第51話 タコの滑り
カモメが鳴いている
日差しは更に照りつけて 肌が痛い位だ
地引き網は大成功だった
何度かやったが、結果だけ見れば、全てが大漁であり大満足の結果であった。
だが問題もある。
様々な種類の魚が獲れたが、その中に真ダコが三匹居たのだが、それの調理法についての問題が起きた。
スープの具材として使用する、それはまぁ良いだろう。
俺も好きだ、だがタコの滑りを取らずにスープにいれるのは如何な物かと思う。
この辺りでは、タコの滑りを取らずにスープに入れて作る。
俺はあれが大っ嫌いなのだ、前世の記憶では、フランス南部、いわゆる南仏辺りではその様にして調理すると聞いた事があるが、この辺りでもそうやって調理する。
各地域や人の好みに文句をつけるつもりは一切無い、それは文化でもあるからだ。
だがタコの滑りを取らないと匂いが・・・
簡単に言うと凄く臭いのだ、そう、凄く 凄く 凄~く! 臭い。
だがこの辺りの人間に言わせると、滑りを取るなんてとんでも無い! となる。
曰く、
『あの滑りと香りが旨味の一つなのに、滑りを取るなんて正気か?』
『アレが良いのに何を考えている!』
『旨味と香りの元を捨てる何てタコに対する冒涜以外の何者でも無い』
等々と延々と言われる事となる。
俺は地域の文化や伝統や、脈々と受け継がれて来た食と言う偉大な遺産にケチを付ける気等、更々無い。
だがあえて言う、アレはダメだ! 本当に駄目だ!
一言で言うなら 合わない、てか匂いが無理!
滑りも無理! 舌触りも無理! マジ無理!
俺は強硬に反対した。
だが村の皆や軍人達、そして官吏の一部の更なる反対により俺の提案は廃案になった。
軍人達も極少数は俺の案に賛成したが、圧倒的多数の反対に合った。
小物君もバハラ出身だからか、控え目に反対していた、むしろ何故滑りを取るのか 不思議そうにしていたぐらいだ。
てか君は士官学校の時はどうしていたんだ?
と思ったが、タコを食わなかったか、タコが出なかっただけだと思い あえて何も言わなかった。
昼食のスープには魚が入っていた、急遽追加で切り身を入れた様だ。
それは良い、美味かったし 何も問題は無い。
昼食後、バハラからの定期連絡要員が来た時も何も問題は無かった。
連絡要員によるとバハラと北方では遺体や船の残骸が結構な数が見付かったらしい。
そして東方ではそれに輪を掛けて発見されてる様だ。
海軍灯台の側でもこのハルータと同様、人も残骸も何も発見されていない。
これは予想通りで特に問題は無い。
対応5はまだ継続と言うのもまぁ予想通りだ。
連絡要員もやはり明日辺りが山場でないかと予想して居た、まぁ特に問題無く連絡交換は終わった。
問題は夕飯だ。
折角だから夕飯は村と軍人合同で作る事となった。
今まで、村の食事と軍人、官吏の食事は別に用意していたのだが、地引き網をした結果、一緒に作ってしまおうと言う話になったのだ。
まぁそれは良い、だがタコの滑り問題により強硬に反対した俺派と滑りを取らない派で完全に意見が分かれ、夕飯は別々に作る事になったのだ。
俺たちは守長派と村民達に言われ、今この瞬間、まぁ夕飯の時間迄は少数派閥となった。
夕飯は別々に作る事になったが、まぁそれは別に良い、俺は自炊は出来る。
実家住みであったが、前世では料理は作っていたし、今世でも色々作ったりして居る。
そしてここに赴任してきてから更に自炊をする様になった。
まぁとは言え 村民に作って貰って居たりもするので完全に自炊して居ると言う訳では無いが、作る事自体は別に苦では無い。
俺たち守長派は俺を含め、官吏三名、軍人五名の計九名だ。
官吏は、ケレイブ・カーンにシンバル、テイラー、の この近辺出身で無い物達で、特にケレイブ・カーンは 滑り何てとんでも無い 強硬派であった。
コイツはグリーンムーンで滑り有りの料理を食べて、そのあまりの香りと味に吐いたらしい。
グリーンムーンではタコの滑り有りと言うのは基本的に無いが、たまたま出す店があり、話のネタに食べた様だ。
と言うか今ここに居るのは、一度は食べて合わないと感じた者ばかりだ、もしくは酷い目に合った者と言えば良いのだろうか?
