第146話 夜遊び交流会
「マデリン嬢、最近バハラはどうですか? 余り治安が宜しくない様ですが」
「ええ、軽犯罪と言われる様な類いの事が多発しておりますね、夜遊び交流会のおじ様達も頭を痛めておられる様です」
「でしょうね、この前の嵐の時に此方に来た下級官吏から聞きましたが、対応が追い付いていないと言っておりました、自警団も大忙しだと‥‥」
「ネイサン様もお聞きになられたと思いますが、バハラでは治安の悪化が今、大きな問題となっております、今はまだ比較的軽微な犯罪が多いですが、このままでは重篤な犯罪に移行して行くのは時間の問題だと皆が言っております、おじ様達もその点を憂慮されておられますし、頭も痛めていらっしゃいますわ」
夜遊び交流会は、所謂裏社会の顔役達の会合の呼び名である。
クラブ活動? いや、片仮名のクラブでは無く、漢字の倶楽部と言う方が俺的にはしっくり来るな。
うん、別にどっちでも良いんだが、俺は本当にこの様な下らない、どうでも良い事を考えてしまう癖が治らない。
それは兎も角、バハラの裏社会の奴等の利害調整の為の会合を夜遊び交流会と言う。
因みに名付け親は俺だ。
奴等とは俺がバハラに赴任して居た十数年前時に知己を得た。
アイツらは、夜遊び交流会が設立される前までは基本的に、血で血を洗う楽しい楽しいじゃれ愛を行って居た。
だが年一回、アイツらは集まり、一応の話し合いの様な事をしており、それは抗争と言う名のじゃれ愛の最中でも行われており、バハラの裏社会における顔役達もその間は、一時休戦協定を結び話し合い、利害の調整と顔繋ぎの様な事をして居た。
とは言え慣習として行われて居るだけで、実際は余り機能して居たとは言い難い。
建設的な話し等ほぼ無く、嫌みと皮肉の応酬と言う、実に心温まる会合であった。
当時俺はバハラに赴任して一年、奴等とはちょっと色々あり、その会合に飛び入り参加した。
皆が大歓迎してくれて、奴等の下の奴等は特に大歓迎し、俺の飛び入り参加を喜んでくれた。
極一部の特別な許可を持った奴が料理する為なのか、刃物を振り上げて歓迎してくれたのだ。
俺も奴等から歓迎を受けると思って居たので、その礼に報いる為に前以て十手を三つと小柄を十本に、何時も身に付けて居る寸鉄を二つを身に付けて、正装してから飛び入り参加した。
小柄は正直そこまで使える訳では無い。
叔父さんから一応は習っただけであり、叔父の所属する那由多流の奴等程、上手く使える訳では無いが、無いよりマシだし、投擲系があれば会合が盛り上がると思ったのだ。
因みにその会合の場に行く迄に五回絡まれた。
その内訳は、三回はカツアゲされ、二回は会合の場の近辺で、顔役達の警備の下っぱの奴等だった。
当然カツアゲして来た奴等も、警備の下っぱ達もお昼寝して貰い、先に進んだのは言う迄もない。
本当に治安の良い所である。
まさか真っ昼間に三回もカツアゲに合うとは‥‥
しかも俺は特級官吏の服を着て居たのにだ。
会合場の入り口でも、俺の飛び入り参加の話を聞いて無かったのか右往左往しつつ大歓迎されたが、面倒になり飛び入り参加だとだけ言い先に進む事にした。
途中でカチコミだ~ とか、官吏が何でカチコミ掛けて来やがるだとか、たった一人に何してやがるだの聞こえて来たが、歓迎の言葉だと思い笑顔を振り撒きつつ先に進む事にしたった。
歓迎用の武器は入り口でこそ持ってる奴は多かったが、中に入ると人こそまぁまぁ居たが、極一部の限られた奴のみだったのでスムーズに進めた。
