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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第3章 来訪者達
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第193話 魚市場にて


「この辺りも春になったら桜が綺麗だろうね」


「そうね、ここの桜もそうね。バハラでも有名な桜並木よね」


「そう言えばそうだね」


「ここの桜並木も綺麗だけど、私の家の前の桜並木も中々の物よ。私は家の前の桜並木がバハラで一番だって思ってるわ」


「あー、そう言えばそうだね。ハイラー邸の前の桜並木も綺麗だ。春に来れば良かったかな? そしたら綺麗な桜や桜並木を見れたのに」


「それだと、ネイサンに会うのが遅くなってたじゃない。ねえ、そう言えばネイサン。アナタ桜並木を見ると、酷く頭が痛むって言ってたけど、もう大丈夫なの?」


「いや、大丈夫じゃない。今も桜並木を見ると酷く頭が痛むよ」


「不思議よね? 桜を見ても何ともないのに、桜並木を見ると頭が酷く痛むって。何でなのかしらね?」


うん、俺も不思議だ。桜を見ても何ともないのに、桜が大量にあるとダメだ。

特に桜並木を見ると酷く頭が痛む。前世では何ともなかったのに、何故か転生してからそうなった。桜は前世でも今世でも好きなのだが、何故か転生してからはこうなった。


桜は平気なのに、桜並木を見ると頭が痛むのは本当に意味が分からない。

桜並木を見ても、毎回頭が酷く痛むと言う訳では無く、時折痛むと言うか、時折酷く痛むのは本当に何でなんだろうな?


何より怖いのが、頭が痛む法則が無いって事だ。やっぱ脳の病気とかじゃ無いよな? 医者は病気では無いって言ってたけど…… 本当か? 勘弁してくれよ、この世界では脳外科医って居ないんだぞ。もし脳の病気なら=死だからな、不治の病って事だ。本当に勘弁して欲しい。


この辺りは本当に不便だよ。医者は特に問題ないとは言ってるが、脳専門の医者、いわゆる脳医ってのは居ないんだからな。本当に大丈夫か不安になる。


帝国は大陸に覇を唱える過程で、数え切れない位に戦をしたが、そのお陰なのか外科に関しては結構進んではいる。

だけど流石に脳の外科手術に関しては、進んでるとは言い難い。


マジで脳の病気で無い事を祈る。大丈夫だよな?


「それにしても魚市場に行くのも久々だわ~」


「あれ? そうなの?」


「ここ一年位は行って無いわね。魚市場には、マリアとミザリーに買いに行って貰ってるの。と言っても、二人共魚市場にしょっちゅう行ってる訳では無いけどね」


「体調が良くなかったとか?」


「そうじゃ無いの。何となくってのもあったんだけど、家の近くに新しく魚屋が出来てね、それと最近あまり治安が良くなかったでしょ? だから魚の行商人から買ったりしてたからよ。マリアとミザリーも魚市場に行くのは、半年ぶりかしら?」


チラッと二人を見ると、(うなず)いている。

二人共住み込みの使用人だが、ハイラー家に(つか)えて長いよなぁ。

二人共それぞれ、夫婦で長い事ハイラー家で働いてるが、まだ若い頃に駆け落ちでバハラに来て、途方に暮れてる時に、じいさんやばあちゃんに拾われて今に至る訳だが、何十年と仕えてもう家族みたいになってるんだよな。


