第160話 プリンセス
「なぁアンナ、布は絶対嫌なんだよな?」
「嫌、おばさん臭いからヤダ」
「楽だろうに‥‥」
「ヤダ、無理」
布を巻けば一発で解決するんだが、無理だろうな。
コイツは基本髪は下ろす派だし、括ったりしてるのすら数える位しか見た事無いもんなぁ‥‥
と言うかコイツ、髪を下ろしててケンカの時に邪魔にならないんだろうか?
ならないんだろうなぁ‥‥
カチューシャは高いし、コイツはヘアバンドはあまり好きでは無い。
因みにサリバン商会でもカチューシャは扱っているが、元はヘッドバンドとかヘアバンドって言われて居た。
だが俺がそれをカチューシャと名付けて売り出したが、まぁまぁ売れてる。
多分デザインが良かったからだと思う。
デザインが女性的に、心に何かが刺さったみたいだ。
別にアンナにやっても良い。
但し取り寄せになるから時間が掛かるし、コイツにプレゼントなんかやった日には色々と問題がある。
絶対後で婚約の証だとか抜かすだろう。
そう考えると、行商人からヘアバンドを買って渡しても一緒だな、うん、その案は却下だ。
つーか面倒クセー奴だな‥‥
どうせその内伸びるんだから、暫く誤魔化しときゃ良いのに‥‥
それが出来ないんだよなぁ、コイツは‥‥
どうしよう、一肌脱いでやろうと思ったんだが、それ等を考えたら途端に面倒になって来たんだが?
とは言うものの今見捨てるのもなぁ‥‥
それに暇潰しには丁度良いしな。
しかしなぁどうするか、後はズラって手もあるけど、ズラも高いんだよなぁ、と言うかズラは物凄く高い。
現実的では無いな‥‥
「なぁアンナ、それ案外似合ってると俺は思うんだが、そのままではダメなんだよな?」
「ヤダ! 守長が誉めてくれるのは嬉しいけど、絶対他の奴が笑うもん」
「笑うって、大人は愛想笑いみたいなもんだろ? 多分心から笑うのはガキ達だろう? まぁそう考えるとガキ達でお前の事を笑う奴は居ない、理由はお前も分かってるだろ?」
「・・・」
「てかお前、笑う様な命知らずなガキがこの村に居ると思うか? 俺はそうは思わんな、お前を笑う様な命知らずのガキが居るとは‥‥ 三馬鹿以外、正確に言うとジョンのアホ以外は居ないと思うが?」
「・・・」
「お前もしそうなったらどうする?」
「ぶっ殺す‥‥」
「お前‥‥ ぶっ殺すのは駄目だ、それ以外の方法でやれ」
コイツは直ぐぶっ殺そうとしやがるな‥‥
せめて半殺し位にしとけよな本当。
「てかあのアホは、何かにつけてお前に絡んで来るんだ、そこに理由は無い、あえて言うならあのアホはお前の事が好きだから絡んで来るし、ちょっかい掛けて来やがるだけの事だしな、笑われる事に関しては余り気にしなくても良いと思うぞ」
「守長、あの馬鹿が私の事好きって、本当に気持ち悪いから言わないで! アイツは馬鹿過ぎて無理、本当にイヤ、無理」
だろうな、あのアホはちょっかいとか、絡んで来るとかってレベルを越してしまってるからな。
幾らガキとは言え、あのアホはやり過ぎだし、バカ過ぎるもんなぁ‥‥
あのチンピラのブライアンですら、この前の祭りの時にやり過ぎだって言ってた位だ。
あのアホはこの村で嫁を見付けるのは無理だろうな、余りにも女子に嫌われ過ぎて居る。
うん、この村で嫁を見付けるのは不可能だわ。
「あのアホはとりあえずほっとくとしてだな、いきなり髪が伸びる様な都合の良い薬は無いしどうするかが問題だな」
「ねぇねぇ守長、魔法でどうにかならないの?」
「お前なぁ、そんな都合の良い魔法なんてある訳無いだろ、てかそんな魔法があって、その魔法が使える人間なら引く手数多だ、使い手が少ないとか一人しか居ないとかなら、下手すりゃソイツを巡って戦争が起きるわ」
「何で?」
「髪の問題はそれだけ深刻、悩んでる奴が多いんだよ、たかが髪、されど髪ってな、実際今お前もその髪で悩んで居るだろ? 髪の問題はある意味それだけの価値があるんだ、それこそ戦争になる理由になる位のな、そして魔法は万能じゃ無い、何でも出来る訳じゃ無いからな、諦めろ」
「そっかぁ、魔法もダメなんだねー それに髪って大事なんだね、無くなって初めて気付いたよ」
無くなって初めて気付いたって、何か恋人を無くしたみたいだな‥‥
そういや前世で、髪は嫁より大事って言ってたおっちゃんが居たっけ?