入り口でこそ少々時間が掛かってしまったが、あれは人数が多かったからであり、やはり数は力と言う言葉は正しいと再認識した。
中では家具やその辺りにある物で歓迎されたが、所詮は素人のケンカ自慢の奴に毛が生えた程度の奴等だ、サクサク進む事が出来た。
途中で何人かは腕に覚えありと言う奴も現れたが、魔法を使う迄も無くお昼寝させた。
兵隊上がりや武術をかじった奴等で合ったが、ソイツらも所詮は鍛練を怠った、身体が鈍った者に過ぎなかった。
裏社会の奴等は暴力と脅し、そして数を頼みに商売する奴等だが、基本的には脅しに重きを置いて居る。
奴等にとって暴力は所詮はある種のパフォーマンスでしか無いし、数と脅しが奴等の本領なのだ。
その脅しと数の力が通用しない相手には結構脆い。
そして直接的な暴力も通用しないとなれば、奴等に出来る事等何も無い。
顔役達の会合の場に参加すると、奴等は在り来たりな歓迎の言葉を述べたが、『飛び入り参加で~す』
と可愛く言ってあげたのだが何故か返って来た言葉は罵倒だった。
酷い話である、可愛い美少年が折角礼儀正しく挨拶をしたのに返って来た言葉が罵倒である。
その事を奴等に言うと、品の無い言葉遣いで益々罵倒して来やがった。
なので『帝都生まれのネイサン・サリバン十七歳、現在恋人募集中で~す、好みのタイプは髪が長くってー、目鼻立ちのハッキリした顔で~ おっぱいは大きくって~ ウエストはバッチリ括れでー お尻はちっさい、所謂小尻で~ 足も細~い、大人ッポイ子がタイプでーす、性格は控えめで明るくって~ 本とか好きで~ 文学少女系が大好きでーす、それと~ 常識的でー 心優しい、人の痛みが分かるけど~ 無駄な正義を振りかざさない~ 清濁合わせ飲む子が大好きなー 花も恥じらう美少年で~す』
と言った。
そしたら又、ギャーギャーとうっせーダミ声でガタガタ抜かして来やがったので、ちゃんと答えてあげる事にした。
『だって~ お前は誰だとか~ 聞いて来るから答えただけたのに~ おじちゃん達は何でそんな事を言うの~ そんな事言われたらボク泣いちゃう』
と言った。
そしてやっと顔役達の護衛らしき奴等が俺の方に来たのだが、余りの対応の遅さに笑ってしまった。
当然即、お昼寝させ、ついでにおかわりで来た奴等も昼寝させてお話し合いを継続する事にした。
ついでに入り口も、魔法を使い一メートル 四方の氷を幾つか作り塞いだ。
おかわりで来る奴はどうとでもなるが、会話を邪魔されたく無かったし、面倒になったのだ。
流石にその様な状況になると、顔役達も余計な事を言わず黙りだした。
やっと落ち着いたと言うか、諦めたと言うか、腹を据えたらしい、その辺りは流石、裏社会の顔役である。
どんな組織でも上に立つ人間と言うのは、その辺りの切り替えが出来ないと上には立てないし、立ち続ける事は出来ない。
落ち着いて話し合いが出来る環境が出来ると、奴等の一人が『何の用が合ってここに来た』と重々しく聞いて来やがったが、少し可笑しくなった。
さっき迄 ギャーギャー喚いて居やがったのに、そのギャップが何か可笑しかったのだ。
『喉渇いたからお茶を飲みに来たんだよ』
と言ったが、奴等の返事は無言であった。
俺はどうやらスベったらしい。
なので飛び入り参加の目的を告げる事にした。
理由は簡単だ、俺を脅す為にマデリン嬢始め、ポートマン家や、帝都の俺の家族に対してどうなるか分かって居るのか等と、在り来たりな脅しをカマして来やがったのだ。
なのでその好意に対し、サプライズで飛び入り参加した旨を伝えに来たと奴等に言った。
