第214話 サリバン一家
このジジイ共は何で眉根を寄せてポカーンとしてやがる? カッチカチの鉄板レースを外したみたいなツラになってるぞ。公営ギャンプルの場に行けばこんなお顔した奴大勢居るんだけど、ここは賭場か何かか?
「おいクソガキ。俺は腹割ってって言ったよな? ふざけんじゃねーよ。オメーやっぱ何か裏でもあんのか?」
「あのな、俺は真面目に話してるし、真面目に言ってるぞ。これは本心だ。とは言え……。少し説明不足かも知れないな」
このスケベジジイ共に俺が如何に苦労しているか。そして可哀想な立場か説明する事にしてやろうじゃないか。
毎日毎日ほぼ変わらない日々。
書類仕事なぞ朝イチに一瞬で終わる事。そしてある日は終業前にもその日一日の分の書類仕事や、それこそ次の日の分の書類仕事もやるが、即、それこそ一瞬で終わらし、やる事が直ぐ無くなる事。
ならと、灯台守のじい様達の仕事を手伝おうとしても、じい様達が皆俺に手伝いをやらせてくれない事。
いわく『ワシらの仕事だから』や『身体が鈍るからええ』とか、『気持ちは嬉しいが、手伝われたらワシらのやる事が無くなる』だとか、『この灯台の守長の仕事じゃ無い』等々、俺を関わらせてくれない事。
掃除とかも魔法を使い綺麗にしようと思っても、ダメだと言われたり、『ワシらの意味が無くなる』からと使わせてくれない。
『守長としての仕事が終わってヒマなら、散歩でもするか釣りでもしに行ったらエエ』とか言われる。
なので仕方なく、そう、仕方なく散歩しに行ったり、釣りしに行ったり、村のガキ共と遊んだり、村の男衆や女衆と井戸端会議したりと、そんな事しかやる事が無いと。
後は灯台の敷地内に畑を新たに造り、そこで畑仕事をしてみたり、鶏を飼い、世話したりとか、蜂も飼い? 巣箱を作り養蜂してみたりとか、読書しちゃってみたりであったりと、そんな可哀想な日々を過ごしている事を語って、 俺が如何に不遇な生活をしているか、そして転落人生か、その事をスケベなおじ様達に訴えてみる。
するとどうだ。俺の話に、俺の可哀想な人生と境遇を思ってか眉根を寄せてポカーンとしている。
このエロの塊、スケベ道を極めているおじ様達が口を半開きになってるのは見なかった事にしておいてやろう。
「あー……。つまりあれか? ヒマでヒマで仕方ないから、だからコレを作ったと?」
「だからそう言ってるだろ」
「裏も何も無く、ただヒマだったから、だからコレを作った。間違い無いんだな?」
「だから~。何度も同じ事を言わせるなよ。暇潰しにコレを作った。只そんだけの事だ。一応言っておくが、片手間に作ったが手は一切抜いていないからな。ちゃんと考えて作ったし、俺が聞いてる限りの事だが、バハラの今の状況と状態を考え、状況と状態に照らし合わせて、現状に則した上で仕上げてるからな。やる以上適当にやるつもりは無い」
だからそうだと何回も言ってるのに。それなのにコイツらときたら……。お前らは暇人ナメてんのか? と言うかマジでコイツらボケてんじゃないだろうな?
