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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第3章 来訪者達
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第192話 印章指輪


うーん、あっと言う間に集まって来たな。

軍や衛兵、それに自警団、人が多過ぎだ。


「怪我は無いか?」


「無いよ、俺はね」


あっ、こっちに来る時に()けた。さっきも転けてた奴が……、 氷を乗り越える時に滑るんだろうな。


「君は帝国人だね?」


「うん、帝国人だよ」


「あー…… あいつらに何をされたか話を聞いても? それと一応聞くが、君は被害者でいいのかな?」


「勿論。被害者だし、あのアホ共にナイフを突きつけられて。まぁ良い、アイツらが・・・・・・」


~~~


「成る程…… 大通りの証言と一致するな、で? 何故態々(わざわざ)こんな所に?」


「いや~、この辺りに不安内でな~。それで訳分かんないトコに、道に迷ってこんな所に来たんだ、そしたらあのアホ共が襲って来やがって…… 怖かったわ」


「・・・道に不安内か……。迷ってここまで来てしまったと?」


「そうなんだよ、参ったよ」


「・・・で、あの者共がここで襲い掛かって来た、間違いないな?」


「そうだな、間違いないな」


ココであのアホ共が襲って来やがったのは間違い無い。そして道に迷ってこんな所まで来てしまったんだよなぁ、参った、参った。


「・・・相手は六人、その内二人はかなりの重症、一人は足を挫いてるが? 君がやったのかな?」


「そうそう、もう必死で……。アイツらナイフを突きつけて来て…… 何しろ相手は六人だ、そりゃもう必死だったよ」


ん? あのアホ共の方から兵隊が駆け足で来たぞ。


「隊長、六人中三人が怪我をしております。二人が重症、一人が軽症です。先程の見立て通りです、再確認致しました」


「そうか……。衛生兵の治療では対応しきれないか?」


「応急処置は致しましたが、軍医、もしくは医者による本格的な治療が必要です。但し重症者の二人は命に別状はありません」


「分かった。重症者の一人は顎と歯が砕けて、もう一人は失神状態だったみたいだが、どの様な負傷を?」


「はっ! 一人は顎、及び歯が砕けているのは衛生兵が確認致しました。しかしもう一人の重症者の負傷状態、状況が分かりません」


隊長君はどうして俺を見るのかな? これは俺に説明しろ、そう促してるのかな?


「それに関してはこれから聞く。あの六人の聞き取りは?」


「はっ! 南方諸島共通語で問い掛けておりますが、どうも南方諸島共通語を話せない様です。その為聞き取りが進んでおりません」


「厄介だな……。又何時もの様に、分からない振りをしている可能性は?」


「はっ! その可能性もありますが、本当に分からない可能性もあります。南方諸島共通語の問い掛けに反応が薄い様でして、もしかしたら分かっていない可能性も……」


「どちらにせよ厄介だな。面倒極まりない、時間が掛かるし、無駄に時間を取られる」


ありゃりゃ。あのアホ共はマジで舐めてやがんな。情状酌量の余地無しだ、アホだなぁ。


「ちょっと良いかな?」


「何かな?」


「アイツらポラポラ海洋王国の奴等だよ、それとこっちから見て一番右端の奴、アイツ商会に勤めてたって言ってたから、南方諸島共通語は分かるはずだ。少なくとも全く分からないって事は無いと思う。それと右端の奴ガジラって名前だ」


「・・・何故分かる?」


「尋問したし、それにアイツらポラポラ語で話してたから」


「ポラポラか……、名前は一応知って居るが、ポラポラ語となると通訳の問題があるな」


そっか、そうだよな。尋問するにも言語の問題があるか。言語の問題で色々と滞ってる部分があるんだろうな。


「何なら通訳するが? とは言え俺もある意味容疑者だし、当事者の通訳となると一方的な証言になるからダメだろうけど」


「有難いが関係者の通訳は、君の言う通り一方的な証言に片寄るから出来ないな。だが南方諸島の共通語が通じるなら、その者から聞き取りすれば良い。おいカーライル聞いて居たな? 右端の奴に南方諸島共通語で問い掛けろ、名前も忘れず言え」


「はっ! 分かりました、復唱します」


しかしアイツら舐め腐ってるな……。ん?

ガジラと目が合った、ニッコリと微笑んでやったのに、何故顔を引きつらせる? 失礼な奴だな。


しかしアレをガジラって呼ぶのも、何か違和感があるな。エピリのガジラはアホだが、基本的に善人で人は悪く無い。

だがポラポラのガジラは只の悪人だもんな。そうだな、アイツの事は悪ガジラと呼ぼう。


