第197話 餅投げ 後編
『おいこら、お前どこに行ってたんだ? あっし達が探してたのに全然見つからなかったぞ』
『うっせーな、別にどうだって良いだろ。それよりお前、ビニール袋は持ってんのか?』
『どうでも良く無いわ。道場のみんなで探したのに、どこに行ってたんだよ……』
コイツら暇人か? 道場のみんなで探すなよな。
『もう終わった事だ、別にどうでも良いだろ。それよりビニール袋は?』
『師匠に貰った。なぁ、でもこれ業務用の一番大きなゴミ袋だよな? 師匠にも言ったけど大き過ぎないか?』
『何言ってんだ? こん位の大きさは必要だよ。と言うか一枚だけか? 二枚重ねにしないと重さで破れるかも知れないな。もう一枚…… いや、三枚やるから持って行け』
『いや、多過ぎだって、そんなに要らないだろ?』
この黒ギャルは何をぬるい事を抜かしてるんだ?
足りる訳がねーだろ。最低でも四枚は必要だよ。
コイツは初めてだから分からないんだな、なら仕方ない、だが絶対に足りなくなる。
『良いから持って行け、持って行かないと絶対後で後悔するから。悪い事は言わん、四枚持って行け』
『それ師匠にも同じ事言われたけど、言われたけど……。うーん……。まぁ良いか、そこまで言うなら持って行く、畳んどけば嵩張る物でも無いし』
『そうしろ。と言うか俺や周りのガキ共の装備品を見たら分かるだろ? お前が如何に装備不足か』
『そう言えばなんでみんなリュックを背負ってるんだ? お前もだけど、普段リュックを道場に持って来ない子達も今日はリュックだし』
『戦利品を入れる為だよ。リュックなら両手が空くだろ? これなら更にゲット出来るからな』
俺の背負ってるリュックは120Lの大容量のやつで、それに加えて大容量のショルダーバッグも装備している。
それに加えて業務用のゴミ袋は十枚、これが俺の装備品だ。当然動きやすい格好なのは言うまでもない。
この黒ギャルもたまたまだろうが、今日は動きやすそうな格好だな。靴もスニーカーだし一応は問題ない。若干軽装ではあるが、これなら動きに制限されないから大丈夫だろう。
『あー! 銀河兄ちゃんだ! どこに行ってたの? みんな探してたんだよ~』
『ねえねえ、銀河兄ちゃん、もしかして今までフランスに行ってたのー? かのじょにあいに行ってたの? ねえねえ?』
『うっせーな、そんな訳無いだろ。ホラ、行くぞお前達、おい黒ギャル、お前余計な荷物はロッカーに置いとけ、待っててやるから』
『えー? このカバンも?』
『いらん。と言うか邪魔になる。スマホだけ持っておけ』
手間の掛かる奴だ。まぁ良い、時間に余裕はある、この黒ギャルを待つ位の時間はくれてやろうではないか。
『ねえねえ銀河兄ちゃん、リーナおねーさんに会いに行ってたの~?』
『おだまり! 俺はおフランスには行っていない。てか神威さんの家に行くまで大人しくしておけ、騒ぐと近所迷惑だ』
くっそー、これ道中ガキ共の何で何で攻撃を喰らわなきゃならないのか? 面倒だな……。
俺一人ダッシュで行ってやろうか? うん、ダメだね、ガキ共の引率をしないとお母様とお祖母様に後でシメられる。
チラッと母上様を見ると、一見ニコニコとしてる様に見えるが目が笑っていない。うん、あの目は俺の考えを見透かされてるわ。
ガキ共よ、何で何でとうるさい。頼むから黙ってろよ。マジで面倒臭いなぁ……。
『銀河兄ちゃん、もしかしてリーナねーちゃんが来たの?』
『んーな訳ねーだろ。何でそんな話になってる?』
『えー、だってさっき銀河兄ちゃんがリーナねーちゃんと会ってたって話を聞いたから、だから来てるのかと思って』
『何でそんな話になる? 来てねーよ。てか何でそんな話になる? 変な噂を流すな。それとお前らリーナ、リーナうるさい! 大人しくしとけ』
このガキ共、鍛練中は礼儀正しく大人しいのに、終わったらこれだ。マジで面倒クセーな、あの黒ギャル早く来いよ。
お母様、お祖母様、アナタ達は何故可愛い跡取り息子に丸投げなのですか? まさかと思うけど、道中も俺にガキ共の面倒を丸投げとかしないですよね? まさかな……。
