第68話 流言蜚語
雨音が微かに聞こえてくる
夜の帳が下りても雨は止まない
夜半には止むらしいが・・・
俺の執務室には軍人数名に官吏五人が顔を付き合わせている。
「成る程、バハラではそんな事になっているのか」
「はい、一年程前から徐々に増加傾向にあります、行政府ではこれを深刻に受け止めており、関係各所との更なる連携強化を図っておりますが、中々に・・・」
ちらっと小物君を見た、ケレイブ・カーンが凄い勢いで否定し始めやがった。
「いえいえいえ、言い方は悪いですが軍の方達は本当に良くやっておいでです、庇っているわけではありませんが余りにも数が多過ぎて対応が追い付いて居ないのが実情です、軍の方は兎も角、これは我々行政府の失態です」
思わずため息が出た。
ケレイブ・カーンの話しでは、バハラではスリや、かっぱらいや、置き引きがかなり増加傾向にあるらしい。
一年程前から徐々に増えており、衛兵だけでは対応出来ない位に増えているそうだ。
そして軍に協力要請を出し、軍人も巡回しているが、それでも発生件数の増加が止まらない状況らしい。
「裏社会の顔役達も自警団の数を増やして巡回しているのにそれか‥‥ 完全に連携不足、意思の疎通が全く取れて居ないな、アイツ等も頭を痛めて居るだろうな」
「はい、表の商売に影響が出ているのは勿論、裏の商売にも影響が出始めている様です」
「やはり派閥争いの影響が大きいな、何故顔役達との担当官達まで飛ばした? いや‥‥ そこまで考えて無かったか、馬鹿が‥‥ 人と人を繋げるのは決まり事や法だけで無く、人間関係も大事だと言うのに‥‥」
「・・・」
そんな困った顔するなよ、まぁケレイブ・カーンの立場では何も言えないよな、今の行政府、そして更にその上層部を批判する事になりかねないのだから。
人が折角。奴らと心温まる交流で渡りをつけ、体制を整えたのに、全部パァじゃないか。
あれから10年以上、上手く回っていたのに、この10年が無駄になってしまうぞ、上手い事行く迄、時間も手間暇も掛かったのに‥‥
「隊長殿も巡回警備に参加されましたか?」
「はい、自分も巡回には何度か出動しました」
「隊長殿の体感でその様な軽犯罪、まぁそれを軽犯罪と言っていいかどうかは置いておいて、どうでしょう隊長殿、空気感と言いますか、体感的にどの様に感じますか?」
「はい、自分の体感でも二年前に比べれば、いえ、比べ物にならない位に増えております、奴等は我ら軍人にもスリを仕掛ける程ですから‥‥ このままではその様な犯罪増加に歯止めが掛からないかと‥‥」
「一応聞きますが、帝国人とそれ以外の国の者の比率はどうですか? 」
「比べ物になりません、自分も何度か捕まえましたが帝国人は一人も居ませんでした、ただ‥‥ 他の隊では少数ではありますが帝国人も居た様です」
現場に出ている人間の意見は貴重だな、しかし南方諸島からこちらに出稼ぎに来て、食い詰めそのままちんけな犯罪者になる例が最近増えてる、ついでに言うとその子供の犯罪が激増してる様だ。
親や保護者に不幸があり、行き場を無くした子供達がその様な犯罪に手を染め、又 外国人犯罪グループが出来つつあり、犯罪増加に更なる懸念が心配されているらしい。
帝国人の子供なら、言い方は悪いが孤児院にぶちこまれて保護される。
だが外国人であれば帝国には保護義務は無い、まぁ牢屋にぶちこまれる事になるがな。
それと話を聞いてると、帝国人もバハラ外から来た者が食い詰め、ちんけな犯罪に手を染め始めて居る様だ。
バハラの詳しい近況を聞く為に、官吏と軍人達に親睦を深めようと酒に誘った。
小物君は少し嫌がって居た気もするが、酒の魅力には勝てなかったらしい、因みに官吏達は大喜びであった。
そして酒を振舞いつつ話しを聞いたが、バハラではスリ、かっぱらい、置き引き等の軽犯罪が激増し治安が悪化しつつあり、対応が追い付かなくなり、バハラの行政府では頭を痛めている様だ。
割れ窓理論だったか?
割れ窓や落書き等を放置しておくと、犯罪が次のカテゴリーに進む、なので軽微な内に芽を摘むだったな。
まぁ厳密に言えば少し違うんだが‥‥
兎に角、今の内に抑え込まないと重犯罪、まぁ凶悪犯罪も増えていくな。
現に犯罪グループが出来つつある。
アイツら顔役達は今頃、頭を抱えて、いや、必死になってちんけな こそ泥共を捕まえてるんだろうな、うん、間違いないわ、おかしなものだな、裏社会の奴等がお上である、行政府の人間より必死になってるなんて‥‥
まぁアイツらにとって治安の悪化で、表の商売に影響が出る事になるのは避けたいだろうしな。
表のアガリも馬鹿に出来ない位にあるんだから。
そしてそれ以上に、このまま新たな犯罪グループが出来れば、この10年、平和に話し合いで利害調整してきた今の裏社会の状況が変わる事になる。
抗争は金も掛かれば、人の損失もある。
決してやりたくてやってる訳では無い。
とは言え面子が掛かれば、採算度外視でやる、いや、やらざるを得ない。
それがこの10年、話し合いで利害調整を出来る様になったんだ。
おまけに、お上 公認で堂々と表の商売が出来る様にもなった。
正にこの世の春だったろう。
それがちんけな こそ泥のせいで失われ様としている、このまま放置しておけば又、採算度外視で楽しい抗争を延々と続けなければならなくなる。
そら、必死になって奴等も治安維持に力入れるわ。
新たなライバルの出現を阻止したいだろうしな。
惜しむらくは、お上との連携が全くと言っていい程 取れてないって事だな。
派閥争いにより連絡官が飛ばされ、新たな連絡官が関係を築け無かったか、まさか最初から関係を築くつもりが無かったとかじゃ無いよな?