「で? 君は失神してる者について分かるかな? 失神している原因だが、何があった?」


「ん? ソイツは股間を蹴り上げただけだ。潰しちゃいねーから大丈夫、ただ単に痛みで失神してるだけだろ?」


「何故潰していないか分かる?」


「潰した感触と言うか、感覚が無かったから。いや~ 俺も必死で抗ってたから、当たりが浅かったみたいだな、怖い怖い」


「・・・」


俺も必死だったから仕方ないね。てか潰しても良かったけど、痛みで死なれたら堪らんからな。だから加減してやった訳だが、どうせロクな事に使わないんだろうから潰せば良かったかな?


「軽症の者について、何か分かるかな?」


「アイツ? アイツは転けたから、それで足を挫いたみたいだ」


「そうか……。この広場にある氷の塊は君が?」


「俺が魔法で作った」


「かなりの数があるが?」


「こんなん幾らでも作れる。ホレ!」


1メーター四方の氷の塊を三つ程出したが、隊長と呼ばれてる奴はノーリアクションなんだが? 普通は多少なりとも驚くのに、何だろ? 驚かし甲斐が無いなぁ。


「成る程、分かった」


「別に街中で、生活魔法を使ったらいけない何て法律は無いから、問題無いよな?」


「無いな。だが何故こんなに氷の塊を?」


「障害物にしただけだ。只それだけの事」


「・・・自分達がここに来た時、部隊の者がここに来た時に、既にあの者達は頭に両手を乗せ、(ひざまず)いて居たそうだが、君の指示かな?」


「そうだな、なーんか奴等は俺にビビって、大人しく指示に従ってたな、不味かったか?」


「いや、問題無い。君自身の身の安全の為に危険を排除した、今の所だが正当防衛の範囲だ」


だよな、相手は六人でしかもナイフを持ってたんだ、それに命に別状がある訳では無い。それこそアイツら六人共、骨を砕いても問題無い。

あの無傷の三人は早々に戦意喪失したから、だからこそ無傷で済んでるんだ。うん、尋問用に二人残せば良かったし、何ならお喋りさえ出来れば、腕か足の一本でもへし折っても良かったんだ。


何故二人かと言うと、情報の精度を上げる為と、多角的な意見が聞きたかったからだ。

当然だが、口裏合わせをされない様に、二人は離すのは言う迄も無い。


しかし寸鉄を使うまでも無かったな、と言うか蹴りだけで事足りたし、寸鉄は全く使って無いが。


「所でサリバン卿」


「ん? 俺、名を名乗ったか?」


「いえ、サリバン卿が右手の中指にしてらっしゃる指輪、それ印章指輪ですよね?」


「そうだが……」


確かに俺は右手中指に印章指輪、いわゆるシグネットリングを装着している。だが指輪の印面、印章がある面は手の甲側で無く、(てのひら)側に向けているので、パッと見ただの指輪にしか見えない。


別に俺は意識してコイツから隠してる訳では無い。だが見せびらかしてる訳でも無いが、もしかしてコイツ、言い方は悪いが目敏(めざと)く見たって事か。

うん、目敏くってのはちょっと言い方が悪いな。注意深く観察し、コレが目に入ったんだな、目端が利く奴だ、コイツみたいな奴は出世する。


「名乗りが遅れました。自分はボブ・キートンです、以後お見知りおきを」


「ネイサン・サリバンだ、で? 俺が身に付けているこの指輪だけで俺がネイサン・サリバンだと判断した理由は? 特級官吏は数が少ないとは言え二百人は居るが? 何故俺だと分かったのかな?」


「そうですね、サリバン卿は生活魔法の使い手、それもかなりの使い手だと言うのは有名です。その上でバハラ近郊に在住する特級官吏の方は簡単に把握出来る程度の人数しか居ません。もし他の地に居る特級官吏の方がこの地に来訪する場合ですが、その場合はほぼ間違いなく公務です。そして公務であればお一人で来られると言う事はありません。以上の事からサリバン卿と判断致しました」


俺は今、官吏服では無く私服だ。パッと見そこらの兄ちゃんみたいに見える。服自体は良い生地を使った物であるが、服装を見ただけで、一見で官吏だと分かるならソイツは間違いなくエスパーだろう。


うん、コイツ観察眼が鋭いと言うか、観察力が鋭いね。同じ軍人でも隊長殿とは大違いだ。そう言やあの隊長殿は元気かな? 奴は中々愉快な奴だったな、俺は奴の事が嫌いじゃ無い、むしろ大好きだ。うん、奴はナイスリアクションだったもんな。


「で? 俺はこのまま事情聴取を続けられるのかな? もしかして駐屯地か、巡回警備の人間が居る詰所的な所まで行かないといけないかな?」


「事情聴取に関しては申し訳ありませんが、ご協力を。詰所と言いますか、衛兵の居る所まではご協力頂ければとしか……」


「別に疚しい事は何も無いが、正直詰所に行くのは面倒だな。一応俺、巡察使でもあるんだが? 知ってるかどうか知らんけど」


「分かっております。ですので衛兵詰所に関しては強制出来ません。ですが事情を伺う事に関しては了承を」


「分かった」


