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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第3章 来訪者達
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第186話 龍香る六月のそれは主役となりて


俺が部屋から持って来た物に、二人の目が注がれている。


「ネイサン、まさか追加の土産か? お前さんが持って来た土産はかなりの量だったぞ。いらんとは言わんが、こんなに近くにお互い住んで居て、土産とは水臭いじゃないか」


「さっきも言っただろ? 二人に食べて貰いたかったんだよ。それにこれは違うよじいさん。これが依頼に関わる物だよ」


確かに土産としては量が多かったが、二人に食わせてやりたかったってのがあるから、あれだけの量になってしまった。


じいさんや、ばあちゃんからしたら水臭いって思ってるのかも知れないが、俺の気持ちでもあるし、ハルータ村や近くには美味い物が多いからな。二人に渡したかったってだけだ。まぁ、確かに量が多過ぎた気もするが、たまには良いだろう。


「なぁネイサン、一体何を俺に依頼するつもりだ? やけに厳重に梱包してるみたいだが」


「うん、今解くからちょっと待ってくれ……」


うーん、少し厳重に梱包し過ぎたか? 解くのに手間が掛かる。物が物だけに仕方ないが、やり過ぎた感はあるな。


「よし、先ずはコレだ」


「ん? 石?」


じいさんとばあちゃんが訝しそうな顔をして居る。パッと見ただの石か軽石っぽく見えるもんな。


「二人共、匂いを嗅いでみたら分かるよ。もう一つのもあるから、解くのに時間が掛かる。それが何か当ててみなよ」


「匂い?」


「クランツ、私にも嗅がせて」


匂いを嗅いだら二人共すぐ分かるはずだ。しかしコレ厳重に包み過ぎたな…… クッション代わりの綿もポロポロ落ちる。後で全部拾わないと。


「おいネイサン、こりゃまさか龍涎香か?」


「うそでしょ? こんな大きな龍涎香…… でも香りは龍涎香だわ…… 何て大きさなの」


「そうだよ、龍涎香だよ。二人共ちょっと待ってね。コレも取扱いに注意が必要なんだ」


だよなぁ、俺も最初に見つけた時は驚いた。しかも形もかなり良い。香りも天に昇る程の極上の香りだった。ビックリするわそりゃ。おっ、そろそろ解けそうだな、手袋を装備しておくか。


「手袋してたらやりにくいな。おっ、解けた。二人共、コレも見てくれるかな」


うーん…… 二人共、固まっちゃったよ……

そりゃそうだよな、こんなデカイ真珠を見せられたら。いや、見せられたらってより、魅せられたってとこかな? うん、大きさだけで無く、形も素晴らしいもんな。こんな奇跡の様な形、真円と言って良い程の円形。ほぼ真円のデカイ真珠だ。そらビックリするわ。


「ねえネイサン。まさかそれって真珠? 職人に造らせた紛い物では無く、真珠なの?」


「そうだよばあちゃん。紛い物では無く、真珠貝から採れた本物の真珠だよ」


「おいおい…… テレーゼ、俺は夢でも見てるのか? 何なんだ、見た事無い様な龍涎香に真珠。これは何なんだ? 現実か?」


「現実だよじいさん。今から龍涎香と真珠を手に入れた経緯を説明する」


二人にはこの二つを手に入れた経緯、何故手に入れる事が出来たかを説明した。

二人共俺の話に聞き入って、驚いたり、笑ったり、楽しそうに聞いて居た。時折二人から質問何かあったりとしつつ、聞き終わると二人共、深いため息を吐いたのが印象深かった。


「なるほど、話は分かった。しかしお前さん、何と言う運の良さだ? 俺はこんなに美しい形の上、こんな大きな真珠など見た事は無い。長生きすると、色々と見る事はあるが…… コレは俺の人生の中でも上位に入る程たまげたよ」