もしそうならアホ極まりないな、上手い事、利用したら良いのに。
まぁ今の行政府の上層部が、裏社会の人間に頼るのを良しとしなかったのかもな。
当時でも反対意見はかなりあった。
とは言え、もし完全に奴等を潰したとしても、どうせ新しい裏組織が出来るだけだ。
ならいっそ表に引きずり出して、監視下に置いて、ある程度こちらでコントロールした方がまだマシだ。
あまりこのような言い方はしたく無いが、必要悪として割りきるしかない。
なら出来るだけこちら側でコントロールした上で利用するのは、正しいとは言わないが、間違ってもいない。
実際、犯罪発生率は下がったし、治安も良くなった、まぁあまり誉められたやり方では無いがな。
しかし、現場の生の声が聞けたのは値打ちがあった。
村の人間は、魚市場や、その周辺しか行かないからどうしても情報が制限される。
ましてやあの辺りだと治安はかなり良い。
あの辺りで こそ泥なんかやった日にはどえらい目に合う。
まぁ漁業関係の奴等は気が荒いのが多い。
裏社会の奴等も、漁業関係の奴等とケンカすんのを躊躇う位だ。
その中でも特に漁師と揉めるのは、躊躇うらしい。
そんな奴等にスリだの、ひったくりだの、置き引き何かしたらどんな目に遭わされるか・・・
しかしなぁ、行商人からバハラの状況を聞いて居たが、やはり生の声、特に現場の声は違う。
派閥争いに勝利した、今の行政府上層部は、いまいち対応出来て無いか‥‥
無能では無いのだろう、だが派閥争いが起き、人が入れ替わってから今の状況となると、無能の謗りを免れないな。
まぁ手が無いと言う訳では無い。
多少、金は掛かるがこのまま治安回復に金と力を注ぐ位なら、今ここでズバッとやる方がまだマシか‥‥
上手く行けば元手0で、手間も力も掛からんやり方もある。
「ケレイブ・カーン、一つ俺に考えがある」
「と言いますと?」
おいおい、そんな期待した目で見るなよ。
「多分だが既に出た提案だと思うが、それ等の犯罪を犯した奴を国に送り返せ、それも徹底的にな、その上で帝国に入国禁止にして、もし再入国したら厳罰に処す、処刑とは言わん、だが最低でも鉱山送りに、そうだな、10年以上は鉱山にぶち込め」
「確かにその案はありました、ですがスリやかっぱらい程度で追放となると費用が‥‥」
「だろうな、だがこのままでは治安維持に掛かる金は増えていく一方だ、ついでに人手もな、なら多少 金は掛かってもやるべきだ、断固たる態度を、帝国を侮ればどの様な結果をもたらすか思い知らすべきだな、それか 国に送り返さないなら、バハラの限定法律自体を変えて、外国人はそれ等の犯罪を犯した場合鉱山送り10年以上にする、そして・・・」
「正直、法を変えるのは無理とは言いませんが時間が掛かり過ぎます、失礼ながら現実的では無いかと・・・」
「だな、だが外国人、いや、帝国人でもその辺りを分かっている者は少ない、そうだな?」
「はい、そう思います・・・」
俺が何を言いたいか、いまいち分からず困惑してやがるな。
安心しろ、ちゃんと説明してやるさ。
「だがそれでもだ、時間が掛かる、もしくは現実的では無いとしてもやってる振りをする、その上で噂を流せ、俺が先程言った事をな、さて‥‥ その噂を聞いた犯罪者共はどう思うだろうな? お前ならそんな話を聞いて、今までの様に出来るか? 躊躇わずに出来るか?」
「いえ‥‥ 今までと同じには出来ないでしょう、かなり躊躇います」
「なら俺が言った事を噂として流せ、裏社会の奴等を使えば金も手間も全く掛からん、元手0で出来る、後は勝手に噂が独り歩きしてくれる、元手0で、しかも手間暇掛かる事無く、大きな効果、そうだな、抑止力になる、まぁ一部の奴でもみせしめにしたら、噂の信憑性がかなり増すが、やらずとも、やったと噂を流せばそれだけでちっとは効果があるだろうな」
俺なら絶対やるが、バハラの上層部はどうかな?
まぁ金も手間も掛からず効果があるならば、損は無いんだ、やるべきなんだがなぁ・・・
さて、ケレイブ・カーン課長殿はどう答えるかな