それを言い始めたらハイラー家の使用人は、皆何十年と勤めてる者ばっかだけど。


「あら、もう着くわね。馬車止めから魚市場までは良いとして、帰りがちょっと大変なのよね……。駐馬場までちょっと距離があるから、荷物が多いと帰りがね」


「あー、そうだね。中から駐馬場って微妙に遠いよね」


「そうよね~ 帰りが億劫なのよね」


「今日は俺も居るし、御者の二人の内どっちかも来るんでしょ? 荷物持ちは十分居るのに?」


「そうだけど、それでも帰りは手間なのよ」


地方にある巨大商業施設だとか、テーマパークだとかで、一番遠い端の端に停める様な物かな? そう考えると確かに面倒に感じるな。


さて……。今日は休日では無いから、狂犬にして狂戦士のマセガキは居ない。だがあのドMのケツデカはどうだ? 俺の予想では居ないと見た。


奴が魚市場に行くのは、ある意味パターン化してる。一応法則性の様な物もあり、今日は来て無い日にあたるはず。


だから今日来た訳だが、油断は禁物だ。うん、決めつけはいけない、それで痛い目にあう奴は多い。残心ってのは常日頃から意識してこそ、いざと言う時に自然と行える。


うん、俺は今から戦いに行く訳じゃ無いんだけどな。だがあの問題児二人の事は置いといて、アホな小悪党が居るかも知れない。

魚市場の中でそんな事をすれば、どうなるか火を見るより明らかだが、最近は分からないからな。ガキ相手でも腕をへし折る位はされかねない。そんな事も分からないアホが、バハラでは増殖中だ。気を付けておこう。


「さてさて、今日は何があるかしらね? ネイサンは何が食べたい?」


「さっきも言ったけど、サンマかな? 後は海老系が良い。それとマグロかな」


「サンマはフライにしても良いわね。海老はワイン蒸しで、マグロはステーキかな? ネイサンが醤油を持って来てくれたから、ニンニク醤油をソースにしたら美味しいわよね。私あれ好きなのよ」


「アリだね。後は冬牡蠣があれば欲しいな」


「この辺は生で食べても大丈夫だから、良いわね。焼き牡蠣にしても良いし、ワイン蒸しにしたり、フライも良いわね~」


冬牡蠣が生食出来るのは確かに良い、いや、素晴らしい。冬牡蠣…… 真牡蠣も美味いもんな。

あれば良いんだがどうだろ? あるなら買いだ。買い占めても良い。余ったらオイル漬けにしても良いしな。


しかし人が多いな。今は朝飯が終わり、朝と昼の丁度良い時間でもある。

家の事がある程度片付いた時間帯だからな。朝のお買い物タイムでもあるし、今位から店が開き、商品が並びきった時間だし、この時間から売れ始めるから商品が豊富に並んでる良い時間でもある。


うん、良い物はこの時間から来ないと無くなるからな。むしろもう少し早い時間から来ても良かった位だ。


「ねえネイサン。アナタが今赴任してる村の人達も来てるのよね?」


「そうだね、多分来てる奴も居ると思うよ」


「ならその人達にお勧めを教えて貰えるわね。それとネイサンがお土産に持って来た、イカの一夜干しと完干し美味しかったのよ。買いたいわ」


「あー…… 完干しはアイリーンってばあさんが作った物なんだ。一夜干しは…… アマンダって言う村の女衆が作った物なんだけど、アイリーンばあさんは来てるかも知れないけど、アマンダはあんまり魚市場には来ないんだよ。だけどアマンダは来てないとしても、人に頼んで持ってきてるから村の奴に聞いてみるよ」


「あらそうなの? 完干しも一夜干しも凄く美味しかったのよね。我が家の皆が美味しい美味しいって言ってたし。クランツも行くなら買ってきて欲しいって言ってたの」


「そう言えば言ってたね。良いよ、村の奴に聞くし、ばあちゃん達を紹介するから、次からあの二人の作った物を買える様に話を通しとく。村じゃ完干しはアイリーンばあさん。一夜干しはアマンダの作ったやつが一番美味いからね。結構売れてるみたいだから、今日話を通しとけば次から取り置きしてくれると思う」


