第157話 時の流れは戻らない
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「ねえねぇ、守長は剣は使わないの?」
「何だよいきなり? 剣? 短剣は少しは使えるし使うが、剣なぁ‥‥ 剣は一応使えるけど本当に一応だな、剣より短剣のが使える、てかどうしてそんな事を聞く?」
「だって守長は棒使うでしょ? ホラ、長い棒」
「長い棒ってお前‥‥」
確かに長い棒だけど、先っちょにも付いてるだろうが。
薙刀とは言わんがグレイブって言えよ。
この世界でも俺は薙刀を使って居る。
と言っても薙刀って言っても通じないから、グレイブモドキって言ってるが、長い棒ってお前‥‥
「なぁアンナ何で憑いて‥‥ 付いて来るんだ?」
「えー 良いでしょ、ねぇねぇ守長は鈎付きの鉄の短い棒使うでしょ? アレ教えてー」
「お前、鈎付きの短い棒って‥‥ てかダメ、教えない」
「何で? 何でなの?」
「前にも言っただろうが、お前に教えるとロクな事に使わないから、てか悪用するだろうから、うん、無理だな」
「しないから~ ねえ守長~」
「無理」
アンナにコレ以上何かを教えてしまっては、更なるパワーアップに繋がってしまう。
そして何よりコイツは必ず悪用する。
大事な事だからもう一度言うが、絶対、必ず、間違いなく悪用する。
今ですら手が付けられないのにコレ以上の強化は危険だ。
あのチンピラ筆頭のブライアンですら、怪我を覚悟しなきゃ止められないんだからな。
そんな危険な事を、将来の厄災となる様な事を俺がするはずが無い。
「何でなの? 守長今フィグ村の人に教えてるでしょ? 何で私はダメなの?」
「さっき言っただろうが‥‥ おいアンナ、あんまゴネてると分かってるよな?」
「・・・」
この前久々に簀巻きにして吊るしたから効果覿面だわ。
しかしアンナの奴まだ不満そうだな‥‥
残念ながらと言うべきか、コイツには絶対、決して教えない。
コイツは筋が良いし、本当に良いモン持ってるからな。
ちゃんと教えればかなりの使い手になるだろう。
だからこそなんだ、アンナが悪用した場合、間違いなく俺がケツ拭きをしなければならない。
今でさえアンナが何かやらかした時は俺を呼びに来られる。
これ以上コイツのケツ拭きは勘弁して欲しいものである。
「大体お前、武術を悪用しないとして、何に使うんだよ? 軍人にでもなるつもりか?」
「違うけど‥‥」
「ならいらんだろ? 女性の貴人を守る為に女の軍人や騎士も居るし、必要ではあるけど、大体が騎士爵家の二女、いや、三女や四女や五女が多いんだ、二女でもたまに居るけど基本的に三女から下の奴がなるもんだ」
「守長もそーゆー 人知ってんの?」
「そりゃな、帝城で働いて居たんだ、知ってる奴は居るに決まってるじゃないか」
と言っても女騎士や女軍人だけで無く、女官吏にも知り合いは居る。
騎士爵家では武官だけで無く官吏になる奴も、いや、女も多い。
例えばあのロリババアがそうだ。
奴は三女だが官吏の道を選んだ。
とは言え普通は下級官吏を目指すんだが、奴は特級官吏になった。
特級官吏は女もそこそこ居るが、奴の様にあの若さで合格する奴は滅多に処か極稀だ。
と言うより学園に在学中に合格する等、長い帝国の歴史の中でも極々極々稀である。
そしてあの歳でと言うならば、俺の歳での合格は更に少ない。
それこそ数える位しか居ない。
ましてや首席と次席が女性である。
俺や同期の合格者達が如何に珍しいか、いや、異端と言っても良い程かと言うのも分かろうと言う物だ。
俺や同期達が周りから注目され、色んな意味で脚光を浴びたのは当然だったが、それがどの様な意味を持つのか、あの時はまだ分からなかった‥‥
「ねえ守長、今から何処に行くの?」
又コイツはいきなりだな。
「アリーばあ様んトコだよ」
「何しに行くの~?」
「逢い引きだよ」
「えっ?‥‥」
「お前は何本気にしてんだよ、んーな訳無いだろ」
「だって守長、真剣な顔で言うから‥‥」
うん、言ったね、でも流石にアリーばあ様は無いだろう? 熟女過ぎだ。
あまりにも熟し過ぎはちょっと‥‥
「冗談をマジに受けとるな、てかお前は俺を何だと思ってるんだ? まさか女に見境無いとでも思ってるのか?」
「でもアリーばあ様は昔は美人だったんだよ」
「知らんわ、昔って何時の話だよ? 大昔過ぎだろうが」
「守長は大人な女が好き何でしょ?」
「おいアンナ、大人と婆さんは全然違うからな、お前マジで‥‥ 変な噂が立ったらどうしてくれるんだ?」
本当、只でさえロリコン疑惑と言う不名誉な噂があるのにコイツは‥‥
てか原因はコイツなんだが‥‥
しかしあれだな、まさかと思うがコイツが噂をバラ撒いてるんじゃないだろうな?