『おい中学生組、高校生組、お前達もガキ共がはしゃいで周りに迷惑掛けない様に見張れ。分かってるよな? ただ見てるだけを見張りとは言わないからな。それとガキ共、道場で教わっただろ? 常に礼儀正しく周りに迷惑を掛けない。礼節はどんな時、どんな場合でも常に持て。そう教わっただろ? 神威さんの家まで二列に並んで行くぞ、列を決して乱すなよ! もし言う事を聞かなかったら俺は本気で怒るからな、分かったな!』
『『『『『はい!』』』』』
『宜しい、良い返事だ!』
良し良し、俺が本気だって分かったか。ガキ共め、一瞬でシャキっとしたぞ。
これで良い、武術とは武を鍛えるだけで無く、精神修行でもあるからな。道中ガタガタ言われなくて済むし、いちいちコイツらの面倒を見る手間も省ける。
しかしお母様、お祖母様。何故満足気にボクを見るのですか? 正解よ、みたいな顔してますよね?
『お待たせー、あれ? 何でみんな整列してんだ?』
『・・・』
うちの道場の問題児め。また一から話さなきゃならないのか? 間抜けな顔して戸惑ってんじゃねーよ。
~~~
『ねえねえ、銀河にーちゃん。リーナちゃんってどんな人~? ねえねえ』
『あーもう! うるさいなぁ。到着した途端にこれか? てかお前見ただろ?』
『ねえねえ、銀河お兄たま~。リーナちゃんってだ~れ? ねえねえ、愛しのリーナちゃんとはもう、おちゅきあいしないの~?』
『コラ黒ギャル、お前も見た事あるだろ! それと銀河お兄たま言うな、気持ち悪いぞお前』
このガキめ楽しそうにニヤニヤと……。
まだ開始まで後三十分もあるぞ。コレ餅投げが開始されるまで、この攻撃を受け続けなきゃならないのか? 鬱陶しいなぁ、ブラのホックをまた外してやろうか? いや、ダメだ。そんな事をしたらママ上とグランマ様に縛られるだろう。
そうなれば餅投げに参加出来なくなってしまう。
しかし神威さんちの上棟式は流石だな。
紅白の餅とかお菓子やお金が、これまた紅白の垂れ幕から見える位に積み上がってるぞ。
ん? あれカップラーメンか? あんなのもまくのか? 何でもありだな。
『おいお前聞いてる?』
『お前なんか言ったの? 全く聞いていなかった』
『やっぱ聞いて無かったか。あっしを気持ち悪いって言うなって言ったんだよ!』
『あっそう』
『コイツ……』
俺は突然、難聴系主人公になった訳では無い。
本当にどうでも良い事だから聞いていなかっただけ。だってどうでも良いもん。あの大量の餅やお菓子にお金を見たら、全てがどうでも良い。それにあの樽酒、あれ四斗樽だよな? いや~ アレの鏡開きが楽しみだ。
それにあの樽酒って、大手メーカーの大量生産された物では無く、何処かの個人経営の酒蔵のだよな? これは期待出来るぞー。実に美味そうだ。
良いな、この冬の寒い日に酒樽から柄杓で掬って升に酒を入れて貰って、キュッとやるのは堪らんだろう。本当に楽しみだよ。
あの酒ってお代わり出来るのかな? パッと見俺達以外で既に三百人位は集まってるが、四斗だから七十二リットルだよな? ここに居る大人の人数で割ってもかなりの量になる。となればお代わり出来そうだけど。
しかしこれだけ人が庭に入っても、まだまだ余裕があるってどんだけデカイんだ? 餅投げするスペースもそこそこ広いが、この人数でも余裕を持って場所を確保してあるし、家全体でどれだけの広さがあるんだろ? これ家って言うより屋敷って言った方がしっくりくるな。
『お前聞けよ、本当にあっしの声が聞こえて無いんだな? てかお前酒樽見すぎじゃね?』
『何だよお前うるさいなぁ。後で相手してやるからあっち行け、シッシッシッ』
『コイツ……、さっきの仕返しか? なぁ? 仕返しか?』
『うるせーな……。ギャーギャー 言わなくても聞こえてるよ。仕返し? 俺がそんな小さな男に見えるか? 俺は世間様の常識の話をしているのだよ』
『何言ってんだ? お前ほど器の小さい男はいねーぞ。お前まさか自分の事を、器の大きな男だって思ってんの?』
『・・・』
思ってますが何か? てか誰が器の小さい男だ?
