第18話 裁量権
姦しい声が聞こえてくる
アイザックのじい様に無理するなと伝え下に降りてくると村の女衆が居た。
女衆は皆口々に、『雨風が』『少し濡れた』だの言ってお喋りに興じている、数は7人か。
「守長、女衆の第一陣が来た」
「第一陣と言うことは次も来るんだな?」
アイザックのじい様が頷く、
村長はちゃんと言った通り手配したみたいだ、
それともカレンかな?
「じい様、次はどの位来るんだ?」
「いや、村長の話しでは人が集まって整い次第送るからって女衆は言われたそうだ」
要するに行き当たりばったりか‥‥
ある程度纏めて送らないと こっちも配置に人手を取られるし 余計な手間がかかるんだが‥‥
仕方ないな。
「おい、今来てる女衆は当番の人間ばっかりか?」
「あっ守長、当番は5人、後の二人は違うよ」
声を掛けてきたのはマーラか。
「なら当番でまだ来てない女衆も居るんだな?」
「あー 当番でまだ来てないのは居るねぇ」
集まりが遅れているのか? それとも‥‥
「こっちに来て居ない当番の女衆はまだ集合場所に来て居ないのか? それとも別の所に行ったか分かるか」
「村長が全員送ったらマズイだろって言って村長の家の前に残ってるね、当番以外も残って居たよ、後来てない当番も少し居たと思う」
いやだから残してもしょうがないだろ、
全員とは言わんからもっと送り込めよな。
「守長、村長に言われて来たんだが」
モリソン兄弟か、
「来たのは二人だけか?」
「ああそうだ」
男衆ももう少し送ってこいよな、少な過ぎだろ。
モリソン兄弟に話を聞くと人は続々集まって来てるそうだ、まだまだ暗いし嵐で船も出せないから村長の家の前に居るだけになってるらしい。
もう嫌だ効率悪すぎだろ‥‥
「あー 守長大丈夫だよカレンおばちゃんが村長に助言してるから」
「・・・」
なら大丈夫か。
モリソン兄弟が言うには人が続々集まり、村長の家周辺にただ 佇んで居るだけになって居てそれを見たカレンが村長の家や周辺の家の小屋に納屋、それこそ家畜小屋に集まった村民を退避するように村長に助言したそうだ。
も~う! 頼むからカレンが村長やってくれよ。
あのおっさんいくら雨具着てても こんな雨風が強い時に外に出してたら 救助の前に疲れるだろうが、それに皆こんな夜中にたたき起こされて疲れてるだろうに‥‥
どうする? いや、カレンが居るなら大丈夫だ、
まだ様子見だ、まぁいざとなったら‥‥
「守長?」
モリソン兄弟が訝しげに見ている、
声をかけてきたのは兄のようだ。
「何でも無い少し待っていてくれ マーラちょっと来てくれ」
「はいよ、どうしたね守長」
うん、じい様達も上に居るアイザックのじい様以外居るな、皆に一度に説明出来るな。
「マーラはこれから来る女衆の指揮を取ってくれ」
「あたしが?」
そんな驚いた顔すんなよちゃんと説明するさ。
「当番の者は今から言うそれぞれの部門ごとに指揮を取ってもらう、マーラは女衆の総指揮まぁ頭だな、心配しなくてもここの総指揮を執るのは俺だ、当然責任も俺が負うしあくまで責任者は俺だ マーラはこれから来る女衆の指揮官だ、女衆の指揮、差配、つまり配置の差配だな それをマーラに任せる」
マーラが困惑している、だがマーラなら適任だ。
「マーラなら出来るさそれと繰り返しになるが
今から言う部門の頭をマーラに決めて貰う、
そしてどの部門にこれから来る女衆が適任か
マーラが判断して配置してくれ」
「うーん‥‥ 分かった、
配置はあたしが決めていいんだね?」
よしよし言質はとったぞ。
「ああ勿論だ、何なら正式に書類に残そうか?」
「そりゃあ又ありがたいこって」
マーラが面白そうに笑う、豪快な笑い声だ。
まぁもう少し説明しとくか。
「灯台守長たる俺とじい様達が上級指令部
マーラ達女衆が下級指令部かつ前線指令部
そう言えば分かりやすいだろ?