又フサフサになるなら幾らでも払うって言ってた奴も居たな。
うーん、髪を生やす事が出来る魔法があって、その魔法を使えたら大金持ちになれるな、しかも簡単になれそうだ。
大金とまで言わなくても、間違いなく食うには困らんだろう。
とは言えこの世界にそんな都合の良い魔法は無い。
だからこそだな、あれば金には困らん人生になるし、一生安泰だわな。
「なぁアンナ、お前髪が傷んでるからばあさんも切ったんだよな? そんで何時のまにか前髪ぱっつんになってたと」
「うん‥‥ ねえ守長、ぱっつんは何かイヤ」
とは言えぱっつん何だよなぁ‥‥
しかしアンナの奴、確かに少し髪が傷んでるな。
「アンナ、もう少し切らないのか? 少し傷んでるのは事実だし、前髪以外もう少し切った方が良いっちゃ良いと思うぞ」
「うーん、これから冬になるのに切っちゃったら寒くなるもん、それに守長は長い髪が好きでしょ?」
「いや、好きだけど、あんまり長過ぎてもなぁ、それに傷んでたらそれはそれでどうかとも思うぞ、お前には悪いけどな」
「・・・」
アンナは毛先をもう少し切った方が良いな。
ついでに言うと、サイドも少し切ると傷みが消えて良い感じになりそうだが‥‥
と言ってもコイツは切りたがらないだろうし、肩ぐらいの長さになるのは断固拒否しやがるだろうしなぁ。
全面的に肩まで切り揃え無いでも、もう少し踏み込んで切ればそれだけで傷みも違って来るんだが‥‥
ん? そう言えば‥‥ アレなら行けるか?
髪型的にアリだし、個人的にも嫌いじゃ無い髪型だし、コイツ似合いそうだし、丁度前髪ぱっつんだ。
アレをやるとなると、皆の前でやればそう言う髪型にしたってアピールにもなって、寧ろ失敗では無く、新しい髪型にしたって言う事も出来る。
そうなると、村まで行く事になるが‥‥
いけるな、今日はあの変態は村に居ない。
今日はバハラの魚市場に行って、その後は青空市場で売り子として向こうに居るから夜迄は帰って来ない。
なら村まで行っても問題は無い。
「アンナお前新しい髪型にしないか?」
「新しい髪型?」
「うん、その前髪なら丁度良い髪型があるんだ、それに髪の傷みも少しはマシになるんだが」
「どんな髪型?」
おっ、乗り気になったみたいだな、口頭での説明より絵で説明する方がイメージしやすいかな?
「おう、今書いてやる、枝は‥‥」
あったあった、なるべく平らな地面はっと。
カキカキしてっとなっと‥‥
「ホレ、こんな髪型だよ」
うーん、我ながら中々のもんだな。
顔も少し書き込むか、ちょっとデフォルメしたが良いんじゃないか。
ウムウム似てるな。
てか俺、似顔絵でも食ってけるんじゃないかこれ?