俺は器の大きい、広い心を持った男だぞ。全く失礼な黒ギャルだなコイツ。マジでひん剥いてやろうか? てか何時か縛って簀巻きにして木に吊るしてやるからな。誰が器の小さな男だよ?
この黒ギャルは男を見る目が無いな。そんなんじゃ将来ダメ男に引っ掛かって、苦労する事になるぞ。
『まぁ良いや、お前に関しては今更だからな。それにしても人が多いな、あっし初めてだから良く分からないけど、餅投げって何時もこうなのかな?』
『いや、餅投げの時は何時も人が大勢集まるけど、今日は特に多いな。でもこれだけ人が居ても狭苦しさを一切感じないな。流石神威さんちだよ、家も庭もデカイわ』
『あー、やっぱコレ人が多いんだ。家なぁ…… あっしんちより、ちょっと狭いかな?』
おいコイツ今何て言った? 人が多いの後、ボソッとあっしんちよりちょっと狭いって言ったよな? これで狭いってお前の家はどれだけデカイんだ?
いや待てよ? そう言えばコイツんちって金持ちだったな? コイツもトゥルーラブ女学院に通ってるし。いやいや、それにしてもここよりデカイ家って……。
『ん? あっしの顔をマジマジて見てどうした?』
『別に……』
うん、黒ギャルですわ。コレはまがう事なき黒ギャルだよ。黒ギャルお嬢様? なーんか違和感あるよなぁ。
コイツせめて白ギャルになったら、この違和感も多少はマシになると思うが、何故にコイツは黒ギャル道を進もうとしてるんだろうか?
『なぁ、そろそろ始まるんじゃないか? アレ? 女の人も上に上がってるぞ?』
『そうだな、女の人も上がってるけど、不思議か?』
『ネットじゃ女の人は、上がってまかないって書いてあったから』
『この辺りじゃそんなの関係無く、上がって投げてるぞ。それも地域とかによって違うんじゃ?』
『そっかぁ、ネットの情報もあてにならないもんだな。そうだと思ってたよ』
お前のネットに対する厚い信頼は何なんだ?
てか地域によって、同じ事でも微妙にルールが変わる事もあるだろ。例えば大富豪とかがそうだ。
所変わればってやつだな。
おっと! ダウンを脱いでおかねば。あっちの木の所に置いておこう。
『始まるのにお前どこにいくんだ?』
『ダウンが邪魔だから向こうに置いてくる』
うん、うちの道場の奴等も皆が一斉に上着を置きに来たね。示し合わせた訳では無いが、考える事は同じか。
『はやっ、もう置いて来たのか? てか道場の子達も上着置いてるし。えっ? 寒くないのか?』
どうせ拾ってる内に暑くなってくる。
てかコイツ上着を着たままで大丈夫か?
『おいそんな事より始まるぞ、お前上着を置いてこないなら後で暑くなるぞ。そのままで良いならホレ、さぁ行こう』
『いや、あっしは寒いから良い。なぁそれより、何か上がる人多くないか?』
『家の人だけでなく、大工さんとか工務店の人もまくのを手伝うみたいだな』
あれだけ餅やお菓子やお金があったら、家の人だけじゃまききれないからだろうな。
しかしこの餅投げ、今までで一番人が多い。
この人の波を上手くすり抜けるのがキモだな。
『それでは只今より神威家の上棟式を祝い、幸せと福のお裾分けとして餅投げを行います。数は十分に用意致しました、皆様存分にお楽しみ下さい』
よっしゃ始まった。持てない位に拾ってやる。
『そ~れ!』
紅白の餅とお菓子、それと紅白の紙に包んだお金にカップ麺、その他諸々を上に居る人が一斉に投げるのか。
先ずは金と餅だ。後はお菓子だな。カップ麺は一先ず拾わない。理由、嵩張るから。
うぉい、投げる人の数が多いから、落ちてくる量もえげつないな。おーおー、次から次に投げ込まれるじゃないか。よりどりみどりだねぇ。
ん? あれは……!
