第169話 全ては尊いモノ 汝の名は・・・
「ニァ~ン」
「悪いがエサは無いぞ」
「ナァ~ン」
「うん、又今度な」
野良ニャンコが仕方ねーなとでも言いたげに離れて行った。
白とキジ柄のブチ猫で、可愛らしい顔をしていたのでメスかと思ったが、後ろ姿を見ると御立派なタマタマが付いていたからオスの様だ。
アレ触ったら怒るかな?
何故かたまにツンツンしたくなるんだよなぁ‥‥
「なぁ守長、ガキ共遅いな?」
「そうだな弟」
「俺見てこようか?」
「んー もう少し待とう」
「てか早く芋焼いて飲みたいんだけど」
「もう少し我慢しろ弟」
確かに少し遅い気もするが、まだ許容範囲だ。
だがコイツらは早くお酒さんが飲みたいらしい。
気持ちは分かるが待つのも又楽しいもんだ。
ん? ブライアンの奴船漕いでやがる。
眠いのか? いや、寝てやがんな‥‥
「なぁ守長、帝都にも港町ってあるよな?」
「あるな、と言っても帝都から微妙に遠いし、一ヵ所では無く複数箇所あるが、どうした?」
「何となく? 暇潰し? かな、てか複数ってバハラみたいなデカイ町があるのか?」
「町ってより街だな、とは言えバハラ程では無い、バハラとは比べ物にならん位小さな、とは言え比べるのがバハラだからそう感じるが大きい街ではあるな」
「スゲエよなぁ、そんなデカイ町? 街が何個も近くにあるなんて」
「帝都はな微妙に海から遠いんだ、港も複数あるがその港同士は近いし、分散させてるって意味合いが強いな、帝都の物流を分散させるって意味があったらしいが、結局帝都にモノが集まるからあんまり意味は無いかな? ただ交易路の集結地が帝都になるからあんまり意味が無いってのも少し違うかな?」
元は利権の一本化が出来ず、仲違いしてそれぞれ港を造ったのが今の形なったらしいが、確かに効率が悪い反面それぞれの港は特色があるし、帝都に集まる物、海上物流は流れはスムーズではある。
帝都は大陸一の都だからな、集まる物も膨大だ。
港の規模はともかく、複数ある事によって物流の滞りは無いんだが‥‥ 反面効率が悪いとも言える。
もし利権や利害の調整が上手い事行ってたら、港が一本化されてバハラを凌ぐ程の港になってただろう。
もしそうなっていたなら歴史が変わったかも知れないな。
「守長は子供の頃、帝都の家から海に行った事あんのか?」
「ん? あるぞ何回かはな、家族や家の店で働いてる従業員達と行ったりしてたぞ」
単純に旅行に行ったり、仕事で行ったり。
地引き網を開発した時は一月位行ったなぁ‥‥
仕事だけど遊びみたいで楽しかった。
地引き網の実証実験が終わった後、家族や従業員達と旅行がてら海に行って地引き網をしたり。
あん時は従業員の家族も呼んで地引き網をやったが、かなり評判が良かった。
あれでこれは売れるって確信したもんだ。
俺が金を出して皆を招待したが、アレは大成功だったわ、楽しかったってのもあるが、地引き網って一体感が凄いんだ、仲間意識が更に高まった。
皆が大はしゃぎだったな‥‥
シドの奴が張り切り過ぎて、シドの前後の奴が抗議してたな。
前の奴は後ろに引っ張られて、後ろの奴は早すぎて掴め無いって、多分気のせいだったんだろうけど、そんだけシドが張り切って引っ張ってたからなんだろうな‥‥
地引き網か‥‥ やるか?
だが村総出でやるとなると変態も来やがるな。
どうする? 手が無い訳ではない。
いっその事村の皆が居る時に縛ってみると言うのも一つの手ではある。
そうすりゃ奴の危険性も皆分かるだろう。
だが奴はこれから先、村で生きづらくなるだろう。
それは流石に可哀想、そう思う俺は我ながら甘い事だと思う、だがそれ以上にある懸念もある。
奴が喜び、うん、間違いなく喜ぶだろう。
そしてそんな女にした責任を俺が取らなければと、そんな事を言われるのは嫌だ、てか関わりたく無い。
うーん‥‥ 俺はあの貧乳に関わりたくねーな、別に貧乳がと言うのは良くは無いが良いんだ、矛盾しているが、貧乳自体は良い。
勿論おっきいに越した事は無い、だがだ。
そう、何故ならおっぱいとは全て尊い物だからだ。
大きいも小さいも普通も全てが尊いのだ。
とは言えだ、愛した女が貧乳なら別に良い。
その貧乳ごと愛すと自信を持って言える。
だが愛してもいない女が貧乳ってのは頂けない。
前世でツレに『お前は貧乳に親を殺されたのか?』とそう言われた事がある。
とんでもない! おっぱいは全て、そう、全てが尊い物なのだ。
俺はただ貧乳より、大きい、そう、おっきいのが好きなだけだ。
「守長なんか考え事してんのか?」
「ん? ちょっとな」
うん、おっぱいの事を考えて居た。
とりあえずおっぱいは置いといて‥‥ 地引き網はジルがバハラの魚市場に行った時にでもやるか?
