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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第1章 ある灯台守の日々
16/214

第16話 嵐の中の船乗り


静寂が辺りを包んでいる



暗闇の中 微かに灯りが辺りを照らし


男二人を浮かび上がらせている。



目の前の村長が呆然としている。


完全に目が覚めて居ないから頭がイマイチ回って無いのだろう。


「村長 いつまでも呆けて無いで やる事やろう」


「ああそうだった、今月の当番、いやいや違うな、

対応5だ村全体に連絡だ、おいカレン、カレン

まずい事になったベン達を起こしてくれ」


この村には非常時に対応する当番の人間が居る。


他の村にも似たような制度があるが、

その対応をする当番は1年交代制でやるのが多い。


だがこのハルータは月毎に交代する。


当番は対応4までに対する対応人員で、

ハルータの村民達は当番と呼んでいる。


官吏達の書類上の呼び名は対応要請人員だ。


この当番はそれ以外にも火事の際使う

消火器具の管理とメンテナンスや、

救助者に振る舞う食事の為の食糧の管理補助、調理に救助者の看護、

それ等に必要な備品類の管理補助、

備蓄している保管倉庫の清掃等を行う当番人員だ。


今回の対応5ならば村民全体で行う。


まぁつまり今からハルータの村民をたたき起こさなければいけない。


「村長、確か対応5の時は角笛を吹かなければ

いけないのでは?」


「あっ! そうだった カレン カレン

角笛を持ってきてくれ」


このおっさんは‥‥


嫁使いが荒いなぁちっとは自分で動けよ。


「ハイョ 角笛だね」


そうやって甘やかすから‥‥


村長の嫁のカレンは働き者で気が優しい、

しかもしっかり者だ。


カレンが居るから村長が村長としてやっていけてると、村民達に言われている。


カレンのあだ名は、

裏村長だとか、影の支配者、村長使いと呼ばれており、


村長はカレンが居なければ稼働率がかなり落ちる。

カレンが居る時に比べたら俺が見るに大体だが2割程度しか稼働しない。


まぁとは言えだ、

カレンも村長を甘やかすからいけない。


「親父どうした? 守長何かあったのか?」


この似たもの親子が‥‥

何かあったからこのクソ雨降ってる中来たんだ、

又1から説明しなきゃいけないのか?


村長を見た、角笛はまだか? と呟いている、

しっかりしろよ本当に‥‥ アンタ村長だろ一応は


俺が説明しないといけないか‥‥


「山頂灯台から連絡があった、対応5だ」


ベンジャミンをしっかり見て伝えると


「へ? え? え?」と呆けている。


もう嫌だコイツら‥‥ もっとしっかりしろよ。


「対応5だ、山から連絡があった、

何時までも呆けて無いでやる事やろう」


「あっああ そうだな」


少し寝ぼけてるな、夜中だから仕方ないが

やる事やらないと助かる命も助からん。



権限使って俺が指揮を執るか?

とは言えそんな事したらコイツらの立場が無くなるか、

本当に面倒だが人の気持ちを蔑ろにすると余計に面倒になる。


仕方ない少しだけ様子を見よう、

それで駄目なら俺が指揮を執ろう。


「アンタ 角笛持ってきたよ」


村長はカレンから角笛を受け取ると

一歩踏み出し立ち止まった。


おいおいまさか?


「村長どうした? 何で動きが止まった?」


「いや‥‥ 雨に濡れるかと思って・・・」


やっぱりかよ!

もう駄目だ最後警告を与える!


「村長いい加減にしろよ、

俺が権限を使って指揮を執ってもいいんだぞ?

