ね無く出せる、それはつまり奴も手紙を出し放題と言う事だ。
くっそー どうせ又、手紙送ってくるんだろうな、もういらねーよ。
てか俺ら文通してるみたいになってんな‥‥
マジであのババア、突然クルクルパーになってくれないかな・・・
あーー 何かやる気が起きんな、本日分の仕事は終わってるから問題は無い。
後は対応5の仕事だけだ、だからと言って何か特別やらなければならない事も無いんだよなぁ。
人が見つからない限り、やる事なんて何も無い。
本当にやる気が起きないな。
うーん‥‥
落とし穴でも掘って、村長を落としたい。
何なら、ベンジャミンでも良いが、落とし穴を掘るのは禁止だからな。
そうだな、落とし穴を掘るのは禁止だが、制作するのは禁止じゃないよな?
まぁ、言葉遊びだな、落とし穴自体が禁止なんだから。
なら罠は?
もっと駄目だよな、流石にそれはシャレにならん、しかしやる気でねーな、それもこれもあのロリババアのせいだ。
俺はここで心穏やかに、のんびりと暮らして居るんだ、帝都で知らぬまに疲れた心と体を癒し、日々楽しく過ごして居るのに、それをあのロリババアが邪魔しようとしてやがる。
大体俺は何やかんやで毎日忙しいんだぞ。
釣りしたり、畑の世話をしたり、蜂の世話をしたり、料理を作ったり、酒を作ったり、アンナと遊んでやったり、本を読んだりと、色々やる事はあるんだ。
あのロリババアに構ってる暇は無い、それなのにあの貧乳めが‥‥
どうせロクでも無い事だろうが、何を企んでやがる?
何をしようが奴の勝手だが、俺を巻き込むのは本当に勘弁して欲しいものだ。
明日から又、日常が戻りそして始まる。
とは言え、釣りには流石に行けないな、軍人や官吏達はまだ捜索の為に村に居るんだ、
そんな状態で、呑気に釣り何て出来ない。
まぁ畑や蜂の世話でもするか、後の時間は読書でもして‥‥
そうだ、ジゼルに本を貸す約束してたんだった。
バラス高原会戦記始末を出しておかねば。
さて、ジゼルはアレを読んで、どんな感想を聞かせてくれるか楽しみだな。
ジゼルの感想は切り口が独特と言うか、視点が独特なんだよなぁ。
聞いてて感心する事が結構ある。
まぁ一言で言えば面白い。
それは良い、明日以降の楽しみだ。
問題はジルの奴が俺を見つめて居る事だ。
アイツまさかもう思い出したんじゃ無いだろうな?
何て言うのかな、熱い眼差しって言うか、うっとりとした表情で‥‥
二日前のあの夜に見たあの表情だ‥‥
おい、お前今、縛られて無いよな?
それなのに何故そんな熱い、熱の籠った視線で俺を見つめるんだ?
他のむっつり娘達に視線で問いかける。
(おい! 一体どうなってるんだ?)
(知らない! 知らない! 私達無関係 濡れ衣)
(何とかしろ)
(無理 無理 無理 私達無関係 濡れ衣 冤罪!)
何が濡れ衣よ、お前らが何とかしろや、てかこれ以上頭痛の種を増やすな!
くっそー、ショック療法が若干弱かったか?
もう一回やるか?
ちょっと難しいな、それにジルにはあまり近づきたく無い。
しかしこのままではヤバい気もする。
やはり再度ショック療法か?
いや、効かない気もするし、何よりジルの奴が喜びそうな気もするんだよなぁ‥‥
ゲッ! ジルの奴、近寄って来やがった。
「守長お疲れさん」
「おつかれさん‥‥」
「どうしたの? 元気無いね?」
はい、たった今元気が無くなりました。
ついでに頭も痛くなりました。
しかしコイツ元気だな、まぁ元から元気な奴だったが、今日は、いや今はか?
元気いっぱい、笑顔満面だ。
「どうしたジル、何か用か?」
「えー 用事が無かったら話しかけたら駄目なの?」
「そんな事は無いが、えらい笑顔で話し掛けて来たから気になってな」
「フフッ、 何かね、守長と話したくなったの」
俺は話したく無いです、どうか私の事はご放念下さい、変態が移りそうでとても嫌なんです。
「そうか‥‥」
「本当に何か元気無いね、大丈夫?」
「おい、近い、もっと離れろ」
「あっごめん、つい‥‥」
ついじゃねーよ!
