第31話 クレア・サリバンの追憶
帝都にて
クレア・サリバンの場合
ガタガタガタと音が少し大きく聞こえる
相変わらずこの辺りは道があまり良く無い
そのせいか馬車の揺れも少し強い
ふと外を見ると昔と変わらぬ街並みがあった
あの通りの裏通りは確か・・・
~~~~~
私には弟が居る、三つ下ですごく優秀だ。
弟はこの間卒業検定試験を受けて合格した。
だから弟は今、学校に通って無い。
私も試験を受けたいと言ったけどまだ早いって言われて私は受けれなかった。
何で私はダメなのって聞いたら絶対に合格しないし
学校に通って色々学んで来なさいって・・・
じゃあ弟は? そう聞いたらあの子は特別だって
確かに弟は凄いと思う、家庭教師の先生も凄いって言ってるし、両親もうちの商会で働いてる皆もネイサンは凄い凄いって言っている。
私だって頑張ってるのに・・・
何で弟だけなの? 私も頑張ってるんだよ。
でも弟は凄いって私も思ってる。
時々私はお姉ちゃんじゃ無くって、もしかして妹なんじゃないのかと思う事がある。
弟はもしかしたらお兄ちゃんなのかもって
最近思うような気がする。
でも私はお姉ちゃんでネイサンは私の弟で
だから私はネイサンを守ってあげなくちゃ
弟は色々と新しい商売を始めている。
お父様は儲かりそうだって喜んでいる。
それとは別に弟は魔法を使ってお商売をしている。
弟は魔法が使える、私は使えないのに……
ちょっとズルいと思う。
私も魔法が使えたらいいのに……
何で私は使えないんだろう?
それに弟は色んな国の言葉を喋れるし読み書きも出来る。
何でネイサンはあんなに色々出来るんだろう?
お父様もお母様も商会の従業員もみんなみんな
ネイサンには期待してる、良い跡取りが出来たって
私はお嫁さんに行くからあんまり期待されてない
少しは私に期待してくれても良いのに・・・
私はお姉ちゃんなのにな・・・
妹達だって私よりネイサンにばっかりくっついてる
私はお姉ちゃんなんだよ。何でなの?
そりゃあネイサンは凄いし、頭も良いし優しいし、
すっごい すごーい魔法も使えるけど……
私お姉ちゃんなのにな……
~~~~~
「クレアどうしたの?」
「ちょっと昔の事を思い出してたの」
「昔の事?」
夫がキョトンとしている。
何だかその顔が可笑しかった。
「何で笑ってるんだいクレア?」
「ごめんなさい アナタの顔が可笑しくって……
昔の事と言うより 弟の事を思い出してたの」
「ネイサンの事? 何を思い出したの」
夫が少し興味がありますと言う顔が可笑しかった。
「子供の頃にね……………………」
~~~~~
あの日も弟は本を読んでいた。
確かバラス高原会戦記始末を読んでた。
弟は昔から本が好きで何時も読んでたの、
色々なジャンルの本を読んでいて、経済学の本や、
それこそ民間伝承や恋愛小説みたいなものまで
何時も読んでいた。
それに読むのが早かったし、一回読んだら内容も
完璧に覚えていて、不思議に思って聞いたら
『速読だよ』って言ってたわ。
私は本当は読んでないと思って指定したページを言う様に言ったら、一字一句完璧に諳じたの。
ええ、到底子供が読む様な物で無い、内容の本でも弟は読んで居て、私も何回か見てみたけど 全然理解出来なくてちんぷんかんぷんだったわ。
それでね、その日は学校が休みで少し退屈で……
まぁ色々考えてたの、私はお姉ちゃんなのに、
ネイサンにお姉ちゃんらしい事を何も出来て無いって。
そうねえ・・・
お姉ちゃんぶりたかったし、それに少し背伸びしたかったと思うの。
それでね、あの子を連れ出して色んな所を案内して
私は凄いってネイサンに自慢したかったの。
でもあの子ったら 全然興味を示さなくって
『勝手に二人だけで行ったら 危ないし怒られるよ』
何て言って又本を読み出してね。
私が『怖いの? ネイサン』って煽ったら
『うん 怖い 怖い』何て言うのよ。
まるで相手されなかったし、それが何か腹が立っちゃって、むきになって連れ出そうとしたわ。
