第166話 魔法の系譜
「おいお前達、穴掘りと芋洗いとどっちが良い?」
コイツらお互い顔を見合せやがってからに‥‥
「シャベルが一本しか無いからな、因みに俺は芋洗いをする、理由は魔法でお湯を出さなければいけないからだ」
「俺はどっちでも良いや、ブライアンどうする?」
「俺もどっちでも良い」
コイツら優柔不断かよ?
別に良いんだけどな、適当に振り分けよう。
「モリソン弟は穴掘り、チンピラは意外と丁寧な仕事するから芋洗いな」
「分かった守長、深さと範囲はさっき聞いた位で良いんだよな?」
「おう、頼むぞ」
「ああ、途中まで掘ってあるから楽なもんだよ」
俺も掘ってたから、掘るのにそんな時間は掛からんだろう。
「おいブライアンどうした? 何故そんなに困った顔をして居る?」
「いや、守長今自然にチンピラって言っただろ?」
「ん? そうだったか? 気にすんな」
アレ? 俺は無意識にチンピラって言ってたか?
だが間違ってもいないと思うんだが?
しかしそんな傷付いた顔されたら、俺が悪いみたいじゃないかよ‥‥
「ホレ、さっさと済ますぞブライアン」
うん、この様な場合は無かった事にするのが一番だな。
てか最近コイツは何だが傷付き易くなって来やがったなぁ。
乙女っぼくなって来たと言うか‥‥
「守長、掘り終わったらそっち手伝えば良いんだよな?」
「ん? おう、それと掘り出した土は穴のふちにふんわり盛っておいてくれ」
「分かった」
ブライアンの事はとりあえず置いておこう。
無かった事にしてスルー、それが一番だ、
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「守長、タライにお湯を入れて欲しいんだが」
「かなり濁ってるじゃないか、もう入れ換えるから、一旦お湯を全部捨てろ」
「分かった、しかし守長の魔法は便利だなぁ」
「まあな、お湯も出せるのは便利だし、使い勝手も良ければ応用も利く、マジで親に感謝だ」
「守長の両親も魔法を使えるのか?」
「いや、使えないな、てか家族で使えるのは俺だけだな」
「えっ? そうなのか?」
「そうだ」
「遺伝じゃ無いのか‥‥」
「俺のひいひいひいひいひい曾祖母が使えたらしいがな、所謂隔世遺伝ってやつみたいだな」
俺の八代前のご先祖様が生活魔法の使い手で、しかもかなりの使い手だったらしい。
平民である俺、我がサリバン家がそんな前の御先祖様の事を言い伝えられ、知って居る時点でその御先祖様がどれ程の使い手か分かろうと言う物だ。
そして残念ながら、それ以来その御先祖様の様な使い手は現れなかったらしい。
そう、俺が生まれるまでは。
そしてそんなサリバン家で、語り継がれて居る程の使い手であった御先祖様より更に使えるのは、いや、その人ですら比べ物にならない位の使い手が俺だ。
であれば、両親の期待は凄まじかったのは当然だし、お勉強に関しても、それ以外でも神童と言われた俺への期待は言葉では言い表せない程大きかったのも当然だった。
俺が特級官吏試験に合格した時も喜んでくれたが、反面内心ではがっかりもして居たと思う。
跡継ぎが‥‥ そう思った筈だ。
複雑な心境だっただろう。
特級官吏に任官する事は、大変名誉な事であるが、商会の跡継ぎにはならない事が確定したと言う事でもあるのだ。
合格した時も驚きより、やっぱりかと思っただろう。
凄まじい期待と信頼である。
普通は合格するなんて思わない。
勿論どこの家庭も合格して欲しいとは思うだろうが、合格して当たり前何て思うのは我が家の家族と従業員位だ。
多分商会を継いで居たら、平凡な人生になって居ただろうな。
特級官吏としてバハラに赴任し、帝城で働き、この世界で色々と経験する事が出来た。
官吏にならなかったらバハラに来る事は無かっただろうし、帝城に入る事も無かっただろう。
そして帝国の光と闇に触れる事も無かっただろうし、何より陛下とお会いする事も無かっただろう。
一商会の者が陛下に謁見する事等はまず無い。
そう考えれば官吏になって良かったと思う。
「守長もう良いんじゃないかな?」
「おう、いるなら遠慮無く言えよ、どうせ幾らでも出せるんだ」
「分かった、しかしあれだな、手の平からお湯を出しながら洗えるって本当便利だよな」
「便利だし単純に洗いやすいな」
「なぁ守長、温度も調整出来るんだよな?」
「そうだな、今更だろ、いきなりどうした?」
「風呂も湯を入れるのに手間なんか掛からず、簡単に出来ると思ったんだ、まぁ守長の場合は清浄魔法使えるから風呂いらずだろうけど」
コイツは何を言って居るんだ? 風呂いらず?
