第199話 美しさは罪①
不思議なもんだよ、バハラで、それもアマンダと二人並んで歩いてるってのも。
ちょっとしたデート気分って言うのかな? 何か良いなこう言うの。
「アマンダ、こんな時間なのにまだ人が多いな」
「そうだね、でも昼前はもっと人が多かったんだよ。それこそ身動き出来ない位に人が居たの」
「今日は何かあったっけ? たまたまかな?」
「たまたまだと思う。でもそうね…… 今日は天気が凄く良いから、だからかな? たまにあるの、冬で天気の良い日って物凄く混む時がね」
単純な理由だが大いに納得出来る理由ではあるな。
そら天気の悪い日に買い物に行くのは億劫だ。出来れば晴れた天気の良い、気持ちの良い日に行きたいよな。天気が良いと気分も良くなる。だから購買意欲も上がる。そして店は大繁盛。うん、風が吹けば桶屋が儲かる理論ってやつか。
それにしても……。俺達二人を見てくる奴が多い。
特に男がアマンダと俺を交互に見てくる。それも驚いた様にだ。うん、アマンダが男と普通に喋ってるってのもあるが、二人並んで歩いてるから余計になんだろうな。
理由としてはアマンダが男と笑って会話を、それどころか普通に会話すらしないってのが、ここでも有名なのかも知れない。
時折その男共の中で、嫌な視線を向けてくる奴が居るな。親の仇でも見る様な、憎々しげで、嫉妬心が入り混じった感情を視線に乗せてぶつけて来やがる。
あまり愉快な視線ではないな。だがまぁ何があろうと所詮は素人で、ケンカ自慢のド素人の殺気でしかない。
中学生のイキった奴が向ける程度のそんなぬるい、勘違いした奴の殺気など、だから? としか言い様が無いな。鼻で笑っちゃうわ。
「どうしたの守長? 笑ってるみたいだけど?」
「ん? アマンダが今日も可愛いなぁって思って。そんで嬉しくなって笑っちゃったみたいだ。うん、やっぱアマンダは可愛いわ」
「もう、またそんな事を言うんだから……。ねえもしかして守長は、女の人にそんな事を良く言ってたりするの?」
「そんな訳無いだろ、可愛くなければ言わないし、美しくないなら美しいとも言わないよ。アマンダは俺を女誑しと思ってんのか? 俺は村でアマンダ以外に美しいって言った事無いぞ。あっ! アリーばあ様が若い時の姿絵を見て絶世の美女、いや、傾国の美女って言った事があるから、それを勘定に入れたら二人になるか?」
あの姿絵のアリーばあ様は本当に美しかった。もしあの頃のアリーばあ様に出会ってたら、俺は間違いなく口説いてたね。今じゃ只のババアだが……。
「本当~? 怪しいなぁ。ねえ守長、アリーばあ様が若い頃、凄く美人で評判だったって言うのは聞いた事があるけど、絵姿を見たのよね? そんなに美人だったの?」
「うん、今じゃ只のババアだが、若い頃の姿絵のアリーばあ様は絶世の美女だったな。もしくは傾国の美女? あのばあ様、若い頃はパーツの一部分ではアマンダに勝ってる位に美しかった。それこそ美しいって言葉が陳腐に聞こえる程に美しかったな。正に絶世の美女、傾国の美女って言葉が相応しい程にな。だが全体的な顔の造りはアマンダの方が美しい」
「もう…… またそんな事言って……。ダメだよ私を口説いてるの?」
「口説いて良いなら口説くが?」
えっ? 良いの? 口説いて良いなら口説きたいわ。
まぁ、アマンダ許可は出ないだろうがな。
「直ぐそう言う事を言うんだから。ダメだよ、メッ。それにしてもアリーばあ様の噂は本当だったんだね。噂には聞いてたけど……、その姿絵、一回見てみたいな」
「今度見に行くか? アリーばあ様の怪しい薬の入ったお茶を買いに行く時に一緒に行こう。言ったら見せてくれると思うぞ」
「うーん……。そうね、守長について行っても良いかな? 私も一回見てみたい。でも見せてくれるかな?」
「前に一回見せたから大丈夫だと思うぞ。もしゴネやがっても、おだてるか、煽るかしたら大丈夫と思う。ばあ様はアマンダに負けるのが悔しいから見せないんだな? 女心よのぉ。まだまだばあ様も女と言う事か? 見せなきゃアマンダに負けたって認めずに済むもんな。そう言えば絶対見せると思う。だってあのばあ様は自分に自信があるから」
アリーばあ様は無駄にプライドが高い訳では無いが、あれだけ自分の若い頃の姿に絶対の自信を持ってたら、不戦勝では納得しないはずだ。
うん、マジであのばあ様は美しかったからな。絶対証拠を見せるはず。実際美しさは、未だに信じられない事にアマンダとどっこいどっこいだもんなぁ。
「ダメだよあんまりそんな事を言ったら」
「大丈夫だよ、アリーばあ様も大人だ、俺も本気で無いのは分かるだろうし、ある程度はじゃれあいだって分かってるから。俺もその辺りの加減はちゃんとやるから」
「うーん……。それなら良いけど。守長、着いたよ」
「もうか。屋台は少し青空市から離れてるんだな。火事を警戒してかな?」
「多分そうじゃないかな? ねえ守長、何を食べるの?」
思ってたより屋台の数が多いな。肉らしき物の匂いも結構してるじゃないか。買い物客らしき奴が多いかな? これから漁師の奴等も買いに来るのだろうか? どうしよう、これだけ数があると迷うね。
「アマンダは何か食いたい物はある?」
「私? うーん。極力ここではお金をあんまり使いたく無いのよね……。いつもどおりスープかな? パンも持って来てるし」
おいおいおい、何を言ってるんだアマンダ。まさか一緒に飯に行って会計別って思ってないか?
