第209話 弟…… なのか……?
晴れ渡った美しい空。
風も無く、お日さまの暖かな光が気持ちの良い日。
今が冬で、冬の寒さが嘘みたいなそんな気分の良い今日。
つまりささやかな幸せを感じて居た日。
だった……。
「オラ、これが見えねえか? いちいち言わせんなよ、金出しな。有り金全部だぞ」
「・・・」
「おいおい、ビビんなって。何も殺そうってんじゃ無いんだ。有り金出したら無事逃がしてやるよ」
「俺達は紳士だからな。大人しく有り金渡しゃーよ、指一本触れないから安心しな」
「おう、コイツの言う通りだ。俺達は悪い奴じゃねーんだ。ちょっとばかし有り金恵んでくれたら何もしねーから安心しな。ただし逆らうってんなら……、分かってるだろ?」
「・・・」
「オラ、俺達も暇じゃ無いんでな、さっさと出しな。ビビって動けないなら勝手にまさぐるぞ。オメーも野郎に触られたくは無いだろ?」
「・・・」
「チッ……。おいダメだコイツ。ナイフにビビって動きが止まりやがった。仕方ねーなまさぐるか。おい、とっとと頂いてここから離れちまおう。最近は南方諸島のバカ共のせいで衛兵とか軍の奴が増えたからな」
「・・・」
「さてと……、アガッ。ウッ……」
「テメー何しやが……、ボファ、あっあっあ、腕が、腕が、腕がぁー!」
「テメー! グフッ、ガガガガガ……。あああーーーーー! ガヒッ……」
チッ……。このアホ共が。
相変わらずこの辺りは治安が良いな。
最近はおじ様達が治安の向上に努めてたから、大分マシになったとは聞いてたがコレか?
ましてや南方諸島の食い詰め者達が増えたから、衛兵だけで無く軍人達や、自警団の奴等の見廻りが増えてるのに、それなのにコレか?
本当に治安の良い所だよここは。
そう言や前におじ様達の会合に飛び入り参加した時も、ここを通ったな。
あん時は確か五回絡まれたんだったか?
いや、その内二回は会合の場の近くで警備してた、下の奴等に誰何されたんだったか。
なら実質三回か? まぁ……、あの時は絡んでこられた五回共、昼寝させたから結果的にはあまり変わらないか。
しかし治安の良い所だよここは。
今も地面を寝床に、おねんねしてる奴等を心配そうに見ている奴等が多い事多い事。
そうだな、後は奴等に任せようか。
人情溢れる所だからなここらは。うん、俺が去れば奴等は喜んで介抱しに来るだろう。
そうだな……。奴等がこのアホ共を介抱しやすい様に、俺も少し協力しておくか。
「や、やべでぐれ……。アゴが割れでる……。で、でぼ折れでる……。ゆるじでぐれ……」
足は大丈夫そうだな。なら足をイッとくか。
コイツはこれで良し。後の二人は……。えい! やぁ! とお! ホレ! よーしオマケだ。それ!
うーん。ナイフをくれようとしてた御礼は、これ位かな? 俺は何て甘いんだろう。
自分自身の甘さにヘドが出るね。ナイフを俺の身体に直接くれ様としてた奴等をぶっ殺さず、この程度のお仕置きで済まそうとするなんて、本当、自分の甘さが嫌になるよ。
しかしまさか帝国人にカツアゲにあうとは。
おじ様達は何をやってるんだ? 治安の向上にもっと力を入れろよ。
いや待てよ。昔は三回だったから、一回に減ったと考えれば治安は向上したのか? そうだな、六割~七割減ったと考えれば良くはなってるとも考えられるか?
まぁ良いや、さっさと行こう。
おっと、ナイフは回収しておかなきゃ。
再利用されたら宜しく無いからな。川なり何なりに寄付しておくか。さっ行こ。
ん? おー! 流石人情の街だな。
この冬の日に、地面でお昼寝しているあの三人組を心配して、周りから人が集まって来たぞ。
おっ、三人組の体調だとか、身体の負担になるからか、懷の重い物を抜いてあげてるんだな。
ありゃ。なーんだトンカチまで持ってたんだ。
うん、トンカチも重いもんな。そんな重い物を持ってたら身体の負担が増すもんな。
うんうん、お金も重いもんな。小銭とてその重さは負担になる。邪魔だよね。
あれは……。財布か? そうだよな財布なんて重い物は、推定病人には負担になっちゃうよな。
おいおい、人情溢れすぎだろ。財布をどっちが持ってあげるかで揉めるなよ。
お前達良い人か? 善意の気持ちからしてる事なのに、どっちが善意があるかで張り合うなって。
ありゃりゃ。あれは……。服を着てると辛そうだからって、脱がしてあげてるのかな?
