第147話 団体旅行リスト
「マデリン嬢、お茶のお代わりは如何ですか?」
「頂きます、お茶も美味しいですがお茶菓子がとても美味しいです、つい食べ過ぎてしまいますわ、駄目ですわね、私ネイサン様の前で何とはしたない姿を‥‥」
「何を仰るのです、美味しそうに食べ、そして飲んで貰い私は嬉しいですよ、それにそんな気を使う関係でも無いではありませんか」
「ですがまるで分別の付かない幼子の様に‥‥ ネイサン様の前ではしたないと言う気持ちと、仰る様にその様な関係では無いと言う思いで複雑です」
「女心ですね」
マデリン嬢は恥じらいを知って居る人だ。
少し食べ過ぎたと思って居る様だがこの程度であれば、俺に言わせれば少ない。
花も恥じらう乙女、年齢的には今が丁度そうだ。
強引な所もありつつ、控えめで恥じらいを持つ不思議な人でもある。
人の持つ二面性、今のマデリン嬢が正にそうだ。
マデリン嬢のある意味昔から変わらない部分でもあり、良いも悪いも含めてこの人を構成する物だ。
俺の目の前で微笑む姿は昔と変わらない。
成長し大人になりつつある今も、そして子供の頃のこの笑顔、微笑みは昔と変わらない。
その笑顔を曇らそうとした奴等が居た。
ソイツらに報いを受けさせるのは、当然の事だ。
ましてやポートマン家だけで無く、我がサリバン家にも牙を剥こうとしたのだ。
ああなるのは必然であった。
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『オメエ何が目的だ?』
『言ってる意味が分からないんだが? 俺は世間話をしただけだが?』
『俺らを脅してやがんのか?』
『フッ‥‥ 失礼、余りにも面白い冗談だったのでつい鼻で笑っちゃったわ』
『・・・』
おー おー、あれまあれま、凄い目付きで睨んで来やがるわ。
コイツらは立場ってのをまだ分かって無いみたいだな、バカが‥‥ 暴力や脅し、そして数の力がお前達の専売特許だとでも思って居るのか?
ここはサザビー帝国だぞ、大陸に覇を唱える過程で暴力や脅しや数の力、それに加えて権謀術数を駆使してついには大陸に覇を唱えたんだ。
その帝国を支える官吏が、それらを使わないと思ってんのか? 寧ろそれらを使うのが俺ら官吏の仕事、いや、嗜みだ。
バカ共が‥‥
コイツらにはきっちり教育してやる。
『どうした目を細めて? 老眼か? 海梟一家のトムおじさん?』
『テメー舐めてやがんのか?』
『はぁ? お前みたいな汚いジジイを舐める訳ねーだろ、お前はどんだけ自意識過剰なんだよ? てかそんなんだから隠し子のマリーちゃんにお口臭いって言われんだよ、九才か‥‥ 可愛い盛りだよなぁ?』
『・・・』
『で、その可愛いマリーちゃんに弟か妹が出来るんだっけか? ソレに書き忘れてたわ、とりあオメデトさん』
『脅してやがんのか‥‥』
『アホか、脅してんじゃねーよ、脅迫してんだよ、言葉は正しく使えや ト ム お じ ち ゃ ん、一つお利口さんになったな』
バカが、お前らの事はきっちり調べてから来てるわ、只単に暴れて済ます訳無いだろ。
単純な暴力でも勝てないと言うのを分からす為にやっただけだ。
特級官吏の力を使えばコイツらを潰す事は出来る。
だが地下に潜られたら、根絶させるのに時間も手間暇も掛かる。
勿論そうならない様にきっちり根絶やしにするが、万が一の事もあるし、何よりコイツらを潰せば新たな組織が出来る。
そうなりゃ今の裏社会のバランスも崩れて、バハラの治安も悪化する事になるし、新たな組織が台頭する迄時間が掛かるし、治安の悪化は俺の本意では無い。
下っぱの残党達の勢力争いに権力争い、新たな組織の台頭、そしてソイツらの抗争。
今までコイツらに押さえ込まれていた小悪党共が、嬉々としてお仕事に励む事になる。
コイツら顔役を潰すと状況がコントロール出来なくなるのは余り宜しくない。
