第210話 お・じ・様♪
本日二話目です。
前話をお読みで無い方はお気をつけ下さい。
視線が集まっている。
だがその視線は残念ながら野郎の、それもチンピラ共の視線だ。
「おい弟」
「えっ? あの、その、もしかして俺、いや、自分ですか?」
「お前以外の誰が居る? お前は俺を兄ちゃんと言っただろ? そうかぁ……。まさか俺に弟が居たとはなぁ。我が父がまさか浮気して、外で子供まで作ってたとはな。ビックリだよ。しかもバハラで子供を作ってたとはな」
「いや、あの、その……」
「お前歳は幾つだ?」
「二十四です」
もう少し下かと思ったが違ったか。
「そうか、俺は二十九だ。やはりお前は弟だったか……」
妹達よりも下か。ならコイツは末っ子になる訳だな。
「えっ、二十九? 冗談ですよね?」
「本当だが。何だ、俺は老けて見えるか? サバを読んで若く言ってはいないぞ」
「いや、あの……。逆です。若く見えらっしゃるので」
コイツ敬語がおかしくなってるな、緊張し過ぎだろ。
そらそうなるか。いきなり現れて、自分より上の立場の人間が敬語で話し、気を遣い、しかも組織のトップを知ってるっポイんだもんな、そらこうなるか。
「で? さっきのハゲ、もしかしてローガンおじちゃまんトコで、まだ一家を構えて無かったりするか?」
「ゲーブルさんは海蛇一家の中で、自分の一家を構えてます」
ん? 何か違和感があるな?
もしかしてコイツ……。
「お前もしかして、ローガンおじちゃまんトコの若い衆じゃ無いのか?」
「はい、自分はフルハウス一家の者です。ゲーブルさんは、仕事の関係で知り合いました。海蛇一家とウチが共同事業をしてて、ゲーブルさんには世話になってるんです。自分にとっては親しくさせて貰って、可愛がって貰ってる人です」
あーそうか。今や夜遊び交流会は、仲良し倶楽部だもんな。
かってはフルハウス一家と海蛇一家は、犬猿の仲だったのに変わったもんだよ。
儲かると分かったらそれか? 仲良く金儲けする方が利があるなら、それに越したことはないもんな。あんだけいがみ合ってたのに、人間何てそんなもんか。
「あの~。アナタはどう言った方なんですか? ゲーブルさんとも知り合いみたいだし、海蛇の親父さんとも知り合いみたいですが……」
「俺か? お前のお兄ちゃんだ」
「・・・」
お前そんな困ったツラすんなや。只の軽口なのに、俺がダダ滑りしたみたいになるだろ。
とは言え初対面だし、コイツから見たらどうも俺は、組織のトップ連中とも知り合いみたいだから、どう答えて言いか分からないんだろうな。
それに加えてあのハゲに俺は客人だって言われたし、答えにくいってのもあるか。
「しがない只の官吏だよ。昔にちょっと縁があってな、それで夜遊び交流会の連中とは、知己を得たんだ」
「官吏、ですか?」
「そうそう。只の官吏だよ。しがない只の官吏」
しかしあのハゲいつの間に一家を構えてた?
いかんな、情報に抜けがあったか。あのハゲにもサプライズでプレゼントを贈って、いや、送っておくか。
それともう少し夜遊び交流会関係の調べを、強化しないといけない。確かあのハゲは、ローガンのボディーガードのトップではあるが、一家を構えてはいなかったはず。
ボディーガードを引退して、一家を構えたのかな?
珍しい形態の構成員ではある。普通はボディーガードでも、その組織の中で一家を構えてて、そんで本家の頭の守りをするんだが。
あのハゲは一家も構えず、ボディーガード一筋だもんな。しかもローガンの信頼厚い奴でもある。
そう考えると、今まで自分の一家を構えなかったのがおかしい位だ。
となると今まで一家を構えず、奴のボディーガード一筋だったのは、ローガンに対してかなり忠誠心が高いって事だ。
俺には一撃で倒されたが、一応アレでも腕っぷしは一家の中では一番だったみたいだし、頭の回転も良いと言われてたらしいからな。
とは言えそれはあくまで裏社会でって、それも海蛇一家でって、のが言葉の前に付く訳だが。
「サリバンさん、お待たせしました。親父達の許可が出ました」
「ん、そうか。なぁ、奴等ゴネなかったか?」
「・・・突然の訪問で驚かれていました」
あー、相当ゴネたんだな。
言葉を選んで話してる様だが、お前のツラを見てたら分かるよ。
俺が会場に入ったら大歓迎なんだろうな。多分あの汚いダミ声で、奴等はギャーギャー言いながら、歓迎してくれるだろう。楽しみだよ。
「さぁ行こうか。おい弟、お前も来い」
「えっ? 俺、いえ、自分もですか?」
「何を動揺してんだよ。お前はいまいち胆力が足りんな、俺の弟だろ? 皆に紹介するから来い」
おいおい、ハゲを見ても何も解決しないぞ。
お前はうちの村の村長か?