「そうよね…… 龍涎香もそうだけど、この真珠、魔性の魅力があるわ。恐ろしい程の美しさと、魅了される程の美があるわね」


ばあちゃんが言う様に、確かに魔性の魅力と魅了がある。やはり手元に置いておくのは危険だな。手放すに限る。


「それでだな、この二つをバハラのオークションに出品したい。ついてはじいさんに俺の代理人になって欲しいんだ。俺の名を伏せ、匿名でな」


「そりゃ構わんが、良いのか? かなりの値打ち物だぞ。お前さん、金には困って無いだろ? 手元に置いておいた方が良くないか?」


「いや、コレらは危険過ぎるよ。さっきばあちゃんも言ってたが、魔性の美しさだ。それこそ善人を悪人に変えるだけの魔性が宿っている。さっさと手放す方が安心出来るよ」


「うーん…… 確かにそうだな。しかしお前さん、この二つの事は誰にも言って無いんだろ? 今赴任してる村に、こんなお宝が眠ってる何て誰も思っては居ない。むしろ安全ではないかな?」


「確かにそうだな。実家には一応は手紙を出したが、それ以外の誰にも言っては居ない。赴任してる灯台にも金庫はあるし、安全と言えば安全だ。だが保管や管理、手入れが面倒だし手間なんだよ」


真珠は割とデリケートだからな。ただ保管すれば良いと言う訳では無いし、保管や管理もそうだが、手入れや維持が結構手間で面倒だ。


それを考えると、やはり手放す方が良い。別に愛でて悦に入る様な趣味も無いし、さっさと手元から安心安全な所に移す方が精神衛生上良いな。


「保管と手入れねえ。確かにそうね、興味の無い人からしたら、面倒に感じるかも知れないわね」


「なぁテレーゼ、そんなに手間が掛かるものか?」


「そりゃね。真珠はね、結構管理と保管に気を使う物よ。男の人は分からない人も多いから仕方ないけど、真珠って結構繊細だから扱いが雑だとダメになっちゃうのよ」


「そうなると、確かに手放すのも一つの手ではあるな…… 分かった。ネイサン、依頼を引き受けよう」


よしよし、これで面倒事が片付く。じいさんに任せておけば大丈夫。後は、話を詰めておくか、ん?


「ばあちゃん、コレ(真珠)手に取って直に見る?」


「えっ? うーん…… 手に取りたいし、見たいけど、何だか怖いわね……」


「別に乱暴に扱う訳じゃ無いでしょ? 良いよ。ホラ、手袋渡すから、俺の手から片方づつ手袋を引っこ抜いて」


「うーん…… そうね、折角だし直に手に取って見せて貰うわね」


ありゃ、ばあちゃん嬉しそうだな。女としては心惹かれる物があるんだろうな。女って宝石が好きな人多いが、ばあちゃんも女って事か。まぁ、ばあちゃんは元から女だから当たり前なんだがな。


しかしこの真珠は美しい。正に人魚の涙だよ、それも人魚の女王の涙と言って良い程の美と高貴さ、そして魔性を兼ね揃えた美しさだ。


うーん、それでも足りないかな? 美しいって言葉が陳腐になる様な輝きであり、只の美麗字句でしか無くなる、そんな輝きと美だな。


「おいネイサン、良いのか?」


「ん? 良いよ良いよ。ばあちゃんも嬉しそうだし、別に構わないよ。なぁじいさん、依頼するのって確かこの様な場合って依頼料に加え、オークションの販売益の五%だっけか?」


「そうだな、相場はその位だな。交渉によって多少前後するが、五%が基準だな。何なら割合から値引くが?」


「いや、それだとじいさんの取り分が減るじゃないか」


じいさんも欲が無いこって。知り合い価格で割合を減らそうって事かな?


