第143話 エスコートは微笑みと共に
ざわめきが聞こえる
集まった村民達があれこれと話して居る
それをブライアン達が捌いており、その声も交じり中々騒がしい。
だがこの浜には俺とマデリン嬢の二人しか居ない様なそんな気が又した。
「マデリン嬢、お疲れではありませんか?」
「いえ、とんでもありませんわ、それに久々に船に乗りましたが寧ろ心地好い位ですのよ、それとネイサン様申し訳御座いません、この様な格好で参りまして‥‥」
「いえ、良くお似合いですよ、船着き場の使用許可が出なかったのでしょう? なら仕方ありません、縄梯子を乗り降りするのにドレスでは些か問題がありますからね、しかし相変わらず船がお好きですね、おっと、ジョディも久しぶりだな、息災の様だな」
「お久しぶりですネイサン様、息災ではありますが、年齢からか最近は思うように身体が動かなくなりました」
「そうか? 変わらない様に見えるが‥‥ マデリン嬢、ここで立ち話もなんです、移動しましょう、エスコートしても?」
「勿論ですわ、お願い致しますネイサン様」
俺がマデリン嬢の手を取ると村民達から歓声が上がった。
マジで鬱陶しいな‥‥
ブライアン達をチラッと見ると頷いて居た。
村民達に道を空けて通してくれとデカイ声でブライアン達が言い、皆が道を空け始めた。
てかアンナの目付きが凄い、目をかっ開いて驚いてやがる。
アンナが何を考えて居るか何となくだが分かる、何時もと違うとか、紳士的だとか、何で手を繋いで居るのとか思って居やがるんだろう。
エスコートすんのに手を取らずどうやってエスコートすると言うのか‥‥
うん、これは手を繋いで居るのでは無い、手を取って居るんだ。
んーな事を言ってもアンナの奴は分からんだろうがな。
しかし村民達がうっせーな‥‥
俺の態度に驚いて居るってのもあるが、マデリン嬢の美しさにも驚いて居る様だ。
美しいだの、綺麗だの、垢抜けてるだの色々抜かしてやがる。
どんな関係だって? んーな事オメーらに関係無いだろうが、好き勝手に囀ずりやがって、さっさと移動しよう。
しかしジロジロと見て来やがって‥‥
てか男も女も皆がマデリン嬢を見て居る。
物珍しさや俺との関係性が気になるのもあるんだろうが、マデリン嬢の美しさに見惚れてる。
男より女の方が見惚れてる奴が多いなぁ、特に若い娘達がそうだな。
まるで憧れの有名人に出会ったかの様だ、モデルや芸能人を見てるみたいなそんな感じと言えば良いのか、確かにマデリン嬢は美しい。
本当、美しくなったよ、大人の色香と魅力が備わり始めてる。
背も伸びたし、身体つきも成長したよな‥‥
ジロジロと見た訳では無い、しかし身体全体は見たし、見える。
うん、乗馬服の上からでも分かるわ、胸もかなり成長してるな‥‥
全体的に細いが出るとこ出て、引っ込むとこは引っ込んでってやつだ。
乗馬を頑張ってるみたいだし、牛乳を毎日飲んで頑張ったんだなぁ。
それと俺が昔言った事も覚えて居るし、お尻は小さい方が良いと‥‥
てか良く覚えてるよ本当、胸は大きく腰周りは括れて、臀部は、小尻が良い。
そんな事を昔ポートマン殿と話した事があったが、マデリン嬢はちゃっかり聞いててそれを覚えて居ると言う、何とも言えないエピソードだ。
先ほど小舟から降りる時に見えたがお尻は小さかった、身体つきはビックリする位に俺好みだが、それは俺の為に努力した結果だろう。
健気ではある、だがそれはそれ、これはこれだ。
「ネイサン様、中々賑やかな所ですわね」
「申し訳ありませんマデリン嬢、皆珍しがり不躾な視線で‥‥ それに騒がしいでしょう? 野次馬根性丸出しで見られて不快でしょうがもう少し辛抱を」
「ええ、私気にしてませんわ今日は」
「マデリン嬢少々お待ち下さい、ブライアン皆を散らせろ、近寄らせるな」
「分かった、おーい皆向こうに行ってくれ! 守長達を通してくれ、てかあんまジロジロ見んじゃねーよ! ホラ行った行った、向こうに行け」
うん、ブライアン君ちゃんとお仕事してエライね、でも君もマデリン嬢に見惚れてたよね?