「守長はこの前船で来た人が好きなの?」
「お前又いきなり何を言ってんだ? と言うかジゼルに聞いて無いのか?」
「えっ? 聞いて無いよ~」
「又俺は一から説明しないといけないのか? まぁ良い、あの人は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
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「そうなんだ? じゃあ、守長の婚約者じゃ無いんだね?」
「だからそう言ってんだろうが、本当もう‥‥ 皆して聞いて来やがってからに、てかアンナ、何回も同じ話をするのは俺は嫌いだ、大事な事だからもう一回言う、俺は キ ラ イ だ!」
「わ 分かったよ守長」
「次聞いて来たら吊るす」
「・・・」
こうでも言わないとコイツは延々と聞いて来る。
人のプライベートに踏み込むには、ある程度の関係ってのが必要だからな、その辺りの区別は必要だ。
「お前ら本当なぁ、次にあの人が来る時はいちいち見物に来るなよ」
「えっ、又来るの?」
「来るんだよ‥‥」
まだ未定だが来るのは確定だ。
次こそは只の楽しいお茶会にしたいもんだよ。
~~~
「おや守長、どうしたね?」
「アリーばあ様の怪しい薬を買いに来たんだよ」
「守長、アタシはそんなの扱って無いからね」
「ならませガキを黙らせる薬は無いか?」
「何で欲しいか理由も分かってるけど、あえて言わないでおくよ」
アリーばあ様め、アンナをチラチラ見ながら言ったらバレバレだと思うが、当の本人は全く気づいて居ないが、アレは自分がませガキだって自覚がカケラも無いからだろうなぁ‥‥
マジでアンナの奴無敵だよ。
「うん、言っても無駄だからな、それより何時もの薬茶をくれ」
「何時ものね、ちょっと待っといておくれ」
アリーばあ様の薬茶は身体に凄く良いし、味も結構良い。
薬草を煎じた物だから漢方の様なイメージだが、実際飲んでみると漢方の独特の匂いや味はほぼ無く、結構香り高いし美味い。
使っているとおぼしき、推定した材料から考えてあの味になるのは、間違いなく怪しい薬が混ぜてあるからだろうとそう思い、毎回ばあ様に聞いて居るが未だに認めやがらない。
作り方を聞いても飯の種だからと言って口を割らないので、未だに疑惑は解消されて居ない。
飯の種と言われれば、それ以上は追及出来ない。
とは言え薬茶があんなに良い味になると言うのは、どう考えても怪しい薬が混ざってるとしか思えない。
「守長お待たせ」
「アリーばあ様、さっきアンナから聞いたが、昔は美人だったって聞いたんだが?」
「そうだね、でも今も美人だろ?」
「まぁそれは置いといてだな‥‥」
「失礼だね守長、で? それがどうしたんだね?」
「昔から怪しい薬を使ってそうなったのか?」
「本当に失礼だね‥‥ そんなの使って無いし、アタシは元からだよ」
アレ? これってマジなのか?