すると奴等はいやらしく笑い、俺に脅しを掛けて来ると言う、愉快な事をし腐りやがった。
なので俺も笑顔で答えてあげる事にした。
官吏は舐められたら商売上がったりのお仕事であると言う事を。
そう言う意味では、お前達裏社会の奴より徹底して居るし、何より特級官吏は特にその傾向が強いと言う事を。
そしたら奴等は、このまま無事に帰れると思って居るのか? 等と愉快なギャグをカマしやがった。
てかその前に自分の心配をしろと、
『頼みの綱のチンピラ共は皆お昼寝して居るが?』
『お前達は脅しを生業にして居るが、頼みの綱の脅しとチンピラの数の力を使う前に、俺はお前達を今この場で聖霊にする事が出来るが?』
と言ってあげた。
厳密には海で死んだので無ければ聖霊にと言うのは違うのだが、他の国では海であろうが陸であろうが関係無く聖霊と言う地域もあるので、些細な事である。
俺はあの時もそんな下らない事を考えていた。
奴等は黙って居たが、ふいに一人が。
『俺達をぶっ殺しても、組織の奴が必ず報復するが?』
等と愉快な事を抜かしやがったので懐から紙を出し、奴等に配ってやった。
紙束にはそれぞれの組織の名前が書いてあり、読み進める内に顔色が悪くなって行ったので、心配になり、言葉を掛ける事にした。
『どうした? 顔色が悪いな? 可愛い可愛い孫のエミリーちゃんが心配するぞ、ラップ一家のリチャードおじちゃん♪』
『おいおい、毒蜂一家のスミスおじちゃん大丈夫か? 君も顔色が悪いな、早く帰って最近出来た若い愛人にヨシヨシして貰ったらどうだ? サラちゃんはヨシヨシするのがお上手らしいな? 十八才と若いのに、母性に溢れて居るじゃないか』
『あれあれあれ~ 海蛇一家の暴走牛って言われてるのに、君も顔色が良くないねー もう歳なのかなローガンおじちゃん? 六人も愛人が居るから誰に慰めて貰うか悩んで居るのかな~』
『そうだ、海鷲一家のダンおじちゃん、娘さん結婚するんだってね? おめでとう、目の中に入れても痛く無いって言ってる娘さんの結婚、複雑だろうけど祝福するのもそれも又愛だよー』
『なぁフルハウス一家のフルハウスおじちゃん、浮気も程ほどにしないと奥さんに又刃物持って追い掛けられるよー 普通は箒持って追い掛けられるのに刃物って‥‥ シャロンおばちゃんに愛されてるね~ まぁでも確かに愛人が八人は多いね、名前はそこに書いてあるから面倒だしいちいち言わないけど、バレたらシャロンおばちゃん又怒るんじゃないのかなぁ? てか八人共、良い所に囲ってる、いや、住ませてるんだね? よっぽど儲かってるんだ~、商売繁盛だね、南方諸島からの葉っぱは儲かるらしい、商売のコツを教えてよ~』
『あっ! 山猫一家のテーラーおじちゃん、一番下の息子さん下級官吏になったんだね、おめでとう、息子さん頑張ったんだね~ それともテーラーおじちゃんの教育の賜物かな? 可愛がってる孫のポール君とミアちゃんもちゃんと教育してるみたいだけど、将来官吏にするのかな?』
『他のおじちゃん達も色々あるみたいだけど~ 今は止めとくね、後でおはなしをしようね、てか何か部屋の空気が重いと言うか、冷えてるね? あっ! そうかそうか、あんだけ氷が合ったら冷えるのも当たり前かぁ~ てかこれじゃあ出入り出来ないね、ボクってうっかりさん♪』
部屋の空気が更に重くなり、そして冷えたのは俺の軽口が原因だったのだろうか?
又スベったのだろうか?
その辺りは顔役達に聞いてみないと分からない。
話し合いは継続する事になる。