第179話 肉を喰らおう
高い塔が見えている
巨大で高い 只々高く巨大な建築物
大陸一の灯台 バハラの誉れ 懐かしの大灯台だ。
「久々だな、やっぱデカイな」
「あー 大灯台か?」
「ああ、久々に見るとやっぱデカイし、懐かしく感じるな」
バハラでの色んな思い出が蘇る。
アレを見るとバハラに来たって実感が湧くわ。
しかし船が多いな、近隣から魚市場に向かう船だろうが、船着き場混みそうだな。
魚市場、正式名称はバハラ第一卸売市場だ。
バハラには三つの卸売市場があり、第一が主に魚介類を、第二が主に食肉や乳製品等の畜産物を、第三が主に野菜や果物等の青果物を取り扱っている。
それぞれの市場が一応専門的に、魚や肉や野菜等を扱っているが、それしか扱っていないと言う訳では無く。
例えば第一卸売市場、皆が魚市場と言っている所では魚等の魚介類だけで無く、肉や乳製品や野菜や果物等も扱っている。
あくまで魚介類がメインであって、それしか扱っていないと言う事では無い。
第二や第三の卸売市場でも、他の卸売市場で扱っている物を扱っており、厳密にはそれ専門のと言う訳では無い。
と言うか、一応他の物も扱ってはいるが、基本的にではあるが、それぞれの卸売市場はそれに一応特化? してはいるが、例えるならタバコ専門店だが飴やガムも売ってあり、何なら人形も売ってる店? それか観光地で名物料理を出す店に何故かおもちゃを扱っている店とでも言えば良いのか、卸売市場の卸売りの字の前に総合と付け加えられ、総合卸売市場となればこの様な事を考え無いで済む。
俺達が今から行く第一卸売市場は海沿いに、第二、第三はバハラの東側の街道沿いの近くにあり、それぞれ扱っている物を運ぶ上でアクセスしやすい位置にあり、第二や第三では魚介類は基本ほぼ扱っていない。
但し第二や第三は川魚や湖魚等の淡水産物を扱っており、逆に第一ではほぼ淡水産物は扱っていない。
海産物が獲れる所では、川魚や湖魚等は獲れる量も少なく、皆無とは言わないがほぼ持って来て行く事は無い。
だがこれも但しと言う一文が付く、と言うのも海沿いでも一部地域や個人等で淡水生物の養殖を行っており、それ等を船を使い海から第一卸売市場に持って来る事もあるからだ。
なので第一の場合は、天然の淡水産物をと言うべきだろう。
この世界では淡水生物の養殖が行われており、その歴史は古い。
結構昔から行われていて、初めてそれを知った時は驚いたものだ、淡水産物の養殖は内陸部では盛んに行われており、海鮮類は食べる事が出来ないが、淡水産物は結構食べられている。
天然物の淡水産物も盛んに漁が行われているし、天然物と養殖物、それ等が内陸部では結構出回っているし、バハラにもかなりの量が運ばれて来る。
内陸部では海の物、所謂魚介類、それも新鮮な物は滅多に食べられないし、食べる事が出来ない。
海産物の干物、皆が完干しと言ってる物や一夜干しは食べられているが、干物ならまだしも、一夜干しでも内陸部では結構高い。
輸送の問題があるから仕方ないが内陸部の場合、新鮮な海の幸は高嶺の花だ。
前世と違い、好きな時に好きな物を食べる事が出来ないのは意外と辛い。
そして前世では海産物は結構食べて居たが、川魚や湖魚はあまり食べなかった。
この世界では淡水産物は良く食べて居たが海鮮類は滅多に食べる事が無くなった。
バハラに赴任した時暫くは、海の幸を食いまくった物だ。
中々食えなかった反動なんだろうな、だが帝都から赴任して来る奴とか、内陸部から赴任して来る奴は、俺みたいに皆食いまくるらしい。
そしてバハラに馴れてくるとあまり魚、魚と言わなくなってくるらしく、バハラに慣れたかどうかの一つの目安となっている。
今は魚より肉だな、村では加工肉に関しては不自由は無いが、精肉は勿論、生肉すら手に入れるのは困難だ。
冬であるなら輸送にしてもまだマシである、それでも手間が掛かるし、夏場等まず無理だ。
バハラから運ぶにしても輸送の問題があるし、時間が掛かり、こればっかりは金の力を持ってしても難しい。
バハラから南にある村や街は直線距離として見れば近い、だがあの山々に阻まれ大きく迂回しなければならず移動距離自体は結構な距離になるし、船を使うにしても保存の利かない精肉や生肉をハルータ村まで運ぶのはそれだけで困難だし、わざわざそれ等生肉を売りに来る商人は居ない。
大量に運べば採算が取れるのだろうが、今度は買う人間って問題がある。
俺が買うにしても僅かな量になるし、結構な金額になり、しかも状態の悪い肉になる可能性も大きい。
なら生きてる状態で村まで運び、村で絞めてって手もあるが、鶏や豚、猪はともかく、牛は枝肉にするのは無理だ。
鳥は完全に慣れた、前世でも何回かは絞めてたし、解体もしたし、この世界で数えられない位はした。
豚、と言うか猪だが一応やり方は分かるし、二回解体した事もある、子供の頃だがな‥‥
そう、おじさんに教わった、いや、教えられた‥‥
『覚えておいて損は無い』
そう言われて嫌がる俺を無理やり連れて行き、教えられたのだ‥‥
うちの流派じゃ当たり前に行う常識、いやいや、アンタ違う流派ですよね?