ん? ええ、あの子は当然興味を示さないし、
何を言っても本を読んだまま私に行かない理由を説明して…… あの子ったら表情1つ変えずに諭す様に私に言うの。
でも余りにも私がしつこかったのか少し眉根を寄せてね『行かない』って、少しきつめに言って来たの。
それでネイサンが本を読み終わって、次の本を手に取って…… それが何だか無性に腹が立って。
『私1人で行く』って言って家を飛び出したの。
そしたらね、あの子が追いかけて来て……
『ねーちゃん待てよ』って言って。
それで私も意地になっちゃって……
で、思ったの、このまま行こうと思っていた所に
ネイサンを連れて行っちゃえって。
あの子は足も早いし体力もあったけど、
私の方が年上だからまだ足は早かったのね、
それに体力は同じ、いえ違うわね。
少しネイサンの方が体力は合ったから差が縮まってきたの。
それで目的地に行くまでに捕まりそうだったから
道もロクに確認せずに走っていて……
『そっちはダメだ! 裏通りは本当に危ないから』
って…… それで私もむきになっていたからあの子の言う事を聞かずに一本裏通り入って、更にもう一本裏に入って行ったの。
ん? 家からは結構離れてたわね。
家の近所なら裏通りでも、それ所か何本裏道に入っても安全だけど、私が入り込んだ所はあまり治安が良く無い所だったから……
そうね軽薄だったと今なら思うわ。
でもあの時はあの子の鼻を明かしたって喜びが大きかったの。
途中で何度も『本当に危ないから行くな』ってあの子に言われてたのに、むしろあの子が珍しく焦っている顔が楽しくって嬉しくって・・・
言われる度に裏道に入って行ったのよ……
そんな事続けて行く内に流石に私も息が上がってネイサンに捕まったの、で、その時になって初めて周りが見えて、自分が今何処に居るか分からない事に気がついたの。
私は不安だったけどネイサンはね、
『マズイ所まで来ちまったな…… この辺りは本当に治安が悪いのに』って言ったの。
それで私は益々不安になったのだけど、
ネイサンは自分達が今何処に居るか分かってたみたいで、『まず大通りまで出よう』って言って、
『大丈夫だから ねーちゃん』って言ってね、
不安がる私を宥めて手を繋いで引っ張って歩き出したのよ。
ふふっ、可笑しいでしょ、本当、どっちが年上なのって話しよね。
それでね、ネイサンに手を引かれて本通りまで後一本、裏道にやっと辿り着いた時にね、前を塞ぐ身なりと柄の悪い男が三人居たの。
ニヤニヤと笑って、私達の前を塞いで
『ドコに行くんだ?』
『綺麗なお洋服だなぁ~』
『お家はお金持ちなのかな~ ちょっと恵んでくれよ なーに ほんの金貨100枚でイイからよ~』
って、何が可笑しいのか大笑いしだしたの。
私は怖くて怖くて仕方無かったけどネイサンはね、
ため息を吐いて『面倒クセーな』ってぼそっとね呟いたの、何時もと変わらない口調で……
それでちょっと冷静になって、ネイサンを守らなくっちゃと思って前に出たの。
そしたら男達が『あらあら勇敢なお嬢ちゃんだなぁ こえーおしっこちびっちまうよ』
って言って又笑い出したの。
怖かったけど弟を守らなくっちゃ、だって私はお姉ちゃんなんだから、そう思って勇気を振り絞ったわ。
でもね、あの子が私の手を引いてね、後ろに下がらせたの、それで私に小さな声で、
『今からちょっとお仕置きするから ねーちゃんは俺が頭撫でる迄耳を塞いで目を閉じといて』
って言ったの、私は訳も分からなかったし、
『何で?』って聞いたの。
そしたら『ねーちゃんを助ける為だよ、だからお願い何も言わず俺の言う事を聞いて』って……
ネイサンが真剣な顔して言うから思わず
『うん分かった』って言ったら、
『大丈夫だよ、直ぐ終わるからね』って、
微笑みながら私の頭を撫でてきたの。
それで目をつぶって耳を塞いだら微かに
『ありゃりゃ 怖いんでちゅかー』って言う声が聞こえて、ギュッと耳を押さえたの
どの位こうしてたら良いんだろう?