「ホレ行くぞ弟よ」
だからハゲを見ても解決しないって。
そしてお前、ハゲが首をゆっくりと左右に振ってるのを見て、絶望した様なツラをすんな。諦めろってハゲは言ってんだよ、腹を括れ。
それと良かったな。お前を見て、皆が気の毒そうな顔をしてるぞ。
人望が無かったり、嫌われてる奴なら、気の毒そうな顔をせず、嗤ったりしてるもんだが、お前を見る目にその様な愉悦は全く感じない。それも誰一人としてその様な目でお前を見ていない。
つまりお前は、少なくとも嫌われ者では無いと言う事だ。
むしろこの場に居る奴等の、周りに居る奴等のお前を見る目を見る限り、好かれているってのが分かる。
人望があるって分かって良かったな弟よ。
「おいハゲ、紹介しておこう。コイツは俺の弟だ。ついさっき分かった。連れてくけど良いよな?」
「駄目と言えば連れて行きませんか?……」
「何だって? 聞こえんなぁ~」
「・・・サリバン様、案内します……」
このハゲ僅かに胸が上下したな? 分からない様にため息吐きやがったぞ。失礼な奴だよ。
「えっ、えっ、えっ? あの、えっ?」
「オラ弟、グズグズすんな行くぞ」
「でも俺は、いや、自分は二階に、階段を上がる権限が無いんですけど……。自分の立場じゃ許されてはいないんですが……」
「気にすんな、イケるイケる。ホレ行くぞ」
肝っ玉の小さい奴だ。アンナを見習え。
アンナなら例え帝城であろうと、許可さえあればズカズカと入り込んでくぞ。
ヘタすりゃ陛下にも物怖じせず、普通に話しかけるだろうな。
「・・・ケント行くぞ……」
「良かったなデリカット」
「えっ?」
「あー、ギルバート」
「いや、何ですか? もしかして自分ですか?」
どうしよう、コイツちょっと面白いんだけど。
リアクションが良いな。
「おいハゲ、奴等は全員居るな?」
「はい、皆さん揃っております」
分かってたけどな。
よっぽどの事がないと会合に不参加は無いみたいだし、最近は仲良し倶楽部になってて、結構この会合を楽しみにしてるって話だからな。
それに皆が一同に集まる機会は、この夜遊び交流会の会合位だから、仕事の話や儲け話をする良い機会にもなってるみたいだし。
しかし弟君は顔色が悪いな。死刑執行前夜みたいな顔になってるぞ。
別にビビる様な奴等じゃ無いんだけどな。只のスケベジジイ達だし。
「失礼します。サリバン様をお連れ致しました」
「おう、入れ」
偉そうに……。今のはローガンおじちゃまか?
相変わらず酒やけしたきったねーダミ声だな。
「チッ、クソガキが……」
「おいおいおいおい、ご挨拶だなローガンおじちゃま~。久々なんだぞ、可愛い美少年に会えて嬉しいんだろ? 素直じゃ無いなぁ~」
「チッ……。何しに来やがった?」
「喉が乾いたからお茶を飲みに来たんだよ♪」
「・・・」
懐かしいだろこのやり取り。
いや~、見事にきたねーツラ並べてやがんな。
ジジイ共は皆、俺に熱い視線を向けて来てるが、そんなに嬉しいのかな? 穴が空くほど見詰めんなよな。照れるわ。
「おいおい、俺が美少年だからって睨み付けんなって。自分のブサイクさから嫉妬してると思われるぞ」
「クソガキが……。相変わらず口の減らねーガキだな」
「ご挨拶だなぁテーラーおじちゃま~。孫のミアちゃんとポール君、学園に通ってるんだって? いや~、大きくなったね。所でボクのプレゼントは二人共喜んでくれたかな?」
「・・・」
何を嫌そうな顔してんだよ。二人共、俺のプレゼントを喜んでたらしいじゃないか。
贈り主の事を聞かれて、お前は困ってたらしいがな。
「良かったねテーラーおじちゃま。本来なら二人共あのままでは、学園には入学出来ないはずだったのに、裏から表に商売の重きを置いたから入学出来たんだろ? なら俺は恩人だね」
「クソが……」
本当の事だろうが。
裏社会の身内が学園に入るのは無理とは言わないが、本来なら難しかったんだから。
表に出ず、あのまま裏組織のままだったら、二人が学園に入学何て出来なかっただろうしな。
それが例え二人に学力があったとしても、多分無理だったはず。
組織が表に出たから今があるんだろ。
とは言え二人共、ちゃんと勉強に頑張ったから入学出来たんだがな。
「で? オメーは何しに来た? まさか俺らのツラ拝みに来たってんじゃねーだろ?」
「いやですわ、そんな言い方しなくても良いのではありませんか、ローガンお・じ・様」
「誰がおじ様だ。気持ち悪い……」
「ハァ? お前、いや、お前達、マデリン嬢におじ様って言われて鼻の下伸ばしてんだろ? だから言ってやったのに、それなのにお前……。誰が気持ち悪いだチン○ス、口の聞き方に気を付けろボケ! 舐めた事抜かすなよフニャチン野郎が。もっとお上品に話せやチ○カスがよ……」
おい、今誰だ? 貧民街の奴でももっと上品に話すって言った奴は?
