第134話 祭りの夜
歓声が聞こえてきた
劇のクライマックス辺りなのだろう
村から灯台に帰り、夜番の準備を全て終わらせてから昼飯を食べ終わると少し仮眠を取った。
飯は祭りで振る舞われる物をフィグ村の奴が持って来てくれた、荷物番達と入れ替わりで来たのだ。
そのついでに持って来てくれた、荷物番は全員が一斉に入れ替わった訳では無い、顔見せの男衆を束ねる年配の者が残って居たし、ちょこちょこと入れ替え何かもしてたみたいだ。
なので門番の任はそれからも滞りなく行われ、俺も安心して仮眠を取れた。
現在灯台の入り口は、跳ね橋を上げ、門も閉まっている。
フィグ村の手伝いに来た女衆と男衆も仕事を終え、今はハルータ村の皆と一緒に芝居を見てる。
女衆に手間賃を、男衆にも手間賃と特別ボーナスを渡した時に、ついでに芝居を見てから帰ったらどうだと俺が言ったからだ。
端でついでに見るのなら村の奴らも煩く言わないだろうし、カレンに手紙を書き、その旨は伝えてあるので何も問題は無い。
フィグ村の皆は、特に女衆は喜んで居た。
男衆は芝居より、俺から貰った特別ボーナスに皆喜んでくれて、俺もちょっとホッとした。
うん、あんなに股間を触らせてしまったからな、
俺としても喜んでくれて何よりだよ。
今日はこれで一安心だ、ふと村から灯台に帰る途中アマンダにバッタリ会った事を思い出した。
アマンダも祭りで着飾っており、普段より更に美しかった。
何時もは本当に薄化粧だが、今日は何時もより少し濃い目に化粧をして居て美しさが際立ってたのが印象的だったな。
まぁ普段からほぼ化粧をせず、紅を薄く塗ってるだけだし、今日は何時もより少し濃い化粧とは言え、俺に言わせればそれでも薄化粧と言って良い。
帝都やバハラの女達に比べれば薄化粧どころか、
して居ないと言っても過言では無い。
アマンダの事を思い出しふと思った、俺はアマンダに惹かれてるのか? と‥‥
だがそれは違うと思う、多分似てるんだ、俺とアマンダは似て居る。
お互いもう逢えない人を心の中に持って居て、忘却と言う神々の慈悲に見捨てられたこの身が良く似て居ると思う。
何時までも忘れる事が出来ず、忘れる事等この身が朽ちて土に帰ろうが無い、その想いが似てるのだろう。
人は言うだろう、さっさと忘れろと、もう二度と逢えないなら無駄な事だと、だが誰かを想う気持ちがそんなに悪い事だろうか?
人は言うだろう、女々しいと。
だがその想いを誰に否定され様が、神に否定されたとしても俺自身が認める事は無い。
村でアマンダにバッタリ合い、美しいと褒めた時に前世の事を思い出した。
『お前は本当、滅多に褒めないよな? あーあ、折角誰かさんの為にお洒落して来たのになぁー ホレ、褒めてみろ? 世界一可愛く美しい天音様、君程の素敵な人は居ないよって』
『なぁ‥‥ どうせ言うならせめて感情込めて言えよ、棒演技過ぎだろ? ロボットでももう少し感情籠ってると思うぞ?』
『お前なぁ、女は褒められてナンボなんだぞ、女はな、褒めて伸ばさなきゃ、お前は本当なってないな、仕方無いからあっしが女心ってのを教えてやるよ、ずーっとな、ずーっと、ずーっと教えてやるから、覚悟しろよ』
『うん、大分マシになって来たな、まぁロボットよりマシにはなったかな? あっしの教育の賜物ってやつだな、てかいい加減素直になれば良いのに、そしたら‥‥ まぁお前らしいよ、仕方無いからまだまだ教えなきゃ‥‥』
「・・・」
拍手が聞こえて来たな、芝居も終わりか‥‥
舞台の解体は案外直ぐ出来る、だが祭りの最中にそんな事をしたら雰囲気をぶち壊す事になるからな、今日は余り音も出ず、簡単にやるだけだ。
そして明日の朝早く本格的にバラし、それ以外の奴は朝方に浜や村で買い物だ、それらを仕入れて朝から少し過ぎた位に次の場所に移動するだろう。
この村の奴らは祭りの次の日には漁に出る。
そして旅芸人達は浜で獲れたての魚や、村では干物や乾物を買い込み次の興業先の内陸側の街や村で販売する。
今日も舞台の近くでは屋台と言うか、出店を幾つか開いて居た。
売る品物は内陸部側で買い取った物だ、内陸側では海沿いの商品を、海沿いでは内陸側の商品をそれらの店で売る。
旅芸人が行う商いに関して、商人や行商人も煩く言わない。
何故なら来ても年一回の事だし、年数回興業を打つ様な場所であるなら、それだけ大きな街であるので案外競合したりしない。
旅芸人の一座もある種の物流の担い手の一つでもある。
バハラの様な大都市の周辺では幾つかの一座がある、それらがバハラ周辺、そして内陸部側の奥まで移動しつつ買い込んだ品物をついでに運び、興業を打つのだ。
しかし興業を打つってこの世界では普通に言ってるが、別に旅芸人の一座は裏社会の人間じゃ無い。
前世であれば興業を打つって裏社会の奴等が使う言葉だったから、この世界でもそうだと最初は思ってた。
世界が違うと言葉の意味も変わる、俺は色んな意味で前世に引っ張られてるな‥‥
記憶を保持したままの転生は確かに色々と役にたった、だが反面気持ちや想いまで心にある。
前世で読んだ小説では、前世の想いや気持ちと言う物に対して余り執着が無い物が多い、だが自分が転生し、周りにも恵まれ、幸せと思える様な新たな人生であっても忘れられ無い、正に執着と言う言葉が相応しい。
そう簡単には割り切れないし、色んな想いを断ち切る事は出来ない。
本当、暇だとロクな事を考えないな、祭りで皆が楽しんで居る時に一人で仕事何かするもんでは無いよ、でもじい様達を祭りに参加させてやりたかったし、夜番があるから皆で飲む事も出来なかったしな、今頃は飲んで楽しんでくれてるかな?