『おりゃ!』
『あー、銀河兄ちゃんそれ私が狙ってたのに!』
『甘い! 落ちてくる前にキャッチしろ』
『兄ちゃんみたいに高く飛べないよ~』
修行が足らぬわ。バカ者めが、五百円玉が落ちて来てたら最優先でゲットするに決まってるだろ。
しかし流石だよ、まさか五百円玉まで紅白紙におくるみされてるとは。
コレ、五円や十円や五十円に百円だけじゃ無いな。
多分五百円もかなり用意しているな。たまに五百円らしき大きさの物が投げられてるが、五百円が投げられる頻度が上がって来てるぞ。良し、五百円は最優先で頂こう。ん~~~?
『しゃオラァ!』
『あー、お前それあっしが狙ってたのに!』
『うっせー、早い者勝ちだ。餅投げの基本だぞ』
『お前二つとも取ったらあっしの分が無くなるだろ。一つ寄越せ』
『黙れこの追い剥ぎめが! この高級チョコは俺の物だ。てかお前と関わってると取りこぼす。あっ! そーれ!』
ひょっほー、ツイてる。さっきの高級チョコは六粒で三千二百円(税抜き価格)と三粒で二千三百円(税抜き価格)のだ。しかも五百円らしきものが七つ、いや、八つ落ちて来ている。
良し! 空中で全部掴んだ。これは肩掛けのカバンに入れてと……。良し良し、良い感じだよ。
このカバンの中には前以て返しを付けたから、どれだけ激しく動こうと、それこそ逆さまになっても中身が落ちない様にしたったからな。この中に金をいれておけば大丈夫!
『ちょっ、お前どれだけジャンプするんだよ? えっ? お前もしかして、お金は斜めがけにしてるカバンに分けて入れてんの?』
『当たり前だろ! 金だけは別個にするのは常識だ。てかお前くっちゃべってるヒマがあるならさっさと拾え。おっと、あっちで景気良くお金をバラまいてるじゃないかね。では天音君サラバじゃ』
おっとっと、お金を拾って……、ん? 百円か? それとも十円か? まぁ良い、全部拾っておこう。良し、あっちに移動じゃ~。
『ちょっおま! 縮地まで使って移動するか?』
するんだよ。てかそんなぬるい事を抜かしてるから横からかっ浚われる。
道場のガキ共を見ろ。みんなお前の五倍はゲットしてるぞ。まぁ初めてだからそんなもんか、うん、仕方ない。
しかしうちの道場の奴等は他の奴等より素早く動き、誰よりも拾ってるな。お母さんとばあちゃんも拾い倒してるよ。あっ、ママ様今、縮地二連かましましたね? それ体力をバカみたいに使うから連発出来ないんじゃ?
