第62話 邪拳使いの海賊王
香ばしい芳醇な香りが漂っている
その中に甘さも含まれているが 砂糖の香りが含まれているからだろう。
少し砂糖を多めに入れた。
疲れた脳には一番のご馳走だ。
窓の外は雨模様、湿気を含んだ生暖かい風が吹き込んで来た。
だがそれも一瞬だ、室内に置いた大量の氷柱が冷気を発しひんやりと心地好い空間を取り戻す。
コーヒーを一口飲む、魂が癒される様な旨さだ。
カンチョー事件‥‥
アホみたいな事件だが、ある意味大騒ぎになった事件だった・・・
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アンナにカンチョーの何足るかをレクチャーした後、当然の様にアンナは使い始めた。
邪拳使いアンナの爆誕である。
繰り返しになるが、ハルータ村の子供達の暗黒時代、暗黒期の到来だ。
村ではアンナの奇声が響き渡り、他の子供達の絶叫が響き渡った。
「カンチョー!」
「一本抜き手!」
「二本抜き手!」
「地獄突き!!!」
「七年殺し!」
等々、アンナの絶叫と奇声が響き渡ると、子供達の絶叫が響き、地に伏せ倒れる子供達が続出したのだ。
アンナの攻撃は避ける事の出来ない、絶対必中の攻撃、もしくは不可視の攻撃の様に相手に必ず命中させた。
アンナは俺との試死合いにより、大幅に強化された為に更に強くなって居たのだ。
俺に一方的に往なされるだけであったったが、その中で着実に力と技術を蓄えて成長して居た。
まるで一昔前のカンフー映画の様に、アンナは強くなっていた、唯でさえ その生まれ持った無駄に高い身体能力が更に強化されたのだ、邪拳使いアンナを止めれる者等 子供達の中には存在しない。
物語であれば勇者が、もしくはその師匠等が、弟子のその凶行を止める為に現れるのだろうが残念ながらこれは現実だ。
救世主は現れ無かった。
ハルータ村は海賊王改め、邪拳使いアンナの草刈り場へと変貌したのだ。
子供達にとって、暴力と支配とカンチョーの蔓延る世紀末の様相を呈していた・・・
子供達は俺を責め立てた、何でアンナにあんな事を教えたんだと。
そのせいで自分達は毎日後ろを気にして生活しなければならなくなったと。
アンナが益々パワーアップしたのは守長のせいだと。
なので俺は笑顔で子供達に告げてあげた
『知 ら ん ♪』
『アンナごときに遅れを取るお前達が悪い』
『お前達、アンナごときにも勝てないのに、俺によくそんな事抜かせるよな? 人数が居るから強気なのか? 面白い冗談だな』
そして子供達は思い出した。
何時もにこやかで優しい守長は、あのアンナを簡単に往なし、大人でも口では勝てないアンナを言い負かし、泣かせる事の出来る人なんだと言う事を・・・
『で? 俺にどうしろと? つーか、知 ら ん ♪ ちょっとは自分で考えろ』
子供達は困って居た。
俺が何とかしてくれると思って居たのにと‥‥
だがある子供が知恵を働かせた。
曰く、
『守長なら こーゆー時どうするの?』と・・・
聞かれたら仕方無い、なのでちゃんと質問に答えた。
『俺ならやられないが、まぁそうだな‥‥ やられたらキッチリやり返すな、アレは誰だって簡単に出来るんだから、やり返す』
俺のその答えに
『そんなの守長だから出来るんだ』
『そんなの無理だ』
『勝てっこ無い』
『まだ死にたくない』
『後が怖い』
等々と弱気な事を言い出した。
なので優しい俺は、もう少し子供達にアドバイスしてあげる事にした。
『一人で勝てないなら協力すれば良いだろ? 誰かが気を引いて、その隙に後ろからそっと近づいてやれば良い』
ここで子供達はある事に気が付く、そう、至極簡単な、言われてみればそうだなと言う事に‥‥
やられたらやり返す、そして皆で協力すれば良いんだと言う事に。
だが俺はあえて言わなかった。
そんな事でアンナをやり込めるならとっくの昔にアンナの時代は終わって居ただろうと。
ましてや俺との楽しい死合いでパワーアップしたアンナに決して通用しないと言う事を・・・
俺は心の中で祈った。
コイツらが安らかに逝ける様に‥‥
そして一応は伝えてあげる事にした。
『頑張れ、だがどうなっても俺は知らんぞ、自己責任、決めるのもやるのもお前達が自分達で決めたんだからな、失敗しても俺のせいにするなよ』
100%失敗するだろうと、いや、99.999999%
失敗するだろうと思い、保身の為に逃げ道を作る事にした。
そんな俺の官吏的な言い回しの回答であったにも関わらず、子供達に取っては天啓であったのだろう。
だが守長に言われたのならイケる、勝てると。
藁にもすがる思い、いや、溺れる者は藁をも掴む。
俺はその言葉を思い出した。
そして密かにコイツらの安らかな眠りを祈った。
子供達は無い知恵を絞りつつ、暴君から日々の襲撃に怯えなから準備を始めた。
アンナは気配を消すのも上手い。
俺に言わせればまだまだ修行が足りんが、子供達にとってはいきなり現れる様に感じるらしく、革命の会合に奴の乱入を警戒しつつ準備を進めていた。
だがこの時、そこ迄警戒をしないでも良い事に気付く。
何故ならアンナが近づいて来た場合、確実に大きな声が色んな意味で聞こえてくる事に気づいたからだ。
それはアンナの絶叫であり、奇声であり、同志の悲鳴や絶叫が聞こえて来る為、近づいて来る事が一発で分かるからだ。
なので生け贄、別名鉱山のカナリア宜しく、秘密会合の周辺に同志を配置する事により警報装置にしたのだ。
確かにそれなら一発で分かる。
だが誰が好き好んで自ら鉱山のカナリアになりたがる者が居るだろうか?
