第183話 結構良い店
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声のした方を見た
チンピラが困った様な顔をしている。
深く悩んでいる様にも見えるが、知らない奴が見たら、チンピラが凄んでる様にも見える事だろう。
「いやお前アレって何だよ? しかも辛子菜をアレって‥‥ 辛子菜を加工したやつな、マスタードな、言いたい事は分かるが」
「ほら、これって前に守長が言ってたやつだよな? でも本当に辛子とハチミツが合うのか?」
「だから前にも言っただろ、意外と合うんだよ、俺のおすすめは鶏肉系だな、ハニーマスタードは鶏肉が一番合う」
「うーん‥‥ 鶏肉か‥‥ 村でも食えるしなぁ」
「だな、しょっちゅうでは無いにしても食おうと思えば食えない事も無いな、気になるならそれも食え、別に一品だけしか頼んではいけない何て俺は一言も言って無いぞ」
「良いのか?‥‥」
「良いんだよ、食え食え」
顔に似合わず遠慮しやがってからに‥‥
集る奴に比べたら遥かに人間性はマシだがな。
「何だよブライアン、鶏食うのか? 俺は豚肉を食うぞ、てか豚なんて久々だな」
「そうだよな、前に豚、あれは猪だったけど、六年前だっけ? アレが最後だったな」
「あー あの畑荒らしてた群れな、あん時村の皆で退治して‥‥ 大人の猪が七匹も居て、しかも七匹とも無茶苦茶デカかったよな」
「子供の猪も結構居たよな? アレじいさんばあさん連中がこんなの珍しいとか、こんなに群れになるなんて初めて見たって言ってたっけか?」
そら珍しいわ、猪自体を俺は村で見た事無い、山に入っても見た事無い位からな。
あの辺りにそんなに猪が居る事自体ビックリだわ。
しかしそれだけ捕まえる事が出来ても村人全員となったらば、一人当たりの肉はそこまでの量は無かっただろう。
多分ちょこっと食えたとかそんなんだろうな。
「なぁ守長、豚は何の料理にするんだ?」
「俺か? 俺はポークカツレツにする、ソースを何にするか迷ってたけど、ハニーマスタードもアリだな、とは言え何も付けなくてもそのままでも美味いが‥‥ お前と話しててハニーマスタードもアリだと思った、後はTボーンステーキを食う」
「良いなぁ、俺も守長と同じのにしようかな? てかTボーンステーキってどんなんなんだ?」
「お前俺のマネかブライアン? 別に良いけど‥‥ Tボーンステーキは牛肉、ヒレって部位と、サーロインって部位が付いた骨付きステーキだ」
「へえ~ そんなんあるんだな?‥‥ えっ? 何だよこの値段? えっ? えっ? 俺見間違いか? えっ、ウソだろ? 銀貨一枚と大銅貨八枚!」
「おいブライアン、そんなデカイ声を出すな、この位の値段は普通だ、寧ろやや安い位だぞ、この店の価格は良心的な料金だ」
「はあ? これでまだ良心的な値段なのか? マジかよ守長‥‥」
「何やかんやで肉はそれなりの値段になるからな、それにヒレもサーロインも良い部分の肉だからその位はするぞ、ブライアンお前も食いたきゃ遠慮せず食え、金ならあるから心配すんな」
この店は店構えからしたらそうは見えないが、それなりの店ではある。
高級住宅街の近くにあり、最初はクランツじいさんに連れて来て貰って知った店だ。
とは言え高級店では無いし、値段も良心的である。
「立派な店構えだったもんな、それでもまだ良心的な値段なんだな‥‥」
「立派か? 寧ろ庶民的な店構えだろ?」
