第34話 下級官吏と英雄
沈黙と静寂が辺りを支配している
しかし耳を澄ませば微かに人の声が聞こえる
それは喧騒が微かに風に乗りこちらへと運んで来てるからだろう
ウエリントン君改め小物君の顔色が非常に悪い
まぁその後ろに居る奴等の顔色もかなり悪いが……
「大丈夫ですか? 皆さん顔色が非常に悪いですが
どうかされましたか? 先程からずっとですね?
まさか緊張されてるので? まさかこんな木っ端官吏の前で 緊張する様な事は無いでしょうし
何か気に食わない事でもおありですか?」
「・・・」
うん、後悔先に立たずとは良く言ったもんだ、
まぁそうだよな、左遷されたとは言え、
特級官吏に散々暴言吐いた挙げ句、イキった事抜かしたんだからな。
特級官吏の権限、権力は絶大なるものがあるからな
例え左遷されてこんな片田舎に飛ばされたとしても
権限、権力が完全に無くなった訳では無い。
まぁ、権限、権力だけで無く、コネを使ってこの小物君をどっかに飛ばす事等 造作も無い事だし、それこそ朝飯前だ。
ついでに出世に大きく影響が出る様にする事も
ちょいちょいのちょいだからな。
まぁ軍の事を官吏に口出しされるのを
軍人達は良く思って無いから少し手こずるだろうが出来無い事も無い。
それで無くとも俺ら特級官吏は帝国騎士でもある
たとえそれが名ばかりの名誉号であったとしてもだ
ついでに俺は巡察使でもある、
今コイツの頭の中では 様々な事が思い浮かんでいる事だろうな、そら頭真っ白にもなるわ。
「どうされましたか? 何か失礼な事でも言ってしまい 御気分を悪くされてしまいましたか?」
「あっあっあ」
うん、コイツ本当面白いね、愉快な奴だよ
嫌いじゃ無いなコイツの事。
「どうされました? あー そう言えば状況を説明しろとおっしゃってましたね、説明させて頂いても宜しいで御座いますでしょうか?」
「いえ、その、で 出来ればせつ…… ご説明して頂ければ有難いなぁと思ってまして…… 宜しいでしょうか? 申し訳ありませんお手を煩わせてしまいまして」
コイツ 手のひら返しが凄いな……
まさに手のひらクルッだ、こう言うのを
熱い手のひら返しって言うんだよな?
良いぞ~ コイツは小物の中の小物、
小物界の帝王だ!
しかし小物なのに帝王ってのもおかしな言葉だな
まぁ、意味は通じるんだろうけど。
う~んコイツは軍人より官吏に向いてるんじゃ無いか?
官吏になったらそこそこ出世しそうなんだがな
こう言う切り替えの早さ、あっさりとプライドを
捨てて損切りが出来る思い切りの良さ
こう言うのは本当官吏向きだよ、
下級官吏でも案外良い地位まで行きそうだな。
しかしこめつきバッタかって位こいつ
ペコペコし出したな、久々に見たぞこんな奴。
本当いいぞ、俺はこう言う小物が嫌いじゃ無い、
だって面白いからな、てか何て愉快な奴だ!
「所でまだ貴方のお名前は伺ってませんが、こんな木っ端官吏に名乗る名は無いと言う所でしょうか?」
「いえいえとんでもない! 誠に失礼致しました
自分はアーサー・ウエリントンであります!」
「・・・」
マジか‥‥?
あの英雄と同じ名前かよ‥‥
まぁ前世の英雄だがな。
「あの~ 如何されましたか?」
「あー 失礼、良いお名前ですね、二度と忘れる事が無い良いお名前ですよ、記憶に刻み込まれました」
あれ~ 又汗が凄いな、もしかして嫌みっぽかったかな?
だが実際忘れる事は無いだろう色んな意味でな。
「所でこちらに来るとの連絡が一切無かったのですが出発の際連絡を山頂灯台にはなさらなかったので?」
「………… 一刻も早く向かうべきかと思いまして…… 連絡はその~ 申請に時間が掛かりますので、とるものも取り敢えず駆けつけた次第でありまして‥‥」
「・・・」
おい!それって結局申請すんのが面倒だから
手間を省いたって事だろ? 誰かに頼めや!