時間さえあればそっくりにも書けるし、デフォルメしたバージョンも書ける、いけるなマジで。
「守長絵が上手だね~ これ私だよね? 何か絵本の主人公みたいだね」
「絵本ってお前‥‥ 言いたい事はわかるがな、てか少しデフォルメ、少し変形させただけだぞ」
「頭がおっきいけど可愛ね、私これ好き」
てかチビキャラっぽく書いただけだが、この世界には無い技法? 書き方? だからな。
若干アニメチックな書き方ではあるかな?
「で? 髪型はどうだ? 俺は悪く無いと思うんだが、アンナ的にはどう思う?」
「何か少しデコボコしてるね、見た事無い髪型だね」
「一応姫カットってやつ何だがな、お前に似合いそうだと俺は思うんだが?」
「守長、私の事お姫様って思ってたの~?」
「お前なぁ‥‥ 何で髪型の名前がそうだからってそう思えるんだ? お前マジでスゲーよな、前向き過ぎだろ」
「エヘヘ」
「褒めてねーよ、お前マジでポジティブだよな」
コイツはお姫様ってより、チンピラだろ。
とは言えそんな事を言えば又、ギャーギャー うっせーから言わないがな。
「で? どうするんだ、やるのか、やらないのか決めろ、俺は個人的にはお前には似合うと思うぞ、それと切り位置をその絵は肩にしたが、ほっぺた位の位置ってのもある、俺のオススメはほっぺたの位置辺りだ」
「うーん‥‥ 私も良いと思うけど皆なんて言うかなぁ?」
「そんなもんほっとけ、自分が良いと思ったら人が何を言おうと気にすんな、言わせとけば良いんだよ」
ついでに言うと、俺ならガタガタ抜かす奴はきっちり潰すがな。
とは言えアンナにその様な事を言うのは、教育上よろしくないから言わないけど。
これ以上コイツをチンピラ道に突き進ませるのは色々と問題がある。
今でも十分チンピラなんだ、これ以上は洒落にならなくなってしまう。
「でもおばあちゃんにして貰ったら、又失敗するかもだよ?」
「んーなもん俺が切ってやるわ、その辺は任せろ」
「えっ? 本当に?」
「俺に切られるのが嫌ならやらんが、どうする?」
「守長がしてくれるならやる!」
「ん、任せろ」
そして・・・
うーん、良い感じだ。
ちとばかりギャラリーが多いが何時もの事だ。
てか本当暇人ばっかだよな。
時間的にも丁度空き時間と言うか、隙間時間と言うか、お茶の時間辺りだから仕方ない。
しかしコイツ似合うな‥‥
ちょっとだけ可愛いと思ってしまったわ。
ほんのちょっとだがな。
周りで見てるロリガキ共が皆、可愛いだの、似合ってるだ何だのとはしゃいで居る。
アンナもそれを聞いて満更でもないみたいだ。
うん、確かに似合ってるし、ちょっぴり可愛いと俺が思う位だ、周りのロリ共が可愛いと思うのも当たり前だし、似合ってるって声も納得だな。
アンナも素材は良いんだよな、だが中身はチンピラだ、それが一番の問題な訳だが‥‥
黙ってると可愛いらしいし、将来が楽しみな顔つきではある。
まぁジゼルと姉妹な訳だから、当然と言えば当然か。
ジゼルは本当に可愛らしいからな。
見た目だけで無く、中身も可愛らしいし、正に大天使だ。
「ねえ守長、私可愛いねー この髪型凄く良い、私美人かと思ってたけど、可愛いなんだね」
「・・・」
これが無ければなぁ‥‥
確かに似合ってるし、可愛いらしい。
見た目はな、うん、見た目はな。
だが中身が‥‥
はしゃぐロリ共と、自画自賛するアンナ。
これも又、この村での日常の何気無い一コマだ。
「守長、私可愛いでしょ~ 結婚してあげても良いよ」
「・・・」
さっさと灯台に帰ろう、今日も又一日が終わる。
少し早めに酒でも飲もう。
姫カットアンナのアピールを聞きながらそう思った。