小汚なくなったってのは言わないでおこう。
そう言うのは腹の中だけで収めておくべきだ。
「いやいや、高そうな店に見えたし、立派な店構えだったぞ」
「そう言えば店に入る時にお前達、そんな事 言ってたな」
この辺りは認識の差か? 普通の店とまでは言わないが、この店は高級店では決してない。
コイツらを真の高級店に連れていったらどんな反応するんだろう? 多分だが無言になりそうだ。
しかしコイツら子供みたいにはしゃぎやがって、よっぽど嬉しいんだな。
「なぁお前達、肉が久々って言ってるが魚市場の青空市にある屋台は肉出さないのか?」
「あー 屋台は鶏肉位はあるな、たまーにだけど、それと渡りバトの時期には村で食う事もあるし、卵を産まなくなった雌鳥もたまーにだけど食うが、青空市の屋台は豚とか牛、猪の肉も扱って無いんだ、精々が腸詰めかベーコンだけど高いんだよ、だから屋台の肉とか加工肉っての? 滅多に食わないな」
「漁師達がそんなに食わないんなら商売にならんだろう?」
「あー‥‥ 魚市場で働いてる奴とか、青空市に買い物に来る客が買ってるんだよ、と言っても俺達も肉以外のモンを買ったりしてるけどな、たまーにだけど鶏肉とか加工肉も買って食ってるけど本当にたまーーにな」
「お前ら普段青空市の屋台で買う時って何食ってんだ?」
「大体がスープだな、器をもって行くと銅貨一枚安くなるんだよ、それに器を持って行かないと屋台の所で食わないといけないし、だから器ってか鍋持って行って店広げてる所まで持って帰って食ってる」
そう言えばアマンダがそんな事を言ってたな。
確か鍋に人数分入れて貰って、それを持って来た器に入れ直して食ってるんだっけか?
量や具材の多い少ないで揉めそうだがやはり揉めるらしい、特に子供は揉めるって言ってたな。
何か最近よくアマンダの事を考えてんなぁ‥‥
関係が微妙になったってのもあるが、根本的な原因はあの王子様呼びからだよなぁ。
最近は王子様呼びはされては居ないけど、あれからだよな‥‥
「なぁなぁ守長、俺三品頼みたいんだけど流石にダメかな?」
「ん? 食えるなら頼んでも良いぞ、但し食いきれない何て愉快な事になったら分かってるよな、モリソン兄?」
「分かってるよ守長、信じてくれ、大丈夫だ!」
「・・・」
いまいちコイツが信じられないのは、最近のコイツの行いが、日頃の行いのせいだからか?
「良いけど自分で頼んだ分はちゃんと食えよ、それと食い過ぎていざと言う時に動けなかったら分かってるな? ガキじゃないんだから考えて頼め、そして食え」
「やったー なぁ守長、酒も頼んでも良いかな?」
「良い訳無いだろ、お前‥‥ 股座にぶら下がってるお粗末なモン潰して欲しいのか? 俺はこっちでの振る舞いについて何度も言ったはずだが、お前はもしかして聞いて無かったのか?」
「いや、ちゃんと聞いてた‥‥ 酒は頼まない、いや、頼みません、だから手をニギニギするのは止めて下さい守長‥‥」
「おう、村に帰ってから思う存分飲め、それまでは我慢しろ」
コイツらめ‥‥
皆残念そうなツラしやがってからに‥‥
お前らは酒飲まなきゃ死ぬ病気にでも罹ってるのかよ?
肉食いながら酒ってのは気持ちは分かるが、今は仕事中だぞ。
どうせ村に帰ったらしこたま飲めるんだ、ほんの少し可哀想な気がしないでもないが、我慢してもらうしかないな。
それよりもだ、肉だけってのも少々味気ないな。
アレあるかな?
