第159話 ぱっつん
寒くなって来やがったな‥‥
秋も完全に終わりかな?
秋と冬の端境期から冬寄りになっている。
ん? ゲッ! アンナじゃないかよ‥‥
今は一人のんびりと散歩したい気分なのになぁ、アンナの奴俺を見掛けたら、いや、見つけたら又寄って来て、うろちょろとまとわり付いて来るんだろうなぁ。
どうする? まだ気付かれて無いみたいだ。
しれーっとアンナの視界から消えるか?
うん、見つかったら撒くのが手間だしな。
そうするか‥‥
しかしアイツ何でおデコ押さえてんだ?
頭痛いのかな? それか頭突きのし過ぎか?
あっ! ヤベ! いらん事考えてたら見つかったわ。
ハァ? 何でアイツ俺を見て逃げ出してんだ?
「・・・」
うん‥‥
「コラ待てやアンナ」
「えっ? 何で守長追い掛けて来てるの?」
「オラ待てやアンナ!」
「えっ? えっ? 何で?」
「お前、俺を見て逃げ出す何て絶対何かやらかしただろ? オラ待てやコラ、吐け! お前何やらかした~?」
「ヤダ~ 来ないで守長~」
「うっせー 大人しく捕まれや、逃げんなコラ」
「ダ ダメなの~ 来ないで~ イヤ~ 助けて~」
「逃がすかよ!」
バカめ! 俺から逃げられると思ってんのか?
無駄な事を‥‥
しかしあれだな。
これ前世であれば完全に事案だよな? 不審者に追い掛けられる少女の図だ。
端から見れば間違いなくそう思われるだろう。
多分、通報されてお縄になるな‥‥
と言うかアンナの逃げ方も悪い、何でコイツは毎回俺から逃げる時、恐怖と言うか、恐ろしい物から逃げる様にしてやがるんだ?
知らん奴からしたら、俺が悪者みたいに見えるじゃないかよ‥‥
「守長お願い、許して~ な 何でもするから~」
「なら大人しく捕まれ」
「それは無~理~~~」
「残念でした、捕まえた」
ん? コイツまだおデコを押さえて‥‥
しかも両手で‥‥ 頑なだな‥‥
「守長~ お願い~ 何でもするから~ だから~」
「お前今度は何をやらかした? 素直に吐けば罪は多少は軽くなるぞ」
「何もして無いよ今日は」
「なら何で俺から逃げたんだ? 何時もなら呼んでも無いのにお前は寄って来るよな? 心に何か疚しい事があるから俺から逃げたんだろ? 違うなら理由を言ってみろ?」
「・・・」
「ホラ見ろ、理由が言えないじゃないか」
「違うの、本当に違うの」
何が違うだよ、しかしコイツ今日は何をやらかしたんだ?
どうせロクでもない事だろうが、一刻も早く自供させなければならん。
「おいアンナ、お前いい加減吐け、そしておデコを押さえてる両手を離せ、お前何を隠してる?」
「お 女の子の大事な物だよ」
「お前は誰に聞くんだそう言う事を? 意味分かってんのかお前?」
「誰にも見せちゃいけない、女の子の大事な部分だよ、お願い守長見ないで」
「お前本当、誤解を招く様な言い方しやがってからに‥‥ 俺がいけない事をしてるみたいな言い方は止せ」
てかこのシチュエーションは、前世とか関係無く、今世でも誤解を産む。
事案処じゃねーよ!
「お願い見ないで~ お嫁に行けなくなっちゃう~ 守長がお嫁さんにしてくれるなら良い‥‥ やっぱダメ~ 見ないで~」
コイツ‥‥
こんな時まで‥‥
てか何を隠してんだ? 怪し過ぎだろ‥‥
「無理矢理手を剥がしても良いんだが?」
「ヤダー 守長イヤー 止めて~」
「オラ大人しくしろや」
「イヤ、イヤ、止めて止めてダ~メ~ 私の恥ずかしいトコ見ないで~」
「お前はさっきから人聞きの悪い事を言いやがってからに‥‥ 暴れるな何を隠してる? そして今日は何をやらかした?」
コイツは本当‥‥
人気が無いからまだしも、いや、逆に人気が無いからこそ怪しさ満開だ。
マジで声だけ聞いてると、不審者に襲われてるロリとロリコン野郎の図じゃないか。
「ヤダ、私の恥ずかしいトコ見ないで、お願い、そんなトコを見られたら‥‥」
「あーもう! お前はいちいち誤解される様な事を言わないと喋れないのか? お前絶対わざとだろ?」
「違う、イャん止めて守長~」
「もう! オラ手をどけろ、隠しても無駄だ、俺が優しくしてやってる内に手をどけろ、てかお前がそこまで抵抗するって事はかなりの事をやったんだろ?」
「違う、違うの、本当なの」
「嘘だな」
「違うの、本当なの」
「例えそうだとしても日頃の行いが悪いから信用出来ないな、ホラ無駄な抵抗は止めろ」
本当日頃の行いって大事だよな。
これがジゼルなら寧ろ心配してただろう。
だがコイツの場合、怪しさと疑惑、疑念しかない。
警察が職質する目安の一つが、目が合った時に目をさっと反らすかどうかってのがあるらしい。
疚しい事をしてる奴ってのは、無意識にその様な行動をするらしいがもう一つ。
警察官を見て逃げたり、避けたりする奴は同じ様に疚しい事があるかららしい。
うん、アンナのさっきの行動は怪しさしかない。
推定無罪って言葉があるが、疑わしきは罰せよって言葉もある訳で、アンナの場合は疑わしきってカテゴリーに入る訳だ。
この辺りはやはり日頃の行いって言うのが大きい。
「守長お願い、止めて見ないでー」
「お前は本当に前フリが丁寧だな」
「違うの、そんなんじゃ無いの」
「分かってる分かってる、さぁ手を退けような」
てか今日は本当に抵抗が激しいな。
最近は大人しかったのに、何をやらかして、何を隠してんだろうな?