今、何が起きてるのかな? って暫く考えてたら
そしたらね、突然ピカッと光って、次の瞬間に ピーーって凄い音が鳴ったの、音は何回も聞こえて、耳を塞いでいたのに 塞いだ手越しに聞こえたのよ。
それから暫くして大きな声とか、何かがぶつかるような、倒れるような音が聞こえてきて……
その間は不安で不安で堪らなかったわ……
でもね、あの子が…… ネイサンが微笑みながら
大丈夫って言ったから……
だから不安ではあったけど怖く無かったの。
あの子なら、ネイサンなら何とかしてくれるって、
大丈夫って言ったんだからだから大丈夫なんだって、心からそう思えたの。
そんな事を考えてる内に頭を優しく撫でられて
目を開けると、あの男達が倒れて三人共大勢の大人の人に取り押さえられててね。
『もう大丈夫だよねーちゃん』って……
それからたまたま近くを巡回していた衛兵に男達を引き渡してあの子が衛兵に説明したの。
凄く堂々としてたのよあの子。
私? 助かって心から安心したからか、
大泣きしちゃって言葉にならない声で、
『私はお姉ちゃんだからー』って・・・
それしか言って無かった気がする。
その後は迎えにきた両親に泣かれて、
心配したって言われて、私も泣いて……
無茶苦茶怒られたわ。
まぁ、私が原因だから仕方無いんだけど。
ネイサン? 言い訳もせずにごめんなさいって言ってたわね。
結果的にあんまりあの子怒られて無かったわね。
その辺り上手いのよあの子は、
でも、原因は私だから あんまりあの子が怒られなくて良かったとも思ったのよ。
え? 私が目をつぶって居た間の事?
あー 勿論ネイサンには後で聞いたわよ。
私が目を閉じて耳を塞いだ後、
男達の1人が寄ってきたらしいの。
あの子一応は確認したらしいのね。
『俺たちを拐って金でも取る気か?』って
でその男達が
『ちょっとお前達の親から金貨を恵んで貰うだけだ ほんの金貨100枚だけな』
そう言ったらしいの、それであの子は
『世間じゃそれを誘拐って言うんだ馬鹿が、
てか口くせーんだよ、このヨゴレ共が』って……
それを聞いた男達が激昂して一人がネイサンを
捕まえようと近寄って来て・・・
それであの子・・・ その・・・
うん・・・ 言いにくいと言うか……
その……
ネイサンは近寄ってきた男の、その……
き 急所をね……
その……
股間を力一杯、思いっきりその…… つま先で蹴り上げたらしいの……
それで痛みで前のめりになった所をね、
今度は顔面に…… 鼻に肘を叩きつけて鼻を潰したらしいのよ。
それでその後、魔力を目一杯込めて残り二人の
男達に灯りを当てたんだって。
そう、あの灯りよ、あの子魔力が凄く多いから
それで目一杯魔力を込めて灯りを発動させたみたいなのよ。
昼間に、それも目をつぶって居ても光るのが分かった位だから相当強い光だったと思うわ。
それでその後にね、笛を吹いたって。
うん?・・・ あー そうね、ネイサンは子供の頃に笛をね、首から掛けて持っていたのよ、
そうそう、思い出した?
だから子供達に笛を持たせてるのよ。
それで笛を何度か吹いてこう叫んだんだって、
『火事だーーー!』
『幼児趣味の変態に襲われるーーー!』
『変質者に拐われる~~~!』
『女の敵だ~~~!』
『痴漢が~~~!』って
そしたら表通りや近所からフライパンとか箒や麺棒を持った女の人とか、男の人が大勢駆け寄って来たって。
それでその人達が取り押さえてくれたの。
衛兵? 大丈夫だったわよ、ネイサンは一切お咎め無しだったわね。
まさかあんな子供が大人の男を倒せる何て普通は思わないでしょう?
それをやっちゃうのがあの子なんだけど……
ふふっ、そうね、人の呼び方も上手いのよ、
ただ助けてって言っても人は来ない、
何故なら危険な目に合いたく無いから。
でも自分の身に降り掛かるなら話は別、
だからあの子は最初に火事だって叫んだの、
それで皆の注意と気を引いたのよね……
機転が利くのよ、昔からよあの子は、
本当、凄い弟を持ったものよね。
そうね、あの子たまに口が悪くなるのよね。
ええ、昔からよ、普段はそうでも無いのに時々凄く口が悪くなるの。
まぁ、それでも私にとっては可愛い弟よ。