皆が三人の服を脱がせてあげるって、それはちょっと過保護過ぎないか? 甘やかし過ぎだと思うぞ俺は。
しかし……。あの三人組は暑いとか言ったのかな?
三人共あっと言う間に、マッパになったじゃないかよ。あー、パンツだけは履いてるか。
おやおや、一人褌の奴が居るが、その褌君はもしかしてかなり暑いんだろうか? 褌を外されて完全にマッパになったな。
もしかしてその褌は、洗濯してあげようとしてるのかな? 急いで洗いに行っちゃったぞ。
正に電光石火、介抱? 介護? してた奴等が全員居なくなっちゃったね。君達は恥ずかしがり屋さんみたいだね、礼も言わさずあっと言う間にみな消えちゃったよ。
さてと、こんな人情溢れる所に居たら、また教育しなきゃならなくなる。俺はそこまでお人好しじゃ無いからな、 面倒だしとっとと行こうかね。
おいおい、俺を見つめるなよ。そんな目で見られちゃうと嬉しくなっちゃうじゃないか。
君達と遊んであげても良いけど、急いでるから雑な遊びになっちゃうぞ。
具体的には股間の蹴りあい遊び。但し先手は俺な。俺は子供だから、先にやりたがるんだ。
ありゃ、にっこり笑いかけたら、凄い勢いで逃げちゃった。傷つくなぁ……。
そんな顔をして逃げられると、なんだか仲間外れにされてるみたいだよ。
それとも恥ずかしがり屋さんだから逃げたのかな? そうだな、恥ずかしがり屋さんだったんだろう、そう思おう。
ん? また遊びたそうな目で、俺を見て来る奴等が居るな。仕方ないなぁ、ちょっとだけだぞ。
あらら、アレはさっきの親切な奴じゃないか。
三人組を介抱してたあの親切な奴め、俺と遊びたそうにしてた奴に何か言ってるね。
あっそうか! 自分の親切具合がみなにバレたら恥ずかしいから、だから止めてるんだな。
うーん、何故か顔色悪くして逃げちゃったよ。
にっこり笑顔で見返したのにな、逃げなくても良いのに。
おっ、自警団が居るじゃないか。少々顔付きが悪いと言うか、若干チンピラ顔だが自警団員か。
あれは夜遊び交流会の下の奴等かな? なら本職のチンピラか。一応腕章があるから自警団ではあるのだろうが人相が悪いなぁ。
だが我らのブライアンに比べたら、チンピラ度が足りんな。本職のくせ、素人にチンピラ度で負けるとはどう言う事だ?
もっと気合い入れてチンピラ道を突き進めよ。何で顔に傷があるのに、ブライアンよりチンピラ度が足りないんだろう?
ブライアンなんか顔に傷一つ無いのに、なのにお前らよりよっぽどチンピラ丸出しだぞ。
ブライアンを見習えお前達。気合いが足りんな、チンピラとしての心構えがなって無い。
チンピラが人相の悪さで負けてどうするんだ。
ん? 何かチンピラ自警団が増えて来たな。あっそうか、もう目的地付近だからか。あの角を曲がったらそうだな。
何かあっと言う間に到着したけど、途中で遊んだり、人情溢れる場面を見たりしたからか、退屈はしなかったからかも知れない。
しかしあの自警団達は一切声を掛けて来ないな。
これが一昔前なら、間違いなく声を掛けて来てたが、変わったって事か。
入り口はあそこだったな? まぁ良いやさっさと入ろう。
「おいちょっと待て。ここは立入禁止だ、場所間違ってないか?」
「間違って無い。ここだ」
「いやいや、ここは今日は、関係者以外立入禁止になってる。間違ってるぞ兄ちゃん。目的の場所言いな、教えてやるから」
あらら、この子俺より年下だよな? もしかして俺の事を自分より年下だと思ってないか?
まさか! コイツは俺の弟なのか? 父さんあんたまさか、まさか……。浮気してたのか?
