第177話 恐れる十二人の男達と
「ハンナにあまりサバをやらないでくれよ」
「分かっとるよ」
「畑と鶏も頼むぞ、温室の物も持って帰って良いが根こそぎは止めてくれよ」
「大丈夫、加減するから」
「腐ってもアホらしいからある程度は持ってっても良い、後は卵も皆で仲良く分けろよ」
「そんなんで揉めんわいな、ちゃーんと世話もするから心配せんでもええ」
「それから‥‥『守長分かっとる、大丈夫じゃて』」
じい様達め、苦笑しながら諌める様に‥‥
再確認しただけじゃないかよ、一月も居ないんだぞ、念には念を入れとかないとな。
「まぁ何じゃな、一ヶ月楽しんでくるとええ」
「分かった、土産も買ってくるからな」
「楽しみに待っとくわ」
土産は酒が良いかな?
いや、決めつけは良く無い、向こうに居る間に決めよう、そんな事を考えるのも楽しいもんだ。
「ジョーイ・バーンズ、俺の居ない一月の間頼むぞ」
「はっ! 分かりましたサリバン卿、ハルータ灯台、灯台守長代理の任、承りました、サリバン卿も休暇をお楽しみ下さい」
「じい様達も頼むぞ、コイツを補佐してやってくれ」
「任せとけ守長、灯台の事も代理の事もちゃーんとやるから、任せとけ」
「ん、分かった」
じい様達はジョーイ・バーンズの事を代理と呼ぶ事にしたらしい。
昨日交流の為に皆で食事をし、酒を飲んで大分打ち解けたみたいだ。
とは言えアイザックのじい様は、昨日は夜番で飲めなかったから今日の食事会で飲む事になったがな。
二日続けての食事会兼飲み会だ、食事と酒、それにツマミも俺が用意した。
と言っても食事はじい様達の嫁に手間賃を払い作って貰ったんだがな。
一緒に飯食って酒飲めば人は結構打ち解けるもんだ、やって正解だった。
じい様達とジョーイ・バーンズもかなり打ち解けたし、一月の間上手い事やってくれるだろう。
「そろそろ行く、おいブライアン行くぞ」
「分かった、皆聞いたな? 行くぞ」
「「おう」」
村の若い衆は結局十二人連れて行く事にした。
最初は六人、又は八人と思ってたが、荷物が多くなった、いや、なりすぎたのだ。
手ぶら組が三人、荷物持ちが九人、手ぶら組は左右に一人づつ、後ろに一人、そして俺が先頭で警戒する事にした。
人が増えればそれだけ目立つ、しかも荷物を大量に持ってるとなると、アホな小悪党を引き寄せる。
結局はこの前マデリン嬢が来た時に雇った若い衆十二人、全員雇う事にした。
とは言え十二人全員船に乗せるのはきついので、他の船にも便乗してバハラに行く事になった。
「ブライアン、バハラに行く村の奴等待ってるんだよな?」
「あー 待ってるってか、まだ行く準備してるんじゃないかな?」
「一緒に行くのにある程度出発は揃えてんだろ? 皆早く行きたいだろしさっさと行かないとな、俺達は荷の積み込みもあるんだ」
「まぁ多少は待ってくれるよ、それにこの中には便乗する奴も居るんだから、勝手に行ったりしないだろ」
「なら尚更だ、こちらが待つ分には良いが、相手を待たせるのは駄目だ」
「守長は変なとこで気を使うよな? 皆そんなの気にしないよ、それにちょっと待つ位なら煩い事言う奴も居ないと思うけどなぁ」
良く言えばおおらか、悪く言えば大雑把、人によってどう受けとるかはソイツ次第だな。
コイツらは一隻で、単独でバハラに行く事は滅多に無いらしいが、決まりでそうなってる訳では無く、どうせ行くならついでに一緒に行こう、その方が何かあった時に安心だからな、と言う事らしい。
行きもそうだが、帰りも複数の船で帰るらしい。
行きと違って帰りは数が少なくなるらしいが、それは売れ行きや売り物によって帰りが異なるからだそうだ。
魚市場にだけ売りに行く奴、そして青空市にも行ったり、青空市にだけ売りに行く奴。
そして青空市でも売れ行きによっては帰る時間もバラける。
それでも帰りは絶対に一隻では帰ってこない。
行きは決まりが無いが、帰りは複数で帰って来るって決まりがあるらしい。
理由としては、青空市に売りに行けば帰りは夜になるから危険が増すからだ。
夏場であれば日もまだ落ちていないが、それでも必ず複数で帰って来る。
なら行きも決まりを作れば? そう思うが獲れた物を一刻も早く持って行きたい場合もあるから、決まって無いそうだ。
うん、本当おおらかだね、言ってる意味は分かるんだが‥‥ まぁおおらかって事だな。
「おいモリソン弟、お前の持ってるのは卵と酒だからな、気を付けてくれよ」
「分かってるよ守長、卵が割れたら洒落になんないからな」
弟が持ってる卵は昨日と今日の朝産んだ物だ。
昨日の卵には印を付けてあるので、今日の分とは見分けが付く様にしている。
昨日今日の分で三十越えているが、毎日卵が二十以上は採れるんだよなぁ‥‥
流石にちょっと鶏を増やし過ぎたか?
帰ったらちょっと締めるか?
