第65話 不可抗力
獣の唸り声のする方に行くと女が倒れて居た
尻を両手で押さえ声にならない声で呻いていた
それはまるで傷付いた獣の様だ。
あっちゃー
あれ多分痔だな・・・
女の人は出産すると痔になる人が割と多いらしい。
それは前世でも、今世でも同じだ。
何故かは分からん、だがその話は割とよく聞いた。
医者なら何故なのか分かるのだろうが俺は医者でも何でも無い、だが出産により痔になる女の人が多いのは事実だ。
そしてカンチョーが綺麗に決まるとかなり痛い、完璧に決まると悶絶する。
それが痔の場合どうなるか・・・
カンチョーした子供はオロオロしている。
『ちょっと大丈夫かいヘレン』
いやいや、どう見ても大丈夫じゃ無いだろ‥‥
死にはしないがある意味かなり重症だぞ。
てかいい加減カンチョーの手は解いたらどうだ?
うん、手が固まったか、動揺してそのまま動けないかどっちかだろうな。
まぁオロオロして左右に忙しなく動いてる訳だが、シュールだな。
『ジョナサン! アンタ自分の母親に何て事してるの! ヘレン、大丈夫?』
うん、だから大丈夫な訳無いだろ‥‥
推定痔の上、完璧にカンチョーがキマったんだぞ、どんな強者でもそら悶絶するわ。
確かに死にはしないがケツは死んだな‥‥
しかし、冬で夏服に比べれば生地も厚いのに完璧にキマるってどんだけ運が悪いんだよ、それかカンチョー使いのジョナサンがかなりの使い手なのか?
まさか・・・
このカンチョー世紀末の状況で腕が上がったのか? 皆で切磋琢磨する事によりカンチョーの技術が磨かれたとでも・・・
あり得るな・・・
実戦に勝る修行無しと言うからな。
なるほど、死合う事により磨かれたか・・・
但し磨かれたのはカンチョーなんだがな‥‥
ほぼ役に立たないクソみたいな技術でしか無い、だが子供の力でも大人を倒す事が出来るとなれば、全く役に立たない訳でも無い。
とは言え使いどころに制限があるのが難点だ。
推定痔のヘレンはまだ地面に倒れて、いや、蹲って居る。
あっ、又地面に倒れた。
『ちょっとジョナサン! あんた何時までそのポーズで居るのさ! 又カンチョーやる気かい! いい加減にしな!』
『あっあっあ・・・』
うん、ジョナサン君かなりテンパってるね、逃げ出したいみたいだけど無理だね、周りに大人が大勢居るし あっという間に捕まるだろう。
カモメなら逃げ出せたんだろうが‥‥
『もう‥‥ 変な遊びが流行っちゃったわね、誰が流行らしたのかしら・・・』
『・・・』
『どうしたの守長?』
『うん、何でも無い、誰が流行らしたんだろうな』
そうだ、俺は流行らして居ない。
ついでに言うならば流行らしたのはアンナでも無い、自然発生的に流行ったんだ。
そしてその後数件のカンチョーテロ事件が起きる。
その中に村長とお尻がでっかいジル(当時17歳)が事件の犠牲者に加わった・・・
村長は無関係のオスガキに、ジルは末の弟に。
そう、テンションが上がったガキ共は無関係の村人を襲うようになって居た。
これは同盟を襲撃すれば身の破滅だと言うのが身に染みてわからせられて居た為、他の村民を襲い出したのだ。
ジルの末の弟の様に家族であればまだ良い、いや、良くは無いが家族ならギリギリ、シャレで済まされる。
だが無関係の者を襲えばそれはもうテロと言っても過言ではない。
因みにジルの末の弟リチャード(当時9歳)がジルを襲撃した理由を供述した所によると、
『目の前にでっかいケツが合ったからつい』
等と述べており、衝動的犯行だったようだ。
そして今回の被害者の一人である村長は痔を患っており、声を出すことも出来ず、尻を押さえ地面に蹲り続けたそうだ。
犯人の供述によると、
『無防備に尻を向けて来たから ヤレってネタ振りかと思って・・・』
等と供述した様である。
因みにアマンダと村の中でバッタリ会い、立ち話をして居る時に、アホなオスガキがアマンダに仕掛けて来た事が合った。
気がついた俺は、カンチョーテロリストがあのアホな掛け声を出す前にアマンダを引き寄せた。