「「「「「「・・・」」」」」」
「おいお前ら、何時までも呆けてんなよ。てかさっきから何度も同じ事を言わせるなよ。ヒマだからコレを作成した。それ以上でもそれ以下でもねーよ」
「チッ……。良い御身分だなクソガキ」
「ハァ? なら代わってやろうかローガンおじ様? お前ヒマを舐めんなよマジで。あんなもん牢獄と一緒だぞお前。ヒマ過ぎてその内俺は頭がおかしくなるわ。申請しないとあの村から出る事も出来ないし、緩やかな牢獄だ今の生活はな」
マジでふざけてるよな。何で村から出るのにいちいち申請しないといけないんだ? いやまぁ隣のフィグ村には行ってるけど、軍の山頂灯台をいちいち気にしないといけないんだぞ。
フィグ村でギリだからな、村から出るのを申請無しで許されてるのは。
フィグ村は真隣だし、山頂灯台も見えるから、だから許されているが、なら街道側に出るのも許せよな。街道側の方がフィグ村より近いし、山頂灯台も見えるのに。
とは言えだ。鬱陶しいが理由は分かる。理解したくないが村から申請無しで出る事が出来ない意味も分かる。嫌だけどな。
いざ何かあった時の為だし、仕方ないとは思うが。でもそれでもだよ。
緊急連絡の際に問題があるから、あまり遠い場所に居るといざという時に色々遅れる。だから申請が必要なのは分かる。嫌だけどな。
「ヘッ! 良い気味だなクソガキ。バチが当たったんじゃないか? ん~?」
「・・・」
ほう……。この寝取られおじ様は、大層なお口を利くじゃあないか。なるほど、このジジイは俺との有意義な議論がしたいらしいな……。
「どうしたクソガキ? 黙ってちゃ分かんねーぞ、ん~?」
本当コイツ。お前周りを見てみろよ。
他のおじ様達がお前をどんな目で見ているか分かっていないみたいだな。『余計な事を言うな』
皆そんな目でお前を見ているぞ。今回の議長でもある宵闇のツラを見て見ろ。そんな事を言えば、クソガキを喜ばせるだけだって思ってるぞ、多分な。後は、何で自分が議長の持ち回りの時に。そう思ってるんだろうな。つまり余計な事を言うなと。
「あ~あ。ボク気分を損ねちゃったな。ボク官吏に向いていないのかなぁ? 辞めちゃおうかな」
「おう辞めろ辞めろ。官吏を辞めたら権限も無くなる。そしたら俺が可愛がってやるよ」
このアホ。暴走牛って二つ名はアレか? 考え無しで突っ走るってトコから来てるのかな?
俺が官吏を辞めたとしても、巡察使まで辞める訳じゃ無いんだぞ。しかも御免状も無くならないし、御免状の持つ権限と特権もそのままだ。
もしかしてそれ等の事を忘れてるのか? それかアレか? 自分が得た権限や権力を使うのは卑怯だとか、そんなの使わずやれとでも思ってるのかな?
たまに居るよな。自分が得た権限や権力や金を使い、事を成すのをダメなのですぅとか思ってる奴。
アホか。使える物は全て使うに決まってるだろ。何より自分の力で得たそれ等を使わずヤレって、それって舐めプしてる様なもんだろうが。そっちの方がよっぽど問題だよ。
たまに居るんだ。自分が得た全てを使い、事成すって事を卑怯だとか、それは違うって言う中学生みたいな奴ってな。何でだろうな? で、口だけで、人間性とかで事を成せって言いたいのかも知れないが、それはそれでどうせ違う奴には口だけだとか、口先だけの奴って言われるんだ。
どっち道何をやっても批判したり、否定したがる奴ってのは居る。右にしたら左の奴はダメって言うし、左にしたら今度は右の奴がダメと言う。
厳しいからと優しくすれば甘いと言う奴も居るし、優しくすれば甘い、もっと厳しくしろと言う。
どっち道どうせ批判されるんだ。なら自分が思う最も効率良くやる方が良い。それで失敗すれば自分のせいだし、人の意見にいちいち反応してたら芯がブレる。批判の為の批判をしたがるお方ってどんなとこでも居るしな。
大体だ、法を犯してる訳でも無いし、決まり事を破ってる訳でも無いんだ。なら自分に与えられた力は使うに決まってるだろ。
まぁ良い、それよりこの寝取られローガンめ、生き生きと演説していらっしゃるが、自分の立場を分かっていないのかな?