「おいちょっと良いか?」
「はい、何でしょうか?」
「今日、鎌海老擬きあるか?」
「はいあります」
「白ワインで蒸したやつか?」
「そうです、はい」
「ん、なら貰おうか」
「如何致しましょう、温め直す事も出来ますが?」
「あー そうだな‥‥ 一人前は温め直してくれ、もう一人前はそのままで良い、それとTボーンステーキの厚切りとポークカツレツのハニーマスタードをくれ」
「分かりました、他の方は‥‥‥‥‥‥」
「守長、鎌海老モドキ食うのか? 冬は味がいまいちだろ?」
「うっせーなブライアン、ここの店は魚市場で仕入れたやつを朝イチで調理して作り置きしてるから結構美味いんだよ」
とは言え温め直すと微妙に身が締まり過ぎてしまうが、ちゃんともう一度白ワインで蒸してから出てくるんだよなぁ。
あれはあれで美味いんだよ。
酢味噌があれば酢味噌もアリだが無い物は仕方ない。
ニンニクバターも良いなぁ‥‥
とは言え酒無しだとあまり食えないし、注文はこの程度に抑えておこう。
足りなきゃ又注文すれば良い事だ。
と言っても満腹だと動きが鈍るから、やはりこの程度で止めとかないといけないな。
「そう言えば最近、鎌海老モドキあんま獲れなくなったな?」
「そうだな兄貴、時期もあるだろうが夏前もあんま獲れなかったっけ? と言ってもアレは直ぐに痛むから扱いが難しいんだよなぁ」
「だな、でも今年はちょっとおかしいよな?」
そう言えば村では今年シャコがあんま獲れなかったな?
だからかな? 今食いたくなったのは?
そう言えば鴨も最近食って無いな? 時期的にはあってもおかしくは無いんだが‥‥
あれば壁に手書きメニューに書いてあるはずだが、書いて無いって事は今日は無いみたいだな? うん、無い物は仕方ない。
バハラに居たら鴨なんて何時でも手に入れる事が出来る。
ハイラー家に行けば、ばあちゃんが作ってくれるか。
住み込みの使用人も居るし、買ってくれば何時でも食えるな、そうだな今焦って食う事も無い。
それに鴨を食うなら酒はいる、うん、鴨を食うのに酒無しってのは味気ない、楽しみは取っておくか。
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出てきた料理は全て美味かった。
コイツらも大満足だった様だ。
だがコイツら食う度に美味い、美味いと煩かった。
お前らグルメ系マンガの住人かよ? って位に講釈タレて感激しやがってからに‥‥
俺はその内コイツら、目から光が放たれたり、ビームが出るんじゃないかって、ほんの少しだが心配してしまったわ。
「なぁなぁ守長」
「何だよモリソン兄」
「かなりの代金になったけど、大丈夫なんだよな?」
「心配すんな、てか料金払えなかったなら分かるが、ちゃんと払ったんだ、それにあん位の金どうって事無い」
「うん、本当ごちそうさま」
ん? さっきごちそうさまは言っただろ?
コイツら子供みたいに笑って、嬉しそうに俺にごちそうさまって言ったが、あんだけ喜ばれたら奢りがいがある。
たかが金貨一枚と大銀貨一枚に、銀貨二枚だ。
大した額じゃ無い、それよりも食い過ぎて動けなくなるんじゃないかと心配したが、大分抑えたみたいで、まだまだコイツら食えるみたいなんだよなぁ。
しかし何故コイツはもじもじしてんだ?
何か気持ち悪いんだが‥‥
「なぁなぁ守長、あんな、あんな‥‥」
「何だよお前、気持ち悪いな、言いたい事があるならハッキリ言えや! 何だよ言ってみろ、一応聞いてやる」
「その~ 守長が村に帰る時に俺達迎えに行くよな? で~・・・ 帰りも昼時だろ? そんで~ その~」
「・・・」
うーん‥‥ マジで気持ち悪い。
てかコイツが言いたい事は分かる。
どうせ帰りも昼飯食わせて欲しいとかそんなんだろ? 別に良いけど、うん、コイツ気持ち悪い。
お前はぶりっ子か? ぶりっ子乙女か?
仕方ない奴だよ本当、いや、仕方ない奴等かな?
「おう、帰りも昼時だろうから昼飯は食わせてやる、だからその気持ち悪いもじもじ仕草は止めろ」
「マジ? マジ? 守長マジだよな?」
「おう、マジだ、だからその気持ち悪い仕草は止めろ、てかもじもじすんな」
あーあコイツら‥‥
こんな街中で子供みたいにはしゃぎやがって‥‥
まぁ良いだろう、こんだけ喜ばれたら俺も気分は良い、うん、悪くない気分だ。
とは言え‥‥ コイツらを宥めてさっさと行こう。
もう一度注意はしなければならんがな。
浮かれ気分で居ると思わぬ不覚を取る事もある。
休暇は始まったばかりだ。