これ明日、筋肉痛になるのでは? 幾ら若く見えるからって、無理し過ぎなのではないですか? もう年なんだからあまり無理はしない方が良いですよ。
わっ! 母上様は何故ボクを見るのですか? これだけ距離があるのに、ギロって音が聞こえて来そうですね。可愛い我が子に向けて良い視線ではないと思いますよ。
『もう! 銀河兄ちゃんが居ると良いのが取れな~い。ジャンプして取るのはズルいよぉ~』
『お前も修行したらこれ位は出来る様になる。鍛練に励め。おっと、またあの高級チョコが……』
後ろからズルいだの、酷いだのと聞こえてくるが、周りをもっと見ろ。そこら中に落ちてるぞ。
俺はただ、良さげな物が集中してる所で頂いてるだけであって、周りを良く見ればそこらに餅や普通のお菓子やお金が、アホほど落ちてるじゃないか。うん、あのガキんちょ共は修行が足らんな。
餅も少しは拾っておくか。つきたての餅は美味いからなぁ。とは言え優先目的はお金と高級お菓子だ。どうせ餅だの駄菓子を含むお菓子類は数が多いから後で幾らでもゲット出来る。
おーっとお、紅白紙の束を掴んでるじゃないかね。
暫くあの紅白紙に包まれたお金をまきそうな気がする。それが終わったら一旦ダウンを置いた場所に、お菓子や何かを入れたビニール袋を置いて、新しい袋に替えよう。もうこの袋はパンパン寸前だし。
『銀河君もいっぱい取れたわね~』
『うん、てかお母さんも』
お母様も業務用の一番大きいゴミ袋パンパンになってますね。ハッスルしてますよね。明日筋肉痛にならないと良いんですが。
『私はまだ若いから銀河君には負けないよ』
『・・・』
そうですね、お母様はまだまだお若いですよね。
つまりそれは、私を年寄り扱いするなって事ですよね? ちゃーんと分かってますよ。だってボク良い子ですから。
『これで良しと。名前を書いてるから勝手に持って行かれないとは思うけど、銀河君も一応気にしておいてね』
『勿論。もしそんなナメた事をする奴が居たら、縛って簀巻きにして転がしておくよ』
『銀河君ダメだよ。人目があるから、分からない様にお仕置きしないといけないんだよ』
つまりバレなきゃ、何をやっても良いと言う事ですね師匠? とりあえず男とか女関係無く、後ろから股間を蹴り上げてみようかと思います。
後ろからならバレないし、周りに気を払えばバレずに出来ると思うんで。
女に股間攻撃は効かないって思われてるが、意外と効く。理由はデリケートゾーンだから。
それに骨が皮一枚あるだけで、近くにある分色々と効くんだよなぁ。まぁバレなきや良いとは言え、流石に女相手にやったらマズイけど。
『あらぁ、あれだけ人が居るのにみんな拾いきれていないね。さっ行きましょ銀河君』
『そうだね、あっ』
言うが早いか行っちゃいますか? しかもまた縮地使ってたよね。明日本当に大丈夫かな? 流石に使いすぎじゃないんだろうか?
まぁ良い、俺もさっさと戦線復帰しないと。
『ヒャッハー、お前の物は俺の物、俺の物は俺の物だぁ~。オラオラ~ 根こそぎいただくぜぇ~』
『ゲッ! お前こっち来んなよ、あっち行けよ』
『うるせ~。高級チョコと金を寄越せや~。俺様が全部貰ってやるよぉ~』
『お前は世紀末のモヒカンかよ? マジで向こうに行けよな』
バカめ! 良い物を根こそぎいただいたら、違う所に行くわい。とりあえず拾ってと……。
『お前はしゃぎ過ぎだろ? テンションがおかしいぞ』
『何を言ってんだ? こんなもん餅投げの時の常識だぞ。道場のガキ共も大はしゃぎたろうが』
『いや、そうだけど。てかお前良い大人だろうが』
『うるせーな、ボク今は小三なの! 黒いおねーさんさぁ、お口じゃなくお手て動かしたほーが良いと思うよ。そんなんだからまだ袋に半分しか入ってないんだよ』
『お前テンションがおかしいって。てかお前それ何袋めだ?』
『五袋目だよ。お前遅すぎ、話しながらでも手を動かせ』
そんなんだから獲物がショボいんだよ。道場のガキ共はもう二袋目で、しかも早い奴は二袋目も終わりそうなのに、コイツは半分ちょいしか取れてない。うん、餅だの何だの適当に入れ過ぎ。
考えて入れろよな、優先順位を決めてないからそんな適当な、何でもアリの袋になってんだよ。
『お前五袋目ってマジ?』
『マジだよ、そしてこれも後少しで終わる。袋が足りなくなりそうだったから、三袋目からは二重にしていない位だぞ』
後で軽い物と重い物で仕分けしないといけないな。
軽い物は袋一つ。重い物は二重にしなきゃ帰りが怖い。先にリュックに詰めてからまた考えるか。
まぁ良い、投げ手の人達が取る時に腰をかなり屈めてるから、残りは少ないみたいだが、それでもまだ終わりそうに無いからな、後少しは続くだろう。
『おっと、あれは俺の大好きなたけのこの村じゃないか。しかもファミリーパックの小袋では無く、箱入りのではないか~。オラァ、いただくぞ~。ヒャッハー!』
『お前スゲエな、あれだけ動き回ってまだ動けんの? 今日って鍛練後だぞ? 何でそんなに動けんの?』
『鍛え方が違うわ。貴様と一緒にするな、この小娘が! お前はマジで修行が足りぬ。もっと走り込みをしろ』
道場のガキ達を見ろ、まだ動き回って拾ってるぞ。
幾らガキは無限の体力を持ってるとは言え、うちの道場に来ていない、他のガキは明らかに動きが鈍ってる。
大人は…… もう体力が尽きたみたいだな。うん、動いてるのは俺とママ様とグランマ様だけか?
