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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第3章 来訪者達
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第163話 ある行商人の憂鬱


少し身体が痛いな


荷馬車の揺れが身体に響く様だ。


歳を取ったと言う事なのだろう。


「会頭大丈夫ですか? 時々顔をしかめてますが?」


「ああ、大丈夫と思いたいが‥‥ 私も歳なのだねえ、この時期に昨晩の様な場所で寝るとどうも‥‥ まぁそれでも藁が合って暖かかったが、少し身体が痛いよ」


「藁のおかげで暖かかったですけど、身体がチクチクしましたよ、そのせいで僕も寝つきが悪かったから少し眠いです」


「納屋を借りれたのは運が良かったが、確かに少し身体がチクチクしてしまったからね、私も寝つきが良くなかったよ、それに無理な体勢で寝たから身体が痛い、藁の柔らかさ‥‥ は微妙だったが、藁が無ければもっと身体が痛かった」


「そうですね藁の分マシでしたね、でも街道にある宿場町の大部屋なら、もっと身体が痛くなっていたはずだから、まだマシだったのかも知れませんね、大部屋の寝床は床ですからね、それにあの納屋は暖かかったですし」


「確かにそうだね、と言ってもまだ冬とは言えない時期だ、これが冬なら寒さも身に染みただろうね」


毛布を使えば寒さを防げるのだろうが、藁まみれになって次の朝毛布の手入れが大変だったはず。


と言っても寒さに震えるよりはマシだがな。


「会頭いきなり売れちゃいましたね」


「ああそうだね、嬉しい誤算だよ、と言ってもバハラにとんぼ返りする事になったがね」


「女将さん驚くでしょうねー それにかなり売れたから二重に驚くんじゃないですか?」


「そうだねえ、だが喜んでもくれるだろう、マックス、帰ったら商品の仕入れと今回仕入れた物を捌かなければならない、暫く忙しくなる」


「勿論です、分かってます会頭」


これは行商からバハラに帰還してから何時もやってる事だ。


それが終われば、休暇を与えるのだが‥‥


今回はどうする? 出発前に一日程は休暇を与えるべきかな?


疲れは無いと言ったら嘘になる。


しかし短い商売でしか無かった、疲れ等と言って居られない。


とは言え気分を切り替える為にも一日程度の休暇も必要かも知れない。


それに今回は結構な利益も出ている。


帰りの利益も確定して居ると言っても良い。


ちゃんとした商品と、適正価格であれば購入拒否も無いだろう。


モノさえ良ければ買う、どうやら本当らしい。


商品の目利きには自信がある。


後は仕入れ値をどれだけ抑えるかだな‥‥


やはり出発前に一日位は休むかな?


妻や子供達、それにマックスを連れて芝居でも観に行くのも良いだろう。


思いがけない幸運を得たのだ、たまにはその様な事も必要な事だ。


おっとそうだ、マックスにも小遣いをやらねば。


小遣いと言うより臨時ボーナスになるかな?


