第132話 カルマ
「あー 大丈夫か守長?」
「大丈夫じゃ無い、もうお家に帰りたい、てか何で次から次に厄介事が起きるんだよ? 祭りの日位は大人しくしとけやマジでよー で? アンナが暴れてどうしたって? つーかお前が本気出したら止めれるだろうが」
「あー‥‥ 確かに止めようと思えば止めれるが、怪我もするんだが‥‥ それに祭りで良い服着てるから破れたり、汚されるのはちょっと‥‥」
「・・・」
もう! 確かにブライアンの奴は普段より良い服を着て居る。
てかよそ行き? 一張羅って言って良い位の服だ、だから気持ちは分からんでもない。
とは言え何で俺がアンナを抑えなきゃいけない?
俺はチンピラ少女アンナ担当じゃねーぞ!
そして聞きたくないが話を聞くと、やはりジョンのアホがアンナを怒らせたらしい。
ブライアンも何故怒らせたかは分からんが、アンナが無茶苦茶ぶちギレて手が付けられ無いらしい。
しかしおかしいな?
アンナは今日、おめかしをして居る。
それなのに暴れるってあの三馬鹿その一は何をやらかした?
あんのクソガキが‥‥
アンナを怒らせるんじゃねーよ!
てか幾ら子供の喧嘩に不介入とは言え限度があるだろうが、祭りの時だからって、いや、祭りん時だからこそ止めろよな。
しかしジョンのクソガキ毎回毎回やってくれるなぁ、流石あの村長の一族だよ、面倒クセーな‥‥
まぁ仕方無い、とりあえず行くか。
「じい様聞いてたよな? 仕方無いから、本当に嫌で嫌で仕方無いけどちょっと行ってくるわ」
「分かった、代わりに留守番しとく」
じい様に来て貰って良かったよ、まぁ一番良いのは俺の予想が外れて何事も無くってのが願いであったんだが‥‥
「おいブライアン、行くぞ」
「ああ、すまん守長」
~~~
門の所に行くとフィグ村の奴等が居た。
うん、真面目に門番をしてくれてる、頼んで正解だった、やる気を維持して貰う為にも特別ボーナスの件を伝えると歓声が上がった。
引き続き頼むと言うと皆が嬉しそうに返事をしてくれた、やる気が出た様で何よりだよ。
「守長ってそう言うの気前良いってかマメだよな」
ブライアンが先程のやり取りを見て感心した様に何度も頷く、まぁちゃんとやってくれてるんだ、このまま真面目にやってくれると言う事は俺の安全に直結する。
「当たり前だ、予想外に客が多くなったし、まさかこんなにも野郎の股間を触らせる事になるとは思わなかったからな、そりゃ気前良くもなるわ、それに人ってのはケチには付いて来ないからな、まぁアイツらが良くやってくれてるからご褒美をあげたいって思っただけだ」
「てか何で股座触らせるんだ守長?」
「アホか、そんなの男装して灯台に入り込もうとする奴が居るかも知れないからに決まってるだろ」
「いや、まさかそんな‥‥」
「お前は甘い、やる奴はやる! 村の奴が居れば相手が誰か、男かどうか分かるが、今日は祭りで門番に立たせる事が出来ないからな、ならば男装して入り口を突破しようとする奴が居る可能性もある、ならその可能性を潰すのは当然だ」
「・・・」
コイツ‥‥
そんな奴は居ないだろ? ってツラしてやがる。
馬鹿め! 目的を達成する為ならそん位、平気でやる奴何て幾らでも居るわ。