君、セレサが居るのにそんな事して良いのかな?
世間の一部ではそれを浮気と言う人も居るんだよ、分かってるのかな?
てかセレサがさっきの君の姿を見たら何て言うんだろうね?
「ネイサン様、あの方達はネイサン様の部下の方達ですか?」
「いえ、違いますよ、今日の為に頼んだのです、恐らくこの様な状況になるだろうと思いまして、さぁマデリン嬢行きましょう」
「ええ、お願い致します、ネイサン様、私今日は気分が良いのであまり気にしておりません、この様な視線等は些細な事ですわ」
マデリン嬢は心底嬉しそうだ。
実際あまり気にして無いのだろう、と言うか俺が居たら何も要らない、そんなとこかな。
そこ迄想われたら悪い気はしない、だが‥‥
「何だか変な気持ちですわ、乗馬服でネイサン様にエスコートされるのは‥‥」
「いえいえ、本当に良くお似合いですよ、乗馬も頑張っておられる様ですね」
「フフッありがとうございます、学園での乗馬の成績も上位におりますの、昔ネイサン様がおっしゃった好きこそ物の上手なれと言ったところですわ」
うん、昔言ったな、マデリン嬢は俺が言った事を良く覚えて居る、自分で言うのも何だが俺も記憶力はかなり良い、だがマデリン嬢も大概だな、本当、発言には気を付けなければ‥‥
それと後ろから皆が付いて来てやがる、この暇人共が‥‥
マジで灯り魔法で目潰ししてやろうかな?
左手は空いて居る、やろうと思えばやれるが‥‥
駄目だな、マデリン嬢に気付かれてしまう、光もそうだが奴等の叫び声で絶対に気付かれてしまうだろう、それに後ろには俺達をガードする為に村の若い衆が三人とジョディも居る、目潰し作戦は駄目だな、先導してるブライアンに蹴散らさせるか? うん、それも駄目だ、マデリン嬢にいらん心配をさせてしまう、灯台の門を潜る迄の辛抱とは言え鬱陶しい事この上ない。
「ネイサン様、顔色がとても良くなられましたわ、こちらに赴任されてからは前の様に激務から解放され‥‥ この様な事を言いますと叱られてしまうかも知れませんが、私は良かったと思いますの、四年前に帝都でお逢い致しました時は疲れた顔をしてらっしゃいましましたから‥‥」
「帝城で働いて居ました時とは比べ物にならない位に仕事量が減りましたからね、楽過ぎて寧ろ退屈との戦いですよ、ですがこの生活も悪くありません、私は自分でも気付かぬ内に疲れて居た様です、マデリン嬢の仰る事は事実ですから‥‥ 私はここに左遷された事は今では感謝して居る位です、強がりでも何でも無く本心からそう思います」
今言った事は本当だし、本心だ。
実際飛ばされたのがこの村で良かったと心から思って居る。
マデリン嬢は左遷されこんな寒村に飛ばされた俺を気遣ってる様だが、俺は今は全く気にして無いし、本当に本心から感謝してる。
「私はネイサン様が幸せであるのならばそれで良いのです、ネイサン様の幸せは私の幸せ、幸福ですわ」
本当に健気でいじらしい人だよ‥‥
これから伝える事を考えると気が重いが‥‥
それでも伝えなければならない。
それがマデリン嬢に対する誠実さであるし、真剣な想いに対する誠意でもある。
他人が聞いたら義憤に駆られ怒る奴や、ごちゃごちゃ言う奴も居るだろう。
だが俺の気持ちは変わらん、例えそれが二度と、そう決して戻る事等叶わない場所にある想いで有ろうともだ。
この俺の想いは例え叶わぬ想いであろうとも、
それ以上でもそれ以下でも無い只一つの揺るぎ無い理由。
人に何か言われたからと言って簡単に変わる訳が無い、大体変わるならとっくに変わって居る。
「マデリン嬢、ありがとうございます、そして御心配をお掛けして居た様で‥‥」