俺は後二年で帝都に帰る事になるんだ、その帰還後ポートマン家の安全が確保出来るかと言うと、安全だと断言出来ない。
なのでコイツらには安全確保の為にも存続を許してやる、不本意ではあるがな。
てかクランツじいさん、ハイラー家には手を出さないのに俺に手を出そう等と本当に愚かだな。
クランツじいさんは海事法弁士であり、バハラの法律家関係の大家であるかららしいが、俺は特級官吏だぞ。
幾ら若いからと言って、そうそうコイツらの思う様に出来るはずが無いのに、まともな神経してたら普通はやらん。
うん、まともな神経じゃ無いからやったんだろうな、まともな神経、頭を持って居たらやらない事をやる。
それはつまりアホって事だ、単純な事だな。
『おい、お前ら黙って無いで何か言えや、つーかお前ら客の持て成し方も知らねーのか? お里が知れるぞ、ん? おい、そこのハゲ、気絶した振りして機会を窺ってんじゃねーよ、ゆっくり起き上がって向こうに行け、じゃ無いとその汚ねーケツにナイフぶちこむぞ』
アホが、気絶した振りしても分かるわ、あのスキンヘッド当たりが浅かったか? いかんな、鍛練時間を増やすか‥‥
『おう、向かってきても良いけど、又やられるだけだし無駄だぞ、まぁ立場上やらざるを得ないんだろうが‥‥』
スキンヘッドの奴は、自分の親分である海蛇一家のローガンをチラッと見たが、おじちゃんはゆっくりと首を左右に振って止めて居た。
うん、正しい判断だな、向かって来てもどうせ一撃で倒せる。
『何が目的だ?』
『はぁ? 自分の胸に手を当てて考えてみろやボケ、てか茶くらい出せや、本当、お前らなって無いな‥‥ おいさっきのハゲ、お前茶淹れろや、ちゃんとお手々洗ってから淹れろよ』
『茶は無いんだ、酒ならあるが?』
『お前らの安酒は俺のお口に合わねーよ、ローガンおじちゃん、しょうが無いな、で? 俺の目的だったな?』
『そうだ、何が目的だ?』
『んー‥‥ 教えてあげないよ~、自分で考えろや』
『・・・』
おっ! ローガンおじちゃま、煽ったのに表面上は普通だな。
流石にもう立ち直ったか?
怒らせるかビビらせるかして、交渉をしやすくしようとしたが、一人位は冷静な奴が居た方がやりやすいか‥‥
『てか分かってんだろ? くっだらねー 脅し掛けて来やがって、お前らがその気ならこっちもトコトンやってやるが? ガキならちょっとカマしゃどうとでもなるってか? 面白いよなお前達、道化にしては少々面白味に欠けるがな』
『それで乗り込んで来たと?』
『大歓迎してくれるのは嬉しいが、歓迎の仕方がイマイチだな、皆直ぐにお昼寝しやがったぞ、それともここはお昼寝する所なのかな?』
『・・・』
『おいおい、黙ってちゃ分からんぞ、ローガンおじちゃま? てか紙をちゃんと見たか? お前達の一家の幹部の事も書いてあるんだが、そういや毒蜂一家のスミスおじちゃまは金庫番のロナルドの事をえらく信用してるみたいだが、金庫の金をポッケにナイナイしてるみたいだぞ、スミスおじちゃまは太っ腹だな、ロナルド君のポッケはかなりデカイみたいだ、奴のポケットには組織のお金さんがいっぱい入ってるみたいだが?』
小さく、ハッタリだと言う声が聞こえて来た。
信じるのは勝手だが俺は嘘を付いてる訳では無いし、当然ハッタリでも無い。
親切に教えてやったのにな。
その事を奴等に言ってあげた、本当俺ってお人好しだよ。
『で? その親切なお前は俺達をどうするつもりだ?』
『何だ気になるのかローガン君?』
『・・・是非教えて欲しいな』
『それが人に物を頼む態度か? てか面倒だからこの場で全員ぶっ殺すって言ったらどうするつもりだ? 俺は親切だから教えてやるが、一応それもプランの一つとしてあるが?』
『それは勘弁して欲しいな‥‥』
『残念ながらそれを決めるのはお前達では無く、俺の気分一つで決まる』
とは言え抹殺案は最終的な方法だがな。