てかジルの奴はマジで何をやらかすか分からん、
念の為、あらゆる可能性を潰す為だ。
うん、あの変態は自分の性癖を満たす為なら何をやっても俺は驚かん。
前世でもそうだが、痴漢はありとあらゆる事を、
あの手この手を使って目的を達しようとしてきやがる。
人の欲望ってのを侮ってはいけない、欲望を満たす為ならどんな手でも使ってくる、俺は舐めた事して後で後悔したくは無い。
変態の名前を伏せつつブライアンにその事を語った、まぁ語ったって言ったら大袈裟だな、諭したと言うべきかな。
「何だろう、違うと言えないな‥‥ 確かに人の欲ってのは際限が無いって言うからな、でも守長、そこまでやったら人としてどうなんだ? 欲には際限が無いにしても誇りと言うか、恥ってモンが人にはあると思うんだけどなぁ」
うん、コイツはチンピラの癖に人としてとか、
恥って概念が人以上にあるんだよなぁ‥‥
人は見掛けによらないって言うが、正にコイツがそうだな。
「だがなブライアン、欲望を満たす為なら如何なる手段を持っても達成しようとする、それも又人が持つ顔、いや、業だ」
「業なぁ‥‥」
まぁコイツも歳を取れば分かるだろう。
うん、嫌でも分かる、何かこんな事を言ってると本当、俺も歳を取ったって実感するわ。
二人で村まで歩いて来ると村民が皆お洒落な格好をし、楽しそうな顔をして居た。
てかアンナが暴れてるにしては静かな気が‥‥
「おいブライアン、アンナが暴れてる様子がカケラも無いじゃないか?」
「ああ、村から外れの子供達が何時も遊んでる所だよ、いや‥‥ それにしては余りにも静か過ぎるな? もう少し騒ぎになってるかと思ったが?」
「お前まさか酔っ払って、見間違えたとかじゃ無いんだろうな?」
「守長、俺まだ一滴も飲んでねーよ、まぁここから距離が少しあるし、もしかして収まったかも知れないな?」
「お前‥‥ 甘いわ、あのアンナが早々に怒りを静める訳が無いだろ、ましてや暴れてたんだからそれは絶対無い! 金貨一枚賭けても良い、希望的観測は捨てろ」
「確かに‥‥」
コイツもアレか? 祭りの熱気で頭のネジが緩んで浮かれてるのか? てかアンナが暴れる程怒ってるのにそう簡単に怒りが静まる訳が無い。
ハルータ村の狂戦士の二つ名は伊達じゃ無い、
まぁ狂戦士って言ってるのは俺だけだな。
「まぁいい、とりあえず子供達が何時も遊んでる所に行くぞ」
「そうだな行くか」
もう、何で俺がいちいち対処しなきゃならないんだよ? どうも俺はアンナ担当って村の皆に思われてる節があるよな?
そう考えるとアンナの俺に対するやり口は今の所成功してるな、少なくともアンナ=俺って構図が出来上がってる訳だ、まぁ俺にはその気が一切無いって言う根本的な問題があるんだがな。
「守長あれ‥‥」
「ブライアンが指差す先は何も無かった、なので俺は灯台に帰る事にしましたとさ、めでたし、めでたし」
「なぁ守長、ここまで来てそりゃねーよ‥‥ 冗談でも笑え無いんだが‥‥」
「ちょっとしたお茶目な軽口だろうが、泣きそうな顔すんなや、チンピラのくせしやがって」
面倒クセーな、てか怒り狂ってるじゃねーかよ、
マジで何をやらかしたんだあのアホガキは?
