第176話 引き継ぎ
今後の更新について活動報告を書きました。
「ジョーイ・バーンズ下級官吏です、サリバン卿の代理の為着任致しました、此方が任命書です」
「ネイサン・サリバン特級官吏だ、確かに受け取った、俺が休暇の間頼むぞ」
「はっ! ハルータ灯台、灯台守長代理の任務、全身全霊を持って任務に当たります」
「うむ、ジョーイ・バーンズ、大灯台での勤務経験はどの位になる?」
「現在五年目になります」
「下級官吏に任官してから大灯台勤務一筋
か?」
「はい、そうです、研修後は大灯台勤務のみです」
「研修は‥‥ 行政府と海事局、それに港湾局か? 最近は又色々回るんだな?」
「はい、その通りです、ですが下級官吏の研修制度が又変わるとの話もある様です」
前までは、俺がバハラに居た頃は研修無しで即配属されてってのが、下級官吏は当たり前だったんだが、これも時代や状況によって変わるからなぁ。
バハラでは任官したての下級官吏は、研修有りでの配属と研修無しでの配属が時代によって変わる。
良く言えば臨機応変、悪く言えば行き当たりばったりのやり方だ。
バハラだけの独特のやり方、違うな、独自色を出そうとしてるのか、コロコロ変わる。
やり方をコロコロ変えると結果的に効率が悪くなるのになぁ、どうせ又変わるんだろうな。
本当独特だよあそこは。
「研修後は大灯台勤務を志願し、大灯台勤務五年目です」
「一応確認するが、五年目なら灯台業務は一通り出来るな?」
「はい、出来ます」
うん、当然の返答だな、これで出来ない何て言われたら、バハラ行政府の人間の頭を疑うわ。
出来もしない奴を代わりに送り込んで来たのかってな、大灯台でも研修の様な物を受けてるだろうし、その上で勤務して、実務経験を積んできてるだろうし、コイツは出来ると判断されたから交代要員として送られて来たんだからな。
我ながらどうかと思うが、一瞬嫌がらせの為に出来ない奴を送り込んで来やしないかと思ってしまったわ。
流石にそれは無いだろうが、どうも変な所で疑い深くなってしまってるな。
うん、出来ない奴が来た場合困るのはバハラの奴等、行政府がいざと言う時困るんだ。
夏に合った対応5の時の様な事があったら、困るのはバハラ側だからな。
「大灯台とは勝手が違うだろうが、基本的にやる事は一緒だ、分からん事があったら灯台守のじい様達に聞け、皆長いから勝手も分かってる、それと書類仕事も重要な物は処理済みだ、お前が処理するのは灯台の運営上に於ける日々の細々とした物だから、通常の七割あるか無いか程度のもんだ」
「はい、分かりました」
じい様達の挨拶は後回しにするか、先ずは説明と引き継ぎを優先しないとな。
「お前も朝一でバハラから来て疲れてるだろうが、引き継ぎを先に済ますぞ、俺は明日の朝には出発するからな、休むのはもう少し我慢しろ」
「はい、大丈夫です、疲れては居ません」
歳も二十五だもんな、まだまだ若いから元気なんだろう。
「ん、執務室だが中の物は動かすなよ、動かす場合はちゃんと元に戻しておけ、執務室にある書類も見ても良いが、間違いなく元の場所に戻しておけよ」
「はい、分かりました」
頼むぞ本当、あっちこっちに動かされたら直すのが大変だからな。
おっとそうだ。
「それと言うまでもないが俺の私室には入るなよ、ちゃんとお前の部屋は用意してるんだ、俺の部屋に入る事は無いだろうが間違っても入るな、それと俺の私物置き場にも入るな、疑う訳では無いが初めての所だ、間違って入る事が無いとは言えないからな」
「はい、勿論です、気を付けます」
うん、嘘だけどな、コイツが俺を監視してる奴の手先、もしくはソイツから指令を受けて探らないとは断言出来ないし、言えないんだ、一応は釘を指しとかないとな。
別に見られて困る物は無いが、探られて嬉しい奴は居ないし、コイツが手先で無いにしても間違って入って中の配置を変えられたら嫌だ。
コイツは俺が見る限り、と言ってもまだ会って短い時間、極短い時間でしか無いが、少なくとも無能では無さそうだ。
年齢が二十五だから‥‥ 研修に一年で、大灯台で五年目だから、バハラの学園の卒業生かも知れないな?