戦の負けは最終的に上級指令部の責任だ
総指揮は俺が執るし責任は俺が取る
マーラ達は気にせずおもいっきりやってくれ
それと分からん事や判断が付かない時は
俺に相談してくれ、女衆がやり易いように
きっちり対応するからな、心配するな
総指揮は俺が執り
マーラは俺の下で指揮を取ってくれ」
「まぁそこまで言われたら嫌とは言えないさね
やれるだけやってみるよ」
よしよしやる気になってくれた、
これで指揮権の一部委譲が出来たな、
まぁ責任は俺が取らないといけないから
丸投げはしないがな。
マーラには自由にやって貰おう、自由裁量権だな。
上級指令部が下級指令部の状況を理解せず
細かく指示を出すとろくな事にならん、
今世でも、前世でも、仕事上でたまに居た。
それこそ手の動かし方から足の動かし方まで口を出す勘違いしたアホな上司がたまに居る。
仕事何てのは目的さえ決まって居たら
大まかに指示し、少しづつ微調整したらいいんだ。
大きくズレそうになったらその前に予め注意する、そこで指示を出せばいいんだ。
まぁ常に部下の動きを把握しておかねばならないから結構しんどいんだけどな。
さてと、
「モリソン兄弟、どっちか村長に伝令に出て欲しい」
「兄貴俺が行くよ、守長何を伝えればいい?」
弟の方か、まぁ、コイツらは二人共しっかりしてるからな、大丈夫だろ。
「村長にもっと人を送るように
具体的には女衆を50人
男衆は足の早い体力のある奴5人
力のある奴5人、じい様達で思慮深いのを5人
最低でもそれだけ送って来るように伝えてくれ」
「分かった、もし無理だと言われたら?」
うん、残念ながらその恐れがあるな、
流石だなちゃんと気付いて対応策を聞いてくるとは
こう言う有りそうな事を想定して確認するのは
当たり前の事なんだが出来ない奴は結構多い。
中々得難い資質だな。
「その時はカレンを呼んで守長に言われたんだが、繰り返しになるがと前置きして村長とカレンにもう一度同じ事を言ってくれ、それでもゴネたら更にもう一回同じ事を伝えて返事を聞かずに伝えたからなと言って灯台に帰って来たらいいさ」
「分かった、だけどそう言って意味があるの?
本当に返事を聞かないでもいいのか?」
いいんだよ、こっちは要望を伝えて拒否したのは村長なんだ、意見を聞き入れずヘタ打ちしたのは村長になるんだからな。
まぁカレンなら送る様に村長に助言するだろう。
「構わない、今言った事を紙に書くから少し待ってくれ、その紙を村長とカレンの目の前で読み上げてくれればいい、読み上げる順番はさっき言った通りにな」
「分かった、濡らさない様に大事に持って行くよ」
うん宜しい、気も利くなぁ村長の人選は当たりだ。
俺が書いた紙をを濡らさぬように皮で包み、懐に入れモリソン弟は走って行った。
雨具も来てるし皮で包んで懐に入れてるから
あれなら濡れてぐしゃぐしゃにはならんだろう。
マーラにも指示し、マーラの指令部の人員を決めて食事作り、救助者の看病、備品の運搬設置
片付け、予備人員等の部門長を決めさせマーラ自身は指揮に専念するように伝えた。
さてと、とりあえず着替えてくるか。
うん、バッチリだな
特級官吏服着て巡察使のマントも決まっている。
自画自賛だが中々決まっている。
だが巡察使の紋章はイマイチなんだよな‥‥
よりにもよって何でロバの背に雀が止まってる紋章何かにしたんだよ、コレだけは分からん。
本当にセンス疑うわ、無いわ~ 本当無いわ~
まぁいい仕方ない、それに俺がコレに決めた訳では無いし昔からコレなんだよなぁ‥‥
短剣もヨシ 寸鉄もヨシ 髪型ヨシ
香水は若干付け過ぎだがどうせ汗で流れるから
こんぐらいは付けとか無いと香りが負けるからな、
姿見でもう一度身嗜みを確認してと、
姿見、まぁ鏡だが銀引きの鏡だ。
土台に銀を薄~くコーティングして、
その上からガラスを嵌め込んだものだが、
ガラスは濁ってるし気泡もあるしで前世の鏡とは
比べ物にならない位にお粗末な鏡だ。
とは言えこれでも高価なんだよな‥‥
まぁ銀引き加工の技術は高いからこれでも結構見えるから問題無いっちゃあ問題無いんだ。
それに篝火の所の鏡もコレだしな、
本当、技術の成熟度がチグハグな世界だよ。
そういや上の篝火んトコ大丈夫かな?鏡もそうだが
反射板の金属にももう一回クリーン掛けとくべきか? さっき掛けたばっかりだけど。
やり過ぎると却って駄目になるか?
まぁ一応後で確認するか。
しかしこの格好すると身が引き締まるな、
帝城に居た頃を思い出す。
しかし今やもう懐かしい思い出だ、まだ1年前の事なのに俺もそれだけここの生活に慣れてきたって事か。
まぁいい、悪い事では無い、
俺はこのハルータでの生活は気に入っている。
さてと、一丁行きますか。