~~~


「成る程、囮捜査の実証実験ですか」


「そう。自分で経験してみないと分からない事もあるからな、だからやった。後、ちょっと面白そうだって思ってやった。後悔も反省も全くしてないけど」


「成る程、事情は分かりました。しかし面白そうですか、聞いてた話通りの方なのですね」


ん? どう言う事だ? 声の感じや表情からは、嫌な感じはしない。むしろ笑顔? いや、苦笑してる。全く嫌な感じでは無いが、気になる言い方だな。


「と言うと? 初対面のはずだが?」


「はい、自分はサリバン卿と面識はありません。しかし自分の友人がサリバン卿と面識があります」


「俺がバハラに赴任してた頃か、帝都の旧知の軍人かな?」


「いえ、夏にあった大嵐で、ハルータ灯台に軍人達が来たと思いますが、その隊を率いていたアーサー・ウェリントンが自分の友人です。士官学校の同期なのです」


はぁ? コイツと隊長殿が? おいおい、さっき隊長殿の事を考えてたが、マジか? 世間は案外狭いな。

それにしても……。類は友を呼ぶって言うが、あの隊長殿とは大違いじゃないか、真逆と言っても良い。それが友人? マジか?


「あー……、失礼だが、あの隊長殿と真逆の性格と言うか……。本当かな?」


(おっしゃ)る通りです。奴と自分では真逆の性格です。ですが、だからこそ気が合うのかも知れません」


「そうか……。隊長殿は元気なのかな?」


「はい、元気でやっております。夏にハルータ灯台に行った時にはサリバン卿に大分、御迷惑をお掛けした様で……。奴も悪い奴では無いのですが、近視眼的な所がありまして…… 奴の悪い癖です。しかしハルータ灯台での任務から帰還してからは、奴は変わりました。勿論良い方向にです。奴は焦りの様な物がありましたが、任務から帰って来てからは、憑き物が落ちた様に、落ち着いて物事を進める事が出来る様になりました。奴にとってサリバン卿との出会いは良い出会いであった様です」


「そうか、隊長殿がねえ。思う所を話しただけなんだが、そうか……。多分出世欲に対して、自分なりに思う事があったんだと思うが、自分の中で折り合いをつける事が出来たんだろうな」


「サリバン卿と酒を酌み交わし、色々と話せたお陰だと自分は思います。奴も今まで色々と思う所があった様ですが、サリバン卿が仰られた様に自分の中で折り合いをつける事が出来たのでしょう。サリバン卿、奴の友人として礼を言わせて下さい」


「いや、礼は不要だよ。人が何を言おうとも、納得や折り合いをつける事が出来るかは結局自分次第だ。隊長殿が軍人として、いや、自分で、自分自身で折り合いがつけられたのなら、それは隊長殿の本来持っていた物なのだから。俺は切っ掛け、そのちょっとした気付きの切っ掛けになっただけだよ」