言い方に全く淀みやブレが無かったぞ。
当たり前の事として、当然だって、心から言ってるじゃないか‥‥
ちょっとした話のネタに、軽口として言っただけなのに、マジなのかよ‥‥
「守長が今何を考えてるか何となく分かるけど、本当失礼だね」
「自信満々じゃないか、おい、何か見てみたかったなぁ、昔のアリーばあ様を」
「見せたげようか?」
「えっ? どうやって?」
アリーばあ様もしかしてボケたのか?
この世界にはカメラが無いし、当然写真も無いんだぞ。
どうやって見せるつもりだ?
「何をそんなに驚いてるのか分からないけど、絵姿に残してるんだよ」
「あっ!‥‥ 絵か‥‥」
「持って来るからちょっと待ってておくれ」
俺は何でそんな簡単な事に気付かなかったんだ?
いや、絵はかなり高い。
平民でそんな事が出来るのは、上流階級の人間だけだ。
いくら薬師とはいえ、そう簡単に絵姿に残せる物じゃ無い。
金がかなり掛かるんだ。
やはり怪しい薬を売りさばいて居るのでは‥‥
「お待たせ、これだよ」
「わー! アリーばあ様美人だね~」
「はっ? ちょっと待て! 美人過ぎるだろ、てか美化し過ぎじゃないか?」
「本当に失礼だね‥‥ コレは美化も修正もしてないよ、昔のアタシのありのままの姿さ」
はぁ~~~?
いやいやいや、美人過ぎ、いや、美人と言う言葉ですら陳腐になる。
それ位に美しい‥‥
傾国、まさにその言葉がしっくり来る。
アマンダと変わらない程、部分的には一部では勝ってすらいる‥‥
「いやいや、流石にこれは‥‥ アマンダ並じゃないかよ、パーツの一部分では勝ってすらいるぞこれ」
「だから言ったじゃないのさ、アタシは美人だったんだよ、まぁ今もだけどね」
「今は兎も角この時の美しさ、正に傾国だぞ‥‥ これがマジならな」
「本当だよ、偽り一切なしでアタシだよ、でも傾国ねえ‥‥ 久々に言われたよ」
このババア‥‥ マジか‥‥
すげえわ本当、只なぁ‥‥
時の流れは残酷だったか?
今が正にそうだな、ババアになれば崩れる。
とは言えアリーばあ様は確かにババアだが、小マシな顔つきではあるし、面影は確かにある。
残念だよ、この頃に出会ってたら口説いて居たんだがな。
「なぁ、この頃のアリーばあ様、俺好みなんだが、なぁ、怪しい薬使ってこの頃に戻ってくれないか?」
「無理だよ、薬師だからって何でも出来ると思われたら困るよ、時の流れは戻らないのさ」
「だよなぁ‥‥ アマンダ並に美しい奴なんて初めて見たわ、パーツの一部分では勝ってるが、良く見ると全体的な造りはアマンダが上だな」
「まぁねえ、あの子も整った顔してるからねえ、妙な色気があるから、それを除いたらどっこいどっこいじゃないかね」
「否定出来ないのが辛いとこだな‥‥」
花が美しいのは何故か?
何時か枯れるからこそ、その美しさがより引き立つだったかな?
だからこそ作り物の美しさは意味が無い。
美学が無いんだよな‥‥
「守長、アタシを見詰めてどうしたんだね? もしかしてホレたのかね?」
「それは無い、後五十は若返ったら考えても良いが、今のアリーばあ様はちょっと‥‥」
アリーばあ様の下らない冗談にマジで答えてしまったわ。
しかし‥‥
アマンダも何時かこうなるのか?‥‥
想像が付かないな。
枯れて、いや、散る美しさがある花もある。
桜がそうだ。
アリーばあ様の絵姿の頃が薔薇なら、アマンダは桜だな。
それも夜桜だ。
幻想的な美しさ、散り際迄も美しさがある。
美学ある美しさ、幻想的な美しさ。
そうだな、アマンダは幻想的な美しさと儚さがあるんだよな‥‥
何でだろう? アマンダに会いたいと、ふとそう思った。