そしたら連絡がこっちに来るだろうが、
段取り悪いな‥‥
一緒に来た官吏をチラッと見ると何度も頭を下げていた、5人で来たのか、てか残り4人は後ろに居たのか 4人共まだ若いな、この4人の若い官吏は経験を積ませる為とサポートの為だな。
さっきコイツに声を掛けた一番年嵩の奴が官吏の中の頭なんだろうな、40を少し過ぎた位かな? 当然5人共が下級官吏だ。
てか小物君、大急ぎで来た割には物資はきちんと持って来たみたいだな、俺の視線に気付いたのか官吏達がペコペコと頭を下げた。
「いやー 連絡は兎も角準備は万全ですね~ これだけ準備するのも大変だったでしょう? かなりの時間が掛かったのでは?」
「いや~ それ程でも…… そんなに時間は掛かっておりません」
ふーん、一応俺の嫌みは分かってるみたいだな、
そうだよな、準備する時間が掛かるなら連絡申請する時間くらいはあるからな、しかし甘いな
そこはたまたま準備を整えてたとか、
一刻も早く準備しなければと必死になってやった
と言うべきだったな。
「そうなんですか! そんなに時間が掛かって無いと! いや~ 有能なのですね~ バハラから出発するまでかなり余裕があったのでは? 落ち着いて余裕を持って、色々と確認してから出発されたのではないですか?」
「・・・」
俺が言った意味が分かったみたいだな、馬鹿め
お前が面倒臭がって連絡しなかった事等お見通しだよ。
「どうしました? 又、顔色が優れませんが?」
「いえ‥‥ 問題ありません」
問題しかねーわ、まぁ受け入れ態勢は整っているからそう言う意味では問題無い。
だが君は問題アリアリだな、
いやまぁ面白いから別に良いんだけど。
さて……
「バハラから一緒に来た官吏は前に出ろ」
俺の呼び掛けに5人が前に出る、
うん素早い動きだな、だが少しばかり緊張し過ぎじゃ無いか? まぁ先程のやり取りを見てたらそうなるか、まぁその辺りは仕方無い部分がある。
「名前は?」
「はっ! バハラ行政府、海事局、船舶航行部、
航路保全課所属のケイレブ・カーンです」
ん? 船舶航行部 航路保全課?
「おい、何故航路保全課なんだ? それに船舶航行部? このような場合は港湾局、防災部の保全課の担当では無いのか?」
本当にバハラの海事関係局の組織はややこしいな、
似たような部局に課が多過ぎる、恐ろしい事に俺が居た頃より統廃合して昔よりまだ組織の無駄が省かれてスッキリしてるんだからな‥‥
「はい、その‥‥ バハラ側で停泊していた船同士の接触事故が多発致しまして、その対応に追われておりまして…… 又、沖合いの捜索等に手を割いて対応致しており……」
「つまり人が足りないからお前が応援として
こちらに派遣されたと言う事か?」
「そうです」
バハラではバタバタしてるって事か、バハラ側は被害が大きかったと言う事かな? まぁそれだけでは無いだろうな。
「お前がこちらに派遣された理由は分かった、
それ以外にも理由があるな?」
「はい、私は南方諸島の言葉に精通しております、それも理由の一つです」
うん、まぁそうだろうなとは思って居たが……
「それ以外の理由は?」
「その‥‥ 他の官吏の実地での対応に関しての管理も含まれております」
「つまり連れてきた奴等に経験を積ませる為と 若い奴等の引率役か? まぁ試験官役も含まれてそうだな?」
そんな困った顔すんなよ、だが言葉を飾らずに言えばそう言う事だろ。
連れて来た奴等は皆まだ若い、下級官吏の中でもそこそこ期待されてる奴等なんだろう、そいつらに経験を積ませつつ、ケイレブ・カーンがコイツらの対応力を見る為の試験官って所かな?
しかし、俺はこのケイレブを見た事が無いのだが。
俺が15の時、正確に言えば15歳になる年に特級官吏に合格し、最初の一年は帝城で研修だった、
それから三年バハラに赴任して居たがその三年間にコイツは1度も見た事が無い。
コイツの年齢から考えると俺が居た三年間、
1度も顔を見た事が無いのはおかしい。
10~12年前なら居たはずだ、もしかして‥‥
「おい、ケイレブ・カーン お前もしかして最近
バハラに赴任してきたのか?」
「はい、一年程前に赴任致しました、それまでは南部のグリーンムーンに居ました」
なるほどね、コイツも派閥争いの影響で移動したのか、バハラへの赴任なら勝利者側に属して居たかな? グリーンムーンもまぁまぁ大きな港町だからな、単に派閥争いの影響での人の移動に巻き込まれた可能性もあるな。
若い奴等を引率、そして試験官として来たのなら無能と言う事は無いな。
そしてあの小物君のサポート、及びブレーキ役としても期待されて送り出されたんだろう。
まぁ…… その期待は裏切られたがな、
上の奴等の予想以上に、小物君が思った以上にお馬鹿さんだったのだからな。
それは別に良い、俺は小物君が気に入ったしな、こんなに面白い奴を送ってくれたんだ感謝してるよ
嫌みとか皮肉でも無く本当にそう思うわ。
さて
「連れてきた4人は南方諸島の共通語は話せるのか? 話せるならどれ位話せる?」
「はい、4人共日常会話であるならば不自由はありません」
うん、なら良いだろう、問題は今の所南方諸島の 共通語は必要無いと言う事だな。
「お前は南方諸島の共通語以外は話せるか?」
「いえ、挨拶ぐらいであれば三ヶ国は話せますがそれ以上は話せません、ですが南方諸島の共通語であれば自信が有ります」
あー 南部も南方諸島の共通語があれば十分だもんな
まぁそれ以外にも必要な言語はあるが‥‥
「因みに救助した奴が1人居るがそいつは帝国語も南方諸島の共通語も話せ無い、そいつはエピリ語しか話せ無い」
「それでは意志疎通に問題があるのですか?」
そうだなそう思うよな普通は、だが……
「俺が話せるから問題無い」
「それは‥‥」
驚いてるな、エピリ語はマイナー言語だからな、
しかしコイツ、エピリの事を知っているのか、
言っちゃ悪いがあんなマイナーな国を知ってるとなるとコイツ案外掘り出し物かも知れないな。
「あの~」
あっ!
小物君の事忘れてたわ
軍人達の受け入れをさっさと済ませてしまおう