と言うか周りの視線が先程から集まって居る。
変わってんなアイツらって、思って居るんだろうな‥‥
それか こんなに美味いのに、旨味の元の滑りを取るなんてバカだなと思っているのか。
まぁそんな所だろうな。
魚はある程度の種類も数もある。
真ダコは大き目の足が三本に胴の部分も少々ある。
滑りは取ってある、酢ダコにしたいが九人で分けるとなると少々物足りない。
薄くスライスして酢ダコにしても良いが、ここはスープに入れるのが無難だ。
良い出汁が出ると期待したい所であるが量がやや少ないので余り期待出来ない。
まぁ具材としても味は良いから別にいい。
タコは薄くスライスしてスープに入れるとして、魚は身を団子にしたいが量の問題がある。
切り身にして入れるか‥‥
身が崩れるが仕方無いな、骨は魔法で乾燥を掛けて細かく砕いてから粉になるまで石臼で挽いて、それをスープに入れれば良い出汁になるだろう。
後はスルメイカが一杯だけある。
これは輪切りにしたらやはり数が取れないから輪切りを四つに切り分ける。
それを皆につたえると賛成してくれた。
まぁ、タコの滑りさえ無ければなんでも賛成するだろうが‥‥
しかしタコ自体は普通に食うんだよな。
前世の様に悪魔だなんだとは言われていない。
むしろ美味い物だと認識されてる。
実際ケレイブ・カーンもタコ自体は大好きだと言って居るし、他の者もそうだ。
因みにワカメを入れたいと言ったら、やんわりと拒否された。
『あの~ サリバン様‥‥ 私ワカメを食べると腹を下すので御容赦願いたいのですが‥‥』
その時に他の者を見ると同じ様に、いや 泣きそうな顔で御勘弁をと言われてしまった。
うん、ワカメを食うと腹を壊す奴が多いんだ。
その為ワカメは、便秘の時に食う 薬の様な扱いなのだ、前世で言う所の欧米人はワカメを消化する酵素か何かが無いとかそんな感じなんだろうな。
なのでワカメ案は否決された。
そして昆布を干し、乾燥させ粉にした物を俺は作っているのだが、まぁ昆布は出汁用と粉にした物は昆布茶用なんだが、昆布粉に関しては賛成された。
一応 味見がてら昆布茶を皆に飲ませたら即賛成された、皆が美味いと大絶賛であった。
そして昆布粉は摂取しても腹を下さないと言うのは実証済みとも伝えたら是非入れて下さいとお願いされた。
まぁ実際美味いし、実家では家族や商会の従業員達も飲んでいたし、それで腹を下した何て奴は居なかった。
しかし‥‥
ワカメでは腹を下すのに、昆布では腹を下さないと言うのは医学的な、何か理由があるのだろうか?
まぁ医者でも学者でも無い俺には分からないんだが、本当不思議だよ。
「これで棘鎧か海ザリガニでもあれば最高なんですが流石にそれは贅沢ですね」
「ああいいな、あれは良い出汁が出るからなぁ‥‥ 俺も大好物だよ」
棘鎧、まぁ伊勢海老だ、正式には棘鎧海老って言う、海ザリガニは、ロブスターだ。
この辺りの海には、伊勢海老もロブスターも何故か両方生息して居る。
この辺りが本当に分からん。
前世の海洋学者や偉い学者さんからしたら大変興味を引かれるんだろう。
「しかしサリバン様、手際が良いですね、作り慣れてらっしゃる」
「まぁ、食う位しか楽しみは無いからな、それに昔から色々作って居たから多少は手慣れてる」
「なるほど、サリバン様は食に拘わりがあるのですね? 趣味と実益を兼ねて居ると?」
「まぁどうせ食うなら美味い物を食いたいからな、それに皮剥き何てのは慣れだ、数をこなせば誰だって上達する、まぁ正直皮剥きは面倒だがな」
俺の言葉に皆頷く、まぁ皮剥きが何やかんやで一番手間も掛かれば面倒なんだ。
軍人達も割かし手際が良いがこれも慣れなんだろう
野外では調理をする事があるし、炊事係の兵が居ない事を想定して調理訓練をしているのかも知れない。
良し、あとは蓋をして暫く温めれば完成だ。
「皆ご苦労だったな、後は暫く温めれば俺達の夕飯は完成だ、薪番が時折かき混ぜれば大丈夫だろう」
うん、皆嬉しそうだ。
何と言うか達成感と共に仲間意識が出来た気がする、同じ釜の飯を食った仲間って言うが正に今の様な事を言うんだろうな。
夕飯が楽しみだ。
まぁ俺達、滑り無し組は固まって皆で作った物を食うんだ。
と言う事は同じようにスープを食った仲間か?
それとも滑り拒否仲間かな?
まぁどっちでも良いか、美味い物を一緒に作り、そして一緒に食えば仲間だ。
夕飯が楽しみだな。