「あらぁ、ありがとう。良いじゃない、次から又あの美味しいのが食べられるのね」


土産に持ってきて良かったな。やはりあの二人の作る物は絶品だ。しかしアマンダか……。今日は来てないだろうな。


今頃は一夜干しでも作ってるんだろうか? それともスルメ作りかな? 魚の干物かも知れない。

もしかして大量に作り過ぎて、今日来てたりするのかな? 魚介類や卵を持って来て店を広げてたりしてな。そりゃ無いか……。


「ネイサン、でも良かったの? アナタ村では魚介類ばっかだから、こっちに来てから肉が食べたいって、ずーっと言ってたのに」


「そりゃ肉が食べたいよ。でも魚介類だって食べたいよ。勿論こっちに居る間は肉メインで食べたいけどね。だけどたまには魚も食べたくなる時もあるよ」


「確かに肉ばっかりじゃ飽きちゃうものね。そう言えば、ネイサンが昔バハラに赴任してきた時は、魚ばっかり食べてたわね? 今は逆になっちゃったのね」


「帝都じゃ海魚の新鮮な物は、中々食べられ無かったからその反動だね。バハラみたいに魚も肉も簡単に手に入れる事が出来れば、片方に片寄る事も無いんだけど。今じゃ肉が中々手に入らないんだ。肉の種類も限られてるし、上手い事いかない物だよ」


ハルータ村は直線距離だけ見ればバハラに近いけど、大きく迂回しなきゃならないから、そのせいでバハラまで遠いんだよなぁ。海路はまだ近いが、船を使って肉類を売りに来たりとかしないし、わざわざ村に商品を運ぶ奇特な商人も居ない。


まぁそりゃそうだ。あんな小さな村に商品を運んでも利益が出ないんだから当たり前の事だよな。

これが日本なら、ハルータ村みたいな小さな村でも商店があって、そこに船やトラックで運んで来るんだが。それか移動販売のトラックが来たりで買えるが、無い物ねだりだな。


「こっちに居る間は思う存分食べさせてあげるわ。ネイサンはたくさん食べるから作り甲斐があるもの」


「遠慮無く甘えるよ。とは言え今日は肉じゃ無く、魚介類だけどね」


「遠慮なんかしたら怒るわよ。他人行儀な事されたら悲しくなっちゃうわ」


有難い事だよ。ハイラー家はバハラの実家みたいだな。となるとばあちゃんとじいさんはバハラの父と母か? いや、祖父と祖母だな。

何か田舎の祖父母のとこに行くみたいな感覚か? 俺は前世では父方の祖父母の田舎に行ったりしてたが、ハイラー家はその感覚と言うか、バハラの祖父母宅ってとこかな?


「おっと、青空市に入ったら更に人が増えて来たぞ。ばあちゃんも皆も気を付けて」


「良い時間だものね。それにしても人が多いわね、久々だからか一年前より人が多い気がするわ」


「冬で魚も旨味が増してるから、それでだろうね。冬場は元から人が多かったけど、確かに今日は何時もより人が多い気がするね」


さてさて、チンピラのくせ仕事が丁寧なブライアンは居るかな? 居るのならアイツのとこで買おうか。

うん、アイツは締めの技術が職人並みに優れてるからな。居たらアイツのとこで買おう。とは言え欲しい商品が無かったら買わないがな。


アイツ今日運良くマグロ獲れてないかな?

あるなら買いたいな。まぁそもそも今日来てるのかって話だが。


ん? あれは…… チンピラがニヤニヤと悪どい顔して、若い娘に絡んでんのか? 不味い! 若い娘がチンピラの毒牙にかかる! 周りの奴は何をしてるんだ? 冷たい…… これが大都会の無関心か。


チンピラがいやらしく笑い、若い娘に迫ってるんだぞ。魚市場は人情が溢れる場ではなかったのか?

見ろよあの顔を。チンピラ丸出しのヤカラが、こんな日のあたる時間に何と不埒な事をしようとしてるんだ。


これは正義の味方たる俺としては、助けなければならない。そうだ、これは正義の裁きなのだ。

悪・即・斬 確か警官が言ってた言葉だったはずだ。とは言え俺は刀を持っていない。ならどうする? よし、股関を 悪・握・潰 か?


先ずは声かけからだな。


「おいそこのチンピラ。こんなお天道様が見てる時間に何をしてる? 今すぐその娘さんを解放しろ。こんな人の往来のある場所で何を考えている? このチンピラめが」


「えっ? も、も、も、守長……」


俺の名前は、ももも守長では無い。


俺はネイサン・サリバン。しがない只の木っ端官吏だ。

今はとばされた哀れな官吏だがな。

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