「いやいや、何を言ってるネイサン。あの二つの売却益はかなりの物になるぞ。極端な事を言えば一%であってもかなりの高額になる」


「そうかも知れないけど…… 多分、龍涎香が最低でも金貨四~五千枚、真珠が千枚か、上手い事いって二千枚ってとこだろうからな。だが一%は流石に安すぎだよ」


「おいネイサン、何を言ってるんだ? 龍涎香は確かにその位の額にはなるだろう。だが真珠が金貨千枚? 上手くいけば二千枚? 何を言ってるんだ。真珠こそ落札価格は最低でも金貨五千枚、いや、六千枚にはなるぞ。ヘタしなくてもそれ以上になるかも知れない」


思わずじいさんの顔をマジマジと見つめてしまった。真珠が最低五千枚? 六千枚? しかもそれ以上になるだって? うん、じいさんは真面目な顔してる。冗談を言ってる様には見えない。


「いやいや、流石にそれは言い過ぎだろじいさん。良いトコ金貨二千枚ってとこじゃないか?」


「オークションの流れとか、空気感もあるだろうが、俺が言った事は大袈裟でも何でも無く、その位の落札価格にはなると思うぞ。そう考えれば例え一%であってもかなりの金額になる。それに代理人と言っても、そこまで手間が掛かる物では無い。事務手続きも大した事は無いし、それこそ片手間で出来る程度の事だ」


「あの真珠がなぁ……」


チラッとばあちゃんを見ると、真珠を持ったまま固まって居た。まさかそんな高額だとは思って無かったって顔してるな。


「ネイサン…… 返すわ……」


「いいよいいよ、持っといて。思う存分愛でてくれて良いよ」


「ネイサンお願い。私、持つのが怖いの…… お願いだから……」


うーん、値段を聞いて怖くなっちゃったか…… 別に良いのに。だけどまぁそんな危険物を持つ様な、泣きそうな顔されたらなぁ……。


「分かったよ、だからばあちゃん、そんな顔しないで」


じいさんは苦笑いしてる。ばあちゃんの事を、仕方ない奴だって思ってるのかも知れないな。

しかしコレが金貨五千枚以上ねー、良いトコ金貨二千枚にはなるかなって思ってたが、コレ、二つ併せて一体幾らになるんだ?


オークションハウスに手数料として、落札価格の一割を払うとして、それに加え依頼料と手数料をじいさんに払ったとしても、一体幾ら俺のポッケに入るんだ?


「ばあちゃん、そんなにコレ持つのが怖かったの?」


「そりゃそうよ、単純に綺麗だったし近くで見たかったけど、そこまでとはまさか思わなかったもの。そりゃね、私も高いのかなって思っては居たけど、まさかそんなに価値があるとは思って無かったから。もう、本当にビックリしたわ、まさかそんなに高価だ何て思いもしなかったもの」


二回同じ事を言ったのは、それだけ驚いたからだろうか? 今は手元から離れ、心底ホッとしてるな。

よっぽど怖かったんだな、もしかして今は、触らなきゃ良かったって後悔してるのかも知れないな。


「ネイサン、今日は家の金庫に入れて明日オークションハウスに持って行く」


「明日? 仕事は大丈夫なのか?」


「明日は午後から裁判所に顔を出すだけだから大丈夫だ」


「午後から裁判所なら、それなら午前は準備が必要だろ?」


「もう準備は終わってる。明日の午前は大丈夫だ。裁判所も顔を出すだけだから問題無い」


仕事が早い事で。

なら売却割合を決めておくかな。さて……


「ならじいさん、依頼料込みでオークションの売却益の一割で頼むよ」


「はぁ? 一割? おいおいおい、それは貰い過ぎだぞ。相場は五%だぞ」


「別に良いよ、俺の存在を消し、俺が出品者だって分からない様にして貰うんだ、それ位は払う」


「何を言ってるんだ、代理人の仕事にそれらも元々含まれてる。ダメだ、貰い過ぎになる、依頼料としては多過ぎだ」


「ややこしい事言うなよ、依頼人が良いって言ってるんだから良いんだよ」


「ややこしい事を言ってるのはお前さんの方だ。ネイサン、さっきの話を聞いて居たのか? 落札価格がどれ程になるか…… 依頼料込みとは言え、一割なら金貨千枚越える報酬になる。流石に多過ぎる」


もう…… ややこしい事を…… 少なくって怒るなら分かるが、多いからって拒否されてもなぁ。


仕方ない、何で一割かって話をもっと詰めるか。


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[一言] バカでか龍涎香とオバケでか真珠。オークションに出品だが額が額で買い手付くの不安要素。
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