それと、上流階級の出のくせ、俺らより口が悪いだと? 失礼な。俺は良いとこ出のお坊っちゃまだぞ、クソ共が。
ギャーギャーうるさいなぁ……。
もっと静かに、お上品に喋れよ。俺に会えて嬉しいんだろうがはしゃぎ過ぎだ。
「で? 何しに来た?」
「うるせーなぁ……。お前ら相変わらず客のもてなし一つ出来ないのか? 茶位出せやボケ。お里が知れるぞ。おいハゲ、茶くれや、淹れる前にちゃんとお手て洗えよ」
「お前に出す茶は無い。カーク、出さなくても良いぞ」
おいおい、マデリン嬢には最高級の茶葉を使ったお茶と、茶菓子を出してるのに、俺には無しか? かぁー、ケチ臭い奴等だよ。扱いの差が激しすぎるよ本当。
「チッ……。そんなんだから囲ってる女にまた、他に男を作られるんだよ。なぁ弟、お前どう思う?」
「・・・」
おい、お前は何、他人のフリしてんだよ? お前は俺の弟だろ? つれない奴だな。お兄ちゃんは悲しいよ。
「おい弟、何かどっかの暴れ牛だか暴走牛だとか言われてる奴、そいつ寝取られたらしいぞ。おいこっちを向けって、聞こえないフリすんなよ」
「・・・」
確か海蛇一家の暴走牛って呼ばれてる奴が又、そう、また寝取られたんだったな。
しかし何でだろうな? ローガンおじちゃまは、突然何故か、苦虫噛み潰したみたいな顔してんだろうね。何故か更に嫌そうな顔して、俺を熱い眼差しで見てるんだろ? 不思議だなぁ。
「なぁなぁ弟、お前どう思う? 寝取られって何回もやられると、性癖になるらしいぞ。なぁなぁ、もしかして寝取られる事が癖になって、性癖が歪んだのかな? おい、耳を手で塞ぐなって。目を瞑るな、こっち向けって、なぁ」
お前は貝にでもなったのか?
自分の殻に閉じ籠るなよ。だがアピールとしては満点だな。
「俺は何も聞こえないし見ていない。俺は何も聞いて無いし見ていない。俺は何も聞いて無いし聞こえない。俺は何も見えないし見ていない。俺は何も……」
固く閉じた目は絶対に開けないと言う、固い意志を感じる。
耳を押さえてる手は、絶対に離さないって強い意志をコイツから感じる。
コイツ……。やるな、中々賢いじゃないか、判断力が良い。アピールとしては本当、満点だよ。
使えるなコイツ、うん、状況判断能力が良い。キープだなお前は。
さてと。しかし何故かローガンおじ様は、顔色が良くないな。
「あれあれ~、ローガンおじ様~、お顔が怖いよ? 何でなの? 何でそんなお顔をしてるのかなぁ、ボクわかんなーい。何でそんなお顔をしてるの~? ねぇねぇ何で~? そんなお顔をしてるとボク怖いよ~」
「クソガキが……」
「いや、お前はクソガキとしか言えないのか? もうちょっと何かあるだろ?」
お前は壊れたレコーダーかよ?
「チッ、オメーは何をしに来たんだよ? 用が無いなら帰れよ。なぁ、頼むから帰ってくれ」
ウンザリした様な顔しやがって。
用があるから来たんだよ。それをお前達がチンピラ丸出しで悪態吐いてくるからだろ。
話が進まないのはお前らのせいだよ。それを俺が悪いみたいに言いやがって。
用がなきゃ、お前らの汚いツラを見に来る訳が無い。自意識過剰のナルシシスト共めが。
「バハラにおける現在の治安状況。現在悪化しつつある治安の改善案と提言、及びその具体的な改善策」
「は?」
「は? じゃねーよ。バハラの現在の状況と、現状の改善案をアドバイスしに来たんだよ。じゃなきゃわざわざお前らのアホ面を見に来ると思うか?」
間抜け面しやがって。仕方ない、このアホなおじ様共にも分かる様にちゃんと説明してやるか。