それも一つの手だな。
うん、そうしようじゃないか、であれば問題は解決だな。
「てかブライアンの奴居眠りしてるじゃないか、さみいのに風邪引くんじゃないか?」
「コイツは留守番でずーっと座りっぱなしで動かずだったからな、おい弟、薪に火をつけて暖を取るか?」
「あー そうだな守長、ちょっと寒くなってきたから良いなぁ」
「掘った穴の端辺りに薪を組んで焚き火にするか、端の方なら芋を焼く時に邪魔にならんだろう」
「それか新しく焚き火用に穴を掘ろうか守長? 穴から少し離れて居るし、ブライアンの近くに掘ればブライアンも暖かいし、芋焼く時も邪魔にならないと思う」
「新たに掘るの手間じゃないか?」
「良いよ別に、その位なら手間でもなんでも無いしな、守長、俺が掘るから薪を準備してくれるかな?」
「おう、分かった」
しかしブライアンの奴、さっきまで船漕いでたのに、今は完全に寝入ってるじゃないか。
今にも鼻提灯が出てきそうだ。
「・・・」
どうしよう‥‥
ブライアンの顔に物凄~くイタズラ書きしたいんだけど‥‥
えっ? コレやっちゃダメなのかな?
おデコに目? いや、頬にネコ髭? 勇者ブライアンって書くのもアリだな。
それか怒りマークか‥‥ 傷の落書きも捨てがたい。
どうしよう、やっちゃダメなんだろうか?
「守長、掘り終わった‥‥ 何でブライアンの顔をジーっと見てるんだ?」
「いや‥‥ コイツの顔に落書きを‥‥ しても良いのかと思ってな」
「いや、ダメだろ守長、なぁ守長ってたまにそう言う事やりたがるよな?」
「何か急に幼心が疼いたんだ、コイツこんな所で寝てるって、これもうやれって前フリだろ?」
「守長、やっちゃダメだと俺は思う、てか前フリって‥‥ そんな訳無いだろ、なぁ早く焚き火しよう」
そうか、コレは前フリでは無いのか‥‥
なら仕方無いな、残念だが諦めよう。
しかしブライアンの奴、モリソン弟が穴掘ってたのに全然起きやがらなかったな。
掘った穴は小さかったが、そこそこ音はしてたのにな、それに俺と弟が喋ってても起きやがらない。
これで前フリじゃ無いだと? 笑いの神に全身全霊をかけて抗ってる様なもんだぞ。
「なぁ守長、早く焚き火にしようよ、火を点けて欲しいんだけど」
「分かった」
仕方無いな、今日は諦めよう。
着火用の木片に火を点けてと‥‥
魔法は本当に便利だ、ライターいらず、とは言ってもこの世界にはライターは無いんだがなっと。
よしよし、細かく削った木片と木屑に点いた。
着火用の木片も、もういらないな。
「守長、もう少しくべよう」
「こん位で良いんじゃないか?」
「何か寒くなってきたんだ、もう少しだけ薪を入れて欲しい」
「焦んな、まだ火が小さいんだから少し待て」
日が高くなって来たのに寒くなって来たのは、風が吹き始めたからだろう。
体感気温が下がったからかな?
まぁ良い、焚き火で直ぐに身体は温まるだろう。
「なぁ守長、焚き火が心地好く感じると、冬になったって感じだな」
「そうだな、焚き火もそうだが俺は暖炉だな、暖炉に火が入ると冬になったって思うな、帝都じゃ焚き火は基本やらなかったからな」
「あー 帝都は火の扱いが煩いんだっけ?」
「火事になったら大変だからな」
その辺りも前世と変わらない、田舎では緩いが都心部では厳しい。
焚き火なんて都心部では基本的に出来ないし、やってはいけない、そう、基本的にはだ。
その基本から外れる貧民街ではその辺りが緩いのも、この世界や前世と一緒だ。
「こっちに来て気兼ね無く出来るのは嬉しいな、とは言え最低限守らなければならない決まり事はあるが、それさえ守れば誰に言われる事無く出来る、今日みたいに芋を焼いたり出来るのはある意味贅沢な事だ」
「贅沢ねー 俺らにとっては普通の事だからなぁ、あれ? なぁ守長、あれってガキ達じゃないか?」
「あー‥‥ そうだな、帰って来てんな、やっとかよ」
「おいブライアン起きろよ、ガキ達がやっと帰って来たぞ」
うん、モリソン弟が揺り動かして起こしてんのに、起きやがらない。
どんだけ熟睡してんだよコイツは‥‥
しかも座ったまま熟睡ってスゲエなコイツ。
「おいブライアン」
「んぁ‥‥ どうした?」
「ガキ達がこっちに向かって来てる、芋焼くぞ」
「おー! やっとか、アレ? 守長は?」
「寝惚けてんのかよ? なぁ起きてくれよ、目の前に居るだろ?」
「あっ本当だ、やっべ熟睡してたわ」
仕方無い奴だよ、朝もはよから仕事してたんだ仕方無いか。
さて‥‥ やっとか、待ちくたびれたわ。
さぁさぁ焼き芋 焼き芋っと。