第61話 ある惨事と喜劇の追憶
女の怒鳴り声と子供の泣き声が響き渡っている
周りは誰も止めない
どうもやったらいけない悪い事をやった様だ。
「前に言ったでしょ! カンチョーは禁止だって! 何でやったの!」
「ごめんなさい ごめんなさい」
「・・・」
うーん・・・
灯台に忘れ物したな、うんしたな、取りに帰らなきゃ、いやー うっかりしてたな。
「守長何処に行くんだね?」
「おうマーラか、忘れ物したから灯台に取りに帰ろうかと思ってな」
「ふーん・・・ ばつが悪くなったからかね?」
「何を言うんだマーラ、忘れ物しただけだよ」
「へえ・・・」
さっさと引き返そう。
うん、それが良いな、いやー 俺ってうっかりさんだな。
俺は怒鳴り声を背に、灯台へ引き返した。
~~~
マーラの奴め、疑わし気に見やがってからに。
いやまぁうん、確かにアレの原因、事の発端は俺な訳だが・・・
とりあえずコーヒーでも飲むか‥‥
アレは嫌な事件だった。
ほんの軽い気持ちで言った事があんな大事件に発展するとは・・・
・・・
・・
・
「はぁはぁはぁ、何で? 何で勝てないの?」
「アホか、鍛え方が違うわ、ホレホレかかって来いよ、今日はもう終わりか? さて‥‥ 今日はどうしてくれようか、うーん‥‥ 簀巻きにするか」
「ふざっ えっ、何時の間に!」
「暴れても無駄だ、さてとりあえず縛って‥‥」
うーん、素晴らしい出来だな。
完璧な簀巻き、正に芸術だ。
ワンポイントは猿轡だな、何てオシャレなんだろうか! しかしコイツ、日に日に動きが良くなってきてるな、無駄に身体能力高いよな。
しかし毎度思うが酷い絵面だな、前世なら完全に事案だよ、少女を縛って猿轡噛ましてあげく簀巻きにしてるんだから。
でもこうしないとコイツ際限無く突っ掛かって来るから仕方無い。
最近又、暴力に訴えて来てるし、まぁ良い薬になるだろう、コイツも力では決して俺に勝てない事は身を持って分かってるだろうしな。
どうせ又、ラップバトル宜しくお口で攻撃してくるだろう、実際今も大人しい、暴れても無駄と分かって居るんだ。
力でもお口でも俺には勝てない事は、コイツも十分わからせられている、今だけの事だ。
そう、口でも肉体言語による実力行使でも、決して俺には勝てない事をちゃんとコイツは分かって居てそれでも突っ掛かって来てるのだ。
しかしコイツ大人しいな‥‥
無駄だと分かって居てもプライドが許さないんだろうか?
「おい、ほどくけどもう突っ掛かって来るなよ、来たらカンチョーの刑だからな」
とりあえず猿轡を外して‥‥
「ねえ、カンチョーって何?」
「気にするな、てか勝てないのは分かってるんだろ? 無駄だからもうヤメとけ、時間の無駄だ」
「やってみないと分かんないでしょ!」
「・・・」
俺はとりあえず又、猿轡を噛ました。
暫く放置しておく事にした。
その前に一応釘を刺しておく事にする。
「おい、次に又暴力に訴えて来たら二度と突っ掛かってこれない様なお仕置きするからな、俺はやると言ったらやるぞ」
アンナは大人しく聞いて居た、諦めの表情をして俺の話を聞いて居た。
それを見て、そうか分かってくれたか等と思う程、俺は頭お花畑の夢見る夢子ちゃんでは無い。
コイツは絶対、そう必ず又やる、百円賭けてもイイ、この世界に百円は無いんだが‥‥
そしてその日は来る。
「お前‥‥ 俺は言ったよな? やるなと」
「・・・」
コイツ・・・
縛られたら大人しくなるよな、まぁ良いだろう、刑執行だ。
とりあえず冷たい水をたっぷりと飲ませてあげた、暴れて喉も渇いただろうし腹一杯飲ませてあげようじゃないか。
何? もうイイだと? 遠慮するな飲め飲め。
寒いだろう? 簀巻きにして暖めてあげようじゃないか。
暖かくなって喉が又渇いただろう? 飲めよ遠慮するなよ、何だと? 俺の冷水が飲めないのか?