その場合村長の立場が無くなるが? いいのか?」


俺の言葉に村長がギョッとした。


「アンタしっかりしなさいな 濡れても乾くから

さっさとしないと準備が遅れるよ、

ベンもボケッとして無いで当番の家に連絡しに行って、ほら早く!」


もうカレンが村長やってくれよ

本当マジで、頼むよ本当に‥‥



村長が外に出てやっと角笛を吹き出した。


角笛は結構小さい、前世での感覚では大きくて両手で何とか持って吹いてるイメージだったが

村長が持ってるのは両手で持ってはいるが、

縦笛より大きくトランペットより小さい、

余裕で持てるぐらいの大きさだ。


しかもただ単調な音しか出ないもので無く、

指で穴を塞ぎ美しい音楽を奏でる事が出来。


しかもコレかなり大きな音が出るし結構響く。


村長は今、嵐の中の船乗りと言う曲を演奏している。


この曲は船乗り達が酒場でよく歌っている

有名な曲だ、酒場では酔って歌ってるのを良く見る


物悲しくも勇猛な、悲しくもあり激しくもある

独特なメロディが、

激しい雨風が吹き荒れる闇夜の村に響いている。

村長は角笛だけは上手いんだよなぁ‥‥

うん、角笛だけは上手いんだ角笛だけはな。


嵐の中の船乗りはアップテンポの激しい曲のようだがそれだけでは無い。

曲の強弱のメリハリがはっきりしている曲だ。


その為結構注意を引く曲でもある、

こんな時には最適な曲と言える。



村長の家から雨具を身に着けたベンジャミンが

走り出して行くのが見えた。


やっと動いてくれたか‥‥


奴はこれから今月の当番の家に行き説明して

当番の人間が村中走り、伝える手筈だ、

ちゃんと説明しろよベンジャミン。



家のドアにカレンがタオルを持って立っている、

本当、出来た嫁だよ。


チラッと山頂灯台の方を見ると、

微妙に霞が掛かってるっぽいんだよなぁ‥‥


あれだと昼間の連絡が出来ないかもしれない。


昼間は狼煙で連絡が行われるが霞や霧だけで無く

風によっては上手い事煙が昇らないから

連絡出来ない事もある。


まぁだから色付きの狼煙で連絡を取る訳だが

風の具合で判別が困難になるんだ。


今回は夜で暗刻連絡器が使えたが昼間なら

伝令を走らせなかったらいけなかった。


そう考えたら今回はまだマシなのかもしれない。


おっと、村長が吹き終わった。

繰り返し何回か吹いてたから

近くに住む住人がドアや窓から顔を出している。

「皆、対応5の要請が入ったから

準備して集まってね、忙しくなるわよー」



うん、カレンが説明してる、いいね、本当気が利くよ。

嵐の中の船乗りを吹き終わった村長に

仕方がないのでクリーンと乾燥を掛けてあげる、

まぁちょっとしたご褒美だ。


「お~ 気持ちがいい、たまらんなぁ」


村長が気持ち悪い声を出して喜んでいる。

しかもだらしない顔のおまけ付きだ、

流石はジョンの一族である。


とは言えジョンは村長の子供でも孫でも無い、親戚だ、カレンの親戚であればカレンに似た可能性もあったのに残念である。



「守長これからどうするかね?

一旦灯台に帰るのかな?」


「ああそうする、灯台守のじい様達を拾いながらな」


「灯台に若い衆を何人か送るよ

伝令や雑用に使ってくれ」


「それと女衆も先に送っておいたほうがいいな

今の内に少しでも準備を始めておくべきだ」


「成る程確かにそうだな‥‥」


「それにこんな夜中にみんなたたき起こされたんだ

疲れもするし少しすれば皆腹も空かして動きが悪くなる、遭難者だけで無く俺達の分の飯もいる」


村長は何度も頷き「確かに確かに」と言っている。


「村長、女衆は多めにな、救助者が来る前に準備を少しでも済ましたいし何よりこの天気では準備ぐらいしか出来ない」


「うーん、そうだな、こんなんでは船を出せ無いし沖じゃあ大時化だろうなぁ‥‥ こりゃ駄目かもしらんな」


このおっさんは‥‥


「村長、分かっていても口に出したらいけない言葉がこの世にはあるんだ、ましてや立場のある人間は特にそうだ、口には気を付けてくれ」


俺の言葉に村長がばつの悪そうな顔をしている、

本当、口には気を付けて欲しいものである。


皆のやる気にも関わってくるからな。


それにこの世には腹の中で思う自由はあっても

口に出す自由は無い。


口は災いの元と言うが本当にそう思う。


しかし雨風が激しい、一向に収まりそうに無い、

この天気が続けば捜索の為の船が出せん、

篝火も絶やさないようにしないと。

通常は朝日が昇ると灯を落とすんだが

対応要請が出たら篝火はそのまま照らし続けなければいけない。


俺達は薪を入れ続ける事になるんだ。


晴れていれば生木を屋上のそれ専用の場所で狼煙を上げ続ける為にくべる。


まぁこんな天候では出来ないんだが。


出来ればやったほうがいいんだ、(おか)の方角も分かるし、

海で救助を待つ人間の生存確率を少しでも上げる為にもだ。


バハラの行政府の資料室で見た海上救出者の聞き取り報告書ではそれで助かった例もある。


要救助者からしたら狼煙が見える=陸が近い、

希望が持てるとなるようだ。


極限状態では希望を持てる、持て無いで精神状態がかなり変わるし、生きる気力が変わってくるらしい。


気分の問題と言うが

それは結構大事なもんでもあるんだ。


人が集まり出してきた

大人も子供も年寄りも皆雨具を身に付けている。



さて、じい様達をたたき起こしに行くか。


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