そう言ったが笑って誤魔化され、強制連行されたのは忘れられない思い出だ。
何だよあの流派? 何で獲物‥‥ 狩り、それを絞めて解体し、当たり前の様に出来るのが当然であり常識なんだ? マジで頭おかしいぞ?
猪も豚も似た様な物、家畜か野生の違いかだろうが、一応は分かるし、やろうと思えば出来る。
一人でやった事は無いがな。
やろうとも思わなかったが‥‥
牛はやり方すら分からないし、第一だ、牛一頭丸々どうやって食うんだ? 流石に無理だ。
豚や猪だってそうだ、丸々食えないし、保存がきちんと出来ない。
部屋を丸々冷凍庫や冷凍庫代わりにすれば多少は日持ちもするだろう、だがそれとて限度がある。
解体人も呼ぶと言う手もあるが、結局問題はある。
そう、保存と言う問題だ。
周りにお裾分けすれば処理出来るだろうが、肉食いたくなる度に一頭持って来さすのか?
無理だっつーの! 金の問題では無い、それは全く問題無いが、絞めて解体し、枝肉にするのが手間だし面倒だ。
鶏だって一匹丸々常に食えないし、お裾分けする事になる。
大体鶏は卵を取る為に飼って居るのであって、肉は卵を産まなくなってからの話だ。
結局鶏肉をとなったら取り寄せになるし、その場で食う為にならまだしも、何時か食う為飼うのは面倒だし、卵用の鶏とケンカになる可能性大だしな。
それでも肉食いたくなったら、食肉用の鶏を取り寄せるが時間も掛かる。
結局は手間だし、食いたい時に、その日には食えないんだよなぁ。
そう、食いたい時に直ぐ食えないのが問題なんだ。
これがバハラならそんな事は無い。
何時でも肉は買えるし、牛 豚 鳥、どんな肉でも直ぐに手に入るし、何より料理店がアホ程ある。
バハラに赴任してた頃に行ってた店も幾つかあり、去年も行ったが店を畳む事無く続いていて嬉しかったな‥‥
到着は昼飯時になるな、元々若い衆に昼飯を食わせてやろうと思って居た、だが行くにしても魚市場からではちと遠いし、じいさん家に行くならかなりの遠回りになってしまうな。
乗り合い馬車を使えば良いが、それなら道を覚えられなくなってしまうし、行きは徒歩で行き道を覚えさせようと思ってる。
そうなるとだ、今日遠回りし違う道を行けば、俺の帰りにコイツらが迎えに来れなくなってしまうかも知れない。
違う店にするか‥‥ 店は幾らでもあるからな、仕方ない諦めて違う店にしよう。
「おい皆、向こうに着いたら昼飯食うぞ、肉だ肉! 肉食うぞ、いや! 喰らうぞお前達!」
「マジかよ守長?」
「えっ良いのか守長?」
「やった! 来て良かったわ、肉‥‥」
「流石守長だ、肉食わせてくれる何てマジかよ」
「なぁ守長、酒は? 飲んでも良いのか?」
「おいモリソン兄、飯は腹いっぱい食って良いし、肉も嫌になる位食わせてやる、だが酒はダメだ、シラフじゃ無いとコソ泥が来やがった時に何かあっても対応出来ないかも知れないからな、村に帰るまで我慢しろ」
「マジかぁ~ まぁそうだよな、仕方ないか‥‥」
コイツは‥‥ とは言え他の奴もガッカリしてやがるな、そして仕方ないとも思ってるか?
残念ながら今日は仕事だからな、諦めて我慢して貰わんと、ケチな小悪党にヤラれたら困る。
村に帰ったら思う存分飲めるんだ、売る程渡してあるしそれまでの我慢だな。
おっ、色々考えてる間にもう船着き場か、皆で来たから案外早く感じるな。
「うわー アイツかよ‥‥」
ん? どうしたんだ?
「おいブライアンどうしたんだ? 何か合ったのか?」
「ああ、合ったってか‥‥」
珍しく口ごもってどうした? 視線の先は‥‥
船を監視し、管理指導してる下級官吏が、到着した船を整理してるが? 何かあんのか? 行政府の、港湾局の普通の船だぞ?
「おいそこの船! これ以上進むな止まれ! 何を勝手に進もうとしているんだ! 入港させないぞ、船着き場を利用出来なくしてやろうか? 指示に従え馬鹿者が」
ん? あの下級官吏は俺が見えないのか?
おいおい、ブライアンが目付きの悪いチンピラ丸出しで目立つからって気を取られ過ぎだろ‥‥
「お前は私の指示も無しに勝手に入港しよう等と何を考えているんだ? このバ‥‥」
気付くのおせーよ、ブライアンに視線釘付けかよ?
「特級官吏ネイサン・サリバンだ、お前港湾局の者だな? 名前と所属を‥‥ 官姓名を名乗れ」
さてこの女官吏、唖然としてるがさっさと答えてくれよ、時間は貴重なんだからな。