「お前は何を抜かしてんだ? 風呂はいるだろう? たしかに清浄魔法があれば風呂に入るより綺麗になるが、風呂は単純に気持ち良いだろうが、てか風呂無しとか俺に死ねって言ってんのか?」
「いや、そんな事言って無いだろ? ただ便利で良いなと思ったんだよ、てか守長風呂好きだよな」
「当たり前だ、風呂嫌いな奴なんて居るか?」
「そりゃ俺も好きだけど、準備が大変じゃないかよ」
「確かにお前達は大変だな、帝都やバハラなら公衆浴場があるから、金さえ払えば何時でも入れるんだがな」
「料金も安いんだよな?」
「何だ、お前行った事無いのか?」
「無いよ、バハラ何て魚市場と青空市にしか行かないし、そこから出る事なんて無いな」
そう言えばそうか、コイツらは基本的に市場から出る事は無いんだったな。
いちいち風呂に入りに行くのも手間だし、帰りに汗かくからあんま意味無いと思ってる奴が多いからな。
汗をかかなくても、潮風でベタベタになるから意味ないって思ってるみたいだし、男衆は特にそう思ってる奴は多いな。
公衆浴場は帝国には大都市だけでなく、どこの街や町にもある割かし当たり前の物だ。
料金も安いし、帝国民は気軽に利用している。
とは言え俺は利用したくない。
理由は垢が浮いてたりであまり綺麗とは言えないからだ。
俺は潔癖気味だからどうしても無理だ。
皆その辺りはあんまり気にしないし、公衆浴場とはそんな物だからと思って居る。
だから俺の様な奴は珍しい。
公衆浴場もお湯が常に浴槽に流れていれば綺麗なんだろうが、当然そんな事は無い。
お湯を継ぎ足す位はするが、浴槽にお湯が流れっぱなし何て基本的に無理だ。
沸かしたお湯を浴槽に常に入れ流すって、バカみたいに金も手間も掛かるだろうな。
そんな事が出来るのは権力者位だろう。
もしくは俺みたいに魔法が使えて、しかも莫大な魔力があって、生活魔法が使えれば出来る。
と言ってもそれ程の魔力を持ってる奴は、普通は居ないがな。
「村の蒸し風呂もお前達は毎日入れる訳でも無いから、手間掛けて家の風呂に入るしかないもんな」
「本当手間だよ、この前の対応5の時は守長が準備してくれたから風呂も毎日入れたけど、あれは灯台で働いてた奴は皆良かったって言ってたな」
「と言っても魔法でお湯を入れつつ沸かしたから、そんな手間は掛かって無いからな」
灯台にもやや大きめの風呂場があり、浴槽の一部分の下から火をくべ温める。
浴槽のその火をくべる部分はかなり熱いので注意が必要だ。
その火をくべる部分に水を入れて熱くなり過ぎ無い様にしてるが、お湯が循環してる訳では無いので俺は入る気がしない。
それに俺専用の風呂もあるから、尚更入る気はしない。
おっと、これで終わりか‥‥
ブライアンも洗い終わるな。
「モリソン弟、穴掘り代わろうか?」
「いや、もう終わるから良い」
「そうか分かった」
流石だな、これ位では疲れもしないか。
やっぱコイツも体力あるよなぁ、ゴツい身体をしてる訳では無いが、漁師をしてる位だ体力も力もある。
おっ、ブライアンも終わったみたいだな、ガキんちょ達はまだ時間が掛かるか? 掛かるだろうな。
うーん、ちとばかり手が空く事になるな‥‥
ん? モリソン弟も終わったな。
酒でも持って来るか? ふと思った。
ツマミと酒か‥‥
取って来るか?