「イヤ~ん見ないで~」
「ん?」
何だ? 何も無いじゃないかよ?
「おいアンナ、隠してる訳では無いみたいだな、ならば今日は何をやらかした? 大人しく白状しろ」
「だから言ったのに‥‥ 私何にもやって無いよ! 守長に見られたく無かったのに‥‥」
「いや、だから何をだよ? 何もやらかして無いなら、何を俺に見られたく無かったんだ?」
「だ だから‥‥ か 髪が‥‥」
「はぁ?」
髪? 髪がどうしたんだ? 何も変わった‥‥
前髪がぱっつんになってるだけじゃないか。
確かに珍しいと言えば珍しいが、だから? としか言い様が無いんだが‥‥
髪の長さが変わってる訳でも無いし、色が変わってる訳でも無い。
何かあんのか? それか‥‥
「何もおかしな所は無いじゃないか、てかお前やっぱ何かやらかして、それを隠してるな?」
「えっ?‥‥ おかしく無いの?」
「無いな、で? 何をやらかした? さっさと吐け」
「だから本当に今日は、何もして無いもん、ねぇねぇ守長、私本当に変じゃないの? 本当の本当に?」
「いやだから何の話しだよ? 何もやらかして無いなら何で逃げたんだ?」
「だから髪が‥‥」
髪もクソもおかしな所は無いし、何もやらかして無いなら何で逃げたか分からんのだが?
「お前だから何だよ髪って? マジで何もやらかして無いんだろうな? てか髪のどこがおかしいんだ? ちょっと前髪切っただけだろ?」
「えっ‥‥ 本当に私の髪おかしく無い?」
「だからさっきから言ってるだろうが」
話が通じんなぁ‥‥
髪に違和感が無いんだが?
しいて言うなら前髪ぱっつん位だし、だから? としか言い様が無いし、まぁ言っても前髪ぱっつんが少し珍しい位だぞ。
何をあんなに恥ずかしがってたのかさっぱり分からん。
「だって‥‥ おばあちゃんが前髪切り過ぎて前髪が変だし‥‥」
「えっ? そうか? 珍しい位で別に変では無いんだが? お前は何をあんなに恥ずかしがってたんだよ」
「だってだって、前髪が変なんだもん」
「いや、だから別に変じゃ無いし、意外と似合ってると思うが?」
うん、これは嘘偽り無い俺の本心だ。
意外とって言うか、案外似合ってる。
アンナも顔立ちは悪く無いからな。
寧ろ清潔感が合って良いと思う。
「本当なんだよね?」
「俺は嘘は言って無い、お前何が合った? 詳しく話してみろ」
「うん、あのね‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
アンナの話しによると、ばあさん、と言ってもひいばあさんのソフィアばあさんに毛先を切って貰ったらしいのだが、前髪辺りが毛先だけで無く、中間位までやや傷んで居たらしい。
枝毛や括った時による傷みで少し多めに切ったらしいが、もう少し後少しと切って行く内に止まらなくなったらしい。
そして前髪が目の下、正確に言うならば鼻辺りまで切ってしまった様だ。
うん、お家で髪切る時のあるあるだね、そんな話良く聞く話だね、お家カットでの失敗談の典型例だ。
で、このままでは髪が邪魔で目が見えないので、眉毛の少し下まで思いきって切ったそうだ。
そして前髪ぱっつんアンナの出来上がりとなったらしい。
「ねぇ守長、ぱっつんは何か嫌‥‥」
「仕方ないだろ、事実前髪ぱっつんなんだから、てかその内又伸びるわ」
「もう、守長もおばあちゃんとおんなじ事言って‥‥ 伸びるまで時間掛かるんだよ」
「別に変じゃ無いから良いだろ?」
「う~ でもこんな前髪の人見た事無いよ‥‥」
珍しく声が弱々しいな。
まぁ確かにこの世界では前髪ぱっつんは珍しいっちゃ珍しい。
帝都やバハラであれば見掛ける事もあるが、この辺りでは珍しいと言うより居ないな。
女は長い髪が誉とされてるし、基本前髪はあまり切らない。
髪留めや何かで留めたり、括ったりだからな。
後は帽子を被ったり、この辺りの女や所謂庶民の女は布を頭に巻いたりしてる奴も多い。
ショートカットは軍人や騎士何かかでは居るが、基本的に女は長い髪ばかりだ。
うーん‥‥ 前髪ぱっつんは目立つから、アンナが恥ずかしがるのも分からんでもない。
因みにアンナは頭に布は巻きたく無いらしい。
何かおばさん臭くて嫌との事だ。
と言ってもおばさん全員が頭に布を巻いてる訳でも無いんだがなぁ。
何かコイツの感性に合わないんだろうな。
てか括らず、結わず、布も巻かず、下ろしてる奴もまぁまぁ居る。
その辺りは個人の好みだ。
アンナは髪は括らず下ろす派で、それはアンナなりのオシャレなんだろうな。
コヤツも女よのう‥‥
髪は女の命だったか?
仕方ない、一肌脱いでやるか。