てか拾いきれてない分がまだ落ちまくってるな。
上に居る神威さんちの人達や、大工さんや工務店の人達も、投げるのがかなり辛そうだ。
『おい、お前獲物少な過ぎ、せめて一袋がパンパンになる位は持って帰れ』
『無茶言うなよ、この袋は業務用の一番大きなゴミ袋だぞ。てかこれでも他の人より拾ってるぞ』
『足りん! ホレ、周りは体力が尽きて動きが鈍い。今の内だ、最後の気力を振り絞れば袋をパンパンに出来る。行くぞ黒ギャル』
『お前マジか……』
マジだよ。さて、流石にもう終わるか? 今は下に落ちてる物を拾いつつ、上から美味しそうな獲物が来るのを警戒しながら袋に入れて行こう。
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『はぁ~ やっと終わった。最後の最後で本当に袋がパンパンになるまで拾えたよ。てかコレどうやって持って帰ろう?』
『餅とお金だけまずは持って帰れば良い。余裕があるならお菓子も今日少しは持って帰れば良いだろ? どうせ道場に来るんだから、次に来た時に残りは持って帰ったら良いんだよ』
『分けてねえ。それでも二回じゃ持って帰れ無さそうなんだけど? それよりもロッカーに入るかな?』
『無理なら家の人に迎えに来て貰え。それと餅は保存料が入っていないから、今日持って帰れよ。あー、それと餅は焼くなよ、縁起が悪いから焼いたらダメなんだ』
焼く=火事を連想させるから、焼いたらダメなんだよな。こういう縁起物は、験を担がないといけないからややこしいんだよね。
『迎えに来て貰おうかな。流石にコレを持って帰るのは大変だよ。二回とか三回に分けても結構な量だもんな』
『そうして貰え。さて、俺も仕分けして重い物はリュックに入れていかないとな。餅が潰れない様にしないと……』
『なぁ、その大量の餅どうすんの? 保存料が入って無いから日持ちしないんだろ? 師匠達も大量に取ってたけど食いきれるん?』
コイツは物知らずだな。仕方ない、お兄さんが教えてあげようではないか。
『冷凍させるんだよ、そしたらある程度の日数保存出来るし。後はそうだな、ぜんざいか汁粉にして道場で門下生に振る舞う』
『なーんだ結局あっしらに食べさせるんだ』
『当たり前だろ、こんなに大量にあると毎日餅を食わなきゃならなくなる。うん、それは勘弁して欲しい』
幾ら美味くてもこの量は流石に飽きる。まぁ振る舞うのが無難だな。
それよりもお金だよお金。いや~、冬休み、それも正月前の年末に良い臨時収入になったよ。ありがたいなぁ。
おっ! 樽酒の鏡開きが始まりそうだ。さっさと仕分けを終わらして、お酒をいただきに行くとしよう。
うん、来年は良い年になりそうな、そんな予感がする。
これからもずーっと幸せで良い日々が続きそうなそんな気がするよ……。
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あの時は戦利品を持って帰るのが大変だった。
だがその苦労に値する価値はあったな。
まぁ、あの時の幸せと福のお裾分けに、効果があったのかどうかはいまいち分からん。
こうやって転生したって事は、結果的に死んだって事だからな。本当、その辺りの記憶が何で抜けてるのかねえ?
おっと、魚市場に行くのに寄り道し過ぎかな?
何か小学生の下校途中みたいな歩み方だな今日は。
さぁ、歩き始めるか、歩いていればその内に辿り着けるだろ。ゆっくりと歩いて行こうじゃないか。
17時にも投稿します。