第37話 麒麟児
「ハァー 気持ち良いな」
思わずため息が出た、本当に気持ちが良い
他の者達もため息を吐いている
「本当に気持ちが良いですね」
「身体もスッキリした上、この涼しさだ 堪らんよなぁ」
「しかし本当に凄まじいですね 我々全員に再度清浄魔法を掛けて さらにこの氷の量、サリバン様の魔力は底無しだ」
「俺はこの冷たい水がありがたい、これもサリバン様が用意されたのだろう? こんな季節にこんな大量の氷、いや 氷柱を部屋に用意して貰った上、氷入りの水だ、しかも清浄魔法まで掛けて頂いて何て贅沢なのだ」
連れてきた若い者達が思い思い話し出している、
まぁ私も同感だ、こんな夏の暑い時期にこれ程の氷を用意するとなると、一体幾ら掛かる事やら‥‥
「一緒に来た軍人達にも同じ様に氷等が用意されて居るみたいだな、正に至れり尽くせりだ」
私の言葉に皆が頷く、バハラからここ迄、ろくに休憩を取ることも無く飛ばして来て、かなり疲れたが 清浄魔法を掛けて貰い、この部屋で氷入りの水を飲むと疲れが吹き飛んだ。
本当にあの方の魔法は凄まじい、噂には聞いては居たが、これ程までとは‥‥
「しかしあの隊長殿、もう少し考えて言葉を発して頂きたい物だな、私は卒倒しそうになったよ」
ジンバルの言葉に皆が頷く、「同感だな私は心臓が止まる処か、魂が身体から抜け出るかと思った」
「本当ですよカーン課長、俺は あの瞬間、髪がごっそり抜けた気がして思わず自分の髪を確認しましたからね」
カーチスの言葉に皆が笑う、だが私はいまいち笑えない、何故なら‥‥
「カーチス止めてくれ、私は最近 気になり始めているんだ その言葉は笑えない、いや、洒落にならんよ」
「それは・・・ まぁ何と言いますか‥‥」
カーチスの困った顔を見て皆が笑い始めた、いや これは苦笑か? 困った奴らだ。
「まぁ何だ、サリバン様は結果的には怒られ無かった、何と言えば良いのか‥‥ ウェリントン殿の事を 良い玩具が手に入った程度にしか思ってらっしゃらないのでは無いかな?」
私の言葉に又、皆が苦笑している、今となっては笑えるがあの瞬間は久々に頭が真っ白になった。
「それは酷い‥‥ まぁ自業自得なんでしようが 玩具としては少々面白味に欠ける玩具ですね」
「テイラー、君も結構酷い事を言ってるぞ」
「とは言え間違っても居ないだろう?ウェイン」
「まぁそりゃそうだな」
確かにそうだ、ウェリントン殿の完全な自業自得だ
あの間抜け‥‥ ウェリントン殿以外の皆が分かって居たのに、何故分からなかったのか不思議で仕方無い、幸いサリバン卿は怒ったりはされなかったが、それはあくまで結果論でしか無い。
まぁ‥‥
ウェリントン殿がここに居る間は、サリバン卿の玩具になるのは仕方無いし、それがある意味、
ウェリントン殿の当然の報いとして理解して貰わねばならない、
私に言わせればあの程度の皮肉と嫌味、そして暫くの間、玩具になる程度で済むのならば幸運であるのだから。
正直私にも先程のあの件は何も落ち度が無かったとは言えない、事前に説明をするべきだった。
まぁこれは言い訳にしかならないがウェリントン殿が 私の話を聞かなかったからだが、
それでも説明はしなければならなかった。
サリバン卿の服装や身に付けている物でアレ以外の皆が分かって居たから、言うまでも無い事だと決めつけて、思い込んでしまった。
遅きに失した感は合ったが、サリバン卿との会話の途中で忠告しようにも話しを聞いて貰えなかった。
こちらに来る迄に少しでも意志疎通を図ろうとしたが、全く相手にされず、出来なかった等は言い訳にしかならない。
それにあんなにも愚かだとは思いもしなかったと言うのも、言い訳でしか無い。
それを踏まえてアレとは接し、対応しなければならなかったのだ。
あの程度で事が済んだのは結果論であり単に幸運でしかない、この失敗を踏まえ同じ過ちは繰り返さない様にしなければならないな・・・
ネイサン・サリバン卿、我々官吏の間では有名だ
先帝陛下のお気に入り、誰もが考え付かなかった事を考え、そしてそれを実行しようとする男、
抜群の立案能力と、官吏として、特級官吏としても特に優秀な、麒麟児。
帝国の新な通信網の立案、計画、そして未だ計画段階であるが、通信網に革命をもたらすと言われた幻のとある計画案。
サリバン卿の呼び名も様々あるが、特に有名なのはやはり麒麟児であろう、だがその呼び名は決して本人の前で言ってはいけない。