何だと……。腹違いの弟が居たとは……。
母さんにバレたらヤバいぞ。
「兄ちゃん、別に取って食おうってんじゃ無い。そんなビビんなくても何もしねーよ。人には誰しも間違いはある。目的地を言ってくれたら教えてやるから」
「弟よ、間違いじゃ無いんだ。俺の目的地はここだ」
「弟? 兄ちゃん、オメー酔ってんのか?」
「素面だ、弟よ」
「いや、おい……。弟って……。オメーまさか葉っぱでもヤッてんのか? おい、この兄ちゃん衛兵の詰所まで連れてけ。どうも葉っぱでご機嫌な様だ」
失礼な弟だな。葉っぱなんてやってねーよ。
もしくはアレか? 我が父に捨てられてひねくれちゃったのかな? あり得るな、やさぐれちゃって、裏社会に飛び込んでしまったのか。
「苦労したな弟よ。これからは兄ちゃんが力になるぞ」
「いやもういいって。誰が弟だ。チッ、葉っぱやってる奴はこれだから……」
「いやお前弟だろ? だって俺の事を兄ちゃんって言ったじゃないか」
「いやだから……。あーもう! おいジョズ、コイツ早く連れてけ。衛兵には葉っぱでイッちまってるって、ちゃんと説明しろよ」
葉っぱどころか酒も一滴も飲んで無いわい。
まぁ良いや、遊んでないでさっさと入ってしまおう。
「ちょっと待てケント」
「ゲーブルさん、コイツ葉っぱでイッちまってるみたいなんです。今ジョズに、衛兵の詰所に連れて行かせようかとしてたんです」
おやおや、このハゲあの時のスキンヘッドか。ローガンおじちゃまんトコの奴だな。
大分老けたな。まぁあれから十年以上経ってるもんな、そら老けもするか。
「久しぶりだなハゲ。元気そうだな、お前中では無く、外担当ってもしかして下手打ちして降格したのか?」
「お久しぶりです……。自分が中では無く、外に居るのは、親父のボディーガードが変わったからです。今は自分の歳の事もあって、昔に比べたら動きも悪くなりました。なので違う若い奴が親父の守りについてます」
守りってのはお前達の専門用語だろ?
素人に言っても普通は通じないぞ。それよりもだ。
「あーそうか。まぁ良いや、奴等はみな中に居るんだろ? 入るぞ」
「待って下さい、今日来られるとは聞いてません。前以て許可の無い者……。方を中に入れる事が出来ないんです」
「アポ取れってか? いやだなぁ、俺と奴等の仲じゃないか。とりあえず喉乾いたから茶飲みたいし入るぞ」
何がアポイントだよ。それなら奴等が大好きな、サプライズにならないだろうが。
こう言うのはインパクトが大事だ。自分のペースに持って行くには、ちょっとした驚きは必要だからな。
「待って下さい。親父に、上に伺いを立てて、許可を取ってからでないと入れる事は出来ません。少し、少し待って下さい」
「面倒。無理ならどの道そのまま通るけど? 五十人位か? まぁ良いや、多少時間は掛かっても、お前達を全員昼寝させる事位出来るしな。中にも同じ位居るだろうが問題ない。今日は面倒だから魔法使うし、入るのにそんなに時間も掛からないだろうし」
「・・・」
そんな困った顔すんなや。お前の立場上、許可の無い奴を入れる事が出来ない何て、分かってんだよ。
仕方ない、サプライズは失敗か。なら譲歩してやるか。
「仕方ない、お前の顔を立ててやる。奴等に俺が来たと言ってこい。ゴネたり、拒否しやがったらこう言え。おじちゃま達に会いに来たのに酷いよ。そんな事言うならボク、無理やり入っちゃうぞってな。今日は魔法も使うから、あん時よりも早くお前達の居る所まで行けるとな」
「分かりました……。伝えて来ます。少々お待ち下さい」
「おう。それとボディチェックも免除で。拒否したら分かってるんだろうな? ともついでに伝えてこい」
「分かりました……。伝えます。おいお前達、この方に下らない事を言ったり、絡んだりするなよ! 客人に粗相をして、親父達に恥かかす様な真似はするなよ! では、伝えて来ますのでお待ち下さい」
「おう、行ってこい」
さて、久々だな。あのきったねーツラを拝むのも。
懐かしい再会まであと少しだな、おじ様達。
17時にも投稿します。