俺が去年、大灯台に顔見せに行った時に見掛けなかったが、あそこで働いて居る職員は多いからな、会わなかったとしても不思議では無いし、コイツはあの日休みだったかも知れない。
働いても無い奴を送り込んでも直ぐバレるし、何よりこれから一月ここで働くんだ、諜報員を送り込んで来るにしても実務経験の無い奴をわざわざ送り込むか?
コイツの歳で灯台業務が分かってる諜報員を送るってよっぽどだぞ、うん、無いな。
実際働いてる諜報員を、大灯台に潜り込ませてる諜報員を送るって、それはそれでよっぽどだし、しかも非正規職員に潜り込ませてるなら分かるし、十分有り得る。
だが正規職員足る官吏って、諜報員でも優秀、いや、最優秀って事だ、しかもコイツの年齢なら尚更だな。
まぁ‥‥ 俺の代わりの奴を送るなら非正規職員は送れないから、下級とは言え官吏を送るのは当然ではあるがな。
可能性で一番高いのは、諜報員では無く本当にコイツは只の大灯台勤務の只の官吏で、上司にそれと無く俺の事を探って来いと言われてるってパターンだな。
その上司も更に上の奴に言われてってとこか?
穿った見方をすればって但し書きが付くがな‥‥
端から見たら俺は疑い深いって思う事だろう。
しかし実際監視されてるし、俺だけで無く同期達も監視されてるんだ、それも監視がバレたら公然と監視してくる様な奴等だ。
疑い深いと言われ様が、どれだけ疑っても疑い過ぎって事は無い。
それに官吏なんて足を引っ張るのも、邪魔すんのも嗜みみたいなもんだ、疑うのは当然だ。
特に帝城では当たり前の事だし、基本的にそれを前提に考え行動するしな、それを言ったらバハラの行政府でも当たり前の事ではある。
とは言え一番顕著なのが、苛烈なのが帝城ではあるが‥‥
バハラの行政府の官吏ですら鼻白むのが帝城だ。
本当、官吏になってから俺も性格が悪くなったもんだよ、良い性格してると言うか何と言うか‥‥
あーヤダヤダ、それでも他の奴に比べればまだマシだし、奴等に比べたら俺なんか天使みたいなモンだよ、うん、比べるのも烏滸がましいと言ったとこだよな。
あんな奴等と一緒にして欲しく無いね。
比べられるのも失礼しちゃうわ、心外だよ本当。
「サリバン卿、他に気を付ける事は何かありますでしょうか?」
「そうだな‥‥ 食事はここに居るじい様達の嫁に頼め、当然金は払えよ、それか自炊って手もあるが? 食材は朝方漁から帰って来た奴から買う事も出来る、値段は応相談になるがな」
「あー‥‥ 私は自炊はした事がありません、ですので食事は彼等から買いたいと思います」
「そうか、それはお前の自由だ、金は俺の前の守長が払ってた額になるだろうが、その辺りはじい様達に聞け、それと灯台守のじい様達もそうだが、村の奴も気安い奴が多いが別にお前を侮辱してたり、侮って居る訳では無いからな、揉めたりすんなよ?」
「分かりました、村人と距離が近いのですね? 話には聞いて居ましたが‥‥ これも経験だと思い冷静に対応しようと思います」
「大層だな、まぁ村の皆にも言い聞かせて居るからそうそう問題が起きんと思うが頼むぞ、それと自称村長が居るがソイツは無視しておけ」
うん、俺の言葉に困惑してるね、そうだよな、村長では無く自称村長って何だって思うわな。
国が認めた村長何て居ないが、慣習として村長は居るが、自称村長って何だって思うよな。
「一応ソイツはこの村の村長だ、だが頭が可哀想な奴でな‥‥ お前に訳分からん事を言ったりやったりするだろうが無視しとけ、相手するだけ無駄だからな、簡単に言うとバカなんだ、いや、アホと言うべきか‥‥ とにかく相手すんな、俺が居ない間の事はお前は報告するだろうがそのアホタレ村長の事も全て報告しろ、発言、行動、態度、全て聞いた上で、他の奴からも聞いてあのアホタレには判決を下す、だから相手すんな」
益々困惑してんな、多分だが何でそんな奴が村長をしてるのかって思ってるんだろうな。
うん、俺もそう思うよ、何でなんだろうな?