サリバン卿が、自身を麒麟児と言う呼び名で呼ばれる事を、事の他嫌っていると言うのは有名だ。
噂では先帝陛下がそう呼ばれた時に、頑なに拒否し、遂には認められたとか、
そう呼んだ者を叩き潰し、失脚させたであるとか、
相手が泣いて膝をつき許しを乞うた等、色々な噂がある。
巡察使も確か、先帝陛下が褒美に爵位と領地をと
仰られた時に、畏れ多いと辞退し巡察使をと望み
下賜されたのだ。
巡察使は有名無実であり、ここ数百年 任命された者は居ない。
だが巡察使は有名でもある、それは子供の頃にお伽噺や昔話として寝物語を聞かされているからであり、
かく言う私も憧れた口だ。
一説にはサリバン卿が爵位を辞退したのは、
貴族の派閥争いに巻き込まれる事を避けたとか
貴族の柵が煩わしかったや、
他の者の嫉妬や妬みがこれ以上増えるのを避ける為である等、色々と噂が流れた。
貴族が力を失って久しい、今は我々 官吏の時代だ
だが まだまだ官吏は貴族出身者が多い、
その為、貴族 官吏の派閥争いに巻き込まれるのを避けたと、まことしやかに囁かれていた、
あくまで噂ではあったが・・・
帝国の麒麟児。
サリバン卿が特級官吏として合格した年は
特に優秀な者達が合格した、
他の年度であれば、合格した全員が首席合格者となったであろうと言われて居た程、優秀な者達が集まった。
しかも5人全員が未だ10代で合格したのだ、そしてサリバン卿以外の4人が学園の在校生であり、サリバン卿も未だ15になる前に、確か15歳になる歳の時に特級官吏試験に合格しているのだ。
学園生の4人の内3人が最終学年である3年生、もう1人が1年生で、5人の内2人が女性であり、
その2人が首席と次席であったのも有名だ。
帝国の歴史上、女性が首席になる事は何度かあったが、首席と次席が女性と言うのは初めての事であり、かなり話題に上ったものだ、まぁその時の合格席次の決め方も独特と言うか、変わっていたからそれも話題になったものだが‥‥
全員が優秀過ぎて合格席次を決める事が出来なかった為、ならば能力以外の物で、能力に甲乙付け難いのであれば運で決めようとしたのは、最初に聞いた時は何の冗談だと皆で笑い話をしたものだが、本当にくじ引きで合格席次を決めたと聞いた時は驚いた物だ。
運も実力の内、そして能力が甲乙付け難いのであるならば運否天賦で決めると言うのは、何と言うか度肝を抜かれたものである。
サリバン卿は席次3位だったな、5名の内の最年少、
男では席次最高位、まぁ合格者が5名だったので
余り意味が無いように思うかも知れないが、
特級官吏試験は合格する事自体に意味がある。
何せ合格者が0人の時すらあるのだから。
私など特級官吏試験処か、上級官吏試験すら受けようとは思わなかった。
下級官吏試験でも私には難関だったのだ、
そう考えるとやはり比べる事すら烏滸がましい。
「‥‥‥よう ‥‥ーン課長?
カーン課長、どうしたんですか? 何度も呼んだのに?」
「済まない、考え事をしていた」
いかんな、私は思考の海に沈んで居たらしい、
「何を考えてらっしゃったんです?」
「うん、サリバン様の事だよ、カーチスはサリバン様のあの政策の恩恵を受けたんだったな?」
「あー そうですね、孤児ギルドの恩恵を受けた初めての世代ですし、あの方の孤児院改革のお陰で かなり余裕が出来ましたからね、卒園してから三年程 民間で働いて試験に合格出来たのも、あの方の提言のお陰ですし、俺に取っては恩人ですね」
あの提言、サリバン卿が先帝陛下に提出したレポートは、優秀と言われたあの年の合格者達が提出すると言う事で注目されていた。
その中でもサリバン卿のレポートは先帝陛下が大絶賛したと言う事で、特に有名だ。
そして実際、実施される事となり 徐々に効果を発揮し始めた、カーチスの様に孤児院出身者から、官吏になる者が少しづつであるが増えてきている。
孤児院出身者の質が向上し始めているのだ、
まぁ元々 孤児院出身者は努力家が多い、
努力家にならざるを得ないと言うのもあるが、
それに加えて質も上がってきている。
「本当に優秀な方だよ、何故こんな所に左遷されたのか、私にはさっぱり分からないよ」
私の言葉に皆が頷く、何と言うか帝都のお偉いさんの考えている事等さっぱり分からない。
まぁ私みたいな下級官吏が、お偉いさんの事が分かる訳無いか。
何せ私など、只の木っ端官吏なのだから……