やっべー コイツまさか思い出したのか?
違うな、思い出したら更に積極的になっているはずだ、多分だが心の奥底の、脳の中に刻まれた記憶や思いを封印している場所の封印に綻びがあるに違いない。
「ねぇ、守長を見てると何だか身体が熱くなるの‥‥ 何て言うのか優しく包まれて居る様な、そんな気がするの」
違います、優しく包まれてるのではありません。
逆です、君は緊縛して欲しいだけだと思いますよ、物は言い様ですね。
どうしよう‥‥
やっぱコイツ、ホンマもんだよ、本格派だ、
真正だよ、縛られて喜ぶ変態さんだ、あの夜が忘れられないのってか、やかましいわ!
このケツデカ貧乳にはもう、出来れば関わりたく無いんだが、無意識の内に俺に惹かれてやがる。
てかコイツ、俺の緊縛術‥‥
もとい、捕縛術に惹かれてるだけだろ?
俺は変態を喜ばせる為に、必死で捕縛術を修行した訳では無いんだぞ!
血の滲む様な思いをして努力したのに‥‥
「守長って本当に整った顔してるよね、近くで見ると更に男前さが目立つわよね~」
「だからジル、お前近いぞ! もっと離れろ」
「えー 良いでしょ、別に減るもんじゃ無いんだし、ちょっと位良いじゃないの」
こ この変態‥‥
お前はおっさんかよ、何が減るもんじゃ無いだよ、てか減るわ! 主に俺の心の安らぎと平穏がな。
あっ! 他のむっつり娘達めが、何逃げようとしてやがるんだよ、バカめ、逃がすかよ!
お前達も巻き込んでやる、死なば諸共だ!
「おい、お前達何処に行こうとしてる? つれないなぁ、お前達仲間だろ?」
「いやぁ仕事思い出しちゃって、行かなきゃ」
「そうそう、仕事は大事だよ守長」
バカめ、俺の事を甘く見過ぎだ!
「俺が権限を使ってそのお仕事を免除してやっても良いんだが? それとお前達のシフトを俺は全て把握してるんだがな、今の時間はもう少しゆっくり出来るはずだが、お前達はどんなお仕事をするんだろうな? 俺に教えてくれるか?」
「「・・・」」
バカめ、この建物の中に居る奴らのシフトは全て把握してるわい、バレバレな嘘付いて逃げようとしても無駄だ。
「おい、このむっつりスケベ共が、この変態をどうにかしろや! てかお前達が責任を持ってどっかに連れて行け、それともお前達がむっつりスケベだって皆に大声で教えてやっても良いんだが、どっちが良い?」
小声で二人に問いかけると、俺に抗議して来やがった。
「ちょっと酷いよ守長」
「そうだよ、私達を巻き込まないで」
何ふざけた事を抜かしてやがるんだ、このむっつり娘達は。
「あのな、事の発端はお前達がイヤらしくも覗きに来たからだろ? そのせいでこんな事になって居るんだ、あの変態を産み出した責任の一端はお前達にもある、それに覗きをする様な奴はむっつりスケベってのも間違いでは無い、それか どスケベって言って欲しいのか?」
「嫌よそんなあだ名」
「そうだよ止めて、私達、誤解されるじゃない」
「ならアレをどっかに連れて行け、そして何とかしろ、俺に関わらせるな」
「そんな無茶な・・・」
無茶でも何でも無い、同じむっつりスケベ仲間なんだ、どうにか出来るさ、多分な。
「ねーえ、何を三人でこそこそ話してるの?」
「気にするなジル、さぁ俺は仕事がある、お前達も色々忙しいんだろ? さぁ行け」
頼むから思い出すなよジル。
俺はもうこれ以上頭痛の種が増えるのは、ゴメンだからな、マジ勘弁して下さい。
そして俺の願いは通じた。
やはり日頃の行いが良いからだろう。
天は俺に味方した。
ジルのデカいケツを見ながら俺はそう思った。
むっつり娘達がちゃんとジルを連れて行ったのだ。
正義は勝つ、さぁ今日で対応5は終わる。
明日の朝から又、平穏な日々が戻るのだ、
多分戻るはずだ、多分な。
俺は小さくなりつつある、ジルのデカいケツを見ながら再び、そう思った。