『キャッ』と小さく聞こえた、図らずもアマンダを抱き寄せる形になったがこれは不可抗力だ、他意は無い、役得ではあるがな。
『カンチョー! あれ・・・』
『おい‥‥ 俺の前でアマンダにカンチョー しようとは良い根性してるな‥‥ 吊るされるのと、吊るされるのと、吊るされるのと、どれが良い? 選ばせてやる・・・』
『あっあっあっあ‥‥ 守長‥‥』
このアホは周りが一切見えて居なかった様だ。
俺を見ると顔面蒼白にして震えて居やがる。
バカめ! 今更遅いわ、この愚か者めが。
『あぁーコラ、選ばせてやるって言ってんだろ、どうすんだ? 選べや』
『いや、あ、ち、ちが ちが』
『血なんか出て無いよな? このませガキが、さぁどうしてくれようか‥‥』
俺の前で二度とこんな舐めた事出来ない様にしてやる。
『あの‥‥ 守長、そろそろ離してくれると‥‥』
『ん?‥‥ あー! すまんアマンダ! このマセガキに意識がいってた!』
やっべー アマンダを抱き寄せたままだった‥‥
もう一回謝っておかねば‥‥
『アマンダ本当にすまん、そんなつもりじゃ無かったんだ、信じてくれ!』
『うん‥‥ 守長は守ってくれたんでしょ? ありがとう、でも、もう少し早く気付いてくれたらもっと嬉しかったかな』
そう言うとアマンダが笑った、微笑むでは無くクスクスと可笑しそうに‥‥
俺はこの時初めてアマンダの笑顔を見た。
出会った頃の無表情で氷の様な表情から少しづつ柔らかくなり、普通の表情となり、そして困った様な笑って居る様な何とも言えない顔をするようになり、冗談なんかもたまに言う様になって居たが、笑顔は初めてだった。
可愛さより何故か美しく感じた・・・
だからと言って俺が居るのに舐めた事してくれちゃいやがったコイツには、きっちりと報いは受けてもらう。
斯くして木に縛られた少年が村に現れた。
その少年は木に抱きつく様に縛られており、足を開いた状態であった。
どうやら足も縛られて居る様だ。
そして木製の看板を背中に括り付けられており。
看板には、ご自由にどうぞと書かれて居た。
そして矢印(↓)が書かれており、その矢印は尻を指していた。
その様な絶好の機会を逃す程ぬるい者等、カンチョーに魅入れられた修羅達には居ない。
そのマセガキは、次々にカンチョーの洗礼を受けて居た。
それはまるで新たな処刑か拷問の様で合ったと、後にアンナは語って居た。
どうもガキ共は、カンチョーするために行列まで作って並び、新技を披露していた様だ。
『千年殺し!』
『カンチョー!』
『バリスタカンチョー!』
『カンチョー! カンチョー! カンチョ~!』
『ウルトラスーパーデラックスカンチョー!』
『フン! フン! フン! カンチョーーー!』
『告死カンチョー!』
等、多種多様なカンチョーをしていたそうだ。
因みにそれ等は、アンナが覚えて居た分だけで、他にも色々とやられて居たそうだ。
この分ではあのマセガキは婿に行くのでは無く、嫁に行く事になりそうである。
因みにアンナには一時間程立ったら縄をほどく様に頼んでおいた、ついでに縄の回収と配達もだ、報酬は飴玉二つで、アンナは快く引く受けてくれた。
うん、あのマセガキが犯した罪は、木偶の刑で罪を償う事となったのである。
言うまでも無いがマセガキの親にはお仕置きする許可は取ってある、是非やってくれとの事だった。
斯くしてアマンダにカンチョーなんて愚かな事をしようとしたマセガキは、成敗され報いを受けた。
だがそれで、めでたし めでたしで話しは終わらなかった。
何せ被害を受けた村民が多かったのだ。
ガキ達だけでやってる分にはまだ良かった。
家族にやってる分もまだ許容範囲であった。
しかし無関係の他人を襲うとなったら話しは別だ。
村民有志による会合が持たれた。
その会合は女衆、特に子を持つ母親達による強力な開催要請が合ったらしい。
女衆は子を産んで痔になった者が多いので、明日は我が身と、危機感を抱いた様だ。
その間も村にはあの掛け声が聞こえてくる。
『カンチョー!』
後に思うと、それはまるで破滅へのカウントダウン開始の合図の様であった・・・