あー そうかそうか、地べたじゃ水飲みにくいよな、木に吊したら飲みやすいだろう。
これで飲みやすくなったな、氷も入れてやろう、冷たくて美味しいぞ~ そうか、泣く程嬉しいか、追加だもう一杯飲め、遠慮するな、俺の奢りだ。
「うー もう飲めないよー」
「何? もう一杯飲みたいと? お前欲張りさんだな~ ホレ氷を追加で入れてやるよ」
「無理、無理、もう無理・・・」
「無理無理言ってたら何にも出来ないぞ! 無理と言う言葉が無理なんだ、兎に角飲め」
「本当に、本当もう飲めない・・・」
「何! 暑いだと? それはいけない、氷で周りを冷やさなければ!」
アンナの周りに氷柱をこれでもかと出し、冷やしてあげる、俺は何て優しいんだろう。
縛る時も痛くない様に、かつ跡も残らない様に縛ってあげてるし、何て優しいんだ。
吊るす時も同じ様に気を使って吊るしている、その事をアンナに伝えると、
「あ 悪魔・・・」
等と抜かして喜んでくれてる。
「えっ? もう一杯飲みたいのか? 分かった、特別だぞ、仕方無い奴だなぁ」
「無理 無理 無理」
もう一杯飲ませたが流石にこれ以上飲ませるのは物理的に、お腹的に厳しいと判断し、ラストオーダーとした。
そして‥‥
「お前なぁ、暴力に訴えて来るなと言ったよな? 俺が手を出さないと思ってやり過ぎなんだよ、本当、男ならカンチョーの刑だぞお前」
「う~ お腹がたぷんたぷんだよ~ と言うかカンチョーって何なの?」
「んー 教えない、教えたらお前やりそうだから」
「う~ ケチ、ねえお手洗い行きたい・・・」
「気のせいだ、お手洗い何てのは気のせいだよ」
「・・・」
それから暫くしてアイザックのじい様が通りかかった、アンナは神を見たかの様な顔をしたが。
「何じゃアンナ、みのむしみたいじゃなぁ、はっはっは」
と言い通り過ぎて行った。
その時のアンナの絶望した顔を俺は忘れる事は無いだろう。
アンナは俺によく突っ掛かって来ていたし、それを俺が華麗にかわし、そしていなして居たので、灯台守のじい様達は又アンナが遊びに来て守長が遊んでやってるとしか思って無いのだ。
「ごめんなさい‥‥ もう二度としないからお手洗いに行かせて、漏れそう‥‥」
「無 理♪」
アンナは泣いて許しを乞うて来た、たがその度に
「無理♪」
「はぁ~ 聞こえんなぁ~」
「わけがわからないよ」
「あっ、聞いて無かったわ」
等と言い、要求を受け入れ無かった。
そしてその後どうなったかはお察しである。
その後暫くは近寄って来なかったが、明らかに再戦の為に近寄って来ましたと言う顔をしていたので、笑顔でロープを出すと凄い勢いで逃げて行った。
結局その後も再戦を挑んで来たが、ラップバトル宜しく、お口での対戦となったが毎回俺に泣かされて撃退されて、そんな事が続き季節が変わり、紆余曲折を経て、今みたいな関係になった冬頃にアンナに聞かれた。
「ねえ守長、前に言ってたカンチョーって何? 前は教えてくれなかったけど」
「ん? あー カンチョーって言うのはな‥‥」
そう、俺はアンナにカンチョーとは何かを教えてしまったのだ。
しかも・・・
「右手と左手を祈るように握って、左右の人差し指を付き出して・・・」
「それが基本の一本抜き手だ、そんで両方の中指を出すと二本抜き手になって、両手を真っ直ぐ伸ばして重ね合わすと地獄突きだな・・・」
そう、俺はアンナに、最も教えてはいけない奴にカンチョーの基本の型を教えてしまったのだ。
更にカンチョーする時の掛け声や、極意等も‥‥
俺にカンチョーの何足るかを伝授されたアンナが、何もしない等と言う選択肢を選ぶはずも無く。
アンナはその後、カンチョーと言う新な必殺技を使い、村の子供達に更に恐れられる事となる。
邪拳使いアンナの誕生である。
アンナは更に強化された・・・
そして何故かその頃から、フライングヘッドバットやヒップアタック等も新たに使う様になった、そして更に、猫だましもたまに使う様になっており、今迄ですら手が付けられ無かったのに更に、村の子供達を恐怖のドン底に叩き落とす事となる。
ハルータ村の子供達にとって暗黒時代の到来だ。
アンナが強化されたのは俺に毎日の様に突っ掛かり、撃退されながらもめげずに挑む事により、その行為が自然と修行になって居たと後に気付く事となるが、それを持って俺を責めるのはお門違いである。
確かにカンチョーの極意を俺はアンナに伝えた、だが奴の武を鍛えたつもりは一切無い。
むしろ俺は被害者だ、毎日の様にチンピラ幼女に絡まれて、挙げ句の果てに邪拳使いを育てた等と子供達に責められた可哀想な官吏さんだ。
派閥争いに巻き込まれて左遷され、挙げ句この扱いである、俺は帝国一 可哀想な官吏さんなんだ。
そう、だからその後に起きた悲劇、いや喜劇は俺のせいでは無い。
終わりがハッピーエンドで無ければ喜劇とは言えないでしょう
前世で読んだ小説の一節だ、あの事件は果たして喜劇なのか? それとも悲劇なのか・・・
とりあえずもう一杯コーヒーを飲もう。
俺はあの忌まわしき事件を記憶の中から引き出すべく、コーヒーの力を借りる事とした。
そう、あのカンチョー事件を・・・