一番簡単な方法なんだ、さっさとぶっ殺してしまえばそれで終わるし、後々災いとなって煩わされる事も無い。
ただそれをやると先が読みにくくなるし、将来の不確定要素が多すぎる、だから最終案だ。
と言っても案から外す事は決してしないし、それも含めて計画した。
不殺とか、俺は人を殺さないだとか、最初から選択を狭める様な事をするのは愚策でしか無い。
自分や大事な人の命や安全が掛かって居るのに、そんなお馬鹿な事を言って居れば必ず何時か後悔する事になる。
人を殺すのはいけない事だなんて、そんなの分かってるし、当たり前の事だ。
だが自分や大切な人が危険に晒されて居るのに、こっちはやらない等アホの極みであるし、繰り返しになるが、選択肢を自ら狭める様な事をするのは只の間抜けでしか無い。
よってコイツらの抹殺も含めて執り行う。
『てか俺を利用したいからといって脅しをカマしたのは失敗だったな、ガキだからどうとなると思うなんて舐め腐ってくれたもんだよ、特級官吏がその辺に居る奴等と一緒だと思ったか? バカが‥‥ 特級官吏にまともな奴なんて居ねーよ、どっか狂ってるから特級官吏なんてのをやれるんだし、続けて行く事が出来るんだよ、特級官吏であると言う事はそれだけで特別なんだ、そこに年齢は関係無い、あるのはただ、特級官吏かそうじゃ無いかだけだ』
『俺達をどうする? 殺るのか?』
『さて‥‥ そうするのが手っ取り早いし一番確実だ、だがとりあえず話をしようか‥‥‥‥‥‥』
奴等に話したのは、顔役や幹部達を物理的にこの地から消し去る事は簡単だが、その後の混乱や下っぱの奴等や、今まで押さえ込まれていた小悪党共の争いによる混乱、それによる先の展望の不確定化と手間、本当に不本意ではあるが生かしてコントロールする方が手間も掛からず楽だと言う話を奴等にしたが。
面倒になったり、抹殺した方が利があるなら躊躇わずこの地上から消えて貰うと釘を刺した。
一人では寂しいだろうから顔役達だけで無く、先程渡した紙に書いた奴等も一緒に旅出させてやるから安心しろと、優しく言ってあげた。
それなのに奴等は、俺達よりタチが悪いだの、人の心が無いのかだのと散々抜かしてくれやがった。
だから人としての優しさを持つ俺は、あの紙はお前達が寂しく無い様に作成した、団体旅行ツアーのリストだともう一回優しく言ってあげた。
そしてリストに載って居ない奴の名前や、居場所、それに普段の行動等も笑顔で優しく教えてあげたのだが、サービスでローガンおじさんの六人の愛人の内二人が他に男を作って居る事を特別に教えてあげる事にした。
何故かローガンおじちゃまは顔が引きつって居た気がするが気のせいだろう。
とりあえず奴等にはどちらが上か、俺の言う事を聞かないとどうなるかを優しく丁寧に教え、これからは協力して行こうねと伝えた。
返事が無かったので、再度リストに載って居ない奴の事を色々お話ししてあげたら、素直に返事をしたので一応の手打ちにする事にしてあげた。
これが夜遊び交流会との心温まるエピソードであり、奴等との付き合いの始まりとなった。
因みに帰り際に、さっさと帰らないと軍の連中や衛兵がここに乗り込んで来るからとっとと帰るわ、と言って帰宅した。
うん、念の為時間が来たら軍や衛兵を突入させる様に段取り付けてから来たのだ。
結局無駄になってしまった訳だが‥‥
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「マデリン嬢、夜遊び交流会の連中はどうしてますか? 忙しさに疲れては居ませんでしたか?」
「そうですね‥‥ おじ様達は少々御疲れでしたわ、最近忙しいみたいで‥‥」
「自分達の商売にも関係する事ですからね、仕方無いとは言え連中も歳ですからね、アイツらマデリン嬢に失礼な事をして居ないですか?」
「とんでもありません、おじ様達は何時も良くしてくれてますわ、この間も‥‥‥‥‥‥」