「アンナ、もう止めなさい、やり過ぎだよ」
「ねえお姉ちゃん‥‥ どいて、そいつぶっ殺せないじゃない‥‥」
「もう! そんな事したら駄目だよ、ね、ちょっと落ち着いて」
「無理」
あー‥‥ ジゼルがアンナを止めてたから、あのアホガキは生き長らえてたか、まぁ‥‥
おめかしをしてたであろう服は汚れてる訳だが、
生きて居ただけ丸儲けであるな、さて‥‥
「ア ン ナ♪」
「ハァ誰? えっ! も も も 守長!」
「おいおいどうしたアンナ? 俺はにこやかに、笑顔でお前に話し掛けてんのにつれないなぁ」
うん、コイツ俺の声が一瞬分からない程怒り狂ってやがったか、あの声まるでアンナと出会った時みたいな冷たい声だったな、いや~ 懐かしいわ。
「な 何で守長がここに居るの? ねえ、それに何でロープと筵を持ってるの?」
「俺がコレ持ってるのはな~んでだ? 五秒以内に答えてごらん、ア ン ナ♪」
「さ さぁ、何でだろうね? 私分かんない」
「まぁ一応は話を聞いてやる、話してみろ」
「うん‥‥ コイツがね‥‥‥‥‥‥」
アンナの話によると、子供達が何時も集まるこの広場で皆と遊んで居る時に、ジョンのアホが何時もの様にちょっかいを掛けて来たらしい。
アンナは最初無視してた、何故なら鬱陶しいから。
だがアホガキはそれがお気に召さなかったらしい。
そして無謀にもアンナに、
「その服全然似合ってねー」だの
「ブスがお洒落しても無駄だバ~カ」だの命知らずにも程がある暴言を吐いたらしい。
そしてこのアホガキは、遠くからそれらの暴言を抜かした挙げ句、アンナに泥を投げて来たらしい。
決定的である。
暴言を抜かした挙げ句、泥と言うお洒落をしてる時に凶悪な兵器を投射してきたのだ。
しかもアンナ曰く、卑怯にも遠くからそれらの物、暴言を、そして泥を投げつけてきたのだ。
当然アホガキが投げた泥ごときに当たる様なアンナでは無い。
アホガキは右手と左手にそれぞれ泥を掴み投げてきたらしいが、余裕でアンナは避けて接近し、お仕置きをした様だ。
だがアホガキがパニックになり、泥の付いた手でアンナの服を触ってしまい、アンナがマジギレしたとの事だ。
周りにも確認したが、皆がその通りだと証言した。
うん、確かにアンナはやり過ぎな気もしないでもない、だが気持ちは分かるし、逆にアホガキの方が今日はやり過ぎだとも思う。
祭りの日でお洒落してるのに、それなのに泥を投げつけるなど悪意があり過ぎる。
てか暴言吐いた挙げ句、泥を投げつけるなど言い訳のしようが無い悪意だ。
その事をここに居る皆に言い、判決を下すと皆に告げた。
皆、頷いて居たし、女の子達は皆アホガキを冷たい目で見て居た。
「判決、ジョンお前有罪、よって簀巻きにして吊るす」
「ふざ ふざげんなよおお だんでおでがぁ~」
「はぁ何だって? 聞こえねーよ、ちゃんと喋れや」
「何のあれがあっでぞんなごどを~」
「守長権限です、それと俺は海事法弁士の資格も持ってるから、てかどんな腕利きの海事法弁士でもお前を無罪にするのは不可能だよアホ、まぁアンナもやり過ぎであったからその程度で済ますんだよ、お前な、祭りの日にお洒落してる女の子に泥投げつけるとか最悪の行為だぞ、流石にそれは引くわ~」
「あ あだらながづだだろーーー!」
「結果論だよアホ、この女の敵が、てか服脱げ、清浄魔法掛けてやるから、それに良い服着てんのに服着たまま簀巻きにしたら服が痛むからな、自分で脱がないならブライアンに脱がさせるぞ、良いのか?」
ブライアンが「何でだよ、勘弁してくれよ」って言って居るが聞こえなかった振りをした。
「アンナこっち来い、清浄魔法掛けてやるから」
「エヘヘ、ありがとう守長♪」
コイツ一発で機嫌直りやがった‥‥
マジてチョロいよな‥‥
因みに我等がアイドル改め、女の敵ジョンは自分から脱いだ。
ブライアンのチンピラ感にビビったからだ。
まぁブライアンも基本的にこの村のチンピラ担当だし、ヤカラ担当だからな。
そらこえーわ、見た目のインパクトって本当に大事であると改めて実感させられた。
さて、嫌だが村の中に行かなければならない。
この女の敵の父親のセドリックに、話を通しておかねばならないからな。
ジョンのアホを簀巻きにしつつ、憂鬱になった。
あの業の深い「ジルが居なきゃ良いなぁ」と希望的観測を呟いた