「それでもです、その切っ掛けもサリバン卿との関わりからです。奴の友人として言わせて下さい、ありがとう御座います」


あの隊長殿は人に恵まれているな。周りに恵まれてるってのは財産みたいなもんだからな。運が良いとも言える。

まぁ…… 中々愉快な奴だからな、あの小物君は。俺も嫌いじゃ無い、むしろ好きだ。何か憎めないんだよなアイツ。


「頭を上げてくれ。なっ。所でアナタの事は何と呼べば?」


「そうですね…… お好きにお呼び下さい」


ここで木っ端軍人とお呼び下さいと言ったら、かなりポイントが高かったんだが。まぁそれは無いか。あの小物君事、隊長殿があの時そう言えば、俺は奴の出世を手助けしたが、流石に軍務中にそんなおふざけはしないよな。うん、こんな事を考えたりするのは俺の悪い癖だな。


「ではキートン殿とお呼びしましょう」


「分かりました」


「ではこれからは、職務中と思いキートン殿に接します。キートン殿、あのアホ共はどうします? 何なら私が通訳しますが? 私は当事者ですが、奴等を断罪する権限を持って居ます。巡察使、特級官吏、どちらの権限でも良いですが、どちらかの権限を使ったとしても、その瞬間から当事者として等関係無くなります。どうします?」


「そうですね…… お願いしても宜しいでしょうか?」


「構いませんよ、奴等は私が先程分からせてやったので、スムーズに事が運ぶと思いますし」


さて…… 面倒だからさっさとやってしまおう。

ちょっと、そう、ちょっとカマしたら奴等ペラペラとお話してくれるだろう。


~~~


『おい悪ガジラ』


『えっ? 悪ガジラ?』


『お前だよ、面倒だから大人しく全部吐けよ』


『ちょっ! アンタそれ熱湯だろ? 止めてくれ、死んじまうよ!』


それからはスムーズに事が運んだ。


『言うから、言うから! 何で生活魔法でそんなポンポン氷作れるんだ?』


『ちょっ! マジかよ! 氷のナイフって…… あっ、投げないでくれ! おい! 今かすったぞ』


『言うから、いや、ちょっと思い出してたけだよ、本当だ、本当だ! だから殺さないでくれ』


『違うんだ! ふざけてない! ちょっと噛んだだけだ、だから水は止めてくれ、それ、その水凍ってるじゃないか、地面に落ちた瞬間に凍ってるぞ、死ぬ、死ぬから、だから掛けないでくれ……』


氷柱(つらら)をケツにブチこむのは止めてくれ、いや、さっき言ったのは本当の事だ。だから、だから、だから止めてくれ……』


『はいそうです…… いえ、違います、はい、そうです、嘘じゃ無いんです、嘘じゃ無いんです……』


『はい…… だから本当です…… 氷の塊は止めてください…… ぁぁ…… 小さな氷を服に入れるのも止めて下さい……』


『ナイフ…… 氷のナイフを投げないで下さい…… 当たったら、当たったら……』


『はい…… そうです…… 違いません…… はい……』


『すいませんすいませんすいません…… 本当に、本当に、本~当にこれ以上は何も知らないんです……』


『生きててスイマセン、イキテテスイマセン……』


『ハイ ソウデス イエ チガイマセン』


こんなモンか? これ以上の情報の引き出しは無理だな。うん、こんなもんかな?


「キートン殿、とりあえずこんな物ですかね? 後の細かい聴取は詰所で…… キートン殿?」


「申し訳ありません、そっ、そうですね、後の細かい? 聴取は詰所で致します」


んー? 何かキートン君、顔が引きつってないか? てか周りに居る軍人や衛兵、それに自警団の奴等も顔が……? 気のせいか何か引いて無い?


「では私はこれで。もし何かありましたら、先程言いました所に暫く滞在しておりますので」


「はっ、はい。ご協力感謝致します」


何か場の空気と言うか雰囲気が……。まぁ今は冬だしな、寒さはそのせいだろう。よっしゃ、さぁ休暇を楽しもう。

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