銀貨一枚、小遣いと言うよりは臨時ボーナスと言える額だ。


さて‥‥ これは今言うべきか? それとも仕入れ後に東部を(まわ)って、バハラに帰還してから言うか迷う所だな。


言えばマックスも喜んでくれるだろう。


と言っても実家に仕送りするだろうな。


たまには自分の為に使っても良いと思うが‥‥


「わぁー 風が冷たくなって来ましたね~ 夏は風が気持ち良いけど、寒い時期は困ります」


「慣れるしかないね、とは言え私も冬の風は好きじゃないがね」


確かに風が冷たい。


だがまだギリギリ秋とも言える時期だ。


冬の事を考えると少々気分が重く憂鬱になる時期でもある。


店を持てば寒さに身を凍らす事も無い、だが私は店を持つ事は出来ない。


正確に言えば持ってはいけないと言うべきか‥‥


行商人だからこそ、バハラ近郊に内陸部東部側を回りをしなければならない。


私はこの辺りを(まわ)る事を、少し意味が違うがドサ回りする事を義務付けられて居る‥‥


ドサ回りか‥‥


芸人では無いが、演じて居ると言う意味では芸人の様な物だな。


ドサ回りと言うのもあながち間違いとは言えない。


店か‥‥ 実際店を構えるにしても、正直維持し続ける事が出来るかと言うと分からない。


店を持てば今より税が上がる。


それに売上が常に安定させる事が出来るか不安でもある。


行商であれば税も安く、又安定もしている。


おかしな話だが、今のこの私は行商人として街や村を回る生活は安定した売上があるのだ。


固定客が付いて居るし、街はともかく村々では行商人は必要とされても居る。


そのお陰で安定した利益を得る事が出来て居るのだから。


勿論固定客が居て、私も信用されて居ればこその売上高と利益が出て、私の生活の糧を得る事が出来て居るのだ。


前任者から引き継ぎ、新たな販路を得たし、ついでに任務も私が引き継いだ訳だが‥‥


ハルータ村の販路を得て一年半を過ぎ、もう二年になるのか‥‥


その時期には、あの男があの村に赴任する前から販路を引き継ぎ備えたが、と言う事はあの男はあの村に赴任する事が決まって居たと言う事になる。


でなければ私が販路を引き継ぎ、あの男が赴任する前から備える必要等無いはずだ。


準備万端な事だな、しかも私を専任で監視者にするとは、完全に重要人物以外の何物でもない。


他にも監視者は居る様だが、それに関しては当然知らされて居ないし、知る必要も無い。


あらゆる意味でも横の繋がりは危険だ。


この任務長くなりそうだな‥‥


上には監視がバレたと伝えたのに、そのまま監視任務を続行せよときた。


つまりこれからは公然と監視しろと言う事になる。


見守り人としてあの男‥‥ 守長さんとの付き合いはどの位の期間になる事やら。


どうもあの男‥‥ 守長さんは私の事を、良いおもちゃが手に入ったと思って居る節がある。


いや、実際そう思って居るのだろう。


困った人だ‥‥ とは言え商人としては悪く無い。


『モノさえ良ければ幾らでも買う』


あれは本当の事なのだろう。


であればこれから良いお客さんになってくれる。


少々口は悪いが、大口顧客になってくれるのなら全く問題は無い。


商人として、お客さんとのやり取りであれば全く問題無いとは言わないが、これからも利益をもたらしてくれるのなら心から笑えるだろう。


だが毒と言うのは止めて頂きたい物だ。


思わず、毒を吐いて居るのは守長さんでしょうと言い掛けた。


言ったら恐らく何倍にもなって毒舌が返ってきた事だろう。


何せあの人からしたら、私は遊び甲斐のあるおもちゃの様であるから嬉々として遊ばれる事になったはずだ。


しかし毒か‥‥


私に指令が来る可能性は無いだろう。


商品に混ぜて等論外であるし、第一まず通用しない。


毒の判別や、清浄魔法による解毒は一旦置いといて、購入した商品は周りに配るとも言って居た。


もし商品に混ぜる等したら、多くの無関係の人間が死ぬ事になる。


その様な美しくない事を我々暗部はやらない。


帝国はその様な不細工な事はしない。


それは帝国だけでは無い、大陸ではその様な事は美学も何もかも無い不細工な事はやらないのだから。


もしその様な事をすれば、我々帝国の暗部は他国に侮られ、軽蔑される事だろう。


暗部にその様な決まりが、ましてや美学等と思うかも知れないが、であればこそだ。


でなければ我々は、国を影から支え、守る、その誇りを持てなくなってしまう。


もしやるならターゲットのみに仕掛けるだろうが‥‥


毒以前の問題として、暗殺も無いと思う。


官吏同士の殺し合いは御法度だ。


そんな事をすれば、際限無い殺し合いになってしまう。


その様な愚かな事はしないし、帝国の力を自ら削ぐ様な事は本末転倒だ。


官吏の暗殺となると‥‥ それより上の、その官吏を使う立場の者となる。


そうだな、官吏からの指令で暗殺は無い。


ならその指示をする人間は自ずと絞られる。


全く嫌になる。


帝国の淀んだ闇の更に底に携わるのは、暗部の者としても憂鬱だ。


考えたくも無い、私は何故選ばれたのだ?


任務に否も応も無い、だが私とて人間だ。


多少の好き嫌い位はある。


とは言え任務に関して私情を持ち込む等もっての他だ。


そうだ、与えられた任務を只ただこなす、そして指令通りに遂行するのみだ。


「会頭、そろそろ広場になりますがどうします? 停まりますか? それともこのまま進みますか?」


「あー もうそんな所まで進んだんだね、そうだね、少し広場で休憩しようか、お茶の一杯も飲みたいし、小用にも行きたいしね」


「冷えますからね、手洗いが近くなっちゃいますから助かります、それに温かいお茶も嬉しいです」


「バハラに帰ったら防寒用品を追加で持って持って来なければいけないね、今年は寒くなるのが少し早そうだ」


「そうですね、去年の今位の時期より冷える気がします、今年の冬は寒さが厳しそうですね‥‥」


「かも知れない、とは言え我々行商人は冬の寒さも、夏の暑さも関係無い、待って居るお客さんが居るんだからね、それに稼がなきゃ生活して行けない、世知辛い事だよ全く」


「頑張って何時か店を持てるまで頑張りましょう! それまでの辛抱ですね」


「ああ、そうだね」


マックス、曇りなき(まなこ)で見つめ無いでおくれ。


その様な事を言われたら憂鬱になってしまうじゃないか‥‥


真実は時に最も人を傷付けるか‥‥


決して言えない真実だがね。


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