結局食いきれず皆に配ってるからなぁ‥‥
エサ代の事を考えたら完全に赤字だし、買う方が遥かに安い気もするが‥‥
やっぱ駄目だな、俺の育ててる鶏は、それこそ魔法無しでも生で食える位のモノだ。
世話が掛かるが良い暇潰しになってるし、金に関しても腐る程ある。
とは言え流石に増やし過ぎた、帰ってから考えよう。
「なぁ守長、それ俺が持とうか?」
「いやいい、俺が持つ」
ブライアンの申し出はありがたいがこれは駄目だ、俺が運ぶ。
とは言え向こうに行ったら俺は、手ぶらにならなければならない、コレはモリソン弟に任せる。
厳重に括り付けて決して、簡単に開かない様にした背負子やリュックサックっぽい荷物入れ。
コイツらには手に荷物を持たせるが、モリソン弟にはコレを身体の前面に抱える様に持たせ、更に身体にも括り付けさせる。
モリソン弟は身体全体のバランスが良いからな、
簡単に転んだりしないだろう。
正直他の奴にコレを任すのは気が進まないが仕方ない、俺は手ぶらじゃないといざと言う時に素早く動けないからな。
アレとアレは俺の背中の荷物入れに、小さな物だがそれに厳重に紐や布で簡単には開かない様にしてるが、これ位なら全く邪魔にならん様にしてある。
当然中のモノも厳重に仕舞ってあるし、ちょっとやそっとの衝撃では壊れない様にした。
コレは大事なモノだからな、絶対に壊れない様に、奪われたりしない様にしなければならない。
とは言え二つある内の一つがデカイから、小さな荷物入れとは言え結構な大きさではある。
コイツらの背負子やリュックっぽいのに比べたら、小さくはあるがな。
「ブライアン、お前向こうに行ったら手ぶらだからな、マジで忘れるなよ、お前は一番後ろできっちり警戒をしろ、何時も通り普段通りにその目付きの悪さを発揮しろよブライアン」
「・・・」
「どうしたブライアン? お前のそのチンピラ丸出しの目付きの悪さは、今回非常に重要で役に立つんだからな、分かったな?」
「分かったから、マジで分かったから! 手をワキワキさせないでくれ守長」
「おいブライアン、返事は一回って前に言ったよな? お前まさか忘れてるのか? それとも‥‥」
「忘れてないから、マジで忘れて‥‥ いや、はい大丈夫です、覚えてます守長」
「うん、なら良い、で? お前達は何見てんだ? 何か俺に言いたい事があるのか?」
うーん‥‥ コイツら皆凄い勢いで首や手を左右に振ってやがる。
そしてさっと、目を反らしたのは何故だろうな?
多分だがあの時に、うん、マデリン嬢が来た時に気合いを入れてやった事を思いだしたんだろうな。
あん時も気合いを入れる為にコイツらの股間を掴んで気合い入れてやったから、それを思い出したかな? まぁ良いだろう、きっちりやってくれるなら俺は文句は無い。
もしだらけてる様なら、もう一度コイツらの股の間にブラ下がってるお粗末なモノを、おもいっきり掴んで気合いを入れ直してやる。
「お前等分かってるよな? バハラには観光に行くのでも、遊びに行くのでも無いからな、気合い入れろや、じゃ無いと‥‥ だらけてる様なら分かってるよなお前達?」
「分かってるよ守長、気合い入れてちゃんとやるから、俺達を信じてくれ守長、だから手をワキワキさせないでくれ、頼むよ‥‥」
「なら良いがなモリソン兄、お前らちゃんとやってくれるなら俺は何も問題無いし、気持ち良く手間賃を払えるし、お前達も村に帰ってから気分良く酒飲んでツマミを食えるんだからな、分かったな? 返事は~!」
「「「「「「はい」」」」」」
「ヨシ良い返事だ、気に入った、お前達にアンナを娶る権利をやろう」
「「「「「「・・・」」」」」」
「どうしたお前達? 返事が無い様だが不満か?」
「守長‥‥ それはマジで勘弁してくれ‥‥」
「守長、兄貴の言うとおりだよ‥‥ アンナは勘弁してくれよ‥‥ てか誰もハイって言わないし言え無いよ、マジで勘弁してくれ‥‥ 大体アンナは守長にぞっこんじゃないか、アレを‥‥ アンナみたいなじゃじゃ馬を飼い慣らす事が出来るのは守長だけだって、俺達には無理だ‥‥」
「・・・」
ふざけんなや! 何で俺がアンナ担当なんだ?
てかコイツら皆目を反らしやがってからに‥‥
モリソン弟よ、何て恐ろしい事を抜かしてくれちゃってんだよ。
アンナがぞっこん? 俺だって目を反らしたい現実ってモンがあるんだぞ。
今から久々の休暇なのに‥‥
ふざけやがって、俺はそんな現実認めないからな。
そんな嫌な未来等、俺がぶっ壊してやる!
そんな恐ろしい未来は認めない、ああそうだ!
俺は自らの手で未来を切り開いてやるわ。
「・・・お前達、行くぞ‥‥」
さっさと行こう、じゃないと折角の休暇が台無しになってしまう。
もう! 長期休暇の出だしから気分が台無しだよ。
いかん! 気分を切り替えて行こう。