「とんでもありませんわ、ネイサン様の御心配を私がするのは差し出がましいと思いますが‥‥ 所でネイサン様、人が大勢いらっしゃいますね? 何時もこの様な物なのですか?」
「いえいえ、今の時間は皆丁度手が空き、時間が出来ると言いますか、暇になる時間帯だからです、それに学校も今日は休みですからそれででしょうね」
そう、今日は学校が休みの日だ、だからこそマデリン嬢もここに来れたんだし、この村のガキ達も大勢居る。
恐らく後ろから付いて来てる奴等の中に居るアンナも学校が休みだからこの時間にこの辺りに居た。
てかアンナだけじゃ無い、他のガキんちょ共も結構居やがる。
我等のアイドル事、吊るされ王ジョンのアホも居やがるし、あのアホガキはマデリン嬢を見て頬を染めてやがった。
そして俺を憎々し気に見てやがった、あのアホは又わからせてやらないといけない。
あのアホタレ村長の一族であるあのアホガキは何度も懲りずに突っ掛かって来やがるからなぁ。
本当、あのアホタレ一族はキャン言わせないといけない、そう、二度とアホな事が出来ない様に完膚なき迄にわからせてやる。
だが今はマデリン嬢に集中しなければ‥‥
「何だか恥ずかしいですわ、皆さんにこんなに見られると‥‥ とは言え乗馬服は目立ちますから仕方無いですわね」
「乗馬服が目立つと言うのも確かにあると思いますが、皆マデリン嬢の美しさに見惚れてるのですよ」
「あら、ネイサン様に言って頂きますと嬉しいですわ、私頑張りましたの、ネイサン様に相応しいレディになれる様にと」
「本当に努力なされたのですね、とても美しいですよ、もう立派なレディです」
「ありがとうございますネイサン様」
うん、自分で言っといて何だが歯の浮くようなセリフだ、だがこの世界の上流階級では当たり前の言い回しだし、実際マデリン嬢は本当に美しくなった。
それに立派なレディってのも本当の事だしな。
しかし又人が増えて来たな、マジでコイツら暇人集団かよ?
マジでコイツら蹴散らしてーな、だが後少しだ、門は近い、おい! 門のトコらにも人が‥‥
ガキが多いな、誰かが村に知らせに行きやがったかな?
余計な事をし腐りやがってからに‥‥
アレ? あそこに居るのはジゼルか?
アンナと同じ様に目をかっ開いてマジマジと見てる。
俺とマデリン嬢を交互に見て、エスコートの為に添えてる手をマジマジと見てるな‥‥
てかジゼルのあんな顔は珍しい、何時もは微笑みを湛えてるから、珍しいと言うかイメージが違うな。
チンピラブライアンが門の付近に居た奴等を散らして道を空けてくれだが、うん、マジでアイツは知らん奴が見たらチンピラでしかないな。
俺の依頼で仕事をして居る訳だが、うん、アイツに任せたがまるで俺は裏社会の幹部になった気分だよ。
マデリン嬢はその辺りは余り気にして無いみたいだな、肝が太いと言うか、胆力もかなり成長したなぁ。
昔は少し怖がりで引っ込み思案だったが、今は堂々として居る。
ある種の貫禄の様な物が備わって、オーラの様な物があると言えば良いのか、独特の雰囲気があるよな、本当成長したわ。
「ネイサン様、ここが灯台の入り口ですか?」
「ええ、マデリン嬢、足元にお気をつけ下さいね」
門番として留守番して居た若い衆がマデリン嬢に見惚れてやがる。
お前ら仕事しような、とりあえずこのアホ面晒してる若い衆にもう一度声を掛けておくか。
灯台に入る迄にコレだよ、まだまだ先は長いんだ、絶対に誰にも邪魔はさせない。
そうだ、疲れてなんか居られない。
チラッと横を見ると、微笑むマデリン嬢の笑みが又深くなった様な気がした。