何か芝居そっちのけで皆飲んでる様な気もする。
楽しんでくれてるなら良いが、飲み過ぎには気を付けて貰いたいな。
しかし明日の朝まで一人か、ハンナが居るから一人と一匹になんのかな? 考える時間がたっぷりあるのも問題だ、長い夜になりそうだよ。
てかちょっと早めに篝火を付けるか?
とは言えまだ明るい、うーん、この季節は急に暗くなるし祭りだからな、早めに火を入れても良いかな?
灯台の灯りは外から見ると幻想的だ、祭りの雰囲気が盛り上がり、気分も良くなる。
盛り上がると言うか、盛り上がり過ぎるかも知れない。
ふと西の方を見た、太陽が沈み始めている、何か今日は沈むの早くないか?
南方諸島ではまだ太陽はギリギリ海に掛かって無い位かな? あのロリババアも仕事終わりの時間位になってるだろうな。
あっちに赴任してからかなり暇らしいから、今頃悪巧みでもしてやがんだろう、間違いない、絶対悪巧みしてるわ。
あのババア本当来ないでくれないかなぁ‥‥
俺たちは監視されてんだぞ、てか密かにで無く、公然と監視されてる。
密かに監視してるのがバレたら、切り替えて公然と監視してきやがる、それはつまり圧力掛けてんだろう。
自分達はお前達を常に見て居ると‥‥
まぁだからこそだろうな、あのババアが来やがるのは。
俺の同期は皆監視されてる、そして監視されてるのにも気付いても居る。
そんな中であのババアが出張の時にここに来て、そして俺に会うって完全に俺もあのババアの一味だと言ってる様な物じゃないか。
あんのババア‥‥
俺の事を巻き込む気満々じゃないかよ!
密かにとか、公然となんて関係無い、その様な状況で俺に会うのが目的だ。
つまり奴は俺の所に来て、俺に会った時点で目的は達成される訳だ、監視してる奴からしたら密談してると思うだろうし、そいつらから報告を受ける誰かからしたら普通にそう思う。
うん、逆の立場なら、俺ならそう思う。
この場合であるならば、まだ密かに監視されてる方がマシだ、公然と監視されてんのにそんな事してたら相手は何を考えるか‥‥
てか俺たちを監視してんのがまだ誰かも分からんのに、アイツは何をしてくれちゃってんの?
流石に危険過ぎるだろうが!
不本意極まりないが、監視を命じた奴は絶対、俺もあのババアのお仲間って思う、くっそー それがあのクソロリババア、相手が誰か分かってからやれや、せめて相手が誰か分かればまだやり様があるものを‥‥
同期からの手紙を思い出した。
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サリバン お前一体何をやらかした?
俺だけじゃ無く 他の奴も監視されてるぞ?
お前も当然気付いて居るだろう
俺たちに心当たりは無い
どう考えてもお前かスペンサーのどっちかだ
同期五人が密かに そして監視してるのに気付いたら
公然と監視してきやがる
間違いなく お前かスペンサーのどちらかが原因だ
それとも どちらかでは無くお前達二人か?
お前達又やらかしたな?
~~~
失礼な、間違いなくあのババアがやらかしてる。
俺は一切関係無い、それどころか奴に巻き込まれかけてる哀れな被害者でしかない。
本当、何をやらかしたんだよアイツは?
大体何かあったら俺が原因みたいにアイツらは言うが、あのババアが原因だった事も多数合っただろうに、うん、奴に巻き込まれた事も結構合ったぞ、絶対今回の監視の件もアイツだな。
俺を巻き込むのは本当に止めて欲しい物だよ。
本当に俺は帝国一 可哀想な官吏さんだよ‥‥