「その‥‥ 分かりました」
「うん、その内分かる、それとジョンってバカガキも居るが、ソイツの事も報告しろ、因みにソイツはアホタレ村長の一族だ、そのアホガキも毎回やらかしてやがるからな、お前の報告を聞いた上で、他の奴の話も聞いてだが、目に余る様な事をし腐りやがってたら吊るすから多少は堪えてくれ、多少はな、だがお前から見て調子に乗ってると見たら官吏らしくきっちりやってしまえ、だが殺すなよ」
「あ あのサリバン卿? 私は殺しはしませんし、するつもりは有りませんが、そんなに酷いのでしょうか? それと吊るすとは一体‥‥」
「ああ酷いな、南方諸島の葉っぱをやってる奴の方がマシって位酷いし愚かだ、まともに相手するだけ時間の無駄だし、意味が無い、それと吊るすは言葉の意味そのままだ、ふん縛って簀巻きにして吊るす、だからあのバカは基本相手するな」
「その‥‥ そうなりますと村長に相談する様な場合が合ったとして、その場合は如何致しましょう?」
「あーそうだな、その場合はそのバカ村長の嫁のカレンってのが居るんだが、ソイツに話をしろ、あのアホタレ村長に言うより嫁のカレンに言う方が遥かに、いや、比べるのもバカらしくなる程スムーズに事が運ぶ、一応アホタレ村長には言い聞かせてるがそれでもやらかす可能性大だ、カレンにも話をしてるからちっとはマシだと思うがそれでもやり腐るのがあのバカだ、相手するだけ無駄だし、時間の無駄だ、俺は言ったぞ、まともに相手をして困るのはお前だからな」
「あの‥‥ わ 分かりました」
うーん‥‥ 無茶苦茶困った顔してんな‥‥
最初の頃の溌剌さが嘘みたいになってる。
だがコイツも分かるだろう、俺の言っている事がな、勿論分からないならそれが一番だが‥‥
まぁ良いだろう、あのアホタレが何かやり腐ったら村の中心部にあるデカイ木に吊るすだけだ。
俺はあのバカにちゃーんと言ったし、言い聞かせてるんだからな。
返事は、はいと分かりましたの二つ用意して言ってあげた、それなのにやり腐りやがったら俺を舐めてるって事だからな。
きっちり吊るしてやる。
もうあの村長を慮るのは無しだ。
これからはきっちりキャン言わしちゃる。
そうだもう一つ言っておかないといけない。
「ジョーイ・バーンズ、無いとは思うが念の為に一応言っておく、村の女衆が嫌がってるのに無理に口説こうとするなよ、良い女が居たからっていらん事すんなよ、本当、色々いらん事をするなよ、分かったな?」
「はい、勿論です、私は自分の仕事を全うする為にここに来ました、女を口説く為に来たのではありません、大丈夫です」
「よし良く言った、まぁ‥‥ 俺が言った事を守らない場合は‥‥」
「あの、サリバン卿、途中で言うのを止められますと気になるのですが‥‥」
「ん? あー 俺はただ色々いらん事をしたら怒ると言いたかっただけだ、大事な事だからもう一回言う、俺は怒るぞ、これでも一応は特級官吏だからな、分かってるよな?」
「はい、勿論ですサリバン卿!」
「うむ、まぁ‥‥ 俺が帰って来た時もしいらん事をしてたら取り敢えず吊るすがな‥‥ 後は吊るした後考えるさ、お前に限って大丈夫だとは思うがな、それと村一番の問題児のアンナと言う七歳児が居るが気を付けろ」
「えっ? 七歳のですか?」
うん、又々不思議そうな顔してやがる。
だがあの問題児の事は伝えておいてやらないとな。
「七歳児だが口では大人でも勝てない、そしてアイツが暴れた場合は大人でも大ケガを覚悟しないと止められない、アンナにも基本関わるな、俺は言ったぞ、関わるなら自己責任だからな」
「わ 分かりました?」
うん、もしかしてコイツは俺にからかわれてると思ってるかも知れないが、本当の事だからなぁ‥‥
一応は伝えておかないとな、うん、人としての優しさだ。
「俺は冗談を言ってる訳では無いからな、口でも力でも勝てるのは俺位だ、本当に基本関わるな、どんだけクソ生意気な事を抜かしてもだ、俺は言ったからな、知らんぞ」
「は はい‥‥」
これは実際見てみんと分からんか?
まぁ良いだろう後は知らん、一応奴等三人の似顔絵は書いておいた、後で渡すか‥‥
ハナっから避ければ厄介事に巻き込まれる可能性も低くなる、警告と似顔絵、それが俺の優しさだ。
「俺が居ない間頼むぞ、ジョーイ・バーンズ」
「は はい分かりましたサリバン卿」
「ん、良い返事だ」
さてコイツを客間に案内するか、しかし引き継ぎか、俺の前任者の時を思い出すわ。
まぁ良い、さっさと案内してしまおう。