「気持ち良くお喋りしてる寝取られローガンさん。キミ……。さっき俺を可愛がるとか言っちゃってくれてたけど、ボクにそんな趣味は無いって言ったよね? 悪いがキミの想いや気持ちには応えられないよ。だってボクは女の子の方が好きなんだ。だからローガン君の想いや気持ちには応えられないよ。ゴメンネ。他を当たってくれるかな」
「なっ!」
なっじゃねーよ。ノーマルだろうがアブノーマルだろうが本人の自由だが、それを人に押し付けるのは違うだろ。
「でもぉ、ボク……。官吏には向いていないのかもね。本当に辞めてぇ、違うお仕事しようかなぁ? 例えばぁ、ババラでぇ~、御商売しちゃおうかな? そうだね。サリバン一家を立ち上げてみちゃおうかな?」
おいおい宵闇の。お前ボソッと『海蛇の。オメーが余計な事を言うから……』って。キミは正しく認識してるみたいだね。そうだね、余計な事をほざきまくるからややこしくなって行くんだよ。
「おいクソガキ、オメーそりゃどう言う意味だ?」
「ハァ? どう言う意味も何もそのままの意味だが?」
「ふざけんじゃねー! 何が一家を立ち上げるだ? このババラで? 許されると思ってんのか?」
「許されるも何も。俺がサリバン一家って商会を立ち上げるのに誰の許可が要る? あーそうか。商会を立ち上げるのなら国の許可は要るか。支払う税の問題があるもんな。そうかそうか。国には申請しないといけないな」
「クソガキが……」
「おいおい。俺がお前達のお仲間になるからってそんなに喜ぶなよ。同業他社が増えて喜んで貰えて嬉しいよ。照れるじゃないか。アレかお前? 照れ隠しにそんな物の言い方になってんのか? なぁローガンおじ様」
いやぁ歓迎されてるねえ。まいったなぁ。
「オメー今同業他社って言ったな? 何がお仲間だふざけやがって」
ちょっと違うな。俺は真面目にふざけてるんだよローガン君。
「だってぇー商会を~、このババラに新たに立ち上げるのならぁ~、お仲間じゃないかい。ボクはぁ~、今迄~、店舗と事務所を~、ちゃんと構えていなかったんだからぁ、間違いでは無いよネ? おいハゲ、お前んトコの海蛇一家も一応は商会だよな?」
おいおいハゲ。お前なぁ、俺が聞いてるんだからちゃんと答えくれよ。いちいちローガン君の方を見なくても良いんだぞ。
いやまぁ勝手に口を利いても良いかの判断が付かないのか。事が事だからな。
「お前な、俺はただ、お前んトコの一家が商会かって聞いてるだけだぞ。一応会頭のローガン君にいちいち確認しなくてもそれ位は答えらるだろ?」
「そう……ですね。ウチは商会も持っていますね」
うーん。従業員の教育が行き届いているね~。寝取られローガン君が頷くまで下手な発言はしないんだから。
しかしお前商会も持ってるって。名目上の御商売は商会なんだからもっと堂々と言えば良いのに。
「で? オメーは何処に商会を開くつもりだ?」
「バハラに決まってんだろ。話の流れから行ってそれ以外あるか宵闇のおじ様」
「・・・ババラの何処で商会を立ち上げる?」
嫌そうに聞くなよ。そんな態度を取られたら嬉しくなっちゃうじゃないか。
「そら花街に決まってるだろ」
「クソガキ! お前何が花街にだ? おもいっきり、あー! どう考えても裏家業しますって言ってる様なもんじゃねーかよクソ」
さっきからギャーギャーとうるさい寝取られ性癖のジジイだなぁ。お前今回の議長の宵闇のおじ様を差し置いてうるせーよ。
「ハァ? 意味の分からない事を言うのはヤメて頂けますかローガンさん。ボクはただ、花街に店舗と事務所を構えるだけですよ。何しろ花街の商売は儲かる。そら商売人なら利益を追及するのは当然だろうが」
「オメー……。俺らの縄張り荒らすつもりか? もしそうなら戦争だぞ。後先考えねえ戦争になるぞ」
おっと。ローガン君目付きが変わったね。何時ものアホヅラから、反社丸出しの雰囲気醸し出しちゃって。
てか周りのおじ様達も剣呑なお目目しちゃってまぁ。ボク、楽しくなってきちゃった。