そして革命軍は内輪揉めを始めた。
そうなったら革命どころでは無くなる。
だがこのままでは自分達は哀れな木偶として邪拳使いアンナの実験の犠牲になってしまう。
そして話し合いの末、守長に相談しようとなったらしい。
それを聞いた俺は、
『知 ら ん ♪』
と言ってあげた。
だが子供達は御不満だったらしい。
余りにもしつこかったので仕方無く簡単な解決法を伝える事にした。
『いや、普通に順番で交代したら良いだろう? それが一番公平だろうが』
俺のその言葉に子供達は納得し、帰って行った。
そしてそれを見た俺は、99.99999999% 失敗するだろうと成功率の下方修正を行った。
アンナの木偶として固い結束を誇って居た革命軍は再結束したかに見えたが、この時に僅かな綻びが見え始めて居た。
俺はいずれ内ゲバによる分裂と崩壊を予想したが、後にその予想は当たる事となる。
そんなこんなが合って準備を進めて居たが、当然襲撃は続いて居た。
『カンチョー!』
『連撃カンチョー!!』
『七年殺し!』
『三年殺し!』
等々と邪拳使いアンナの絶叫と奇声が響き渡って居た。
因みに連撃カンチョーは俺が新たに教えた。
両手をぬきての形にして、左右の手でそれぞれカンチョーを行う高等テクニックだ。
そして三年殺しの掛け声は俺が新たに教えた掛け声だ。
時にアンナは、
『連撃三年殺し!』
『カンチョーの極み!』
『究極カンチョー!』
等のオリジナリティ溢れる掛け声で、哀れな木偶達を襲撃して居た。
そして革命軍は鉱山のカナリアだけで無く、会合に見張りを置く事をし始めた。
念の為であり、海賊王事、邪拳使いアンナの襲撃をそれ程までに警戒して居たのだ。
そんなこんなで準備が整い、いざ計画実行の段階になって又々問題が発生した。
誰が囮になるかで揉めたのだ。
今までの順番でやれば良い派と、作戦実行と今までは別だ派と言う、どうでも良い事で揉め始めたらしい。
曰く、
今までの順番派はその方が公平だと言う意見で。
今までとは別、新たに選ぶ派としては、今まではやられるかどうかは人数も多かったから運だが、作戦実行時の囮は確実にやられるから新たに選ぶのが公平だと言う意見らしい。
その事を相談しに来た各代表者が言って居た。
正直どうでもイイし、そんな事ごときでいちいち来んなやと思ったが、ちゃんと答えてあげた。
『知 ら ん わ ♪』
だが今回の答弁も御不満だったらしい。
なので、クジ引きをして当たりの奴がやれば良いと、で今回の順番に当たる奴はクジを倍か三倍引いたら公平になるだろ、と言ってあげた。
その答弁に納得して子供達は帰って行った。
それを見送った俺は今回の作戦失敗を、
99.9999999999% の確率で失敗するだろうと再び下方修正した。
斯くして作戦は決行され当然失敗した。
アンナは木偶共の作戦を看破し、全て返り討ちにした。
後に残ったのは死屍累々となった、嘗ての革命軍の亡骸・・・
泣きガキだけが残った。
こうして第一次カンチョー事件は終わりを告げた。
この第一次カンチョー事件の終了は、
第二次カンチョー事件の幕開けに過ぎなかった。
そう、この瞬間から新たに第二次カンチョー事件が幕を開けたのだ。
さて・・・
コーヒーをもう一杯飲むか、砂糖を多めに入れて飲もう。
話しはそれからだ。