前世の世界じゃ無いんだぞ、この世界では男が出すのが普通だ。ましてや男から誘っていて割り勘なんてありえない。少なくとも帝都ではそうだ。
バハラでもそうだったよな? てかこの世界ではそれが常識だよな?
「アマンダ、俺が出すから何でも好きな物を食ってくれ」
「何を言ってるの? ダメよ」
「アマンダ、普通こんな時は男が出すもんだぞ」
「そうかも知れないけど、私ごちそうして欲して欲しくて守長と来たんじゃ無いよ」
アマンダめ、何と可愛い事を言うんだ?
おいおい、俺じゃ無かったら勘違いするぞ。俺以外の奴にそんな事を言っちゃったら、ヘタしなくてもキュン死するんじゃないか?
姿だけで無く、中身も美しいなぁ……。
アマンダはやはり良い。うん、もし結婚するならアマンダみたいな女としたいね。
「アマンダのその気持ちは嬉しいけど、無茶苦茶嬉しいけど、でも普通は男が出す物だし、ましてや俺が誘ったんだぞ。なら俺が出すのが当たり前だよ。なぁアマンダ、俺は飯を奢ったからって見返りに何かアマンダに要求する様な男に見えるか?」
「見えないけど……。私はね、ここで買って、守長と二人で食べようと思ったの。お互いに好きな物を買ってね。ほら、あっちの岩壁があるでしょ? あそこでお互い買った物を食べようかなぁって、そう思ったの」
借りを作りたくないとかもあるか? うーん。アマンダの自立心は尊重しないといけないが、でもなぁ。
アマンダも頑固な部分があるが、俺もこれは譲れない。仕方ない取引するか。
と言うかアマンダから一夜干しや何やを買う時に、結構オマケして貰ってるから、だから屋台の食い物を奢るのは日頃の御礼と言えなくもないんだが。まぁいい、取引だが俺に取ってもメリットしかない取引をしようじゃないか。
「アマンダ、何時も一夜干しや何やをアマンダから買う時に結構オマケして貰ってるよな? そのお礼として奢りたいんだけどダメか?」
「あれはそんな大した物じゃないわよ。それにいつも守長には買って貰ってるから、あれ位は普通にオマケするよ」
だろうな、そう言うと思ったよ。なら取引開始だ。
「ならアマンダ、今日は俺が奢る。だから俺が村に帰ったら、夕飯を作ってくれ。特別な物じゃ無くて良いんだ。アマンダが何時も作って食べてる夕飯を、一人分多く作ってくれたら良い。それじゃダメか?」
「私いつもそんなに大した夕飯を作ってる訳じゃ無いよ。今は一人だし、前の晩に作った残りのスープとかって日も多いから。夕飯がそんなのになっちゃうよ? 守長が満足出来る様な御馳走にはならないから、守長が割に合わないと思うんだけど?」
「何を言ってんだよ、アマンダの手作りってのが一番の御馳走だよ。アマンダ君、キミが作った食事はだね、どんな高級店の料理より価値があるのだよ。キミは自分の価値を分かって居ない様だね? だから今日奢ってもある意味俺に一方的に利があるんだ。むしろ今日アマンダに屋台の食い物を奢って、村に帰ったらアマンダの料理が食えるなら、それなら俺は嬉しいな。ダメか?」
うん、アマンダの手料理を食えるなら、それはとっても良い事じゃないか。むしろ食いたい。
間違いなく俺にとって一方的に有利な取引になるな。だがこれは何としても実現したい。アマンダには悪いがごり押ししてでも俺が奢る。そしてアマンダの手料理を食べるんだ。
「もう、そんな事ばっかり言って。ねえそんなに嬉しそうに、にこにこ笑われたら何か気が削がれちゃった。何か私、変に気を張っちゃってバカみたいじゃない。分かったわ、今日は守長に御馳走になる。でも夕飯はあまり期待しないでね、私が何時も食べてるご飯は質素だから」
「むしろそれが良い、うん、良いじゃないか、アマンダが作ってくれたら、それだけで値打ちがある。それにアマンダと同じ飯を食えるのは何か良い。と言う訳で夕飯頼むよ。いや~ 楽しみだなぁ」
本当に楽しみだよ、日々の中でこんな楽しみがあるから人生ってのは悪くないって思えるんだ。人生捨てたもんじゃ無いってな。
ところでアマンダ君、キミ今、しょうがない人って思ってるだろ? 顔に出てるよ。
新しく書きました。
お正月の暇潰しに如何ですか?
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この子達があまりにも読まれ無さすぎで寂しいです。
良かったら是非読んでやって下さい、お願いします。